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溺愛道の教え、その11 真実の愛は無敵の基本を忘れるべからず
溺愛道の教え、その11 真実の愛は無敵の基本を忘れるべからず③
しおりを挟むかたやイスキアは感涙にむせぶようだった。長きにわたって恋い焦がれてきた相手がまさしく、まな板の上の鯉。茱萸のように愛らしい粒が彩りを添える上体も、すんなりした下肢も丸出しという、ほぼ全裸。
よだれが垂れる光景は、果たして夢か幻か。確かめる方法といえば自分の頬をつねるのが定番だ。代わりに勇を鼓して乳首をつんつん。
「や、変なさわりかたするな……!」
そう言われると、ただでさえ余りにもいたいけで触れるのが恐ろしくなった。もっとも鼻先にぶら下がっている人参をおとなしく眺めているだけなのは、虚しい。第一、年上の沽券にかかわる問題としてぜひとも主導権を握りたい。
「適切な力加減というのがわからぬ。痛くしたときは痛いと、遠慮せずに申すのだ」
たっぷり数十秒たってからうなずき返してきたのを合図に、改めて乳首をつまむ。それにしても小さい、とイスキアは唸った。改良種の親にあたるキュウリの種子をえりすぐるとき以上に丁寧に扱わなくては、もいでしまいかねない。あ
るいは〝皿〟に軽くヤスリをかけて、くすみを取るように……。
浮かれまくって、うっかりしていた。指より舌のほうがあたりが柔らかい。つまり舐めるに限る。
いそいそと実行に移す。実践編と謳った溺愛道の副読本を参考にして、ねっとり、じっくりと可愛がれば結果は自ずとついてくるはず。それを楽しみにして、まずは淡々しい縁取りの乳暈に舌を這わせた。
「ひゃ、ん……! ちょっと待って……!」
暴れだしたのをやんわりと押さえつけて、ちっぽけな尖りを食む。たちまち太陽がそこに宿ったように、エメラルドグリーンの瞳が輝いた。乳首の舌ざわりは丹念に裏漉ししたポタージュよりなめらかで、そのくせ程よい弾力がある。
ひとたび味わうと虜になって、ちゅくちゅくと舌を蠢かすにつれて、おずおずと芯が育ってきた。初めて口にする料理の、その奥深さを堪能するように、なおも食みたおす。
「待ってて言ってるのに……!」
頭を引きはがそうとするのに知らんぷりを決め込んで、右の乳首をしこらせる。そこで左の乳首を手つかずで残しておくのは礼を失する、と反省して、慎ましやかに在る粒を舌でこそげた。
年季の入った童貞の強みといえるのか、妄想劇場の中では幾通りもの乳首の慈しみ方を研究ずみだ。肝要な点は一にも二にもメリハリををつけること。
イスキアは俄然、勇み立った。楚々と顔を出したところを唇の上下で挟み、笛を吹くように震わせる。
「こそばゆい、ってば……!」
左の乳首からもぎ離されても、右のそれに矛先を転じて舐めころがす。左の乳首から──以下同文。そうやって平等に可愛がった甲斐があって、どちらの粒も珊瑚珠のように艶めき、ぷっくりと膨らんだ。
イスキアは一旦、半身を起こすと、自己評価の厳しい芸術家の目で検分した。左の乳首の色づきぐあいが若干、劣るだろうか。
ならば今一度、と顔を伏せていったとたん強引に仰のかされた。首の腱がねじれてもハルトを抱きしめて離さないあたり、恋情の力は偉大である。
「おればっか、いじって狡い。ジャンケンで勝ったほうが愛でる側に回るのが公平だと思う。でなきゃ、かわりばんこにする」
「それは、できない相談だ。そもそも物事には向き不向きというものがあり、わたしとハルト、愛らしくさえずるのはどちらが似つかわしいかは自明の理である」
「断然、イスキアのが似合う」
耳たぶを軽めにかじって、たしなめた。
「……っ、つ、変、変な感じする」
卒業試験を受けている最中のごとき三十路童貞男にとって、この反応はかなりの難問だ。くすぐったい、痛い、もしくは痒いならまだしも理解できるが、変?
「説明が不十分であるぞ。変とは、具体的にどのように変なのだ」
上目づかいに睨まれた。とはいえ日ごろに較べると鋭さに欠けて、そのうえ下腹に妙な振動が伝わってくる。それは細腰がしきりにもぞつくせいだ。
下穿きの中心が、その内側に息づく果実の輪郭を映し出して、あえかに翳る。変というのは、感じるというあれで、そうと得心がいくと〝皿〟がカッカッと火照る。
草原にぽつりとある木立は、ワシュリ領国の勃興の祖が陸に新天地を求める以前の昔から隊商の憩いの場だった。
そこここで光の粒子が弾ける現在、木立は愛のいとなみを祝福するような華やぎに包まれる。
野ウサギが立ち木の陰からひょこっと現れ、おじゃましました、と言いたげに跳ね去った。
かたやイスキアは、断崖絶壁を登りつめたすえ開かずの間に入ることを許された思いで下穿きを脱がせにかかった。とはいえ指が小刻みに震えるせいで前紐をほどきそこねるうえ、
「ジャンケンが却下なら実力行使でいく」
くすぐり攻撃を仕かけてきて形勢逆転を目論む。くちづけでいなしておいて下穿きをずり下ろした。馬車から降りて伸びをするように、ぷるんとまろび出るさまは愛らしくも官能的な眺めだ。
どうどうと自分をなだめて、包皮をゆっくり剝き下ろす。可憐な色合い、溌溂とした勃ちっぷり、ほのかに香る麝香系のそれ。三拍子そろった逸品とあって、早速むしゃぶりつきたくなるのを堪えるのがひと苦労だ。
「見るな、見るの禁止、見ちゃダメ!」
陰茎にかぶさってきた両手を万歳する形に縫い留めた。そしてイスキアは股ぐら同士がぴたりと合わさるよう、また押しつぶしてしまわぬよう加減しながら伸しかかった。
初々しい反応のいちいちが、むっつりスケベこと童貞三十路男を煽り放題に煽り、イチモツが早、下穿きを突き破る勢いでいきり立つ。花茎と、自身を隔てるものは布切れ一枚のみ、という焦れったくも興趣に富んだ恰好でゆるゆると腰を揺らめかす。
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