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1. 推しの兄の婚約者‥‥?
冷たいヒューバート
しおりを挟む「ここが‥‥キャンプ場!」
遂に今夜泊まる広場に辿り着き、オズは喜び声を上げる。すると後ろから「声でかっ!」とジャスパーのヤジが飛んだ。
あんな街中ではなかなか味わえないこの新鮮な空気、美しい自然、完璧な強度の風。一拍二日じゃとても足りないんだけど。三泊くらいしたい。
ここに辿り着くまでのハイキングは完璧だった。森のスケッチも上手く描けたし、この三人は意外と話がしやすく、お互い話すのはほぼ初めてなのに全く気まずくならなかった。特にオズは積極的にロニーに話をしたり聞いたりして、オズのマシンガントークにジャスパーが若干引いていた。
今は今日眠る場所を確保するためにテントを張っている。ロニーは寝袋と毛布を取りに行ってくれているので、ジャスパーと二人きりだ。
「そういえばお前‥‥。」
「お前じゃなくてオズな。」
骨組みを説明書と格闘しながら組み合わせる中、ジャスパーが話しかけてきた。
「そういえばオズ、ヒューバートの野郎と喧嘩でもしているのか?」
「ゔっ、やっぱそう見える?」
最近あいつは冷たい。本当に冷たい。でもお昼は一緒に食べてくれるし、帰りも一緒に帰っている。それらはアルも一緒だが、ヒューはどんな場面でもオズへの態度が一貫していた。
(ちょっと態度が冷たくて会話での突っ込みが辛辣なだけだ。大丈夫。まだ耐えられる‥‥。)
「心当たりはないんだけど、何か俺に怒ってるのかもしれない。」
「ふーん。ていうか、二人は確か一時期婚約の話も上がっていたよな。あれっておま‥オズが断ったのか?」
オズは手は止めずに少し考えた。骨組みが複雑すぎて何かもう良く分からない。ジャスパーの手元は形になっているのに、何故オズの手元はぐちゃぐちゃなのだ。
「まあ、結果的にはそうだな。のらりくらりと交わし続けた感じだったけど。」
ジャスパーは眉を寄せる。
「ヒューバートは結構オズと婚約したそうに見えてたけどな。あいつ最近は冷たいけど、お前だって俺と話す様になったばかりの頃は『ヒューがかっこいい』とか『今日はこんな時に優しくしてくれて~』とかいちいち惚気てきてただろ。なのになんで‥‥。」
そこまで言った時、少し離れたところにいた班のテントの骨組みが「ガシャン!」と大きな音を立てて崩れた。「何だ?」と顔を上げてみると、その班にはヒューが居て彼は固まっており、同じ班の男子女子が周りでわたわたしている。
ジャスパーはそれを見てニヤリとした。
「あいつ今の話聞いてて、動揺して手を離しちまったんじゃねえか。」
「こんな距離で会話が聞こえるわけないだろ。」
オズはジャスパーの考えを一蹴して、さっき何を言いかけたのか尋ねようとした。
「それよりジャスパー、さっきはなんて‥‥。」
「二人とも!頼まれたものを持ってきたぞ!」
けれどそれは、三人分の寝袋と毛布を抱えてよろよろ歩くロニーが戻ってきたことによって言葉にはならなかった。二人はロニーに礼を言い、テントにそれらを運び入れるのを手伝って、結局この話はこれで終わった。
調理時間。やっぱり林間合宿といえばカレーだ。この世界でも林間合宿の自炊テーマがカレーだと言われた時、オズは喜び過ぎてカレーの良さを語りだし、周りの生徒がちらちらこちらを振り返り始めるとロニーとジャスパーに「うるさいぞ。静かにしたまえ。」「お前ちょっと黙れ。」と怒られた。ロニー、遂にそっちサイドに行くのか‥‥早くないか?
オズはジャスパーに釜戸で作業する米を炊く仕事を丸投げして調理スペースから追い出した。
班員は米を炊く仕事と野菜を刻む仕事で半々に分かれるのだが、この班は三人しかいないのでどちらかは一人になってしまう。それは仕方がないことだ。仕方がないことなので、オズはロニーと話すチャンスを掴むためにジャスパーを釜戸の方に追い出したわけである。でも一応「あとで見に行くから!」と言ったからには様子見には行く予定だ。
今は、オズはロニーと並んで野菜を刻んでいる。調理時、ロニーは肩までの髪をハーフアップにしていて、銀色の後れ毛がくすぐる白い首筋が美しい。
「芋の目には毒があると言われているが、少量刻んでラナリタフの茎とリーベールの花蜜と混ぜ合わせると、希少植物グルテリヤードの成長促進剤になるんだ。」
「すっごい!そんな効果があったんだ‥‥。ロニーは何でも知ってるね!玉ねぎとかは!?」
「玉ねぎか‥‥血流や血管を健やかな状態に保つ効果がある。治療薬を飲んだ方が怪我や病気が治るのは早いが、あれは病によってはかなり高額だし、健康でいるためにこう言った野菜は日々身体に取り入れるのがいいと思うぞ。」
「そうだよね!やっぱ健康大事。じゃあじゃあ、次はにんじん‥‥。」
言いかけたところで、目の前にお盆を持ったヒューが歩いてきた。オズは思わず「あ、ヒュー!」と声を上げ、ヒューはそれで立ち止まった。
相変わらず美しい立ち姿と美貌だが、以前よりも表情やまとう空気感が暗い。彼の紺色の髪は艶やかで、薄いラベンダー色の瞳はオズの真意を探る様に少し動いた。
「ヒューの班はどう?調理は上手くいっている?」
オズは明るく尋ねたが、ヒューは最初から無表情で暗い顔だったところを、オズの横にいるロニーを見て更に顔を顰めて、とても明るく会話が出来そうな顔ではなくなった。
「別に、普通。」
冷たい‥‥。
ヒューは基本的に誰にでも人当たりがいいので、ここまで塩対応なのは逆に珍しく、二人にちらちら視線が寄せられている。
「そ、そっか。美味しく出来るといいね!」
「ああ。」
それだけ言って、ヒューは歩き去ってしまった。こういう時、いつもならアルが「もう、兄さん無愛想すぎー!最近どうしたー?」などと言って場を和ませてくれるのだが、彼は一つ下の学年なのでここにはいない。
(アルが居ないの結構キツイなぁ‥‥。)
「君はオブライエン君と喧嘩でもしているのか。」
ロニーがにんじんを切りながらこちらは見ずに聞いてきた。
オズは少し俯いて、できるだけ明るい表情を作って顔を上げた。
「いや~そうなのかも。でもこうなっちゃった理由が分からなくってね~。」
言っていて、どんどん俯いてしまう。
こんなに毎日一緒にいるのに、こうなってしまった理由も気が付けないなんて何だか情けない気がして来た。
(あれ、ヒューっていつから俺に冷たいんだっけ。最初は「ツンデレかー!?」とか「ついにヒューも反抗期かも。」って勝手に思い込もうとしていたけど、ヒューって本当に俺の事が嫌いになったのかな‥‥。)
ロニーはにんじんを刻みながら、いつも通り単調に応える。
「そうか。まあ人間、合う合わないがあるからな。余り思い詰めるなよ。」
ロニーの優しさが籠った言葉に、オズは不覚にも泣きそうになってしまった。
「ありがとう。」
「ああ。」
ロニーは、結局オズの分の野菜も切ってくれた。「ジャスパーの様子を見るついでに少し休むと良い。」と言われて、オズは下心なしでロニーという人ともっと仲良くなりたいと心から思った。
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