煽りスキルMAXのメスガキ、異世界で無双するも時々敗北する件

八戸三春

文字の大きさ
45 / 49
第一章

45話 メスガキ、ギンの話

しおりを挟む
リリアとギンの間に何かが残ったまま、私たちは宿に戻った。部屋に入ると、すぐにリリアは黙ったままベッドに腰掛け、じっと窓の外を見つめている。ギンはそれを気にする様子もなく、逆にあの陽気な笑顔で部屋の中をうろうろしている。カインもあまり口を開かず、ぼーっとしている。

私も、正直なところまだ何も言う気になれなかった。あんな言葉をリリアに吐いたギンに対して、どうしても怒りを感じる。でも、リリアがあんなに怒っている姿を見て、私もまた、どう接していいのか分からなくなっていた。

そのとき、ギンが突然私に話しかけてきた。  
「ねぇ、メスガキ。なんかちょっとモヤモヤしてない?」

「モヤモヤしてるって……?」  
私はギンの方を見た。正直、この状況をどうすればいいのか分からなかったが、ギンの目を見ていると、なんとなくその問いに答えたくなった。

「うーん、まぁ、リリアのこともあって少しさ」  
私は少しだけ答えてみた。すると、ギンは「あー」と納得したように頷き、そこから急に真剣な顔になった。

「リリアのこと、気にしてるんだね。リリア、ああ見えてすごく面倒くさいからさ。あんまり気にしない方がいいよ?」  
ギンがその言葉を軽く口にしたとき、私の胸に一瞬ひっかかりを感じた。何だかギンがリリアに対してあまりにも軽く話すのが、少し不安だったからだ。

「でも、なんでリリアがそんなこと言ったんだろう……?」  
私は言葉に詰まりながらも、ギンにその疑問をぶつけた。

ギンは一瞬、顔を歪めたように見えた。気づかれないようにしていたのかもしれないが、何かを隠している様子だった。

「リリアは……遊びで言ってるだけだよ。私が言うこと、ただの冗談だし」  
ギンは無理に明るく言ったが、私にはその声が少し震えているように聞こえた。

「冗談って……でも、リリアがあんなに怒ったのは冗談じゃ済まないことだよ」  
私が少し強い口調で言うと、ギンはまた顔を歪め、何かを考えている様子だった。しばらく黙っていると、ギンが深くため息をついて、重い口を開いた。

「……実はさ、リリアのせいで、私、ちょっと変わったんだよ」  
ギンは目を逸らしながら話し始めた。

「変わったって?」  
私はギンの言葉に驚き、少し身を乗り出した。

「うん、リリアが最初に言った言葉……『お前、なにその顔?不細工すぎて生きてる意味あるの?』……あれがきっかけだったんだ」  
ギンは言葉を慎重に選びながら話した。私には、それがどれほど重い言葉だったのかがわかった。

「でも、それって、リリアが冗談で言っただけだろ?」  
私は言ったが、ギンはうなずかなかった。代わりに、少し目を伏せて、言葉を続ける。

「最初はそう思ったんだ。でも、それからリリアはよく『お前、なんでそんな顔してるの?』って言ったり、いちいち私のことをバカにするようなことを言うようになった。それが、私には冗談じゃなくて……段々、苛立ちが募っていったんだ」  
ギンは少し顔をしかめて、拳を握りしめる。

「それから、だんだんとリリアが言うことが全てムカついてきて、私は何でもリリアのせいにしてしまうようになったんだよ」  
ギンはその言葉を吐き出すように言った。その瞬間、私は何となく、ギンの心の中に深く埋まった痛みが見えた気がした。

「リリアのせいにするって……それはどういう意味?」  
私はその言葉に、もっと聞きたくてたまらなかった。

「つまり、何でもかんでもリリアのせいにして、そこから逃げたかったんだ。リリアが私を煽ったから、私は自分を守ろうとして、どんどん反発して、言葉の攻撃をし返すようになった。でも、その反応がどんどんエスカレートして、気づいたら私の中で、リリアを煽るのが楽しくなっちゃって……」  
ギンの声がだんだんと静かになり、その顔に少し陰りが差した。

「だから、リリアが私に冗談で言った言葉が、あんなに大きな影響を与えてしまった。私がいつも『冗談だろ?』って思うけど、実はそれが私の中で大きな壁になっていることに気づいたんだ」  
ギンはしばらく黙っていたが、私にはその言葉の重さがよく伝わった。

「でも、ギン。リリア、そんなに悪気があったわけじゃないと思うよ」  
私は言いながら、ギンの方をじっと見つめた。すると、ギンは少し苦笑いを浮かべた。

「そうだよね……リリアは気づいてないだけなんだろうな。でも、私が変わってしまったのも、リリアが原因だと思うからさ……」  
ギンは肩をすくめて、無理に明るくしようとしているようだったが、その目にはまだ悲しみが残っているように感じた。

「ギン……」  
私はその一言を口にした。ギンの過去を知って、少しだけ心が軽くなった気がした。彼女の行動には理由があったんだ。リリアの言葉が、彼女をこんなにも変えてしまったんだと、私はやっと理解できた。

「メスガキ、ありがとう。少しだけ、楽になった気がするよ」  
ギンが静かに微笑んで、私に目を向けた。

私はその微笑みに答えるように、軽く頷いた。

「でも、リリアには、ちゃんと謝った方がいいんじゃない?」  
私は少しだけからかうように言うと、ギンはふっと笑って肩をすくめた。

「まあ、そうだな。謝ろうと思うかな」  
ギンの言葉に、私は少しホッとした。

リリアとギン、二人の関係が少しずつ修復されることを願いながら、私はふと、これから先、どうなっていくのかを考えていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...