その紫煙が心を揺らす 

伽蓮

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第11章 満ちるもの育むもの

満ちるもの育むもの④

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「意思を尊重する……ってのは、キレイ事だ。恋人の全部が欲しいのは自然な欲求だろう」

 物狂おしい眼差しを向けてくる紺野を自分につなぎとめたい、と思う。反対につながれたい、と思う。互いが、互いにとってかけがえのない存在だと確かめ合うためなら多少、無理をしても報われて余りあるはず。
 妹尾は唇を舐めて湿らせた。

「おれが、まな板にリボンでくくりつけられている場面を想像してください……」

 真夜中すぎだ。サンタクロースを乗せた橇が世界中をかけめぐり、世界中の子どもたちにプレゼントを届けてまわっているころだ。

「今夜は……その、クリスマスなので……」

「プレゼントに妹尾さんをくれるって解釈してもいいんだな。豪華版すぎて涙がちょちょ切れそうだ」
 
 頭のてっぺんをぽかりと殴ってあげると、紺野はいったんベッドを離れた。いきり立った昂ぶりが、潜望鏡のように前立ての間から突き出して歩きづらそうで、少し笑った。

「急転直下で両思い、は想定外だ。専用のジェルじゃなくて悪いな」

 向かい合って横たわる。すねから下を紺野の太腿に引っかける形に抱き寄せられたうえで、尻たぶを割り開かれた。そこにベビーオイルがひと垂らし。
 ざわり、と鳥肌が立った。妹尾は咄嗟に紺野にしがみついた。その間にも、ひとひら、ひとひらと襞が丁寧に解き伸ばされていく。その都度、ベビーオイルが塗り込められていき、蕾がわずかにほころんだ。

「なるべく、そっとやるが。痛いときは痛いと、ちゃんと申告してくれ」

「覚悟の上です。どうぞ、ご随意に……ん」

 指が浅く、深く沈む。かつて味わったためしのない異物感に苛まれて、躰が自然とずり上がる。引き戻されて茂みをまさぐって返す。弾丸が装填されたそれは持ち重りがして、妹尾は今さらめいて蒼ざめた。それでも、すくみ上がるたびにくちづけを求めて雄渾を愛おしんだ。
(ど近眼で助かった……)
 視界がぼやけているおかげで若干、恥ずかしさが薄れる。だが皮肉なことに他の感覚が研ぎ澄まされ、とりわけ筒を行きつ戻りつする指の動きに意識を集中してしまう。

「ぁ、う、あああ……っ!」

 内壁がだいぶこなれ、かき混ぜられるにともなって細腰さいようが独りでにくねりはじめたころのことだ。指が隘路のある一点を突きのめしていったはずみに、嬌声が口をついて迸った。

「ここが噂に聞く例のあれ……か」

 蜜が泡立ち、紺野は金鉱を発見したヤマ師のように目を輝かせた。そして一ミリ刻みで指をスライドさせると、探り当てた突起をくじきたてた。

「やっ、やめ……!」

 着崩れたワイシャツが、扇形に広がった。ほっそりした肢体がシーツの波間をのたうち、その艶冶な光景は、さらなる淫技を誘った。

「……ん、ん、んっ!……」

 さねに狙いを定めて指が蠢くと、脊梁がしなう。妹尾は懸命によがり声を噛み殺し、

「我慢したがるのは妹尾さんの悪い癖だ」

 耳たぶに舌を這わされて狂おしく腰を振りたてた。未経験のゾーンをさまようあまり、内奥をやわらげる指が順次、増やされていったことにも気づかないほどだった。

「ぁ、ん、くっ、ああ……っ!」

 爆ぜて、まき散らした。ティッシュと、あたふたと枕元を探り、だが、いち早く腰を抱え込まれた。
 ひたり、と尖塔がぬめりにあてがわれたせつな、この状況がにわかに現実味を帯びて全身が強ばった。

「愛している。人生最良の日だ」

「気障ですね……っ、つぅ……!」

 こじ開けられて、陰門全体が軋む。予想を遙かに上回る激痛に涙がにじみ、妹尾は死に物狂いになってもがいた。強引につながりを解きにかかっても、楔を軸につれ戻される。
 一方、紺野も先端をえぐり込ませてはみたものの、ニッチもサッチもいかない様子で顔をしかめた。

「もう少し、ゆるめてくれ。先っぽがつかえちまって、ぽきっといきそうだ」

「無理を、言わないでください……っ、く」

 そういう構造にはできていない躰を刺し貫かれる側には、大きな負担がかかるのだ。
 仰向けになって足を大きく開き、さらに腰の下に枕をかまされるという、あられもない恰好をさせられているこちらの気持ちも斟酌してほしい。
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