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1巻
1-9
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「お、起きたみたいだな」
「あ、ミーツちゃん! 無理しちゃダメよ! 魔力切れは死にも関わるんだから」
え? 今、ダンク姐さんはなんて言った? 聞き間違いでなければ、魔力切れは死ぬと言ったか?
気絶したり昏睡状態になるんじゃなくて?
え? え? どういうことだろうか。
「その様子だと、やっぱり知らなかったみたいだな。いいか? MPが残り20あるとするだろ? そこでMP100くらいの魔法を使うと、どうなると思う?」
「普通にMPだけ消費して、失敗して気絶、もしくは軽い昏睡状態になるんじゃないのか?」
「違う。MPの残量に見合わないほどMPを使う魔法を使おうとすると死ぬ。運よくすぐに死ななくとも、半年以上の深い眠りに落ちて、そしてゆっくりと朽ちていく例もある。だから、MPの残量と使う魔法のMPの消費量は常に気をつけないといけないんだ。分かったか、バーカ! 心配かけさせんじゃねえぞ。それと、深い眠りについたら、起きるやつは滅多にいねえからな! ダンクも心配していたぞ。ちなみに倒れる前にどんな魔法を使おうとした? MP残量はどのくらいだった?」
「ああ、ダンク姐さんもシオンも心配してくれてありがとな。どんな魔法を使おうとしたか、言わなきゃダメか?」
「当たり前だ! 魔法によってはアドバイスができるからな。多分お前のことだ、常識がない魔法を使おうとしたんだろうがな」
「常識がない魔法かどうかは分からんけど、MPを回復するという想像魔法を使おうとした」
「は~、やっぱり常識がないって怖いな。MPを回復する魔法なんて存在せん。そんなのがあったら、魔法が使い放題じゃねえか」
でもゲームだと、なんかあった。全快じゃなくても少しずつ回復するやつ。
まあ、今回俺が想像したのは全快で、少しずつ回復とかではなかったから、こんな結果になってしまったのだろう。
「MPを使いすぎたやつは、MPの最大値が減ることもあるくらい危険なんだ」
「え? MPの最大値が減る? 俺の場合は逆なんだけど、今の俺のMPは15/100なんだけど」
「はあ? なんでMPの最大値がこんなに増えてんだ? さっきダンクの部屋で見たときは50/50だったろうがよ」
「いや、俺に聞かれても分からない。でも、ギルドの寮を出てこの訓練場に来たときにMPを見たら、50/70だった」
「……ありえない、ありえない、アリエナイ。どうなってやがる! お前の魔法とMPは」
「やっぱり普通じゃないのか。でもどうなっているかなんて、俺が聞きたいくらいだよ。だから色々試していたら倒れたんだ」
「とりあえず、MPは分かった。他のステータスの数値はどうなってる? ステータスを出す度に見えてるだろ?」
「ステータスって、出したい項目だけ出せるんじゃないのか? 俺は意識してやったら出せるんだが、ちなみに、今は魔法しか使ってないから、MPと魔力しか上がってないな」
「……聞いたことないな。ステータスで特定の箇所だけ出すとか。ちょっと試してみるか。……おいおい、普通にできたわ。お前といると、俺の常識がどんどん崩れていくな。で、どうなんだ、魔力は?」
「俺の魔力は10だ」
「やっぱり、お前は異常だ。そんな半日もしないうちに普通9もアップするかよ。レベルも上がってないのに」
「ちょっと! シオンちゃん、他の冒険者の子たちが見てるから声を落として。シオンちゃん、ミーツちゃん、とりあえず個室の休憩所に入りましょうよ」
この地下に休憩所らしき場所は、ベンチが直接、壁に掘られているだけで、他に見当たらない。個室の休憩所などどこにあるのだろうと思っていると、ダンク姐さんは何もない壁の方に歩いていった。俺とシオンが後ろから黙ってついていくと、ダンク姐さんは壁の出っ張りがあるところを押した。
すると、壁が横にスライドして動き、ゆうに大人十人は座れるくらい広い部屋が目の前に現れる。先にダンク姐さんが入るのを確認後、シオン、俺と続いて入ると、壁は閉まった。
長椅子と長テーブルがあるだけの部屋になっており、部屋に入る前は真っ暗だったのだが、壁が閉じると動いた壁が光っているのか、部屋全体が明るくなった。
「で? 今MPはどのくらい回復した? お前の回復スピードも異常だからな」
「えーと、30/100だな」
「ありえない、ありえないと思っていたが、想像以上にありえないな。物語や伝説の勇者でも、こんな最初から異常じゃなかったはずだ」
シオンが椅子に座るなり現状のMPを聞いてきたから、見たままのことを言うと、彼は立ち上がって壁際に向かってブツブツと呟き出した。
できるかどうか分からないけど、そんなシオンを少しびっくりさせてみようと思い、想像魔法を彼に対して試すことにした。
「……ゴポ! げは、ゴホゴホ! 今度は何しやがった!」
「いや、シオンの口の中にさっき出した水を出現させられないかなーって想像してたらできちゃった。びっくりしたか?」
「お前なあ! 俺がお前のことを考えてるときに、また常識ないことしやがって! ふざけんじゃねえーー‼ びっくりしたかだって? 当たり前だ! お前のために考えごとをしてるときに陸で溺れるとか冗談じゃねえぞ」
そうか、独り言を呟いていたのは、俺のことを考えてくれていたのか。それは悪いことをしたな。
「ミーツちゃん、これって魔物に使ったら遠くからでも溺れさせることできるんじゃないかしら? 暗殺とかでも使えるわね」
「いやいや、そんな恐ろしいことに使おうとは思わないよ。魔物相手は試してみないと分からないけど、暗殺はないな」
「お前が残虐で非道な腐れ外道じゃなくて、ホッとしてるぜ。で? 冒険者にならないならどうするんだ?」
「まだ裏の仕事で試したいことがあるんだ。この魔法の可能性も考えてのことだけど」
「だけどミーツちゃん、冒険者になっても裏の仕事は受けられるわよ? ただ表の子たちはやりたがらないってだけで」
「あ、そっか、そういえば最初にそう言ってたな。じゃあ、なろっかな、冒険者」
「そう、なるのね。じゃあ、あたしがミーツちゃんの登録を担当してあげるから、先に上にあがって準備してるわね」
はやっ、ダンク姐さんは俺が冒険者になると言った途端、凄いスピードで休憩室から出ていった。そんなに俺が冒険者になるのを心待ちにしていたのか? まだ知り合って数日しか経ってないのに。
ふと、この世界の時間感覚ってどうなってんだろうかと考えた。スマホで時間を見ていたときは、大体元の世界と同じくらいだったけど、季節によっても違うんだろうか。
「なあ、シオン」
「あ? なんだ?」
「この世界の時間感覚ってどうなってるんだ? 俺がいた世界では、一日は二十四時間、一年で三百六十五日だったんだが、知ってたら教えてくれないか?」
「そりゃあ、知ってるさ。一日二十四時間ってのはこっちでも、多分一緒だ。ちょっとの誤差はあると思うがな。ただ、一年は三百六十日と言われてる。俺が調べたわけじゃないから、本当かどうかは分からんぞ? そう本に書いてあったからな」
「カレンダーとかはないのか?」
「ああ、あれか。商人とか一部の貴族は持ってるけど、俺は持ってなかったな。そもそも必要なかったからな」
なるほど、確かに文明が発達してないこちらの世界では、正確な年間の月日が分かるわけがない。
年間三百六十日ってことは、一ヶ月三十日計算で十二ヶ月だろうが、計算が苦手な俺にとっては計算機がないと、やっぱりつらい。これを機に暗算ができるようになるまで努力するか? 若いときにこっちに来れたら良かったんだが、年取ってからだと色々きつい。
「なあ、シオン、こっちも一年で十二ヶ月でいいのか?」
「ああ、そうだぞ」
「ありがとう、それなら計算も楽だな。ひと月が常に三十日なら、お金の使い道や計算も簡単そうだ」
「そろそろ行かないか? 上でダンクが待ち焦がれてると思うぜ?」
「もう準備できてるのか? 準備ができたら呼びに来るとか、そういうシステムじゃないのか?」
「なんだよ。そのシステムって二度手間じゃねえかよ。いいからさっさと行くぞ」
怒鳴るシオンと一緒に休憩所を出て、地下から上にあがった。
第十二話
俺とシオンはギルドの一階に戻ってきたが、シオンはそこで止まらずそのまま二階に上がった。
「なあシオン、一階の受付で登録するんじゃないのか?」
「冒険者登録は二階だ。一階は依頼を受けたり報酬をもらったりする場所だ。冒険者登録は時間かかるからな。混んでる時間帯に一階を使われたら迷惑で仕方ない」
なるほど、理にかなっている。確かにそっちの方が効率がいい。意外と考えられているんだな。
上にあがってみると、十歳くらいの子供たちがワイワイ楽しそうに受付していた。
「なあ、シオン、あれは子供か? それとも、ああいった種族か?」
「あれは子供だな、孤児や街の子供たちだ。子供はたくさんいるからな。孤児じゃなくとも普通に登録に来る。ギルドがない村の子供たちも、この王都に登録しに来るからな。二階は子供たち向けの依頼の受付場所でもあるんだ。一階だと、大人に暴行を受けたり、小さいから踏まれたりするんでな。お前がさっき言った小さい種族は、一階か二階を選べるが、ガキどもはよほど腕に自信がない限り、二階で受付しなければならない決まりになってる。これについては、また登録のときにでも担当のダンクから説明があるだろうから、あまり言わんがな。なにぶん、お前は常識がないからな」
二階の待合所で椅子に座ってシオンと話していたら、上の方からダンク姐さんの声が聞こえてきた。
「なんでよ~、いいじゃない。今日くらいあたしに登録の受付させてくれても! どうしてもあたしが担当したい人がいるのよ~。たった一人の人しか担当しないから~、ねえ、お願いったらお願いよ~」
かなり大きな声量で聞こえる内容からするに、ダンク姐さんは俺のことを上司に頼み込むも、上司がOKを出さないのだろう。
横にいるシオンが震えている。いや、よく見ると、噴き出さないように口に手を当てて笑いをこらえているだけだった。
「ミーツ、良かったじゃねえか。普通、登録の受付は綺麗な姉ちゃんが担当してくれるが、お前はダンクがしてくれるってよ。それを今、ギルドマスターにお願いしてるところだな。ところが、なかなかそのギルマスのアイツがいいと言わないんだろう。ククク」
別に俺は誰が担当してくれてもいいが、せめて最初だけは女性がいいなと思ったところで気付く……俺の運はマイナス20……期待しない方がいいかもしれない。
今度、想像魔法でパラメーターを弄れるか試してみよう。運がマイナス20とか酷すぎる。
ただこれは今に始まったことじゃない。昔、俺が携帯ゲームを始めた次の日に、今日から始めればSSRがもらえるキャンペーンが開始されたり、鳥の糞が肩によく落ちてきたり……車が爆弾投下のごとく鳥の糞まみれになったことも多々ある。しかも、洗車して綺麗に拭きあげた直後にだ。うん、納得のいく数値だ。
とりあえず待合所でシオンと待っているのだが、暇だったため、MPの状態を見てみると、ほとんど回復していた。そこで、遊び程度に少し使ってみようと思った。
右の指先五本全部にライターの火を想像しながら火を灯すと、綺麗にできた。MPもほとんど減ってない。
次に、目の前の空気を圧縮させ、空中にコップがあるとイメージしながら水を出現させてそのコップの中に入れる。コップ自体はないのに、宙に水がフヨフヨと浮いた。原理は分からないが、圧縮された空気に水が入っているのだろう。
なんとかできたが、MPはガッツリ減っている。ただ、まだちょっと余裕がある。
でも、もうやめておこう。隣りでシオンが怒りに満ちた表情で震え出したからだ。
圧縮した空気を霧散させようと想像したら、ロビー全体にフワッとした風が広がった。水は宙に浮いてる状態だから、その水を口に含んで飲んだ。
飲み終わってからシオンを見ると、拳骨が頭に落ちてきた。頭がグワングワンする。比喩じゃなく本当に星がチカチカと点滅していた。さすがにロビーで大声は出さないが、シオンが俺に向かって口パクで何かを言っている。
「あ・と・で・お・ぼ・え・て・ろ」
うん、終わったら全力で逃げよう。
シオンの拳骨で、HPが10/100になっていたからだ。さすがに死んでしまう。
フロア全体を見渡すと、受付している人から並んで待っている人まで、みんなから見られている気がした。
今のシオンの拳骨を見たからなのか、俺の空気の霧散に気付いたからなのか分からんが、気まずい雰囲気だ。そこで、シオンに外の空気を吸ってくると言って立ち去ろうとしたら、彼にガッシリと腕を掴まれてしまった。
そのままシオンは、ダンク姐さんがいるであろう上の階に、俺を半分引きずる形で連行した。
上の階にあがると扉は一つしかなく、その扉をシオンがノックとはいえないレベルで乱暴に叩いた。
「グレン! 俺だ、シオンだ! そこにいるダンクも含めて話がある。入るぞ」
シオンは返事を待たずに、扉を勝手に開けて部屋にドカドカと入った。
俺はシオンに腕を掴まれている身だから、一緒に部屋に連れ込まれてしまった。
「あら? どうしたの? シオンちゃんとミーツちゃん」
「こいつがまた常識ないことやらかして、周囲の目があったから、こっちに連れてきた。それに、俺も命を狙われている身だ。目立ちたくなかったからな」
「え、今度は何したの? ミーツちゃん」
「ほお、コイツがダンクの言っていた、登録の受付をしたいってやつか?」
おお、この人がギルドマスターか。冒険者登録もまだしてないのに、もうギルマスと対面しちゃったよ。ギルマスってだけあって、やっぱり身体が凄いな。
ダンク姐さんと同じくらいの体格で同じくらいのムキムキマッチョだ! てか、この世界はマッチョ率高いな。あれ? よく見ると誰かに似てるような……
「そうよ、お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん? そうか! 誰かに似てると思ったら、ダンク姐さんだ」
「ミーツちゃん、正確に言ったらママ似だけどね」
「こいつ今、お前のことを姐さんって言ったぞ? 正気か? 多分、コイツの方が年上だろ?」
「そうよ、お兄ちゃん。でもミーツちゃんにはそういうことは関係ないんだから! でも、一番好きなのはシオンちゃんだけどね」
「カンベンしてくれ。グレン、ダンクをどうにかしてくれ」
「ミーツとやら、さっきシオンが言ってたことをここでもできるか? それとシオン、それは俺でも無理だ」
「できますが、今はMPが結構足りないんで、時間が経たないと無理です」
「そうか、それならコレを使うといい」
ギルドマスターが机の引き出しから小さな小瓶を取り出して、こちらに放り投げた。
大きさは、ちょっと高めの栄養ドリンクと変わらないくらいで、陶器でできている。中身がなんなのかは分からない。受け取ったものの、首を傾げていると、シオンがコレについて説明してくれた。
「それはMP回復薬だ。即効性があるやつで、結構な値段だぞ。多分お前の持ち金じゃ買えない値段だ」
え? そんな高価な物使えって言うの? 時間が経てばまたできるのに。俺はおずおずと、ギルマスの机の上に小瓶を戻そうとした。
「使え! まだ余分にあるんだ。シオンも余計なことを言うな」
「はい! 使わせていただきます」
一気にゴクゴクと飲み干したが、少しばかり苦く、味も最低だ。濃い抹茶の苦味に似ていて、常温で放置した牛乳を悪くしたような味がした。
だがMPを確認すると、120/120になっている。
凄いな。さっきまで15/120くらいだったのに。
「では使ってもらうぞ。先程シオンが怒るほどの魔法をな」
先程と同じのを出しても面白くないと考え、今度はギルマスの分とダンク姐さんの分の二つを作ってみようと試みた。
うん、やっぱり最初の想像より簡単にできたけど、一つ目を維持しつつ二つ目を想像するのが、少し手間取った。
ギルマスとダンク姐さんは、俺の出した魔法をただ黙って凝視している。
「な? ありえないだろ?」
ん? どうしたんだろうか。ダンク姐さんは俺の魔法を知ってるはずなのに、ギルマスと同じように固まって動かない。
「おーい?」
固まっている二人の目の前で手をヒラヒラと左右に振ると、二人はハッとした表情をする。
「ミーツちゃん? これをさっき下で出したの? ん、もう! ミーツちゃんは常識がないんだから。魔法を出す前にシオンちゃんに言わなきゃダメじゃない」
「確かに、ダンクの言う通りだな。これはなんとなんの複合魔法だ?」
「複合魔法ってなんですか?」
「は~、分かったもういい! これを解きなさい」
「いいですけど、軽い風が吹きますから準備してくださいね」
ギルマスの返事を聞く前に魔法を解くと、強い風が部屋中に吹き荒れた。
二つ同時に解いたからか、部屋が待合所ほど広くないからか、ギルマスの机の上に置いてあった書類などが部屋中に散らばってしまった。俺は宙に浮いている水にゴミが入らないかとハラハラして見守っていた。
横にいるであろう、シオンをおそるおそる見ると、疲れたような、呆れた表情でこちらを見ていた。
ダンク姐さんも驚いた表情で、俺を凝視している。
ギルマスもってあれ? ギルマスがいない?
キョロキョロと探せば、ギルマスがさっきまで立っていたであろう、背後の窓から出てきた。飛ばされたのだろうか?
いや、人が飛ぶほど吹き荒れてはいなかったはずだ。
では驚いて窓から出たのか?
ギルマスは黙って少し俯いている様子だ。
「あ、その宙に浮いてる水は安全ですから、早めに飲んでください」
「あ、ああ」
ギルマスは返事をしたものの戸惑っているようで、恐々と水に口をつけて飲んだ。
「どう? お兄ちゃん? 美味しい水でしょ? ミーツちゃんが魔法で出したのよ」
「魔法で出したのはたった今見たから分かるが、確かに美味い。それとなダンク、ギルドではギルドマスターって呼べと何度も言ってるだろう」
「気になってたけど、やっぱりそうなんだ。ダンク姐さん、ずっとお兄ちゃんって呼んでたから、ギルドマスターがそう呼ばせてるんだと思ってた」
「俺の名はグレンだ。ダンクには立場上、ギルマスと呼べと言ってるだけだ」
まあ、ギルドマスターがギルドでお兄ちゃんって呼ばれると、立場上締まらないのは分かる。
「ダンクはこう見えて、副ギルドマスターだぞ。裏ギルドの運営を任せてるし、ギルド内の雑務も任せたりしているんだ」
「え? ダンク姐さんが副ギルドマスター? 裏の運営? じゃあ、シオンに対する暗殺の依頼とかも知ってて黙ってたってこと?」
「ミーツちゃん、誤解しないで! シオンちゃんのは知らなかったのよ。あたしがあそこを長い時間離れるときや、休みのときは違う子が入るから、その子たちの誰かが受けたんだと思うわ。それか、シオンちゃんの弟ちゃんが個人的に知ってる子に依頼したかよ。依頼を受けるのはギルドに併設してる違う建物だし、裏ギルドで依頼したとしても、あたしのいないときに暗殺専門の子たちに裏ギルドの職員が依頼したんだわ」
「例えば、キックがダンク姐さんのいないときに回ってきた依頼を、暗殺を専門にしてるやつに受けさせたとか、そういうこと?」
「そうよ! キックちゃんかどうかは分からないけど、知ってたら依頼自体消しちゃうわよ。暗殺依頼自体、依頼さえすれば誰でも暗殺できるわけじゃないのよ。ちゃんと暗殺するべき人かどうかを調べるんだから。暗殺を専門にしてる子たちは自分でも一度調べて、それをギルドに報告する義務があるくらい、暗殺は特殊な依頼なんだからね」
確かに、簡単に暗殺を依頼して実行されれば、おちおち外も出歩けない。キックはムカツクやつだが、シオンのことを尊敬している感じだったから、あいつは違うかもしれない。
「あ、ミーツちゃん! 無理しちゃダメよ! 魔力切れは死にも関わるんだから」
え? 今、ダンク姐さんはなんて言った? 聞き間違いでなければ、魔力切れは死ぬと言ったか?
気絶したり昏睡状態になるんじゃなくて?
え? え? どういうことだろうか。
「その様子だと、やっぱり知らなかったみたいだな。いいか? MPが残り20あるとするだろ? そこでMP100くらいの魔法を使うと、どうなると思う?」
「普通にMPだけ消費して、失敗して気絶、もしくは軽い昏睡状態になるんじゃないのか?」
「違う。MPの残量に見合わないほどMPを使う魔法を使おうとすると死ぬ。運よくすぐに死ななくとも、半年以上の深い眠りに落ちて、そしてゆっくりと朽ちていく例もある。だから、MPの残量と使う魔法のMPの消費量は常に気をつけないといけないんだ。分かったか、バーカ! 心配かけさせんじゃねえぞ。それと、深い眠りについたら、起きるやつは滅多にいねえからな! ダンクも心配していたぞ。ちなみに倒れる前にどんな魔法を使おうとした? MP残量はどのくらいだった?」
「ああ、ダンク姐さんもシオンも心配してくれてありがとな。どんな魔法を使おうとしたか、言わなきゃダメか?」
「当たり前だ! 魔法によってはアドバイスができるからな。多分お前のことだ、常識がない魔法を使おうとしたんだろうがな」
「常識がない魔法かどうかは分からんけど、MPを回復するという想像魔法を使おうとした」
「は~、やっぱり常識がないって怖いな。MPを回復する魔法なんて存在せん。そんなのがあったら、魔法が使い放題じゃねえか」
でもゲームだと、なんかあった。全快じゃなくても少しずつ回復するやつ。
まあ、今回俺が想像したのは全快で、少しずつ回復とかではなかったから、こんな結果になってしまったのだろう。
「MPを使いすぎたやつは、MPの最大値が減ることもあるくらい危険なんだ」
「え? MPの最大値が減る? 俺の場合は逆なんだけど、今の俺のMPは15/100なんだけど」
「はあ? なんでMPの最大値がこんなに増えてんだ? さっきダンクの部屋で見たときは50/50だったろうがよ」
「いや、俺に聞かれても分からない。でも、ギルドの寮を出てこの訓練場に来たときにMPを見たら、50/70だった」
「……ありえない、ありえない、アリエナイ。どうなってやがる! お前の魔法とMPは」
「やっぱり普通じゃないのか。でもどうなっているかなんて、俺が聞きたいくらいだよ。だから色々試していたら倒れたんだ」
「とりあえず、MPは分かった。他のステータスの数値はどうなってる? ステータスを出す度に見えてるだろ?」
「ステータスって、出したい項目だけ出せるんじゃないのか? 俺は意識してやったら出せるんだが、ちなみに、今は魔法しか使ってないから、MPと魔力しか上がってないな」
「……聞いたことないな。ステータスで特定の箇所だけ出すとか。ちょっと試してみるか。……おいおい、普通にできたわ。お前といると、俺の常識がどんどん崩れていくな。で、どうなんだ、魔力は?」
「俺の魔力は10だ」
「やっぱり、お前は異常だ。そんな半日もしないうちに普通9もアップするかよ。レベルも上がってないのに」
「ちょっと! シオンちゃん、他の冒険者の子たちが見てるから声を落として。シオンちゃん、ミーツちゃん、とりあえず個室の休憩所に入りましょうよ」
この地下に休憩所らしき場所は、ベンチが直接、壁に掘られているだけで、他に見当たらない。個室の休憩所などどこにあるのだろうと思っていると、ダンク姐さんは何もない壁の方に歩いていった。俺とシオンが後ろから黙ってついていくと、ダンク姐さんは壁の出っ張りがあるところを押した。
すると、壁が横にスライドして動き、ゆうに大人十人は座れるくらい広い部屋が目の前に現れる。先にダンク姐さんが入るのを確認後、シオン、俺と続いて入ると、壁は閉まった。
長椅子と長テーブルがあるだけの部屋になっており、部屋に入る前は真っ暗だったのだが、壁が閉じると動いた壁が光っているのか、部屋全体が明るくなった。
「で? 今MPはどのくらい回復した? お前の回復スピードも異常だからな」
「えーと、30/100だな」
「ありえない、ありえないと思っていたが、想像以上にありえないな。物語や伝説の勇者でも、こんな最初から異常じゃなかったはずだ」
シオンが椅子に座るなり現状のMPを聞いてきたから、見たままのことを言うと、彼は立ち上がって壁際に向かってブツブツと呟き出した。
できるかどうか分からないけど、そんなシオンを少しびっくりさせてみようと思い、想像魔法を彼に対して試すことにした。
「……ゴポ! げは、ゴホゴホ! 今度は何しやがった!」
「いや、シオンの口の中にさっき出した水を出現させられないかなーって想像してたらできちゃった。びっくりしたか?」
「お前なあ! 俺がお前のことを考えてるときに、また常識ないことしやがって! ふざけんじゃねえーー‼ びっくりしたかだって? 当たり前だ! お前のために考えごとをしてるときに陸で溺れるとか冗談じゃねえぞ」
そうか、独り言を呟いていたのは、俺のことを考えてくれていたのか。それは悪いことをしたな。
「ミーツちゃん、これって魔物に使ったら遠くからでも溺れさせることできるんじゃないかしら? 暗殺とかでも使えるわね」
「いやいや、そんな恐ろしいことに使おうとは思わないよ。魔物相手は試してみないと分からないけど、暗殺はないな」
「お前が残虐で非道な腐れ外道じゃなくて、ホッとしてるぜ。で? 冒険者にならないならどうするんだ?」
「まだ裏の仕事で試したいことがあるんだ。この魔法の可能性も考えてのことだけど」
「だけどミーツちゃん、冒険者になっても裏の仕事は受けられるわよ? ただ表の子たちはやりたがらないってだけで」
「あ、そっか、そういえば最初にそう言ってたな。じゃあ、なろっかな、冒険者」
「そう、なるのね。じゃあ、あたしがミーツちゃんの登録を担当してあげるから、先に上にあがって準備してるわね」
はやっ、ダンク姐さんは俺が冒険者になると言った途端、凄いスピードで休憩室から出ていった。そんなに俺が冒険者になるのを心待ちにしていたのか? まだ知り合って数日しか経ってないのに。
ふと、この世界の時間感覚ってどうなってんだろうかと考えた。スマホで時間を見ていたときは、大体元の世界と同じくらいだったけど、季節によっても違うんだろうか。
「なあ、シオン」
「あ? なんだ?」
「この世界の時間感覚ってどうなってるんだ? 俺がいた世界では、一日は二十四時間、一年で三百六十五日だったんだが、知ってたら教えてくれないか?」
「そりゃあ、知ってるさ。一日二十四時間ってのはこっちでも、多分一緒だ。ちょっとの誤差はあると思うがな。ただ、一年は三百六十日と言われてる。俺が調べたわけじゃないから、本当かどうかは分からんぞ? そう本に書いてあったからな」
「カレンダーとかはないのか?」
「ああ、あれか。商人とか一部の貴族は持ってるけど、俺は持ってなかったな。そもそも必要なかったからな」
なるほど、確かに文明が発達してないこちらの世界では、正確な年間の月日が分かるわけがない。
年間三百六十日ってことは、一ヶ月三十日計算で十二ヶ月だろうが、計算が苦手な俺にとっては計算機がないと、やっぱりつらい。これを機に暗算ができるようになるまで努力するか? 若いときにこっちに来れたら良かったんだが、年取ってからだと色々きつい。
「なあ、シオン、こっちも一年で十二ヶ月でいいのか?」
「ああ、そうだぞ」
「ありがとう、それなら計算も楽だな。ひと月が常に三十日なら、お金の使い道や計算も簡単そうだ」
「そろそろ行かないか? 上でダンクが待ち焦がれてると思うぜ?」
「もう準備できてるのか? 準備ができたら呼びに来るとか、そういうシステムじゃないのか?」
「なんだよ。そのシステムって二度手間じゃねえかよ。いいからさっさと行くぞ」
怒鳴るシオンと一緒に休憩所を出て、地下から上にあがった。
第十二話
俺とシオンはギルドの一階に戻ってきたが、シオンはそこで止まらずそのまま二階に上がった。
「なあシオン、一階の受付で登録するんじゃないのか?」
「冒険者登録は二階だ。一階は依頼を受けたり報酬をもらったりする場所だ。冒険者登録は時間かかるからな。混んでる時間帯に一階を使われたら迷惑で仕方ない」
なるほど、理にかなっている。確かにそっちの方が効率がいい。意外と考えられているんだな。
上にあがってみると、十歳くらいの子供たちがワイワイ楽しそうに受付していた。
「なあ、シオン、あれは子供か? それとも、ああいった種族か?」
「あれは子供だな、孤児や街の子供たちだ。子供はたくさんいるからな。孤児じゃなくとも普通に登録に来る。ギルドがない村の子供たちも、この王都に登録しに来るからな。二階は子供たち向けの依頼の受付場所でもあるんだ。一階だと、大人に暴行を受けたり、小さいから踏まれたりするんでな。お前がさっき言った小さい種族は、一階か二階を選べるが、ガキどもはよほど腕に自信がない限り、二階で受付しなければならない決まりになってる。これについては、また登録のときにでも担当のダンクから説明があるだろうから、あまり言わんがな。なにぶん、お前は常識がないからな」
二階の待合所で椅子に座ってシオンと話していたら、上の方からダンク姐さんの声が聞こえてきた。
「なんでよ~、いいじゃない。今日くらいあたしに登録の受付させてくれても! どうしてもあたしが担当したい人がいるのよ~。たった一人の人しか担当しないから~、ねえ、お願いったらお願いよ~」
かなり大きな声量で聞こえる内容からするに、ダンク姐さんは俺のことを上司に頼み込むも、上司がOKを出さないのだろう。
横にいるシオンが震えている。いや、よく見ると、噴き出さないように口に手を当てて笑いをこらえているだけだった。
「ミーツ、良かったじゃねえか。普通、登録の受付は綺麗な姉ちゃんが担当してくれるが、お前はダンクがしてくれるってよ。それを今、ギルドマスターにお願いしてるところだな。ところが、なかなかそのギルマスのアイツがいいと言わないんだろう。ククク」
別に俺は誰が担当してくれてもいいが、せめて最初だけは女性がいいなと思ったところで気付く……俺の運はマイナス20……期待しない方がいいかもしれない。
今度、想像魔法でパラメーターを弄れるか試してみよう。運がマイナス20とか酷すぎる。
ただこれは今に始まったことじゃない。昔、俺が携帯ゲームを始めた次の日に、今日から始めればSSRがもらえるキャンペーンが開始されたり、鳥の糞が肩によく落ちてきたり……車が爆弾投下のごとく鳥の糞まみれになったことも多々ある。しかも、洗車して綺麗に拭きあげた直後にだ。うん、納得のいく数値だ。
とりあえず待合所でシオンと待っているのだが、暇だったため、MPの状態を見てみると、ほとんど回復していた。そこで、遊び程度に少し使ってみようと思った。
右の指先五本全部にライターの火を想像しながら火を灯すと、綺麗にできた。MPもほとんど減ってない。
次に、目の前の空気を圧縮させ、空中にコップがあるとイメージしながら水を出現させてそのコップの中に入れる。コップ自体はないのに、宙に水がフヨフヨと浮いた。原理は分からないが、圧縮された空気に水が入っているのだろう。
なんとかできたが、MPはガッツリ減っている。ただ、まだちょっと余裕がある。
でも、もうやめておこう。隣りでシオンが怒りに満ちた表情で震え出したからだ。
圧縮した空気を霧散させようと想像したら、ロビー全体にフワッとした風が広がった。水は宙に浮いてる状態だから、その水を口に含んで飲んだ。
飲み終わってからシオンを見ると、拳骨が頭に落ちてきた。頭がグワングワンする。比喩じゃなく本当に星がチカチカと点滅していた。さすがにロビーで大声は出さないが、シオンが俺に向かって口パクで何かを言っている。
「あ・と・で・お・ぼ・え・て・ろ」
うん、終わったら全力で逃げよう。
シオンの拳骨で、HPが10/100になっていたからだ。さすがに死んでしまう。
フロア全体を見渡すと、受付している人から並んで待っている人まで、みんなから見られている気がした。
今のシオンの拳骨を見たからなのか、俺の空気の霧散に気付いたからなのか分からんが、気まずい雰囲気だ。そこで、シオンに外の空気を吸ってくると言って立ち去ろうとしたら、彼にガッシリと腕を掴まれてしまった。
そのままシオンは、ダンク姐さんがいるであろう上の階に、俺を半分引きずる形で連行した。
上の階にあがると扉は一つしかなく、その扉をシオンがノックとはいえないレベルで乱暴に叩いた。
「グレン! 俺だ、シオンだ! そこにいるダンクも含めて話がある。入るぞ」
シオンは返事を待たずに、扉を勝手に開けて部屋にドカドカと入った。
俺はシオンに腕を掴まれている身だから、一緒に部屋に連れ込まれてしまった。
「あら? どうしたの? シオンちゃんとミーツちゃん」
「こいつがまた常識ないことやらかして、周囲の目があったから、こっちに連れてきた。それに、俺も命を狙われている身だ。目立ちたくなかったからな」
「え、今度は何したの? ミーツちゃん」
「ほお、コイツがダンクの言っていた、登録の受付をしたいってやつか?」
おお、この人がギルドマスターか。冒険者登録もまだしてないのに、もうギルマスと対面しちゃったよ。ギルマスってだけあって、やっぱり身体が凄いな。
ダンク姐さんと同じくらいの体格で同じくらいのムキムキマッチョだ! てか、この世界はマッチョ率高いな。あれ? よく見ると誰かに似てるような……
「そうよ、お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん? そうか! 誰かに似てると思ったら、ダンク姐さんだ」
「ミーツちゃん、正確に言ったらママ似だけどね」
「こいつ今、お前のことを姐さんって言ったぞ? 正気か? 多分、コイツの方が年上だろ?」
「そうよ、お兄ちゃん。でもミーツちゃんにはそういうことは関係ないんだから! でも、一番好きなのはシオンちゃんだけどね」
「カンベンしてくれ。グレン、ダンクをどうにかしてくれ」
「ミーツとやら、さっきシオンが言ってたことをここでもできるか? それとシオン、それは俺でも無理だ」
「できますが、今はMPが結構足りないんで、時間が経たないと無理です」
「そうか、それならコレを使うといい」
ギルドマスターが机の引き出しから小さな小瓶を取り出して、こちらに放り投げた。
大きさは、ちょっと高めの栄養ドリンクと変わらないくらいで、陶器でできている。中身がなんなのかは分からない。受け取ったものの、首を傾げていると、シオンがコレについて説明してくれた。
「それはMP回復薬だ。即効性があるやつで、結構な値段だぞ。多分お前の持ち金じゃ買えない値段だ」
え? そんな高価な物使えって言うの? 時間が経てばまたできるのに。俺はおずおずと、ギルマスの机の上に小瓶を戻そうとした。
「使え! まだ余分にあるんだ。シオンも余計なことを言うな」
「はい! 使わせていただきます」
一気にゴクゴクと飲み干したが、少しばかり苦く、味も最低だ。濃い抹茶の苦味に似ていて、常温で放置した牛乳を悪くしたような味がした。
だがMPを確認すると、120/120になっている。
凄いな。さっきまで15/120くらいだったのに。
「では使ってもらうぞ。先程シオンが怒るほどの魔法をな」
先程と同じのを出しても面白くないと考え、今度はギルマスの分とダンク姐さんの分の二つを作ってみようと試みた。
うん、やっぱり最初の想像より簡単にできたけど、一つ目を維持しつつ二つ目を想像するのが、少し手間取った。
ギルマスとダンク姐さんは、俺の出した魔法をただ黙って凝視している。
「な? ありえないだろ?」
ん? どうしたんだろうか。ダンク姐さんは俺の魔法を知ってるはずなのに、ギルマスと同じように固まって動かない。
「おーい?」
固まっている二人の目の前で手をヒラヒラと左右に振ると、二人はハッとした表情をする。
「ミーツちゃん? これをさっき下で出したの? ん、もう! ミーツちゃんは常識がないんだから。魔法を出す前にシオンちゃんに言わなきゃダメじゃない」
「確かに、ダンクの言う通りだな。これはなんとなんの複合魔法だ?」
「複合魔法ってなんですか?」
「は~、分かったもういい! これを解きなさい」
「いいですけど、軽い風が吹きますから準備してくださいね」
ギルマスの返事を聞く前に魔法を解くと、強い風が部屋中に吹き荒れた。
二つ同時に解いたからか、部屋が待合所ほど広くないからか、ギルマスの机の上に置いてあった書類などが部屋中に散らばってしまった。俺は宙に浮いている水にゴミが入らないかとハラハラして見守っていた。
横にいるであろう、シオンをおそるおそる見ると、疲れたような、呆れた表情でこちらを見ていた。
ダンク姐さんも驚いた表情で、俺を凝視している。
ギルマスもってあれ? ギルマスがいない?
キョロキョロと探せば、ギルマスがさっきまで立っていたであろう、背後の窓から出てきた。飛ばされたのだろうか?
いや、人が飛ぶほど吹き荒れてはいなかったはずだ。
では驚いて窓から出たのか?
ギルマスは黙って少し俯いている様子だ。
「あ、その宙に浮いてる水は安全ですから、早めに飲んでください」
「あ、ああ」
ギルマスは返事をしたものの戸惑っているようで、恐々と水に口をつけて飲んだ。
「どう? お兄ちゃん? 美味しい水でしょ? ミーツちゃんが魔法で出したのよ」
「魔法で出したのはたった今見たから分かるが、確かに美味い。それとなダンク、ギルドではギルドマスターって呼べと何度も言ってるだろう」
「気になってたけど、やっぱりそうなんだ。ダンク姐さん、ずっとお兄ちゃんって呼んでたから、ギルドマスターがそう呼ばせてるんだと思ってた」
「俺の名はグレンだ。ダンクには立場上、ギルマスと呼べと言ってるだけだ」
まあ、ギルドマスターがギルドでお兄ちゃんって呼ばれると、立場上締まらないのは分かる。
「ダンクはこう見えて、副ギルドマスターだぞ。裏ギルドの運営を任せてるし、ギルド内の雑務も任せたりしているんだ」
「え? ダンク姐さんが副ギルドマスター? 裏の運営? じゃあ、シオンに対する暗殺の依頼とかも知ってて黙ってたってこと?」
「ミーツちゃん、誤解しないで! シオンちゃんのは知らなかったのよ。あたしがあそこを長い時間離れるときや、休みのときは違う子が入るから、その子たちの誰かが受けたんだと思うわ。それか、シオンちゃんの弟ちゃんが個人的に知ってる子に依頼したかよ。依頼を受けるのはギルドに併設してる違う建物だし、裏ギルドで依頼したとしても、あたしのいないときに暗殺専門の子たちに裏ギルドの職員が依頼したんだわ」
「例えば、キックがダンク姐さんのいないときに回ってきた依頼を、暗殺を専門にしてるやつに受けさせたとか、そういうこと?」
「そうよ! キックちゃんかどうかは分からないけど、知ってたら依頼自体消しちゃうわよ。暗殺依頼自体、依頼さえすれば誰でも暗殺できるわけじゃないのよ。ちゃんと暗殺するべき人かどうかを調べるんだから。暗殺を専門にしてる子たちは自分でも一度調べて、それをギルドに報告する義務があるくらい、暗殺は特殊な依頼なんだからね」
確かに、簡単に暗殺を依頼して実行されれば、おちおち外も出歩けない。キックはムカツクやつだが、シオンのことを尊敬している感じだったから、あいつは違うかもしれない。
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