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10 この尻尾、ふかふかだ!!
しおりを挟む「はあ、今日は疲れた……」
伊吹は部屋に帰ってくると、ぐでんと横になった。
風呂でも王の話を聞かされて、疲れ切ったのだが、それはまあいい。クルルの弱みを握ることができたのだから。もっとも、それを口にした瞬間、思い切りぶん殴られてしまう可能性が非常にたかいのだが。
それから、王に気に入られた彼の成果は、正式に認められることになり、いろいろと話し合いなどがあった。
彼の存在はできるだけ表沙汰にならないよう結論づけられると、やっぱり、王城の一室で過ごすことになる。
つまり、この生活が続くということだ。
「あー、しんどい……」
今日一日で、いろいろなことがあった。
ドラゴンを倒したり、国をオークから救ったり。
なんとも忙しかった。こんな忙しい人間が、ほかにいるのかと疑いたくなるほどだ。
そんな彼はもう疲れ切ったので寝ようと思うのだが……
「ベッドがない」
この部屋には、投げられそうなものは一つもないのだ。
王も「生活はクルルに一任する」と言ってしまったので、待遇はほとんど改善していない。
その元凶であるクルルは、彼の隣で告げる。
「あんた、どうせ自分の能力うまく制御できないんでしょ?」
「いや、そんなこともないと思う。皿洗いのときは、特に問題なかったし……」
「でも、城を吹っ飛ばされたらたまらないから」
「とはいえ、硬い床で寝ろというのは……」
「仕方ないわ。ちょっと待ってなさい」
クルルが連絡すると、兵がやってきて床を加工して、あっという間に備え付けのベッドを作ってしまう。もちろん、持ち上げたり出来ないようにしっかり加工されている。
これなら、うっかり寝ぼけて投げる事故も起こらないだろう。
伊吹は喜んで、ベッドに飛び込み、ごろごろと転がる。
「どう?」
「ふかふかだ」
「満足したようね」
「でも、これじゃあ寒いなあ……」
伊吹が呟くと、クルルがその隣に寝ころがり、そっと尻尾を差し出した。
「寒いからなんだからね。仕方ないからなんだからね!」
「え、いいの!?」
「涎つけたら、承知しないから」
「やった! この尻尾、ふかふかだ!!」
伊吹は早速、クルルの尻尾をぎゅっと抱きしめる。
ふわふわである。最高にふわふわである。
前に触ったときと比較しても、すごい。お風呂上がりだから、毛はさらさらしているし、普段よりも膨らんで見える。
「あったかくて、ああ幸せだ……」
「もう、嬉しそうにしちゃって」
クルルはされるがままになりながら、すっかり顔を赤らめるのだ。恥じらう乙女である。
伊吹はそんな彼女に告げる。
「……あのさ、クルル」
「なに?」
「いろいろあったけど……ありがとう。おかげで、なんとかこの世界でもやっていけそうだ」
「どういたしまして。これからも、しっかりしてね」
「善処するよ」
そんな二人がいい雰囲気になっていると、
「お邪魔だから退散したほうがいい?」
と、ロリナ。
一応、見張りなのだ。片時も目を離すわけにはいかないのである。
伊吹はそんな彼女にも告げる。
「ロリナもこっちに来て寝ようぜ」
「わかった」
彼女はとことことやってきて、伊吹を挟んでクルルの反対側に来る。そして自分の尻尾をぎゅっと抱きしめた。
「ロリナの尻尾もあったかそうだな」
「えっち」
「なんでそうなるんだ」
伊吹が困るも、反対側ではクルルも頬を膨らませている。
「早速、他の子の尻尾に興味を示すなんて、いい度胸じゃない」
「いや、そういうわけじゃ……」
「えっち」
「……伊吹の馬鹿っ!」
二つの尻尾に挟まれながら、伊吹はすっかり困り果ててしまうのだった。
けれど、悪いことばかりでもないかもしれない。
あまり当てにならないが、王によればロリナも普段より楽しそうとのことだ。きっと、この関係は悪くない。
この波瀾万丈のスローライフがこれからも、ずっと続いていけばいい、と願う自分もどこかにいる。
「ねえ、伊吹」
「うん?」
「……どこにも行かないでね」
「10000万ゴールドの借金があるからな。簡単には出て行けないさ」
「そうね。うん。よろしくね」
今度はクルルから、ぎゅっと伊吹に抱きついた。
伊吹はドギマギしてしまう。女の子にこんなことをされるのなんて、初めてだから。
いかに鈍い伊吹であっても、ここまでされたら好意には気がつく。
(これはもしや……大人の階段を上ってしまうのでは!?)
ドクドクと心臓がうるさくなる。
伊吹はどうしていいのかわからなくなりながらも、なんとか気持ちを落ち着かせる。
それからクルルを見るのだが――
「すぅ……すぅ……」
彼女はすっかり眠っていた。
反対側に視線を向ければ、監視のはずのロリナも心地よさそうに眠っている。
(本当に、今日はいろんなことがあった)
きっと、そう思うのは伊吹だけではないだろう。
おてんばなお姫様を見ながら、彼は微笑み呟く。
「おやすみ。また、明日」
落ち着かない日々はこれからも続きそうである。
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