推しの兄(闇堕ち予定)の婚約者に転生した

花飛沫

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2. 現れる登場人物達

美化委員と花壇の守護神

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 中等部入学から数日後、クラスでは委員決めが行われている。
 オズは初等部の時と同じ様に書庫管理委員会に入りたかったのだが、書庫委員はかなり人気で、早々に諦めた。そうしてどんどん委員が決まっていく中、オズは校内美化委員決めのタイミングで挙手をする。

(美化委員って響きが良いよな。なんか綺麗そうで。)

 すると、一拍置いて両隣からスッと手が上がった。オズはその瞬間ワクワクした笑顔からスッと真顔になり、恐る恐る両隣を確認する。
 そこでは確かに、思想爆発イケメンエッカルトと可愛い系腹黒男子ハイノが手を上げていた。
 ちなみに美化委員は各クラス二名なので、この場合3人の誰かが脱落する。教卓に立っている教師は驚いて口を開いた。

「おお、美化委員が人気だね。じゃあ3人で話し合って決めてもらおうか。」
「あ、それなら僕やめます。」

 オズは瞬時にそう言ったが、両隣から反対の声が上がる。

「いや、オズ君はそのままで大丈夫だよ。」
「オズは大人しくしていろ。ここは僕達が決める。」
「へい‥‥。」

 エッカルトには全然反抗出来るのだがハイノは本当に怖いので、オズは大人しく従った。二人は三回勝負のジャンケンというとても原始的な方法で勝敗を決め、結果的にハイノが勝った。

(そこはエッカルト勝ってくれよー!ハイノと二人になるぐらいだったらエッカルトと二人になる方がマシだ‥‥!)

「負けてしまったか‥‥。だが、委員が違ったとしても沢山たくさん話は出来るだろう。だからそんなに落ち込むな、オズ。」

(違えよ、お前と同じ委員になれないから悲しんでるんじゃねえよ!ハイノと二人きりになる可能性に絶望してるだけだから!)

 そんな思いは届かず、委員決めは淡々と進んでいく。

「じゃあ、美化委員はチャールトンとゲーテの二人に決定だな。」

 先生は魔法でチョークを操り、サラサラと二人の名前を黒板に書き残していく。ジャンケンで勝ったハイノは椅子を引き、オズに可愛らしい笑みを向けながら席に座った。

「同じ委員としても、これから宜しくね。オズ君!」
「宜しくお願いします。ゲーテさん。」

 オズが堅苦しい返事を返すと、ハイノは不満そうに可愛らしく頬を膨らませ、ずいっと迫って来る。

「もう、どうしてそんなに他人行儀なのっ?」
「いや君はまだ余裕で他人判定‥‥。」
「ん?」
「‥‥何でもないっす。」

 出会って数言交わした人はギリギリ他人なのでは、と言い掛け、すんでのところで思い止まる。

(あっぶな!言ったら殺されてたかも‥‥!)

「仲良くしよう‥‥ね?」
「うん!マジ仲良くなりたいです本当にこんな可愛い人の隣の席になれてヨカッタナー。」

 ハイノの闇深い桃色の瞳に見つめられて、棒読みになりながらも友好的な言葉を返すとハイノのお気に召したのか、彼は笑顔で頷いた後黒板の方へ視線を戻した。

(てかジャスパーは何をしてるんだ?)

 オズがこんなに大変な時に奴は一体何をしているのか、と教室を見回すと、ジャスパーは窓辺の後ろの方の席で爆睡をこいている。

(あいつまじ昼休み覚えてろ。)

 オズはジャスパーに言いたい愚痴を頭の中でまとめ始めた。

















「えー、美化委員の委員会教室は2年2組になります。ここの角を曲がってまっすぐ進んで‥‥。」
「ふふ、委員会楽しみだね。オズ君。」
「そうだねー。」

(楽しみではないけど普通に。)

 今日は初の美化委員会がある日で、今は美化委員担当の教師が教室まで案内してくれている。定期的にこちらを向いて話しかけて来るハイノに適当に返事をしつつ、オズは思考を巡らせていた。

(何だろう、何か忘れてる気がするんだよな‥‥。小説ではハイノとヒューの間で、何か事件が起こったはずなんだけど。)

 委員会室に着くと指定された席に座り、美化委員の仕事についての説明を受ける。

「なので、来週は全学年のAクラスが庭園清掃、再来週は全学年のBクラスが清掃、というように週ごとクラスを入れ替えて毎週木曜に庭園を清掃してもらいます。」

 オズ達はCクラスなので清掃は三週間後だ。

(あのバカみたいに広い庭園を掃除するとか、もうだいぶ億劫おっくうだな。ハイノもいるし。)

 その後、美化委員一年生たちは庭園の掃除する場所を確認するために外へ連れ出された。オズはじりじり近寄って来るハイノから距離を取りながら歩き、綺麗に切り揃えられた芝生しばふを踏み締める。
 地図で説明された場所の内四つめの清掃場所に近づき始めると、教師は言いにくそうに口を開く。

「これから向かうエリアは花壇があるんだが‥‥、さっき教室に居なかった2年生の委員長がいる。少し変わっている人で、休み時間や放課後居残れる時間はギリギリまで花壇に居座り、花の世話をしているんだ。」

 オズは何だか身に覚えのある状況に首を傾げた。

(何だ?花壇に居座る変人‥‥何か物凄く覚えがある様な‥‥。)

「まあ、変わっている人なんだが驚くなよ。」

 教師は変わっているを二度言い強調して、スッと角を曲がった。オズたちも後に続く。
 その先にあったのは、数十メートルと続く花壇と咲き誇る花たち、そして、庭師と同じ作業着を制服の上から着た泥だらけになっている一人の青年だった。

(わっ、綺麗な髪‥‥!)

 彼は透き通る様な水色の髪をしていた。前髪が長過ぎて目や表情はよく分からないが、独特のオーラが発せられている。
 彼はやって来た集団を見るとすくっと立ち上がり、背が高いことがわかった。

「‥‥どうも。1年生、ですよね。‥‥花には余り触れないでください。花壇掃除は‥‥しなくて結構です‥‥。」

 ボソボソと拒絶の言葉を放った彼はこちらへ背を向け、花に向き直ると土を整え始める。教師は困惑する生徒たちを引き連れその場を離れると、三つ角を曲がった辺りで口を開いた。

「‥‥彼はヘルムート・アッヘンバッハだ。あの通りとても花を愛している。彼がああ言うので、掃除当番の日は花壇に顔を出して一応様子見はして欲しいんだが、花の世話はしなくて結構だ。」

 ヘルムートは世話の仕方にもうるさいからな‥‥と途方に暮れた顔をする教師を、オズは不憫に思った。きっと今まで沢山の生徒が、ヘルムートの指導に嫌気がさしてこの教師へ苦情を言ってきたのだろう。

(てかあの量の花を世話してるの凄すぎる。)

 逆に世話をしているところを見てみたくなってきたオズは、もう一度あの水色の髪を思い浮かべる。表情は何も見えなかったが、いったいどんな顔であの言葉を放ったのだろうか。

「仕事が減って良かったねえ、オズ君。」
「そうだねー。」

 話しかけて来るハイノに適当に返事をしつつ、オズは頭の中にくすぶる違和感について考え始めた。

(花に依存する男に、ハイノ・ゲーテ‥‥。この並び、どこかで‥‥?)
 
 その時、ハイノが「ねえ、オズ君聞いてるの?」とオズの制服の袖を掴んで、ぐっ、と引いた。考え事をしていたオズはその軽い力で簡単にバランスを崩し、つんのめって地面に倒れ、地面に少し頭を打つ。「わっ!」と声を上げたので周りの生徒たちも振り向き心配そうな視線を寄越す。
 一方オズは、その頭を打った刺激で思い出したかったことを思い出し、地面に両手をつっぱって唖然としていた。 

(そうだ!そうだった!ハイノはあれだ!あの事件に関係していた‥‥。)

 スッと、目の前にハイノの手が差し出される。なかなか起き上がらないオズを見て、立ち上がるのを助けようと思ったらしい。ハイノは可愛らしい微笑を浮かべ口を開く。

「僕の話をちゃんと聞かないからだよ?」

(この状況でまず出て来る言葉が「ごめん。」じゃないの怖すぎるだろ!)

 これがオズがハイノを恐れる理由の一つである。

「ははっ‥‥ごめん。ありがとう。」

 謎にオズが謝り、ハイノの手を取って立ち上がった。本当なら言いたいことが沢山あるが、大切なことを思い出したオズはそれどころではなく、転んだ事も大して記憶に残らなかった。

(そうだ!あの花壇は、『ヒューバート、ハイノに嵌められて監禁される事件』の!)
 
 そう。これは中等部一年で起きるヒューの闇堕ちイベントのひとつだ。オズが無意識下で恐ろしいと思っていた生徒ハイノには、確かに恐れるべき理由があった。
 
 この事件は、ヒューバートが最近自分の婚約者オズワルドに付き纏う変な奴が居ると聞きつけ、ハイノがオズワルドにちょっかいを掛けることを邪魔する事で始まる。
 ヒューバートを目障りに思ったハイノはある日、ヒューを花壇のある校舎裏に呼び出した。同時に美化委員の先輩で異常に花に執着する青年にも声を掛けて、ヒューバートを呼び出した数分後に花壇へ来るようにその青年には伝える。その後ハイノは花壇の花をぐちゃぐちゃに踏み荒らし、約束通りの時間にやって来たヒューバートを迎える。
 花壇の惨状についてヒューバートと口論している間にその青年がやって来て、花の踏み荒らしに怒り狂うその青年に、ハイノは言うのだ。



———全てヒューバートがやりました。僕、彼が花を踏み荒らすところを見ていたんです!



 青年はハイノの名演技を信じてヒューバートの言葉を聞かず、明確に恨みを持った。
 その数ヶ月後、きたる体育祭の当日、高魔力保持者だけが参加する魔法戦闘型ゲームの準決勝が控えるヒューバートを、青年は物置小屋に閉じ込める。花形の試合を放棄する形になったヒューバートは棄権と言うことになり、そのせいでヒューバートのクラスは負けた。青年とハイノが口裏を合わせたのでヒューバートが物置小屋に監禁されていた事は誰にも伝わらず、ヒューバートはただ試合が怖くなって逃げ出しクラスに恥をかかせたという噂だけが広がる。
 それでまたヒューバートが病んでいくのだ。

(怖っ!ヘルムートもハイノも怖すぎるだろ。特にハイノ!)

 しかし今回の事件で気になるのは、ヒューバートの婚約者であるオズワルドの存在が明確になっている事だ。

(そもそもヒューバートがオズワルドの為に行動を起こした結果だもんな‥‥。)

 今のところ確かにオズはハイノに絡まれ(?)ているし、こいつはかなり厄介なのでそろそろヒューに会ったら愚痴ってやろうと思っていた。だが、ここでオズがハイノについての話を一切しないで、ヒューの前ではハイノを徹底的に避ける様にすれば、ヒューはハイノの存在に気が付かないのではないか。
 そうすればヒューは何もアクションを起こさないし、ハイノはヒューを危険視しない。

(この事件は、俺が防げるんじゃないか!?)

 思わぬ希望が差し込み、オズは誰もを振り向かせる様な天使の笑顔になった。そしてその顔のまま、隣にいるハイノの方を向く。

「一緒に頑張ろうね、ハイノ君!」

 太陽の光を浴びる黒髪に鮮やかな緑の瞳。その美し過ぎる笑顔に、ハイノは一瞬沈黙した。周りの人間も静まり返り、異様な空気にオズは困惑しだす。

「?‥‥ハイノ君?」
「っ、ああ‥!何でもないよ、頑張ろうね。」
「うん。」

 可笑しな態度のハイノに首を傾げながら、オズはどうやってヒューの前でだけハイノを避ければ良いかを考え始めた。





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