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溺愛道の教え、その3 想い人を猫っ可愛がりにせよ

溺愛道の教え、その3 想い人を猫っ可愛がりにせよ⑥

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「男同士の初夜の醍醐味は、ね。いきり立った男根をまっさらな尻の穴にぶすり。そいつに尽きるのさ」

「尻の穴に、ぶすり……?」

 ハルトは鸚鵡返おうむがえしに呟くと、澄まし顔と絵を交互に見た。しかし、ぜんぜんピンとこない。ただし、知ったかぶりをしてこの場を切り抜けるのが正解だった。カモが今度は自分でかまどの火をおこしてくれた、とばかりに暗緑色の瞳が狡猾に光るのだから。

「羊飼いなら、羊の種付けを手伝ったことくらいあるだろう? 初床ういどこというのはね、従兄殿とハルちゃんによる繁殖行為の婉曲的な言い回しさ」

「えっと……つまり、おれがイスキアの尻の穴にずぶり、とか……?」

「素っ頓狂な勘違いをしてくれるねえ。逆さ、逆逆。ぶっといのをぶち込まれてアンアン啼くのはハルちゃんのほう」

 親切ごかしに〝講義〟を行い、その実、よからぬ知恵を授ける行為は、いわば毒液を注入するに等しい。曰く、尻の穴で番うにあたっては念入りに準備すべし、うがたれるときは激痛を伴うが、肉襞をこすられているうちに目くるめく快感の世界へと羽ばたく──等々。

「……だからね、常日ごろから自分の指を挿れて慣らしておくことをお勧めするね」

 などと、ご丁寧にも図解を交えてほぐし方なるものに説明を加える。さらに教材を用いるように親指と人差し指で輪を作り、反対の手の人差し指をそこに通して、ずこばこ、ずこばこと出し入れした。
 
 同日同時刻。イスキアは、ぽかぽかと暖かい窓辺にたたずんでいるにもかかわらず異様な寒気を感じた。髪飾り風の帽子をずらしてをまさぐってみて、霧吹きで湿り気を与える。窓越しに湖を眺めやると、今しも水鳥が小魚を捕らえたさまに胴震いが走った。
 ワシュリ領国一の快速艇をもってしても、ここ、領主館(本館)がある本土から小島まで小一時間はかかる。晩餐会の主賓である隣国の王族をもてなすのは領主の務めで、だがジリアンという不穏分子がうろついている別館を留守にするのは、盗賊を請じ入れる以上に危険きわまりない。
 イスキアは執務室を行ったり来たり、行ったり来たりした。悪い予感がしてならない。くれぐれもジリアンの監視を怠るな、とメイヤーに申しつけてきたのだが、抜け目がない彼奴きゃつのこと。隙をついて、ハルトにおかしなちょっかいを出していないだろうな。

 果たせるかな、がっつり出されている最中だ。男同士の睦み方の、その諸々ときたら驚愕の事実という生やさしい次元を通り越して、無垢な魂には強烈なうえにも強烈。衝撃度たるや地殻変動に匹敵する。
 ジリアンは、さも同情しているふうに言葉を継ぐ。つくづく、からかい甲斐のある子だとと思いながら。

「ハルちゃんのお尻はちっちゃいから、イチモツをえぐり込まれると血がドバーッ! かもね……顔色が悪いね、気つけ薬の代わりにキュウリをかじるかい?」

「だいじょぶ、血がドバーッ! は鎌で手を切ったときで慣れてるだ……」

 そう放心状態で答えて、へらへら笑った。〝スパルタ式・愛のいとなみ講座〟は竜巻の威力で心を揺さぶるとともに、記憶の断片を表にめくった。イスキアのめいを受けた使者が村を訪れた、ちょうど同じころ、幼なじみで兄貴分のユキマサが何やらいかがわしい振る舞いにおよんだ。
 じゃれ合いという枠からはみ出した、あの一件は今にして思うと貞操の危機だった……?
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