闇に飲まれた謎のメトロノーム

八戸三春

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第五章

みんな消えた理由

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空は車を路肩に寄せて停車させた。「ここで降りよう。状況を確認する必要がある」

アリスが頷き、すぐにシートベルトを外した。「ユキ、周囲の警戒をお願い。私たちは手分けして車両を調べるわ」

「わかった」ユキは少し緊張した面持ちで答え、装備を手にして車外へと出た。3人はそれぞれ懐中電灯を手に持ち、散乱した車両の間を慎重に歩き始めた。

高速道路の異常な静けさ

外に出ると、湿った夜気が肌にまとわりつき、周囲の不気味な静けさがいっそう際立った。高速道路という場所で、これほど音がない状況は異常だった。虫の声も、風の音も、遠くから聞こえるはずのエンジン音すら一切なく、ただ静寂だけが支配している。

「何もいない……どこに行ったんだ?」空は低く呟きながら、最初の車両に近づいた。運転席のドアは開け放たれ、車内にはバッグやペットボトルが散らばっている。エンジンは完全に切られた状態だ。

「空、この車の後部座席……」アリスが別の車を調べながら声を上げた。「ここにも荷物がそのまま残ってる。運転手も同乗者も消えてる」

ユキも遠くの車両を覗き込みながら、「みんな急に消えたみたいに……でも、そんなことって……」と不安げに呟いた。


空が歩きながら周囲を照らすと、車の一台の側面に爪で引っ掻いたような深い傷がついているのを発見した。「アリス、ユキ、これを見てくれ」

二人が駆け寄り、傷を確認する。アリスが懐中電灯で照らしながら、「これ、普通の事故じゃできない傷よ。大きな力で押しつぶされたか、鋭利なものが当たったか……でも、こんな形状の傷は見たことがない」

「ここにも……」ユキが別の車両を指差す。その車のボンネットには、大きな歪みと血のような赤黒い液体の痕跡が残されていた。

「やはり何かがここで暴れたんだ」空が眉をひそめる。「でも、それにしても痕跡が少なすぎる。これだけの車が放置されているのに、目撃証言や救援活動がないのもおかしい」

アリスは辺りを見回しながら、「視覚外領域って言葉が引っかかる。もしこの巨大生物が私たちの認識できない形で動いているとしたら……」と言葉を切った。

「それなら、どうやって対処するんだ?」ユキが不安げに尋ねる。

空は唇を噛み、ふと足元に視線を落とした。すると、アスファルトに奇妙な模様が刻まれているのを見つけた。それは、巨大な爪跡のようにも見える長い線状の凹みだった。「見ろ……ここにも痕跡がある」

アスファルトに刻まれた奇妙な模様に、3人は一斉に視線を向けた。それは規則性のない線状の凹みであり、巨大な爪跡のようにも見えたが、動物のものとは明らかに異なっていた。凹みの周囲には小さな砕けた石や粉塵が散らばっており、何かがアスファルトを削り取ったような痕跡がはっきりと残っていた。

アリスが膝をつき、懐中電灯の光を当てながら凹みを丹念に観察した。「これ、単なる擦過痕じゃないわね。何かがここを滑らせたような跡……でも、摩擦の具合が不自然すぎる。圧力は大きいけど、単なる物理的な力とは思えない」

彼女の指がそっと凹みの縁をなぞると、表面には焦げたような痕跡が見つかった。「高熱……かしら。何かが高温状態で接触した可能性もある。これ、普通の生物の爪や牙じゃ説明がつかない」

ユキはその周囲に注意を払い、懐中電灯を地面に向けて動かした。「こっちにも同じような痕がある。でも……これ、一直線に繋がってるみたい」

彼女が指差した方向には、アスファルトの表面が連続的に削られた痕跡が続いており、その先はさらに暗い闇の中へと消えていた。まるで巨大な何かが這うように移動したかのようだった。

「これだけの痕跡を残すってことは、相当な質量と力が必要だよね。こんなものが人間の視界から消えるなんて……どうして?」ユキは不安げに呟いた。

空は二人の観察結果を聞きながら、周囲の闇に視線を巡らせた。「この痕跡を辿るしかないな。何かがここで動いていたのは間違いない。車が放置されている理由も、それと関係してるはずだ」

アリスが立ち上がり、ユキに向かって頷く。「空が正しいわ。このまま進むしかない。ここで待っていても何も解決しない」

「でも……危険じゃない?」ユキは声を潜めながら問う。「私たちが相手にできるようなものかどうか、まだ分からないんだよ?」

「分からないことが多いのはいつものことさ」空が軽く笑みを浮かべた。「ただ、このまま逃げても、また別の形で追い詰められるだけだ。調査するぞ」

3人は凹みが続く方向に慎重に歩き出した。懐中電灯の光が、削られたアスファルトを追いかけるように照らし出し、周囲の静寂がますます不気味なものに感じられる。凹みの線は時折分岐し、曲がり、まるで複雑なパターンを描いているかのようだった。

やがて、痕跡は高速道路から側道へと続いていった。そこは雑草が生い茂り、使われなくなった小道のように見えた。痕跡はその道をさらに奥へと誘うかのように続いている。

「明らかにこれ、ただの車両事故じゃない」アリスが息を潜めて言った。「私たち以外にも、この痕跡に気づいた人がいるはず。なのに、誰もここに来ていないのはおかしい」

「視覚外領域……」ユキが再び呟いた。「もしかしたら、本当に何かが私たちの感覚を遮ってるのかもしれない」

「とりあえず、出来る限り捜査を3分で終わらせろ。痕跡を見つけたら俺に報告、敵と遭遇したらこちらで緊急として判断する」

空は静かに指示を出しながら、懐中電灯の光を前方へ向けた。彼の声には冷静さと緊張感が入り混じっており、アリスとユキもそれに無言で頷いた。それぞれが慎重な足取りで痕跡を追いながら、散らばる物体や周囲の状況に目を凝らす。

アリスは凹みの続く方向をたどりながら、地面に残された細かな痕跡を観察した。彼女の懐中電灯の光が何かを照らし出した瞬間、足を止める。「これ……」

彼女の前には、逃げ遅れた男性のものと思われるジャケットが捨てられていた。ジャケットには引き裂かれたような跡があり、その近くには小さなスマートフォンが落ちている。スマホは液晶が割れ、操作不能な状態だったが、背面には血のような赤黒い汚れが付着していた。

アリスはそのジャケットを懐中電灯で照らしながら、足元を探った。「ここで何かがあったのは確かだけど……こんなに近い場所で、これだけ少ない痕跡って……?」

彼女は少し顔を上げ、周囲の闇を見渡した。ジャケットの周囲には草が潰されたような跡があり、何かが力強く押し倒した痕跡がある。だが、血痕や引きずられた跡のようなものは、他には見当たらない。

「何かがこの人を引き裂いた……けど、ここから消えたようにしか見えない」

アリスは呟きながら、慎重に近くを探った。遠くから空とユキの声が微かに聞こえたが、耳に届くのはわずかに風が草を揺らす音だけだった。

ユキはアリスから少し離れた位置で、懐中電灯を地面に向けながら痕跡を探していた。彼女の目は鋭く、細かな物でも見逃さないように集中している。「これ、なんだろう……」足元に、光沢のある黒い液体がわずかに染みているのを発見した。液体はまばらな点のように散らばり、地面を引きずるように線を描いていた。
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