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fleurs en rêve 〜夢見る花たち〜
第1話
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「シャルロット様!やはりここにおいででしたかッ!!」
柔らかい日差しが降り注ぐ穏やかな午後の昼下がりのことです。ここローザタニア王国の王都・パラディスにあります、たくさんの美しい花が咲き乱れるお城の中庭にはシャルロット姫のばあやの声が今日も響き渡っておりました。
「あら、ばあや!何でここが分かったの?」
顔中に青筋を立てハァハァと息を切らしながら、ばあやは自分の身体よりもはるかに大きい、ギギギ…と錆びた音のする古びた納屋の扉を力いっぱい開きました。
シャルロットと呼ばれた美しい少女―――彼女はこのローザタニア王国のウィリアム国王陛下の妹で、この国一番の美しさを持つと称えられる姫君であります。
黄金の絹の糸のように美しく柔らかくウェーブを描く柔らかい金髪に、まるでエメラルドのようにキラキラと輝く緑色の瞳。
少し紅を引いたかのように色づいている艶やかで瑞々しい唇。誰が見てもドキッと一目惹かれるほどの美少女なのであります。
そんな光り輝くような姫様に似つかわしくない暗くて古びた納屋の奥に置かれている、これまた古くて幾年もの埃を吸っていそうなソファーにシャルロット様はダラッと寝っころがるように腰かけておいででした。
「ヴィンセント様が、シャルロット様は絶対この納屋に隠れているだろうと教えてくださったのですよ!」
「…ヴィーったらいっつも余計なことするんだから」
「余計なことなど!ヴィンセント様のお蔭でばあやたちは助かっているんですよぉ!」
「…私にとっては余計なお節介だわ」
「…ってそんなことよりもほら早く!エスパルニア語の先生とピアノの先生がお待ちですよ!早くお部屋にお戻りくださいっ!」
眉間にしわを寄せて頬を膨らましプリプリと怒られているシャルロット様の腕を取ろうとばあやの手が勢いよく伸びてきました。
しかしシャルロット様は猫のようにスッと身をかわし、ばあやに捕まるまいとしてその可憐な容姿とはうらはら、ちょこまかとすばしっこく逃げ回ります。
「…私エスパルニア語もピアノの授業嫌いよ!」
「姫様!」
「エスパルニア語なんて昔の言葉、今はもう使わないじゃない。それにピアノだって…全自動のピアノだってあるし、ウチにはお抱えの音楽家だっているし私がピアノをする必要ってある?」
「姫様!そんなこと仰らずにお勉強なさってください~」
「嫌よ。だって興味が無いから面白くないんだもの」
「姫様ぁ~…お願いですからばあやの言うことを聞いてくださいましぃ~」
ばあやは頭を抱えながらわーっとその場に泣き崩れてしまいました。
そんなばあやの姿をシャルロット様は腕組みをしながらツンッと突っぱねます。
「泣き脅しには屈しないわよ。もうその手は5000回以上使っているんだから」
「…そこをなんとかッ!」
「無駄なお勉強するくらいだったら、私ここで本を読んでいるわ。ヴィーと先生方には、シャルロットは古い本を読んで文学を勉強をしていると伝えてちょうだい」
古い納屋は掃除が行き届いていないのでありましょう。シャルロット様は先ほどまで読まれておりましたばあやとのやり取りで床に落ちてしまった本に付いてしまった埃を掃いながら再びソファーに腰掛けられました。それはいかにも年季が入っているかのような深いこげ茶色の重々しい表紙、そして金の糸を張り巡らしたのような装丁が施された分厚い本でございました。
「ねぇばあや見て。この本とっても面白いの。伝説のアレクサンドル王の話が書いてあるのよ」
「あら、それは200年前に書かれたバロビニサ王国の歴史本じゃありませんか?」
眼鏡の端をクイッと上げながら、先程まで泣き崩れていたはずのばあやはシャルロット様の本を覗き込みました。
ポケットからは目薬の容器が顔を出しております。やはりばあやの泣き脅しは嘘じゃない、とシャルロット様はばあやを肘で優しく小突かれました。
「ばあや知ってるの?」
「えぇ…ばあやがまだ女学生だったころに図書館でその本を読んだことがありますよ」
「まぁ。そうなのね。アレクサンドル王ってとても素敵な方だったのね」
「人望厚く誠実でとても強くて優れた王であったようですね。」
「そのようね。ねぇ、ここ、アレクサンドル王が村人を食い殺す大きな竜を退治する話よ」
「このアレクサンドル王のご活躍のお蔭で、この村は平和になったんですよね。そしてこの村って、実はローザタニアの近くにあった村と言われておりますよ」
「へぇ…そうなのね」
「…こちらの本はここにございましたか?」
「えぇ、納屋の本棚に入っていたわ」
「おかしいですね。歴史本は書庫に入れてあるはずなのですが」
「メイドの誰かが、こっそり読みたくて拝借したかもよ?まぁ別にいいじゃない」
「なんたる不躾!あとで怒っておかないと駄目ですね!」
まぁいいじゃないの、とシャルロット様はプリプリ怒っているばあやをなだめました。
「そりゃあ隠れて読んでみたくなるわよ。ねぇ見てよ、このアレクサンドル王と後に妃になるジェーニャの出会いのくだり。もの凄く詳しく書いてあるの」
「えっ…!?そんな箇所ありましたっけ??」
ばあやがシャルロット様の手から本をひったくり、マジマジと本を眺めはじめました。
老眼が進んでいるばあやは眼鏡を上げ下げしたり、本を遠くにやったり近くにやったりと色々試行錯誤しながら小さい文字を見つめています。眼鏡を通して、ばあやの目が大きくなったり小さくなったりしているのを見て思わずシャルロット様はプッと笑いを吹いてしまいました。そんなこともお構いなしにばあやは本を字のごとく目を凝らして本を読んでおります。
「どれどれ…『ジェーニャよ…愛しい私のジェーニャよ。どうかこの身体から溢れる出る貴女への思いを受け止めてくれないか。美しい貴女のその髪に触れる度に私の心は…心の奥はまるで灼熱の太陽に焦がされているかのようにかのように熱くなるんだ。今日も貴女のことを思うと夜が寂しい。この昂った熱をどうか貴女の奥に届けたい…』そうアレクサンドル青年はジェーニャの耳元で甘く囁いた…ってなんですか、この本ッ!」
「えー?さっきばあや言ってたじゃない。バロビニサ王国の歴史本でしょ?」
ばあやは顔を真っ赤にしながら照れ隠しのように本を床に投げ捨てました。
そして顔面から滝のように流れ出る汗をハンカチで必死に拭きながらバクバクする心臓に手を置きシャルット様に聞こえるよう大きな声で話しはじめます。
「こんなシーン、ございませんでしたよ!確かお二人の出会いのシーンなんてものの一行でしたよ!」
「えー?」
「…まぁっ!!なんと…これは官能小説並みの続き…っ!異本でしょうかしらっ!?」
「えー、もっと読みたいー」
床に落ちている本を拾い上げようとシャルロット様が手を伸ばしましたが、これは大変と、ばあやは老人とは思えぬ素早さで、シャルロット様よりも先に本を取り上げました。
「なりません!姫様にはまだ早すぎますッ!」
「いいじゃない。これも勉強の一つよ」
「駄目です!まだ嫁入り前の女性が読むものではございません!この本はばあやが預かっておきます!」
「もしかしたらお兄様やヴィーの本かもよ?」
「…その場合はまぁなんと申しますか…。それはそれで教育的指導が必要ですわね」
「直接聞いてみましょうよ」
「姫様!殿方には殿方の秘密の花園というものがあるのですよ!」
「?」
「とにかく、この本はばあやが預かっておきますから!姫様は早くエスパルニア語とピアノのレッスンを受けてきてくださいましな」
「えー嫌よぉ」
「姫様!」
小脇に抱えている本を取ろうとシャルロット様は何度もばあやの脇腹を狙います。
しかしばあやは素早く身をかわし、シャルロット様にこの本を奪われまいと必死に逃げ惑います。
床の埃が一気に舞い上がりました。
窓から差し込む光に照らされて浮かび上がる無数の埃を吸いこんだばあやがくしゃみを我慢しきれず、一瞬身を屈めました。その隙をついてキラリンッと目を光らせたシャルロット様はその凄い速さでばあやから本を奪い取りました。
「あッ!」
「この本はいただくわ!きっとエスパルニア語やピアノよりもきっと勉強になるはずよ!」
「姫様~!まだ姫様には刺激が強すぎるから駄目です!」
「そう駄目と言われると余計に読んでみたくなるものなのよ!」
勝ち誇ったようにそう言い放ちながらシャルロット様は納屋の外に思いきり走り出したその時です。
「きゃ…ッ!!」
突然シャルロット様の視界が真っ白に塞がれたのでした。
柔らかい日差しが降り注ぐ穏やかな午後の昼下がりのことです。ここローザタニア王国の王都・パラディスにあります、たくさんの美しい花が咲き乱れるお城の中庭にはシャルロット姫のばあやの声が今日も響き渡っておりました。
「あら、ばあや!何でここが分かったの?」
顔中に青筋を立てハァハァと息を切らしながら、ばあやは自分の身体よりもはるかに大きい、ギギギ…と錆びた音のする古びた納屋の扉を力いっぱい開きました。
シャルロットと呼ばれた美しい少女―――彼女はこのローザタニア王国のウィリアム国王陛下の妹で、この国一番の美しさを持つと称えられる姫君であります。
黄金の絹の糸のように美しく柔らかくウェーブを描く柔らかい金髪に、まるでエメラルドのようにキラキラと輝く緑色の瞳。
少し紅を引いたかのように色づいている艶やかで瑞々しい唇。誰が見てもドキッと一目惹かれるほどの美少女なのであります。
そんな光り輝くような姫様に似つかわしくない暗くて古びた納屋の奥に置かれている、これまた古くて幾年もの埃を吸っていそうなソファーにシャルロット様はダラッと寝っころがるように腰かけておいででした。
「ヴィンセント様が、シャルロット様は絶対この納屋に隠れているだろうと教えてくださったのですよ!」
「…ヴィーったらいっつも余計なことするんだから」
「余計なことなど!ヴィンセント様のお蔭でばあやたちは助かっているんですよぉ!」
「…私にとっては余計なお節介だわ」
「…ってそんなことよりもほら早く!エスパルニア語の先生とピアノの先生がお待ちですよ!早くお部屋にお戻りくださいっ!」
眉間にしわを寄せて頬を膨らましプリプリと怒られているシャルロット様の腕を取ろうとばあやの手が勢いよく伸びてきました。
しかしシャルロット様は猫のようにスッと身をかわし、ばあやに捕まるまいとしてその可憐な容姿とはうらはら、ちょこまかとすばしっこく逃げ回ります。
「…私エスパルニア語もピアノの授業嫌いよ!」
「姫様!」
「エスパルニア語なんて昔の言葉、今はもう使わないじゃない。それにピアノだって…全自動のピアノだってあるし、ウチにはお抱えの音楽家だっているし私がピアノをする必要ってある?」
「姫様!そんなこと仰らずにお勉強なさってください~」
「嫌よ。だって興味が無いから面白くないんだもの」
「姫様ぁ~…お願いですからばあやの言うことを聞いてくださいましぃ~」
ばあやは頭を抱えながらわーっとその場に泣き崩れてしまいました。
そんなばあやの姿をシャルロット様は腕組みをしながらツンッと突っぱねます。
「泣き脅しには屈しないわよ。もうその手は5000回以上使っているんだから」
「…そこをなんとかッ!」
「無駄なお勉強するくらいだったら、私ここで本を読んでいるわ。ヴィーと先生方には、シャルロットは古い本を読んで文学を勉強をしていると伝えてちょうだい」
古い納屋は掃除が行き届いていないのでありましょう。シャルロット様は先ほどまで読まれておりましたばあやとのやり取りで床に落ちてしまった本に付いてしまった埃を掃いながら再びソファーに腰掛けられました。それはいかにも年季が入っているかのような深いこげ茶色の重々しい表紙、そして金の糸を張り巡らしたのような装丁が施された分厚い本でございました。
「ねぇばあや見て。この本とっても面白いの。伝説のアレクサンドル王の話が書いてあるのよ」
「あら、それは200年前に書かれたバロビニサ王国の歴史本じゃありませんか?」
眼鏡の端をクイッと上げながら、先程まで泣き崩れていたはずのばあやはシャルロット様の本を覗き込みました。
ポケットからは目薬の容器が顔を出しております。やはりばあやの泣き脅しは嘘じゃない、とシャルロット様はばあやを肘で優しく小突かれました。
「ばあや知ってるの?」
「えぇ…ばあやがまだ女学生だったころに図書館でその本を読んだことがありますよ」
「まぁ。そうなのね。アレクサンドル王ってとても素敵な方だったのね」
「人望厚く誠実でとても強くて優れた王であったようですね。」
「そのようね。ねぇ、ここ、アレクサンドル王が村人を食い殺す大きな竜を退治する話よ」
「このアレクサンドル王のご活躍のお蔭で、この村は平和になったんですよね。そしてこの村って、実はローザタニアの近くにあった村と言われておりますよ」
「へぇ…そうなのね」
「…こちらの本はここにございましたか?」
「えぇ、納屋の本棚に入っていたわ」
「おかしいですね。歴史本は書庫に入れてあるはずなのですが」
「メイドの誰かが、こっそり読みたくて拝借したかもよ?まぁ別にいいじゃない」
「なんたる不躾!あとで怒っておかないと駄目ですね!」
まぁいいじゃないの、とシャルロット様はプリプリ怒っているばあやをなだめました。
「そりゃあ隠れて読んでみたくなるわよ。ねぇ見てよ、このアレクサンドル王と後に妃になるジェーニャの出会いのくだり。もの凄く詳しく書いてあるの」
「えっ…!?そんな箇所ありましたっけ??」
ばあやがシャルロット様の手から本をひったくり、マジマジと本を眺めはじめました。
老眼が進んでいるばあやは眼鏡を上げ下げしたり、本を遠くにやったり近くにやったりと色々試行錯誤しながら小さい文字を見つめています。眼鏡を通して、ばあやの目が大きくなったり小さくなったりしているのを見て思わずシャルロット様はプッと笑いを吹いてしまいました。そんなこともお構いなしにばあやは本を字のごとく目を凝らして本を読んでおります。
「どれどれ…『ジェーニャよ…愛しい私のジェーニャよ。どうかこの身体から溢れる出る貴女への思いを受け止めてくれないか。美しい貴女のその髪に触れる度に私の心は…心の奥はまるで灼熱の太陽に焦がされているかのようにかのように熱くなるんだ。今日も貴女のことを思うと夜が寂しい。この昂った熱をどうか貴女の奥に届けたい…』そうアレクサンドル青年はジェーニャの耳元で甘く囁いた…ってなんですか、この本ッ!」
「えー?さっきばあや言ってたじゃない。バロビニサ王国の歴史本でしょ?」
ばあやは顔を真っ赤にしながら照れ隠しのように本を床に投げ捨てました。
そして顔面から滝のように流れ出る汗をハンカチで必死に拭きながらバクバクする心臓に手を置きシャルット様に聞こえるよう大きな声で話しはじめます。
「こんなシーン、ございませんでしたよ!確かお二人の出会いのシーンなんてものの一行でしたよ!」
「えー?」
「…まぁっ!!なんと…これは官能小説並みの続き…っ!異本でしょうかしらっ!?」
「えー、もっと読みたいー」
床に落ちている本を拾い上げようとシャルロット様が手を伸ばしましたが、これは大変と、ばあやは老人とは思えぬ素早さで、シャルロット様よりも先に本を取り上げました。
「なりません!姫様にはまだ早すぎますッ!」
「いいじゃない。これも勉強の一つよ」
「駄目です!まだ嫁入り前の女性が読むものではございません!この本はばあやが預かっておきます!」
「もしかしたらお兄様やヴィーの本かもよ?」
「…その場合はまぁなんと申しますか…。それはそれで教育的指導が必要ですわね」
「直接聞いてみましょうよ」
「姫様!殿方には殿方の秘密の花園というものがあるのですよ!」
「?」
「とにかく、この本はばあやが預かっておきますから!姫様は早くエスパルニア語とピアノのレッスンを受けてきてくださいましな」
「えー嫌よぉ」
「姫様!」
小脇に抱えている本を取ろうとシャルロット様は何度もばあやの脇腹を狙います。
しかしばあやは素早く身をかわし、シャルロット様にこの本を奪われまいと必死に逃げ惑います。
床の埃が一気に舞い上がりました。
窓から差し込む光に照らされて浮かび上がる無数の埃を吸いこんだばあやがくしゃみを我慢しきれず、一瞬身を屈めました。その隙をついてキラリンッと目を光らせたシャルロット様はその凄い速さでばあやから本を奪い取りました。
「あッ!」
「この本はいただくわ!きっとエスパルニア語やピアノよりもきっと勉強になるはずよ!」
「姫様~!まだ姫様には刺激が強すぎるから駄目です!」
「そう駄目と言われると余計に読んでみたくなるものなのよ!」
勝ち誇ったようにそう言い放ちながらシャルロット様は納屋の外に思いきり走り出したその時です。
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