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第五十一話
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まさか異世界に来てお風呂になど入ることになるとは思いもしなかった。
広い脱衣所が有って奥の大きい引き戸の奥が浴室になっているようだ。
見た目には日本の銭湯にも似ているが、体重計などが無いのが違いだろうか?
でも、脱衣所に作りつけられた洗面台には乳液や化粧水が有り、ドライヤーまで備えられている。
『この世界にも電気は有るのかしら?』
あずさはそんなことを思いながら服を脱ぐ。
目の前にはエリスと呼ばれる少女が居て、戦闘服と思われる迷彩の服を脱ごうとしている。
「エリスさん…その服って…」
質問を口にしたのは未希だった。
「え?あぁ…この戦闘服ですか?これは英樹様が私たちにとご用意くださったんです」
そうなのか。一体、どこから手に入れて来たんだろうか?
「皆さんの下着も可愛らしいですね…」
今度は陽菜が聞く。
「この下着も、ご主人様からプレゼントしていただいた品です」
服だけではなくそんな物までプレゼントしているということは、相当に親密な関係なんだろうと容易に想像できる。
それにしても、目の前にいる三人の美少女は全員抜群にスタイルが良い。
あずさも自信が無いわけではなかったけれど、この美少女たちを見ていると自分のスタイルが見劣りすることをイヤでも自覚させられ、同じように裸になることを躊躇う。
「お三人様のお召し物と下着をお預かりします」
サナという美少女が自分たちの横で控えている。
「え?私たちの?」
「はい。お召し物はそれだけ汚れてしまうと、もう着られないかも知れませんが…洗濯してみます」
そう促されて慌てて残りの服を脱ぎ、サナに渡す。
この美少女も何故かピンクのブラウスとタータンチェックのスカートに身を包み、足元はニーハイを穿いている。
この服も英樹に貰った物なのだろうが、何というか…女子高生そのものだ。
ただ、恐ろしく可愛い。
日本でもこんなに美人の女子高生なんて滅多にお目に掛かれないと思えるほどに可愛らしい。
その上、すごく気が利く。
「タオルはこちらをどうぞ。バスタオルはあちらにご用意してありますので、ご自由にお使いください」
そう言って棚を示し、サナはその場を去って行った。
未希と陽菜とはよく一緒にスパに行ったりするので、その裸は見慣れている。
だが、全裸になったエリスたちのスタイルはやはり凄かった。
あまりの凄さに女性同士であるにも関わらず、目の遣り場に困ってしまう。
でも、ついつい見てしまう自分もいる。
全裸になったエリスの胸の谷間やお尻に、たくさんのキスマークに見える痕が有る。
その横にいるユキやミクの身体にも同じようにキスマークがたくさん付けられている。
そのあずさの視線に気付いたのか
「このキスマークは英樹様が私たちを愛して下さっている証に、付けてくださったんです」
エリスが少し恥ずかしそうに言う。
キスマークまで付けるということは、肉体関係も持っているんだろうと確信した。
「イヤじゃないんですか?」
思わず聞いてしまった。
「イヤなはずありません。むしろ嬉しいです。このキスマークを見るたびに、悦びで震えてしまうくらいです」
エリスは平然と言ってのけた。
浴室に入ってみると脱衣所以上に広くて立派だった。石造りの浴槽も温泉宿のそれを思わせる作りになっている。
「まずは髪や身体を洗いましょう。シャンプーやボディーソープも英樹様がご用意下さった品を使っておりますので、そちらをご自由に」
エリスが指さしてくれた先には、日本で売っているハイブランドのシャンプーのボトルなどが置かれていた。
洗い場にはやはり英樹が持ち込んだと思われるプラスチック製のイスや洗面器などが置かれており、それらを手に取るとエリスの隣のシャワーに陣取った。
エリスは長いブロンドの髪を器用に洗っているから、自分もシャワーの物と思われる蛇口を捻ってみる。
…何も出て来ない。何度捻っても何も出ない。カランの方も同じだ。
暫く挑戦してみたが何も起こらなかった。自分の隣に座る陽菜を見ても同じようだ。
「あの…、エリスさん…。お湯が出ないんです…」
堪りかねてエリスに助けを求めてしまう。
「え?あっ…そうですね…。少しだけお待ちください」
エリスは急いで髪を洗い流すと、あずさの前の蛇口を捻ってくれる。
何故か解らないが、自分の時とは違ってすぐに温かいお湯が出て来た。
「お湯かげん、大丈夫ですか?」
「あっ、はい。ちょうどいいです」
正直、かなり気持ちいい。疲れた心と体に温かいお湯がこんなにも心地よいとは思いもしなかった。。
「それは良かったです。身体を洗い終えるまで、お湯は止めずにお使いください」
気が付くと、未希と陽菜もユキやミクに助けてもらってお湯を出していた。
「ご入浴中に失礼します。お三人様の替えのお召し物と下着を、『ダーリン』がご用意下さいましたので置いておきますね。どうぞお召になってください」
サナが脱衣所から顔を出して言ってくれる。
『ダーリン』か…。やっぱり本当に結婚してるんだ…。
サナに礼を言って身体を洗いながら、そんなことを思った。
「はぁ~…。生き返ります…」
「本当に…極楽よね…」
「ですです…」
シャンプーと洗体を終えて湯船に浸かると、自然と声が出てしまった。
「英樹様のお話だと、そちらには『スーパー銭湯』っていう、宿屋みたいに大きなお風呂に入れるお店が有るんですよね?」
ミクが聞いて来てくれる。
「有りますよ。私たちも三人でよく行くんです」
「そのお風呂に比べると、こちらのお風呂なんて粗末でしょう?」
エリスが謙遜して言うが
「そんなことないです!こんなに立派なお風呂、私たちの暮らす国の家には無いです!」
思わず大きな声で否定するが、事実だし本心から出た言葉だ。
「そうそう。六人で入ってもまだまだ足が伸ばせるお風呂なんて、あたしたちの国には無いですよ」
「そうよね。スーパー銭湯でもここまでのお風呂ってなかなか無いわよね」
三人で口々に褒めちぎると、エリスたちは柔和な笑顔になる。
「そうですか?お気に召したなら何よりです」
この美少女たちは自分たちよりも年下なはずなのに、すごくシッカリしている。
こんなにも厳しい世界で生きていると、やはり人格も成熟が早いのだろうか?
「でも、さっきはなんでシャワーのお湯が出なかったのかな?」
未希が疑問を口にする。
「あぁ…。皆さんの世界には魔法が無いんですよね?」
「魔法…ですか?」
さっき、ユキやミクだけではなく英樹も魔法を使っていた。
それを目の当たりにしていたので、三人とも魔法の存在を否定する気は無い。
「そうですね…。私たちの世界には、魔法は存在しないです」
「でしたら、当然魔法を使うことは出来ないですよね?」
それはそうだ。生まれてから一度だって魔法なんて使えた試しは無い。
「あの蛇口は魔法でお湯や水を出すようになっているんです」
エリスの告げたその事実は、三人にとっては耳を塞ぎたくなるような現実だった。
この世界では、魔法が使えないと水も満足に出すことが出来ない。
水が無ければ人間は生きて行けない。
『どうやって生きて行くつもりだ』
さっき英樹から言われた言葉は、そのままの意味だった。
『こっちの世界で生きて行く』
なんて深く考えもせずに言ってしまった自分の軽率さを恥じた。
「エリスさんたちは、お兄ちゃんと婚約してるって、本当ですか?」
陽菜が唐突に質問する。
「お兄ちゃんと言うのは、英樹様のことでしょうか?」
「あぁ…、そうです。あたし、普段から『お兄ちゃん』って呼んでるんで…」
陽菜はなんだか恥ずかしそうに俯く。
年下のエリスたちが『英樹様』と呼んでいるのに、お兄ちゃん呼びしている自分のことが恥ずかしくなったようだ。
「その通りですよ。私たち三人は英樹様に婚約していただきました」
やはり、事実だった。
「それじゃ…、あのサナさんは、本当に隊長の…?」
「サナは一足先に英樹様が結婚して下さって、今は屋敷のメイド兼安田伯爵夫人です」
それもやっぱり事実だった。英樹は何一つウソを言っていなかった。
「二人の結婚に異議があられますか?」
「だって…」
「二人はお互いを求め愛し合って結婚したのです。私たちだけではなく司教様も認めた結婚ですから、この国の女王陛下であっても二人の結婚に異議は唱えられません」
ユキの口調は柔らかかったが、断固とした意思を感じさせた。
「あの…英樹さんって、『伯爵』なんですか?」
英樹はいつの間にそんな身分になったんだろうか?
「正式な爵位授与はまだですが、『精霊様』ですからそれだけで伯爵になります。ですが英樹様の功績から考えると、もっと上の爵位になってもおかしくはないですね」
「英樹さんはそんなに重要な人物なんですか?」
「この国では精霊術士によって召喚された精霊様は、伯爵として扱われるんです。それほどに偉大な存在であるということですよ」
「ということは、英樹さんを此方の世界に召喚したのは…?」
「私です」
「なんで…?どうして英樹さんだったんですか?」
「それは私にも解りません」
「解らないって、そんな…」
「運命だった…。それしか適切な言葉が思い浮かびません」
そう言われてしまうと、もうそれ以上の質問が出て来なかった。
風呂から上がると、真新しい下着とルームウェアが綺麗に畳まれて置いてあった。
それを身に着けるとすごくサッパリしたが、気分だけはサッパリしなかった。
最初に通された部屋に戻る。
エリスたち三人のキャミソール姿は、裸以上に目の遣り場に困るほどセクシーだった。
エリスがノックしてドアを開くと、サナを膝の上に乗せてソファーに座る英樹がいた。
そして二人は熱烈に舌を絡み合わせるディープキスの最中だった。
部屋に入るのを躊躇してしまうが、エリスたち三人は何も見えていないように普通に部屋に入って行こうとする。
思わずエリスの腕を掴んで止めてしまった。
「ん?どうされましたか?」
「いや…だって…、二人キスしてますよ…?」
「そうですね。夫婦ですし普通じゃないですか?そちらの世界ではしないんですか?」
「そうじゃないですけど…」
エリスは『何を言ってるんだ?』という顔で首を傾げると、英樹の横に歩いて行く。
「英樹様、ただいま戻りました」
そう言ってエリスも英樹にキスをした。
ユキとミクも同様にキスをする。サナが英樹の膝の上にいるのに。
「おかえり。いい湯だったかい?」
英樹も当然のようにそのキスを受け入れている。
あずさの頭の中は、もういろんなことがいっぱいいっぱいだった。
「英樹様も、どうぞお風呂にお入りになってください」
エリスが英樹の横のソファーに座りながら、風呂を勧める。
「そうだね。俺もサッパリしてこようか」
「サナ、お夕食はお風呂の後で大丈夫よ。ゆっくり入ってらっしゃいな」
エリスはまたも当然のようにサナにも風呂を勧めている。
「そうですか?一応温め直したらすぐに召し上がっていただけるようにはしてありますから、待ちきれないようでしたら、お先にどうぞ」
「ありがとう。でも、大丈夫よ。折角サナが作ってくれた料理だもの、皆で一緒にいただきましょう」
そう言って二人を送り出してしまった。
「あの二人はいつも一緒にお風呂に入ってるんですか?」
陽菜が質問をする。
「ええ。二人だけではなく、いつもは五人で一緒に入浴してますが?」
なんと夫婦だけでなく婚約者たちとも纏めて一緒にだなんて、もう頭が付いて行かない。
一時間ほど経っただろうか。二人は腕を組んで談笑しながら戻って来た。
その時のサナと英樹の笑顔はまさに幸せな夫婦そのものだった。
サナもエリスたち同様にキャミソール姿で戻って来たが、他の三人に負けないくらいスタイルが良かった。
大きな胸に深い谷間、グッと括れた腰回り、そしてプリンとした形の良いお尻。
どれを取ってもあずさは適わないと思った。
『妻と約束してるから屋敷の外に女を作る気は無い』
英樹のその言葉を思い出し、納得した。
「じゃ、日本に送ろう」
風呂から戻って来て早々に英樹は席を立った。
日本に戻ることは仕方がない。こちらの世界に居ても何も出来ることは無い。
それは納得しているが、英樹のことを諦めきれない。
『女々しい女だな…』
そんな自分のことが情けなくなるが、それでも諦めることを考えると胸を掻きむしりたくなるほど苦しい。
何とか自分もこの輪の中に入りたい。
側に置いてもらえるのなら、妻や婚約者にしてくれなくても良い…。
今は以前と同じように店のスタッフとして側に居られることに満足するしかない。
だから今ここで駄々を捏ねて英樹に迷惑を掛けて嫌われるようなことはしたくない。
「皆さん、ありがとうございました」
「ご迷惑をお掛けしました」
「本当にありがとうございました」
口々にそう言って屋敷の皆に別れを告げる。
窓を潜って飲食店舗跡に戻ると、英樹は車を出して家まで送ってくれた。
あずさのアパートの前で三人とも車を降りる。
事前に決めていたわけではないが、三人ともまだこれから先のことを話したかったから、今日は徹夜で話し合うつもりだった。
あずさは母子家庭で育った。あずさがまだ幼い頃に母は父と別れて女で一つで育て上げてくれたのだが、無理が祟ったのかあずさの成人式を見届けて亡くなった。
それ以来アパートで一人暮らしをしている。
陽菜も似たような状況だ。陽菜の場合は災害で両親を亡くして中学から母方の実家で育てられたが、今は自立して一人で暮らしている。
だから、二人は両親が健在の未希のことが少し羨ましく感じる時もある。
『私もお母さんに甘えたいな…』
そんな風に感じてしまう淋しい気持ちの日も有る。
淋しい時にいつも優しくしてくれたのは英樹だった。
その英樹が目の前から居なくなってしまうかも知れない。
そうなったら何を心の糧にして生きて行けば良いんだろうか。
「英樹さん…、明後日の朝九時までに出勤しますね」
努めて明るい声でそう言った。
英樹は少し驚いた表情を見せたが
「あぁ。遅刻厳禁な。おやすみ」
それだけ言って走り去って行った。
「さぁてと…あずさ、ビール有る?」
「一本だけ」
「じゃ、コンビニ行こうよ」
三人は三軒向こうのコンビニに歩いて行く。
「アイスクリームも買っていい?」
未希のその言葉に、あずさと陽菜は思わず吹き出さずにはいられなかった。
広い脱衣所が有って奥の大きい引き戸の奥が浴室になっているようだ。
見た目には日本の銭湯にも似ているが、体重計などが無いのが違いだろうか?
でも、脱衣所に作りつけられた洗面台には乳液や化粧水が有り、ドライヤーまで備えられている。
『この世界にも電気は有るのかしら?』
あずさはそんなことを思いながら服を脱ぐ。
目の前にはエリスと呼ばれる少女が居て、戦闘服と思われる迷彩の服を脱ごうとしている。
「エリスさん…その服って…」
質問を口にしたのは未希だった。
「え?あぁ…この戦闘服ですか?これは英樹様が私たちにとご用意くださったんです」
そうなのか。一体、どこから手に入れて来たんだろうか?
「皆さんの下着も可愛らしいですね…」
今度は陽菜が聞く。
「この下着も、ご主人様からプレゼントしていただいた品です」
服だけではなくそんな物までプレゼントしているということは、相当に親密な関係なんだろうと容易に想像できる。
それにしても、目の前にいる三人の美少女は全員抜群にスタイルが良い。
あずさも自信が無いわけではなかったけれど、この美少女たちを見ていると自分のスタイルが見劣りすることをイヤでも自覚させられ、同じように裸になることを躊躇う。
「お三人様のお召し物と下着をお預かりします」
サナという美少女が自分たちの横で控えている。
「え?私たちの?」
「はい。お召し物はそれだけ汚れてしまうと、もう着られないかも知れませんが…洗濯してみます」
そう促されて慌てて残りの服を脱ぎ、サナに渡す。
この美少女も何故かピンクのブラウスとタータンチェックのスカートに身を包み、足元はニーハイを穿いている。
この服も英樹に貰った物なのだろうが、何というか…女子高生そのものだ。
ただ、恐ろしく可愛い。
日本でもこんなに美人の女子高生なんて滅多にお目に掛かれないと思えるほどに可愛らしい。
その上、すごく気が利く。
「タオルはこちらをどうぞ。バスタオルはあちらにご用意してありますので、ご自由にお使いください」
そう言って棚を示し、サナはその場を去って行った。
未希と陽菜とはよく一緒にスパに行ったりするので、その裸は見慣れている。
だが、全裸になったエリスたちのスタイルはやはり凄かった。
あまりの凄さに女性同士であるにも関わらず、目の遣り場に困ってしまう。
でも、ついつい見てしまう自分もいる。
全裸になったエリスの胸の谷間やお尻に、たくさんのキスマークに見える痕が有る。
その横にいるユキやミクの身体にも同じようにキスマークがたくさん付けられている。
そのあずさの視線に気付いたのか
「このキスマークは英樹様が私たちを愛して下さっている証に、付けてくださったんです」
エリスが少し恥ずかしそうに言う。
キスマークまで付けるということは、肉体関係も持っているんだろうと確信した。
「イヤじゃないんですか?」
思わず聞いてしまった。
「イヤなはずありません。むしろ嬉しいです。このキスマークを見るたびに、悦びで震えてしまうくらいです」
エリスは平然と言ってのけた。
浴室に入ってみると脱衣所以上に広くて立派だった。石造りの浴槽も温泉宿のそれを思わせる作りになっている。
「まずは髪や身体を洗いましょう。シャンプーやボディーソープも英樹様がご用意下さった品を使っておりますので、そちらをご自由に」
エリスが指さしてくれた先には、日本で売っているハイブランドのシャンプーのボトルなどが置かれていた。
洗い場にはやはり英樹が持ち込んだと思われるプラスチック製のイスや洗面器などが置かれており、それらを手に取るとエリスの隣のシャワーに陣取った。
エリスは長いブロンドの髪を器用に洗っているから、自分もシャワーの物と思われる蛇口を捻ってみる。
…何も出て来ない。何度捻っても何も出ない。カランの方も同じだ。
暫く挑戦してみたが何も起こらなかった。自分の隣に座る陽菜を見ても同じようだ。
「あの…、エリスさん…。お湯が出ないんです…」
堪りかねてエリスに助けを求めてしまう。
「え?あっ…そうですね…。少しだけお待ちください」
エリスは急いで髪を洗い流すと、あずさの前の蛇口を捻ってくれる。
何故か解らないが、自分の時とは違ってすぐに温かいお湯が出て来た。
「お湯かげん、大丈夫ですか?」
「あっ、はい。ちょうどいいです」
正直、かなり気持ちいい。疲れた心と体に温かいお湯がこんなにも心地よいとは思いもしなかった。。
「それは良かったです。身体を洗い終えるまで、お湯は止めずにお使いください」
気が付くと、未希と陽菜もユキやミクに助けてもらってお湯を出していた。
「ご入浴中に失礼します。お三人様の替えのお召し物と下着を、『ダーリン』がご用意下さいましたので置いておきますね。どうぞお召になってください」
サナが脱衣所から顔を出して言ってくれる。
『ダーリン』か…。やっぱり本当に結婚してるんだ…。
サナに礼を言って身体を洗いながら、そんなことを思った。
「はぁ~…。生き返ります…」
「本当に…極楽よね…」
「ですです…」
シャンプーと洗体を終えて湯船に浸かると、自然と声が出てしまった。
「英樹様のお話だと、そちらには『スーパー銭湯』っていう、宿屋みたいに大きなお風呂に入れるお店が有るんですよね?」
ミクが聞いて来てくれる。
「有りますよ。私たちも三人でよく行くんです」
「そのお風呂に比べると、こちらのお風呂なんて粗末でしょう?」
エリスが謙遜して言うが
「そんなことないです!こんなに立派なお風呂、私たちの暮らす国の家には無いです!」
思わず大きな声で否定するが、事実だし本心から出た言葉だ。
「そうそう。六人で入ってもまだまだ足が伸ばせるお風呂なんて、あたしたちの国には無いですよ」
「そうよね。スーパー銭湯でもここまでのお風呂ってなかなか無いわよね」
三人で口々に褒めちぎると、エリスたちは柔和な笑顔になる。
「そうですか?お気に召したなら何よりです」
この美少女たちは自分たちよりも年下なはずなのに、すごくシッカリしている。
こんなにも厳しい世界で生きていると、やはり人格も成熟が早いのだろうか?
「でも、さっきはなんでシャワーのお湯が出なかったのかな?」
未希が疑問を口にする。
「あぁ…。皆さんの世界には魔法が無いんですよね?」
「魔法…ですか?」
さっき、ユキやミクだけではなく英樹も魔法を使っていた。
それを目の当たりにしていたので、三人とも魔法の存在を否定する気は無い。
「そうですね…。私たちの世界には、魔法は存在しないです」
「でしたら、当然魔法を使うことは出来ないですよね?」
それはそうだ。生まれてから一度だって魔法なんて使えた試しは無い。
「あの蛇口は魔法でお湯や水を出すようになっているんです」
エリスの告げたその事実は、三人にとっては耳を塞ぎたくなるような現実だった。
この世界では、魔法が使えないと水も満足に出すことが出来ない。
水が無ければ人間は生きて行けない。
『どうやって生きて行くつもりだ』
さっき英樹から言われた言葉は、そのままの意味だった。
『こっちの世界で生きて行く』
なんて深く考えもせずに言ってしまった自分の軽率さを恥じた。
「エリスさんたちは、お兄ちゃんと婚約してるって、本当ですか?」
陽菜が唐突に質問する。
「お兄ちゃんと言うのは、英樹様のことでしょうか?」
「あぁ…、そうです。あたし、普段から『お兄ちゃん』って呼んでるんで…」
陽菜はなんだか恥ずかしそうに俯く。
年下のエリスたちが『英樹様』と呼んでいるのに、お兄ちゃん呼びしている自分のことが恥ずかしくなったようだ。
「その通りですよ。私たち三人は英樹様に婚約していただきました」
やはり、事実だった。
「それじゃ…、あのサナさんは、本当に隊長の…?」
「サナは一足先に英樹様が結婚して下さって、今は屋敷のメイド兼安田伯爵夫人です」
それもやっぱり事実だった。英樹は何一つウソを言っていなかった。
「二人の結婚に異議があられますか?」
「だって…」
「二人はお互いを求め愛し合って結婚したのです。私たちだけではなく司教様も認めた結婚ですから、この国の女王陛下であっても二人の結婚に異議は唱えられません」
ユキの口調は柔らかかったが、断固とした意思を感じさせた。
「あの…英樹さんって、『伯爵』なんですか?」
英樹はいつの間にそんな身分になったんだろうか?
「正式な爵位授与はまだですが、『精霊様』ですからそれだけで伯爵になります。ですが英樹様の功績から考えると、もっと上の爵位になってもおかしくはないですね」
「英樹さんはそんなに重要な人物なんですか?」
「この国では精霊術士によって召喚された精霊様は、伯爵として扱われるんです。それほどに偉大な存在であるということですよ」
「ということは、英樹さんを此方の世界に召喚したのは…?」
「私です」
「なんで…?どうして英樹さんだったんですか?」
「それは私にも解りません」
「解らないって、そんな…」
「運命だった…。それしか適切な言葉が思い浮かびません」
そう言われてしまうと、もうそれ以上の質問が出て来なかった。
風呂から上がると、真新しい下着とルームウェアが綺麗に畳まれて置いてあった。
それを身に着けるとすごくサッパリしたが、気分だけはサッパリしなかった。
最初に通された部屋に戻る。
エリスたち三人のキャミソール姿は、裸以上に目の遣り場に困るほどセクシーだった。
エリスがノックしてドアを開くと、サナを膝の上に乗せてソファーに座る英樹がいた。
そして二人は熱烈に舌を絡み合わせるディープキスの最中だった。
部屋に入るのを躊躇してしまうが、エリスたち三人は何も見えていないように普通に部屋に入って行こうとする。
思わずエリスの腕を掴んで止めてしまった。
「ん?どうされましたか?」
「いや…だって…、二人キスしてますよ…?」
「そうですね。夫婦ですし普通じゃないですか?そちらの世界ではしないんですか?」
「そうじゃないですけど…」
エリスは『何を言ってるんだ?』という顔で首を傾げると、英樹の横に歩いて行く。
「英樹様、ただいま戻りました」
そう言ってエリスも英樹にキスをした。
ユキとミクも同様にキスをする。サナが英樹の膝の上にいるのに。
「おかえり。いい湯だったかい?」
英樹も当然のようにそのキスを受け入れている。
あずさの頭の中は、もういろんなことがいっぱいいっぱいだった。
「英樹様も、どうぞお風呂にお入りになってください」
エリスが英樹の横のソファーに座りながら、風呂を勧める。
「そうだね。俺もサッパリしてこようか」
「サナ、お夕食はお風呂の後で大丈夫よ。ゆっくり入ってらっしゃいな」
エリスはまたも当然のようにサナにも風呂を勧めている。
「そうですか?一応温め直したらすぐに召し上がっていただけるようにはしてありますから、待ちきれないようでしたら、お先にどうぞ」
「ありがとう。でも、大丈夫よ。折角サナが作ってくれた料理だもの、皆で一緒にいただきましょう」
そう言って二人を送り出してしまった。
「あの二人はいつも一緒にお風呂に入ってるんですか?」
陽菜が質問をする。
「ええ。二人だけではなく、いつもは五人で一緒に入浴してますが?」
なんと夫婦だけでなく婚約者たちとも纏めて一緒にだなんて、もう頭が付いて行かない。
一時間ほど経っただろうか。二人は腕を組んで談笑しながら戻って来た。
その時のサナと英樹の笑顔はまさに幸せな夫婦そのものだった。
サナもエリスたち同様にキャミソール姿で戻って来たが、他の三人に負けないくらいスタイルが良かった。
大きな胸に深い谷間、グッと括れた腰回り、そしてプリンとした形の良いお尻。
どれを取ってもあずさは適わないと思った。
『妻と約束してるから屋敷の外に女を作る気は無い』
英樹のその言葉を思い出し、納得した。
「じゃ、日本に送ろう」
風呂から戻って来て早々に英樹は席を立った。
日本に戻ることは仕方がない。こちらの世界に居ても何も出来ることは無い。
それは納得しているが、英樹のことを諦めきれない。
『女々しい女だな…』
そんな自分のことが情けなくなるが、それでも諦めることを考えると胸を掻きむしりたくなるほど苦しい。
何とか自分もこの輪の中に入りたい。
側に置いてもらえるのなら、妻や婚約者にしてくれなくても良い…。
今は以前と同じように店のスタッフとして側に居られることに満足するしかない。
だから今ここで駄々を捏ねて英樹に迷惑を掛けて嫌われるようなことはしたくない。
「皆さん、ありがとうございました」
「ご迷惑をお掛けしました」
「本当にありがとうございました」
口々にそう言って屋敷の皆に別れを告げる。
窓を潜って飲食店舗跡に戻ると、英樹は車を出して家まで送ってくれた。
あずさのアパートの前で三人とも車を降りる。
事前に決めていたわけではないが、三人ともまだこれから先のことを話したかったから、今日は徹夜で話し合うつもりだった。
あずさは母子家庭で育った。あずさがまだ幼い頃に母は父と別れて女で一つで育て上げてくれたのだが、無理が祟ったのかあずさの成人式を見届けて亡くなった。
それ以来アパートで一人暮らしをしている。
陽菜も似たような状況だ。陽菜の場合は災害で両親を亡くして中学から母方の実家で育てられたが、今は自立して一人で暮らしている。
だから、二人は両親が健在の未希のことが少し羨ましく感じる時もある。
『私もお母さんに甘えたいな…』
そんな風に感じてしまう淋しい気持ちの日も有る。
淋しい時にいつも優しくしてくれたのは英樹だった。
その英樹が目の前から居なくなってしまうかも知れない。
そうなったら何を心の糧にして生きて行けば良いんだろうか。
「英樹さん…、明後日の朝九時までに出勤しますね」
努めて明るい声でそう言った。
英樹は少し驚いた表情を見せたが
「あぁ。遅刻厳禁な。おやすみ」
それだけ言って走り去って行った。
「さぁてと…あずさ、ビール有る?」
「一本だけ」
「じゃ、コンビニ行こうよ」
三人は三軒向こうのコンビニに歩いて行く。
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高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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