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溺愛道の教え、その11 真実の愛は無敵の基本を忘れるべからず
溺愛道の教え、その11 真実の愛は無敵の基本を忘れるべからず⑤
しおりを挟むかたやハルトは、たくましい胸にくたりと寄りかかった。時たま自分で慰めるのと同じく、コンゼンコーショーも闇にまぎれてこそこそと事におよぶのが普通、と漠然と想像していた。ところが昼日中に、しかも遠乗りの行き帰りに時々立ち寄る場所で致すとは。
はしたないザマをさらして恥ずかしいわ、親密度が格段に高まったようでウキウキするわ、ともあれ小難しい理屈は抜きにしてイチャつくのって楽しい。
それも河童の血を引く種族の特徴だ。水かきの名残をヒトよりはっきり留める手が、狭間の奥へとすべっていく。昇りつめたあとはいつもそうだが、動くのがかったるい。なので、なすがままでいる一方で中心が隆起した下穿きへと視線が吸い寄せられた。
今度はおれがイスキアをあえがせる? 番で、倍にしてお返ししちゃおう。隙をついて膨らみに触れるべく様子を窺い、それでいて微睡みにいざなわれかけた瞬間、ぎょっとすることが起こった。
すぼまりを指の腹で、くっと押されたのだ。
「どこ、どこ、さわってんのさ」
「わたしとハルトがひとつに結ばれる聖なるところだ。ただ準備をはじめるにあたって、ここに油の類いを塗る必要があるのだが(春本と題された溺愛道の副読本の受け売り)、くやしいかな持ち合わせておらぬ」
と、残念無念といった表情で〝皿〟を搔く。
ハルトは空を睨んだ。コンゼンコーショーにはあそこで番うことも含まれているのを、ころっと忘れていた。その行為には少し──正直に言ってかなり抵抗がある。
だが言い出しっぺの責任云々という以前に、イスキアとだったらどんな試練も乗り越えられる。だいたい、この期におよんで怖じ気づくようでは男がすたる。
すっくと立ちあがった拍子に、花茎がぷるんと揺れた。残滓がとろりと内腿を伝い落ちるさまは、目いっぱい風をはらんだ帆を巨大なうちわで扇ぐに等しい眺め。ところどころ下穿きの縫い目がほころんだのはさておいて。
「ばあちゃんが薬草を煮詰めて作ってくれた軟膏なら持ってる。ちょっと油っぽいやつ」
くだんの品は、瓶に詰めて革袋に入れて持ち歩いている。立ち木につないだ馬の元へ行き、鞍にくくりつけてある中から取ってきた。
蓋を開け、瓶を傾けてイスキアの掌にひと垂らし。すると粘りぐあいを吟味するように指をこすり合わせて、曰く。
「これは、なんという薬草の成分を抽出したものであろうか。〝皿〟にさかむけができた場合などにも効くのであろうか。知恵を拝借したいが、帽子を外すと祖母殿は卒倒するやもしれぬな」
突然、ペラペラとしゃべりだしたあたり緊張をまぎらわしているっぽい。ハルトは笑いを嚙み殺し、そして眦を決した。羊の種付けを手伝ったさいのあれやこれやを記憶から掘り起こし、且つ羞恥心をねじ伏せて四つん這いになる。
がんばりどころだ、と自分を励ます。心身ともに結ばれたあかつきには絆がいっそう強まって、ジリアンが再びふたりの仲を引き裂こうと画策しても、今度は付け入る隙などなどこれぽっちもないはず。ともすると、へたり込みがちになるのを堪えて、くっつきたがる足を開く。深呼吸ひとつ、
「どんと来いだ、早くしよ」
……決死の覚悟で秘部をさらけ出したにもかかわらず、黙殺されてしまった。キッ、と肩越しに振り向くと、イスキアは〝皿〟に水をかけながら、まじめ腐って答える。
「草原は空気がからっとしているぶん乾くのが早い、用心するに越したことはないのだ」
「苦しまぎれの言い訳っぽく聞こえる」
バレたかと言いたげに、ぺろりと舌を出してみせるのが新鮮だ。
ハルトは改めて腰高に這いつくばり、イスキアは双丘の傍らに陣取って仕切り直しといく。もっとも軟膏を花芯に塗りつけられるなんて、恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。すがりつく眼差しを向けるたび、うなじをついばんでくれるおかげで、あられもない姿勢を保っていられた。
丹念に塗り込められうえで襞がひとひら、めくられた。ふだんは慎ましやかにたたまれているぶん外気に触れるとすうすうして、心臓が踊り狂って。
それでも心の底からイスキアと夫夫になりたいと望んでいるから、へっちゃらなのだ。とはいえ、いよいよ指が分け入ってくれば遮二無二ずりあがる。
「試行錯誤を重ねるより他ないのだが、どれ、塗り足してから内を探るとしよう」
「平気。そのうち慣れるし、つづけて……」
と、強がりを言っても声が震える。誰かの舌が口内を泳ぎ回る感触にさえ慣れたとは言いがたい。躰の内側をじかにまさぐられる衝撃度は桁違いで、脂汗がにじみ、吐き気までもよおした。
いったん指が抜き取られた。へなへなと頽れていく瞬間を狙い澄まして乳首をつままれると、バネ仕掛けの人形のように腰が元の位置に戻る。程よく温まった軟膏が襞にしみ込むにつれて、いくぶん気持ちが落ち着いてきはじめた。
そうと察して、そろりと菊座に指があてがわれた。
「愛し合う準備段階において内をほぐすという工程をおろそかにすることは罷りならぬと、ものの本は説く。気遣うよう努めるが、それには協力してもらわねばならぬのだ」
「どんと来いだって、さっき言った」
「頼もしい。そなたの剛毅な点が、わたしを魅了してやまないのだ」
「はい、罰金のチュウを徴収しまあす」
むしゃぶりつくように口づけ、熱っぽく応えてこられると、むずかるみたいに、にもまして甘やかに下腹がざわめく。頑なに鎖されていた門が、ゆうるりと開いていく。
待ちかねていた、だが急くのは禁物というふうに指がしずしずと遡りはじめる。洞窟が冒険心をかき立てるのに勝るとも劣らず、花筒の構造も探究心を刺激する代物。その道の狩人が宝探しに励む熱心さでもって、鉤に曲がった指が内壁のあちらこちらを押す。
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