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Artémis des larmes ~アルテミスの涙~
第10話
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「お兄様ごめんなさい」
「来たな。では始めるとするか」
少し駆け足でウィリアム様の元にシャルロット様が戻って来られますと、ウィリアム様はいつの間にかもうそこにスタンバイしていたセバスチャンに合図をしました。するとトランペットのファンファーレが鳴りだし、大広間にいた参加者たちは一斉に大広間の上座に注目します。
「諸君、本日はリーヴォニア国アドルフ国王陛下並びにそのご子息ゲルハルト王子の歓迎セレモニーのパーティーにお集まりいただき、心より感謝する。さて…冒頭でも話したがリーヴォニア国のヴィリニュスとローザタニアのヴァランがこの度姉妹都市として提携を結ぶ運びとなった。リーヴォニア国にとっては初めての姉妹都市の提携が我が国であるということはとても名誉なことである。この先永きにわたり両国の間に変わらない友情が続いて行くことを願ってやまない。さて…ではアドルフ陛下よりご挨拶と乾杯の音頭を賜ろう」
ウィリアム様はアドルフ陛下にどうぞ…と微笑むと、アドルフ陛下は緊張した面持ちで上座の方へとやって来られました。んんん…ッと一つ咳払いをして端から端まで目の前に居る多くの人々の方をご覧になります。
「あー…この度は我が国の急な申し出にもかかわらず、ウィリアム陛下には快く姉妹都市の提携を結んでいただいたことを誠に感謝いたします。私の亡き妻、皇后カトリーヌの先祖の血筋にこのローザタニアの貴族の血筋が入っておりまして…我が倅、ゲルハルトはこの国に縁があると思っております。この姉妹都市の関係が両国の力強い絆となることを願ってやみません。それでは…乾杯っ!!」
アドルフ陛下は手短に挨拶を済ませると、グラスを掲げて力強く乾杯の音頭を取りました。大広間にいる一同が乾杯の音頭と共にグラスを交わすと、オーケストラは華やかな曲を奏でパーティー会場は拍手と歓喜に溢れました。するとそこへ、アドルフ陛下が手を上げ皆の注目を集めるとんんっと喉を鳴らしてもう一度話し出しました。
「ローザタニアと我が国リーヴォニアの友情の証として…この場をお借りして我が倅であるゲルハルトよりシャルロット様へ贈り物をさせていただきたく存じます」
「え?」
「さぁ…シャルロット様…」
アドルフ陛下はいきなりお名前を呼ばれ驚いているシャルロット様の手を引いて上座のど真ん中へとお連れしました。するとゲルハルト王子が細やかな銀細工の装飾が施された小箱を持ってシャルロット様の前にやって来ると膝をつかれました。
そしてシャルロット様のお顔の前でパカッと小箱を開きます。
「…麗しのシャルロット様…どうぞこちらをお納めください」
「ゲルハルト王子…これは…」
「『アルテミスの涙』と言う何色とも言えない眩い輝きを放つ特別な宝石を使ったネックレスです」
ゲルハルト王子がそう告げると、周りにいた者たちは一気にざわつき始めました。
「『アルテミスの涙』だと?!永らく行方不明になっていた世界の幻の宝石七選にも謳われている宝石じゃないか!」
「まぁ…っ!なんて不思議な輝きの宝石なんでしょう!」
「見て!明るい光に照らされるとエメラルドみたいだった石がルビーのように光っているわ!」
「あの石は永らく行方不明になっていただろう?どうやってあの石を手に入れたんだ?」
「本物かどうかも怪しいぞ?なんせ幻の宝石だからな!」
「おいおい…こんな公の場であんな贈り物をされるとは何てマナー知らずなんだ!」
「抜け駆けしてシャルロット様にアピールかよ!狡いぞ!」
「私だってシャルロット様へプレゼントしたいんだ!あぁ…こんなことならあの秘蔵のティアラをお持ちすればよかった!」
幻の宝石の眩さに驚く者、そして大胆にもたくさんの人々の前でシャルロット様へのアピールをするゲルハルト王子への文句など、たくさんのそんな声がお耳に入ってきているのかシャルロット様は戸惑った様子で膝まづくゲルハルト王子を見ております。
当のゲルハルト王子はと申しますと、終始笑顔を絶やさずにシャルロット様を見上げて『アルテミスの涙』を差し出しております。
「さぁシャルロット様…どうぞお受け取りください」
「でも…こんな高価な物受け取れないわ」
「シャルロット様、こちらは我々からのお近づきの気持ちです。確かに…花やお菓子に比べれば高価な物ですが、この石はかつて我が国の鉱山で採れた幻の石…。美しい貴女様にピッタリのお品だと思い我々はこちらをローザタニアとリーヴォニアの友情の証としてお送りさせていただこうと思ったのです。さぁどうぞ遠慮なさらずにお受け取りください」
「お兄様…」
グイグイっとアドルフ陛下も後押しするようにシャルロット様にお声を掛けます。困り果てたシャルロット様は上手側にいるウィリアム様の方に助け船を求めるようにチラッとお顔を向けました。
ウィリアム様も少し困ったな…と言った様な表情を一瞬お見せしましたが、スッと一歩前に出て来られました。
「アドルフ陛下、ゲルハルト王子…この度はこのような素晴らしい贈り物をいただきありがとうございます。この宝石のように輝かしい未来が両国に溢れんことを願わんばかりです」
ウィリアム様はシャルロット様に対して小さく頷くと、シャルロット様もそれに応えるように頷きます。
そしてシャルロット様はゲルハルトの手から箱を受け取りました。
しっかりとシャルロット様のお手に箱を渡すとゲルハルト王子の顔がパァッと喜びに満ち溢れたような満面の笑みに変わりました。
「我々の思いを受け取ってくださいありがとうございます、シャルロット様!」
シャルロット様は何とお答えして良いのか分からず遠慮がちに微笑まれましたが、ゲルハルト王子はそれに気が付くことなく満面の笑みのままシャルロット様のお手を握っております。
「さぁ!では諸君…夜はまだ長い。大いにこの夜を楽しんでくれたまえ」
ウィリアム様はそう仰られて右手を上げてサッと合図されると、オーケストラはさらに賑やかで優雅な曲を奏で始めました。数名のカップルたちはダンスフロアに飛び跳ねるように出てきてワルツを踊り始めます。周りで何かしら言っていた者たちもボーイからドリンクを貰ったり、また何かしら話しはじめたりワルツの輪に加わったりとし始めました。
「…もう一曲踊ってくださいますか?」
「ゲルハルト王子…」
「さぁ…」
ゲルハルト王子に半ば強引に手を引かれながら、シャルロット様は再びダンスフロアに降りて来られました。
お互い一礼をすると、お二人はゆっくりとと手を重ねてワルツを踊り始めました。
先ほどのワルツとはまた違い、どこか少し遠慮がちに組むシャルロット様の身体をゲルハルト王子は少し強引に近寄せます。
「…まさかあそこで贈り物を頂戴するとは思いもよりませんでしたよ、アドルフ陛下」
上座の席で、ウィリアム様とアドルフ陛下はグラスを傾けながら広間のワルツを眺めておりました。
キンキンに冷えたスッキリとしたシュワシュワと泡立つシャンパンを一口口に含み、ウィリアム様はいたずらっ子ぽくアドルフ陛下を見てフッと笑いました。
アドフル陛下はポケットからハンカチを取出し汗を拭いながらウィリアム陛下に少し申し訳なさそうな様子でお答えします。
「申し訳ございませんウィリアム陛下。我らリーヴォニアのような小国を皆様に知っていただくためにはインパクトをお与えしなければと思いまして…」
「ご安心を、よくあることですからこのような事で目くじらを立てたりなど致しませんよ陛下。ただ妹はまだこういう対応に慣れていないので…戸惑ってしまったようです。逆に陛下やご子息にご迷惑をお掛けしたかと」
「いえ、そのようなことはございません」
「なら良いのですが」
「ウィリアム陛下、シャルロット様には連日他国の王や貴族から贈り物が届くと言うお噂をお聞きしておりますが…」
「えぇまぁありがたいことに…ただ過度な贈り物は丁重にお断りをしております。どうか今回限りで」
「あぁ…気を使わせてしまいましたな。申し訳ございません…」
「まだ花より団子の歳ですから。未だに毎日庭を走り回っているおてんば娘です」
「おや…そのようにはお見えいたしませんが」
「皆外見に騙させているのですよ。…とまぁまだ花嫁修業もさせておりませんし、しばらくは嫁にやるつもりもないのですよ」
「左様ですか…。ですが―――…」
「妹には出来るだけ自由恋愛をさせてやりたいと思っているのです」
「はぁ…」
「もちろん、今日ゲルハルト殿とたくさん話をして友人関係から愛を築いていくとなる場合は私も反対いたしませんよ」
「陛下!」
「さてアドルフ陛下…。ローザタニアの貴婦人たちは麗しい淑女がたくさんおります。ワルツなどいかがですかな?」
「ワルツなど…妻が亡くなって10年踏んでおりませんな…」
「大丈夫ですよ。さぁ陛下、我々も夜を楽しみましょう」
ウィリアム様は立ち上がるとアドルフ陛下の背を押して大広間のダンスフロアに降り立ちました。
「来たな。では始めるとするか」
少し駆け足でウィリアム様の元にシャルロット様が戻って来られますと、ウィリアム様はいつの間にかもうそこにスタンバイしていたセバスチャンに合図をしました。するとトランペットのファンファーレが鳴りだし、大広間にいた参加者たちは一斉に大広間の上座に注目します。
「諸君、本日はリーヴォニア国アドルフ国王陛下並びにそのご子息ゲルハルト王子の歓迎セレモニーのパーティーにお集まりいただき、心より感謝する。さて…冒頭でも話したがリーヴォニア国のヴィリニュスとローザタニアのヴァランがこの度姉妹都市として提携を結ぶ運びとなった。リーヴォニア国にとっては初めての姉妹都市の提携が我が国であるということはとても名誉なことである。この先永きにわたり両国の間に変わらない友情が続いて行くことを願ってやまない。さて…ではアドルフ陛下よりご挨拶と乾杯の音頭を賜ろう」
ウィリアム様はアドルフ陛下にどうぞ…と微笑むと、アドルフ陛下は緊張した面持ちで上座の方へとやって来られました。んんん…ッと一つ咳払いをして端から端まで目の前に居る多くの人々の方をご覧になります。
「あー…この度は我が国の急な申し出にもかかわらず、ウィリアム陛下には快く姉妹都市の提携を結んでいただいたことを誠に感謝いたします。私の亡き妻、皇后カトリーヌの先祖の血筋にこのローザタニアの貴族の血筋が入っておりまして…我が倅、ゲルハルトはこの国に縁があると思っております。この姉妹都市の関係が両国の力強い絆となることを願ってやみません。それでは…乾杯っ!!」
アドルフ陛下は手短に挨拶を済ませると、グラスを掲げて力強く乾杯の音頭を取りました。大広間にいる一同が乾杯の音頭と共にグラスを交わすと、オーケストラは華やかな曲を奏でパーティー会場は拍手と歓喜に溢れました。するとそこへ、アドルフ陛下が手を上げ皆の注目を集めるとんんっと喉を鳴らしてもう一度話し出しました。
「ローザタニアと我が国リーヴォニアの友情の証として…この場をお借りして我が倅であるゲルハルトよりシャルロット様へ贈り物をさせていただきたく存じます」
「え?」
「さぁ…シャルロット様…」
アドルフ陛下はいきなりお名前を呼ばれ驚いているシャルロット様の手を引いて上座のど真ん中へとお連れしました。するとゲルハルト王子が細やかな銀細工の装飾が施された小箱を持ってシャルロット様の前にやって来ると膝をつかれました。
そしてシャルロット様のお顔の前でパカッと小箱を開きます。
「…麗しのシャルロット様…どうぞこちらをお納めください」
「ゲルハルト王子…これは…」
「『アルテミスの涙』と言う何色とも言えない眩い輝きを放つ特別な宝石を使ったネックレスです」
ゲルハルト王子がそう告げると、周りにいた者たちは一気にざわつき始めました。
「『アルテミスの涙』だと?!永らく行方不明になっていた世界の幻の宝石七選にも謳われている宝石じゃないか!」
「まぁ…っ!なんて不思議な輝きの宝石なんでしょう!」
「見て!明るい光に照らされるとエメラルドみたいだった石がルビーのように光っているわ!」
「あの石は永らく行方不明になっていただろう?どうやってあの石を手に入れたんだ?」
「本物かどうかも怪しいぞ?なんせ幻の宝石だからな!」
「おいおい…こんな公の場であんな贈り物をされるとは何てマナー知らずなんだ!」
「抜け駆けしてシャルロット様にアピールかよ!狡いぞ!」
「私だってシャルロット様へプレゼントしたいんだ!あぁ…こんなことならあの秘蔵のティアラをお持ちすればよかった!」
幻の宝石の眩さに驚く者、そして大胆にもたくさんの人々の前でシャルロット様へのアピールをするゲルハルト王子への文句など、たくさんのそんな声がお耳に入ってきているのかシャルロット様は戸惑った様子で膝まづくゲルハルト王子を見ております。
当のゲルハルト王子はと申しますと、終始笑顔を絶やさずにシャルロット様を見上げて『アルテミスの涙』を差し出しております。
「さぁシャルロット様…どうぞお受け取りください」
「でも…こんな高価な物受け取れないわ」
「シャルロット様、こちらは我々からのお近づきの気持ちです。確かに…花やお菓子に比べれば高価な物ですが、この石はかつて我が国の鉱山で採れた幻の石…。美しい貴女様にピッタリのお品だと思い我々はこちらをローザタニアとリーヴォニアの友情の証としてお送りさせていただこうと思ったのです。さぁどうぞ遠慮なさらずにお受け取りください」
「お兄様…」
グイグイっとアドルフ陛下も後押しするようにシャルロット様にお声を掛けます。困り果てたシャルロット様は上手側にいるウィリアム様の方に助け船を求めるようにチラッとお顔を向けました。
ウィリアム様も少し困ったな…と言った様な表情を一瞬お見せしましたが、スッと一歩前に出て来られました。
「アドルフ陛下、ゲルハルト王子…この度はこのような素晴らしい贈り物をいただきありがとうございます。この宝石のように輝かしい未来が両国に溢れんことを願わんばかりです」
ウィリアム様はシャルロット様に対して小さく頷くと、シャルロット様もそれに応えるように頷きます。
そしてシャルロット様はゲルハルトの手から箱を受け取りました。
しっかりとシャルロット様のお手に箱を渡すとゲルハルト王子の顔がパァッと喜びに満ち溢れたような満面の笑みに変わりました。
「我々の思いを受け取ってくださいありがとうございます、シャルロット様!」
シャルロット様は何とお答えして良いのか分からず遠慮がちに微笑まれましたが、ゲルハルト王子はそれに気が付くことなく満面の笑みのままシャルロット様のお手を握っております。
「さぁ!では諸君…夜はまだ長い。大いにこの夜を楽しんでくれたまえ」
ウィリアム様はそう仰られて右手を上げてサッと合図されると、オーケストラはさらに賑やかで優雅な曲を奏で始めました。数名のカップルたちはダンスフロアに飛び跳ねるように出てきてワルツを踊り始めます。周りで何かしら言っていた者たちもボーイからドリンクを貰ったり、また何かしら話しはじめたりワルツの輪に加わったりとし始めました。
「…もう一曲踊ってくださいますか?」
「ゲルハルト王子…」
「さぁ…」
ゲルハルト王子に半ば強引に手を引かれながら、シャルロット様は再びダンスフロアに降りて来られました。
お互い一礼をすると、お二人はゆっくりとと手を重ねてワルツを踊り始めました。
先ほどのワルツとはまた違い、どこか少し遠慮がちに組むシャルロット様の身体をゲルハルト王子は少し強引に近寄せます。
「…まさかあそこで贈り物を頂戴するとは思いもよりませんでしたよ、アドルフ陛下」
上座の席で、ウィリアム様とアドルフ陛下はグラスを傾けながら広間のワルツを眺めておりました。
キンキンに冷えたスッキリとしたシュワシュワと泡立つシャンパンを一口口に含み、ウィリアム様はいたずらっ子ぽくアドルフ陛下を見てフッと笑いました。
アドフル陛下はポケットからハンカチを取出し汗を拭いながらウィリアム陛下に少し申し訳なさそうな様子でお答えします。
「申し訳ございませんウィリアム陛下。我らリーヴォニアのような小国を皆様に知っていただくためにはインパクトをお与えしなければと思いまして…」
「ご安心を、よくあることですからこのような事で目くじらを立てたりなど致しませんよ陛下。ただ妹はまだこういう対応に慣れていないので…戸惑ってしまったようです。逆に陛下やご子息にご迷惑をお掛けしたかと」
「いえ、そのようなことはございません」
「なら良いのですが」
「ウィリアム陛下、シャルロット様には連日他国の王や貴族から贈り物が届くと言うお噂をお聞きしておりますが…」
「えぇまぁありがたいことに…ただ過度な贈り物は丁重にお断りをしております。どうか今回限りで」
「あぁ…気を使わせてしまいましたな。申し訳ございません…」
「まだ花より団子の歳ですから。未だに毎日庭を走り回っているおてんば娘です」
「おや…そのようにはお見えいたしませんが」
「皆外見に騙させているのですよ。…とまぁまだ花嫁修業もさせておりませんし、しばらくは嫁にやるつもりもないのですよ」
「左様ですか…。ですが―――…」
「妹には出来るだけ自由恋愛をさせてやりたいと思っているのです」
「はぁ…」
「もちろん、今日ゲルハルト殿とたくさん話をして友人関係から愛を築いていくとなる場合は私も反対いたしませんよ」
「陛下!」
「さてアドルフ陛下…。ローザタニアの貴婦人たちは麗しい淑女がたくさんおります。ワルツなどいかがですかな?」
「ワルツなど…妻が亡くなって10年踏んでおりませんな…」
「大丈夫ですよ。さぁ陛下、我々も夜を楽しみましょう」
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