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第六章
東京圏の終焉
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警報は、午前4時32分。
新宿上空に響くようにして、東京圏の終焉が告げられた。
《緊急警報:本エリアはウイルスG6-αの汚染区域に指定されました。住民は直ちに政府の指示に従い、指定避難区画へ移動してください。対象者の確認及び移送は、自衛隊および警察によって厳格に行われます》
コンクリートの谷間を縫って、その警告は何度も繰り返される。
だが、誰もが理解していた。――これは、ただの避難ではない。
“選別”だ。
ウイルスG6-α――発生源は未だ不明。
だが、その効果は異常としか言いようがなかった。
感染者は一時的な発熱と咳を経て、急激に身体能力が上昇。
筋出力の制御が利かず、常人の3倍以上の跳躍力、筋力、さらには通常兵器への耐性を持つようになる。
さらに――最も恐れられたのは、再生能力だった。
銃弾を受けても止血せず、刃で裂かれても筋繊維が瞬時に繋がる。
それはもはや「人間」の再定義であり、同時に「人類」からの逸脱だった。
東京都政府は、国家非常事態宣言を発動し、即座に23区全域を封鎖エリアに移行。
陸自第3師団を中心に、東京圏の外郭に「滅菌障壁」を設置。
通信、輸送、物流、すべてを遮断した。
都心部では、黒の戦闘服を着た機動小隊が動いていた。
彼らの任務は「保護」とされていたが、実際はそれ以上の意味を持っていた。
《目標区域:板橋区第11ブロック。対象児童、確認数12。感染可能性:中。即時確保》
大通りでは、かつての通学路が戦場に変わっていた。
自衛隊車両の列が建物間を通り抜け、ガスマスクを装着した隊員が児童たちを一人ずつスキャンしていく。
「G6-α反応なし、保護対象」
「反応あり。隔離搬送」
彼らは感染を問わず14歳未満の児童を優先的に保護・隔離。
だが、それは“保護”という名を借りた、ウイルス研究のための“素材収集”でもあった。
「母さん! やめてよ、離さないで……! うわああっ!」
泣き叫ぶ子ども、母親にしがみつく手を無理やり剥がす隊員。
その場にいた者たちは、誰もが目を背けたくなる現実を前にしていた。
一方、都内の上層部では、ある「特別作戦」が動いていた。
――“感染者の兵器化”。
G6-αに感染した者を、制御可能な戦力へと転化する研究。
既に数名の成功例が報告されていたが、そのすべてが10代前半、特に12歳以下だった。
「感受性が高く、変異率が高い」
「意識の再構築に柔軟性がある」
そういった理屈のもと、政府は次々と児童を“確保”していた。
やがて、都心に近い第六圏――神田川沿いの特別区画では、ひとりの隊員が報告を上げた。
「感染者、確保。反応値G6-α:非常に高い。再生機能、異常活性化」
「年齢は?」
「推定11歳。自我の抑制が確認できず、即時冷凍処置を……!?」
ドオオンッ――!
報告の途中、巨大な破裂音が夜空に響いた。
続けざまに爆風が吹き、部隊の数名が吹き飛ぶ。
「ちっ、もう……“覚醒”してやがる!」
――それはもう、人間ではなかった。
肌は灰色に変色し、筋肉は異常に肥大化。
子どもとは思えぬ咆哮と共に、感染児が暴走を始めた。
「全ユニットに通達。該当エリアは廃棄対象。感染者は確保優先ではなく、抹殺対象へ変更」
冷たい命令が、通信機を通して下る。
こうして、東京圏は静かに、だが確実に「戦場」へと姿を変えていった。
子どもたちの未来を守るはずの都市が、
今はその子どもたちの命を「使う」場所へと変貌しようとしていた――。
特異汚染区域「Δ-07」。
旧中野区北部、環七通りを挟んだ先に広がるこのエリアは、既にG6-αウイルス感染率92%超を記録していた。
政府上層部が「局地的制圧」を決定したのは、午前9時13分。
指令は、\\“徹底的鎮圧及び潜在感染源の即時排除”\\という一文のみ。
09:26、自衛隊第8普通科連隊、第6中隊を基幹とする「制圧任務群1」が展開を開始。
併せて、警察庁所属の対感染事案即応部隊(通称「黒衣部隊」)も投入された。
両部隊とも、感染防御装備N-Type IVを標準装備し、作戦区分:K-LEVEL封鎖都市戦のプロトコルに則って行動を開始する。
「前進。対人制圧は問答無用で実行。民間人識別信号が未取得であれば即射」
部隊長の声が通信網に走った。
無線は既に傍受されることを前提に、短縮暗号と専用周波数で運用されている。
交戦規則(ROE)は、即応制圧型C群――
感染の疑いがあれば、警告なく射撃・制圧・無力化を許可。
たとえそれが、未成年の少女であっても例外ではない。
09:44、初動部隊がエリア境界線を突破。
感染指数の閾値を超えた地点で、複数の市民(推定年齢6~14歳)と接触するも、
いずれも非武装、非攻撃的行動を取っていた。
だが、隊員たちは「温情」の余地を持たなかった。
なぜなら、このウイルスは\\発症兆候のない感染者(NCP:No Clinical Presentation)\\の存在を前提としている。
一人の少女が、膝を抱えて泣いていた。
その頭上に、隊員の一人が照準を合わせる。
「民間人識別コード未取得、かつ生体スキャン結果:陽性の可能性高。発砲許可求む」
「許可する。射撃、実行」
破裂音がコンクリートの壁面で跳ね返り、次の瞬間には静寂が戻る。
生存を目的としない、完全な「制圧戦」。
新宿上空に響くようにして、東京圏の終焉が告げられた。
《緊急警報:本エリアはウイルスG6-αの汚染区域に指定されました。住民は直ちに政府の指示に従い、指定避難区画へ移動してください。対象者の確認及び移送は、自衛隊および警察によって厳格に行われます》
コンクリートの谷間を縫って、その警告は何度も繰り返される。
だが、誰もが理解していた。――これは、ただの避難ではない。
“選別”だ。
ウイルスG6-α――発生源は未だ不明。
だが、その効果は異常としか言いようがなかった。
感染者は一時的な発熱と咳を経て、急激に身体能力が上昇。
筋出力の制御が利かず、常人の3倍以上の跳躍力、筋力、さらには通常兵器への耐性を持つようになる。
さらに――最も恐れられたのは、再生能力だった。
銃弾を受けても止血せず、刃で裂かれても筋繊維が瞬時に繋がる。
それはもはや「人間」の再定義であり、同時に「人類」からの逸脱だった。
東京都政府は、国家非常事態宣言を発動し、即座に23区全域を封鎖エリアに移行。
陸自第3師団を中心に、東京圏の外郭に「滅菌障壁」を設置。
通信、輸送、物流、すべてを遮断した。
都心部では、黒の戦闘服を着た機動小隊が動いていた。
彼らの任務は「保護」とされていたが、実際はそれ以上の意味を持っていた。
《目標区域:板橋区第11ブロック。対象児童、確認数12。感染可能性:中。即時確保》
大通りでは、かつての通学路が戦場に変わっていた。
自衛隊車両の列が建物間を通り抜け、ガスマスクを装着した隊員が児童たちを一人ずつスキャンしていく。
「G6-α反応なし、保護対象」
「反応あり。隔離搬送」
彼らは感染を問わず14歳未満の児童を優先的に保護・隔離。
だが、それは“保護”という名を借りた、ウイルス研究のための“素材収集”でもあった。
「母さん! やめてよ、離さないで……! うわああっ!」
泣き叫ぶ子ども、母親にしがみつく手を無理やり剥がす隊員。
その場にいた者たちは、誰もが目を背けたくなる現実を前にしていた。
一方、都内の上層部では、ある「特別作戦」が動いていた。
――“感染者の兵器化”。
G6-αに感染した者を、制御可能な戦力へと転化する研究。
既に数名の成功例が報告されていたが、そのすべてが10代前半、特に12歳以下だった。
「感受性が高く、変異率が高い」
「意識の再構築に柔軟性がある」
そういった理屈のもと、政府は次々と児童を“確保”していた。
やがて、都心に近い第六圏――神田川沿いの特別区画では、ひとりの隊員が報告を上げた。
「感染者、確保。反応値G6-α:非常に高い。再生機能、異常活性化」
「年齢は?」
「推定11歳。自我の抑制が確認できず、即時冷凍処置を……!?」
ドオオンッ――!
報告の途中、巨大な破裂音が夜空に響いた。
続けざまに爆風が吹き、部隊の数名が吹き飛ぶ。
「ちっ、もう……“覚醒”してやがる!」
――それはもう、人間ではなかった。
肌は灰色に変色し、筋肉は異常に肥大化。
子どもとは思えぬ咆哮と共に、感染児が暴走を始めた。
「全ユニットに通達。該当エリアは廃棄対象。感染者は確保優先ではなく、抹殺対象へ変更」
冷たい命令が、通信機を通して下る。
こうして、東京圏は静かに、だが確実に「戦場」へと姿を変えていった。
子どもたちの未来を守るはずの都市が、
今はその子どもたちの命を「使う」場所へと変貌しようとしていた――。
特異汚染区域「Δ-07」。
旧中野区北部、環七通りを挟んだ先に広がるこのエリアは、既にG6-αウイルス感染率92%超を記録していた。
政府上層部が「局地的制圧」を決定したのは、午前9時13分。
指令は、\\“徹底的鎮圧及び潜在感染源の即時排除”\\という一文のみ。
09:26、自衛隊第8普通科連隊、第6中隊を基幹とする「制圧任務群1」が展開を開始。
併せて、警察庁所属の対感染事案即応部隊(通称「黒衣部隊」)も投入された。
両部隊とも、感染防御装備N-Type IVを標準装備し、作戦区分:K-LEVEL封鎖都市戦のプロトコルに則って行動を開始する。
「前進。対人制圧は問答無用で実行。民間人識別信号が未取得であれば即射」
部隊長の声が通信網に走った。
無線は既に傍受されることを前提に、短縮暗号と専用周波数で運用されている。
交戦規則(ROE)は、即応制圧型C群――
感染の疑いがあれば、警告なく射撃・制圧・無力化を許可。
たとえそれが、未成年の少女であっても例外ではない。
09:44、初動部隊がエリア境界線を突破。
感染指数の閾値を超えた地点で、複数の市民(推定年齢6~14歳)と接触するも、
いずれも非武装、非攻撃的行動を取っていた。
だが、隊員たちは「温情」の余地を持たなかった。
なぜなら、このウイルスは\\発症兆候のない感染者(NCP:No Clinical Presentation)\\の存在を前提としている。
一人の少女が、膝を抱えて泣いていた。
その頭上に、隊員の一人が照準を合わせる。
「民間人識別コード未取得、かつ生体スキャン結果:陽性の可能性高。発砲許可求む」
「許可する。射撃、実行」
破裂音がコンクリートの壁面で跳ね返り、次の瞬間には静寂が戻る。
生存を目的としない、完全な「制圧戦」。
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