闇に飲まれた謎のメトロノーム

八戸三春

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第六章

黒いサングラスvsアウレリア

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沈黙が街の空気を支配していた。冷たい静寂の中、黒いサングラスの男はゆっくりと一歩を踏み出した。彼の表情は冷酷で、周囲の緊張感を一層高めていた。

しかし、その足音が響き渡るよりも早く、突然、地面すれすれを銃弾が飛び交った。男は咄嗟に身をかわしながら顔に焦りの色を浮かべる。彼の足元から間一髪の危機が襲いかかったのだ。

「くっ……!」

声を上げ、慌てて身を隠そうとした男の視界の隅に、車の下から銃口を向ける劉の姿があった。低く構えた銃身から次々と弾丸が放たれ、男の動きを封じようとしている。

男は激怒の色を露わにし、怒声を上げて咆哮しながら車両の陰から飛び出した。

「何だこの不意打ちは!」

その咆哮に呼応するかのように、ターリャが上空から音もなく舞い降り、鋭利な槍で攻撃を仕掛け始めた。彼女の動きは俊敏かつ正確で、まるで影の中から刃が伸びてくるようだった。

男は慌てて構えを取り直し、銃を構えながらもターリャの動きに気を取られた隙を突かれ、鋭い一撃を受けて僅かに体をのけ反らせた。

「くそ……!」

怒りと焦りが交錯する中、劉も迅速に銃撃を続け、男の前進を阻んだ。銃声と鋭い槍の衝突音が路地に響き渡り、激しい攻防戦が始まった。

ターリャの冷静な目は、男の動きを一瞬も逃さず、隙あらば仕留める覚悟を滲ませていた。劉は的確に援護射撃を続け、二人の連携はまさに戦場の舞踏のように美しくも危険なものだった。

この一瞬の攻防で勝敗の行方が決まることを、三者は皆知っていた。







銃声が鳴り止むことはなかった。特殊部隊の兵士たちはターリャを狙い撃とうと一斉に銃口を向けたが、彼女の動きはあまりにも速く、正確だった。
まるで風のように路地を縦横無尽に駆け回り、銃弾は彼女の間近をかすめるだけで決して当たらなかった。

「ここまでか」

そう呟いた特殊部隊の一人が、ターリャを捕らえようと近づくが、ターリャは瞬時に反応し、軽やかな身のこなしでその攻撃を回避した。彼女の槍はまるで生きているかのように振るわれ、隙を見せた兵士の腕や脚を正確に狙い撃った。

一方、劉は冷静に状況を把握しながら、一人また一人と特殊部隊の兵士を確実に倒していった。鋭い観察眼と卓越した射撃技術で、敵の動きを先読みし、無駄のない動きで次々と標的を制圧した。

「まだまだ、終わらせない」

劉の瞳は冷徹に光り、銃声の合間に静かな決意が漂っていた。

そんな中、黒いサングラスの男はターリャに狙いを定め、間合いを詰めて攻撃を仕掛けた。だが、ターリャは決して簡単には捕まらなかった。男の一撃は彼女の間合いに入り込もうとしたものの、素早くかわし、反撃の体勢に入る。

槍での攻撃は的確に防がれ、時折彼女の防御が崩れそうになるも、その度に身を捻り、受け流す。二人の戦いはまるで激しい舞踏のように激しく、互いに一歩も譲らない緊張感で満たされていた。

男の動きは荒々しく、威圧的だったが、ターリャの冷静な判断と俊敏な動きに翻弄されていた。彼女は敵の攻撃の軌道を読み切り、反撃の隙を狙って次々と攻撃をかわしていく。

その間にも、劉は背後から特殊部隊の残党を次々と仕留め、二人はまるで一つの機械のように連携して戦場を制圧していった。

だが、この激闘の果てに、何が待ち受けているのか、まだ誰も知らなかった。

男の表情が変わった。冷ややかな静寂から一転、殺気が肌を切り裂くように溢れ出す。これまでの試し合いのような動きではない。男は本気でターリャを仕留めにかかっていた。

「終わらせてやる……!」

そう低く呟くと、男は瞬間的に間合いを詰め、拳を構えて突進する。その動きは予想を超える速度と破壊力を秘めていた。しかし、ターリャはその圧に怯まなかった。槍を逆手に構え、一拍遅れて身を沈めた。

「来いよ、征服者の名を語るなら!」

次の瞬間、男の拳が彼女の顔面を狙って振るわれる。しかしターリャは僅かな体重移動でその拳を外し、すかさず槍の石突(後端)で男の腹部を強打した。鈍い衝撃音と共に男の身体が一瞬浮く。

「ぐっ……!」

男が蹌踉めいたその隙を逃さず、ターリャは地を蹴って一気に懐へ飛び込み、渾身の蹴りを右脇腹へ叩き込んだ。彼女の細身とは裏腹な、鍛え抜かれた脚力が炸裂する。

「はあっ!!」

乾いた音とともに、男の体が空中に跳ね上がり、背中から標識へと吹き飛ばされる。金属が歪むような音が鳴り、標識がぐらりと揺れる。男はうめき声を上げながら、地面に転がり落ちた。

ターリャは構えを崩さず、慎重に間合いを保つ。敵はまだ完全には倒れていない。しかし、彼女の中には確かな手応えがあった。この一撃は、相手の本気を打ち破ったものだった。

遠くで劉の銃声が一発だけ鳴った。それは、全ての戦闘が終わりを告げた合図のように、静かな空気に消えていった。

ターリャは汗をぬぐい、静かに吐息をついた。

「……征服者、なんて名前にしては、ちょっと軽かったね。」

標識の根元に倒れ伏す男に、冷たい風が吹き抜けた。

標識に叩きつけられた男が呻き声とともに動かなくなったその瞬間、遠くから聞こえてきたのは重厚なエンジン音だった。ターリャは音の方向に視線を向け、同時に劉も肩越しにちらりと振り返った。

「……来たな、応援か。」

劉の口元が微かに歪む。次の瞬間、道路の角を曲がって黒い装甲車が2台、砂煙を巻き上げながら姿を現した。その後ろには全身に防弾装備をまとった新手の特殊部隊が、秩序ある隊列で進軍してくる。

「まったく、めんどくさいな……」

ターリャが溜息混じりに言う。疲労の色を隠さないが、その視線は依然鋭い。

「本隊か、装備が一線級……こいつらとは正面からやる意味ないね。」

劉はすぐさま状況を分析した。さきほどの戦闘で使った弾薬も多く、ターリャも全力を出していた。加えて、相手は数で上回っているうえ、連携訓練された精鋭部隊。長引けば勝ち筋は薄くなる。

「撤退しよう、ここで倒れても何も意味はない。」

劉は冷静にそう告げると、即座にターリャの手を引いて路地裏へ走り出す。ターリャも無言でうなずき、彼の背に続いた。

後方では、応援部隊が倒れた男とその周辺を警戒しながら前進していたが、ターリャと劉の素早い判断と行動により、追跡の準備すら整わぬうちに二人は姿を消していた。

狭い裏通りを縫うように走り抜けながら、劉は息を整えつつ言った。

「今のは“制圧部隊・第七中隊”だ。火力も装備も最新。運が悪ければあそこで終わってた。」

「そっちの世界は詳しいんだね」

「まあ、ヴェルトロスにいたからな。あの部隊はただの応援じゃない、“確認後即処理”が指示に入ってる連中だ。見逃されるわけがない。」

ターリャは頷き、周囲を確認しながら速度を緩めずに走る。

逃げる——それは戦略的な選択だった。勝てない戦はしない。どれほど誇り高くても、命を賭ける価値のある瞬間は見極めなければならない。それが生き残るための鉄則であり、二人はそれを誰よりもよく知っていた。

やがて路地裏の奥で古い扉を開け、人気のない建物に身を隠した。

「今日もギリギリだったね……」

ターリャが息を切らせながらも笑みを浮かべると、劉は壁に背を預けながら短く返した。

「運がよかっただけだよ。次はもっと冷酷なのが来るかもしれない。」

それでも、今は生き延びた。東京という歪んだ戦場で、明日へと繋がる一歩を、彼らは確かに刻んでいた。

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