推しの兄(闇堕ち予定)の婚約者に転生した

花飛沫

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3. 変わりゆく運命

届いた手紙

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 家族が全員寝静まった深夜。

 オズは大きなリュックを背負い、大荷物用の手持ちかばんを横に置く。

(いよいよだ‥‥!)

 皆んなとはいつも集まるあの廃れた公園で待ち合わせをしている。そろそろ屋敷を出なければならない。
 玄関から出ると物音で家族の誰かが起きてしまう可能性が高いので、今日オズは窓から家を出る。というわけで、ベッドの下に隠してあった自分専用のほうきを取り出し、絨毯の上に置いた。軽い詠唱をすると、箒はオズの腰あたりまで浮き上がる。

(よし!)

 大きな手持ち鞄は箒の先に掛ける。

(ちょっと重いな‥‥。頑張ってバランスを取らないと!)

 そうしてオズ自身も箒に飛び乗った。低姿勢で窓付近まで飛んでみてバランスは何とかなりそうだと分かると、オズは窓をゆっくりと開く。両開きの窓なので、開き切ると結構な大きさになるのだ。
 オズは慎重に窓から出ていく。途中荷物が引っかかって声を出しそうになったが、何とか堪えて全身を外に出すことに成功した。

(はー、怖‥‥!駆け落ちする人たちってこういう心情なのか‥‥。)

 安堵の溜め息を溢すと、オズは静かに窓を閉める。外からなので鍵を閉める事はできないが、一応閉めておかないと入ってくる外の空気に違和感を持って誰かが起きてしまうかも知れない。

(そんなことある?とは思うけど、アントニーなら有り得そうで怖いんだよな。)

 兄のアントニーは色々なところで鋭いのだ。
 最後に窓ガラス越しに自分の部屋を見てみると、離れるのにはやはり寂しさを感じた。
 そんな想いを振り払って、オズは公園を目指して空を飛ぶ。地上に近いところを飛んでいるともしかしたら誰かに会うかも知れないので、出来るだけ空高くを飛ぶようにしている。やはり荷物が重くて箒の先端がグラグラするけれど、気合いで何とかした。
 
「見えてきた‥‥!」

 オズが公園に着くと、既に全員が公園の上空に箒に跨って浮きながら彼を待っていた。ジャスパーは、空から皆んなの目線まで降りてきたオズを見て頷く。

「よし、揃ったな。馬車はあっちに停めてある。行くぞ!」

 その言葉で、オズワルド、ヒューバート、アルバート、ロニー、リンジー、アーベル、ディーター、ヨーナスは、ジャスパーに従って空を飛ぶ。
 馬車は森近くの人気がない場所に停められていた。馬車が見える少し手前にジャスパーが着陸したので、皆んなも後に続く。ジャスパーは箒を右手で持つと、オズとヒューを振り返った。

「いいか、オズはヴィリー・ハイネン、ヒューバートはヘンリック・ゾイゼって名前になってるから。そう呼ばれたらちゃんと答えろよ。あと、これが馬車を呼んだ本人だっていう証明書な。」

 ジャスパーはヒューバートに一枚の厚紙を渡した。横から覗き込むと、紙には馬車を依頼したことと契約の印、そしてたった今教えてもらった二人の名前が書かれているのが見える。

「ありがとう。」

 ヒューバートはそう言ってジャスパーに右手を差し出した。思えば、ヒューバートがジャスパーに握手を求めたのはこれが初めてだった。ジャスパーは驚いたようだが何も言わず、ただ彼の手を硬く握ると、二人は重なったその拳を一度軽く振って手を離す。

(ジャスパーはもう悪役じゃない。ヒューバートはもう被害者じゃない。)

 結ばれた二人の友情に、オズは物語の運命は変えられるのだと確信を得た。

(ここで俺とヒューが駆け落ちすることで、高等部では学園に俺たち二人がいないという原作通りの状況になる。)

 そうなれば、ヒューバートとオズワルドが想定外に生きていた場合に起こる何らかの強制力があったとしても、学園にいない二人は物語に関与しないのだから、その強制力は発動しない可能性が高い。現にオズは、ヒューバートにプロポーズをされて駆け落ちを決めた日から、あの悪夢を見ないようになった。これはきっと吉兆に違いない。
 オズもジャスパーに礼を言うと、彼は「気にすんな。」と照れ笑いをしてオズの頭にぽんと手を置いた。普段なら「髪が崩れる!」と怒るところだが、これももう最後かと思うと言葉が出てこなかった。
 次に、ロニーとリンジーが二人の前に出て来る。二人はそれぞれふところから乗船チケットを取り出すと、ロニーはオズに、リンジーはヒューにそれを渡した。ロニーから受け取ったチケットを見てみると、名前のところに〝ヴィリー・ハイネン〟と書かれている。

「船を取る時にアーベル達と話し合い、二人が住むのに良さそうな町があるのはエミスフェール国だと分かった。なので、その船はエミスフェール行きだ。朝一の便だぞ。」

 ロニーがそう説明してくれた。オズとヒューは二人に礼を言う。すると急に横からアーベル達が飛び出してきて、目の前に紙が一枚突き出された。

「ほい、お二人さん。この紙にその町の名前と、町への行き方が書いてあるから!」
「気をつけろよ~大金持ってんだから!」
「ボディーガードも何もないんだからな!普通に盗みとかあるからな!」

 そう心配の声まで掛けてくれた。やはりこの三人は良い奴である。
 ジャスパーが袖口をまくり、腕時計を見た。

「あまりここに長居しない方がいい。」
「ああ。」

 ジャスパーの言葉に、ヒューが頷く。

「オズ。」

 そう名前を呼んだヒューが差し出した左手にオズは自分の右手を重ね、二人は恋人繋ぎをした。

「皆んな、本当にありがとう!」
「世話になった。」

 オズとヒューは改めて皆んなに礼を言い、繋いだ手をそのままに馬車へ向かって歩き出す。二人の後ろ姿はどんどん遠のいて、皆は彼らが別世界へ行ってしまうような感覚がした。

「おい、お前ら!結婚式には絶対に俺らを呼べよ!?勝手に済ませたら許さないからな!」

 ジャスパーがそう声をかけてきたのを皮切りに、歩く二人の後ろ姿に、皆んながそれぞれ声を掛け始める。

「オズ、兄さんを頼んだ!」

 アルバートは兄の未来をオズに託して、

「落ち着いたら、バレないように手紙を寄越してくれよ。」

 ロニーは繋がりを残そうとしてくれて、

「いつか、きっと会いに来てね‥‥!観光とかちょっとした旅行とか、そんなんで良いから、ぎっど会いにぎでね"っ‥‥!」

 リンジーは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら別れを惜しみ、

「お金は大切に使うんだぞー!」
「健康は食からだからな!しっかり食えよ!」
「ゔゔっうっ‥‥!元気でなぁっ‥‥!」

 アーベルとディーターは最後まで心配の言葉で、ヨーナスはめちゃくちゃ泣いてくれた。
 オズとヒューは皆んなに軽く手を振って、馬車の御者に証明書を見せると、馬車の中に乗り込んだ。箒や荷物も入れたので車内はぎゅうぎゅうになったけれど、今は寂しい気持ちでいっぱいだから、物理的に隙間がないのは案外悪くないと二人は思う。
 馬車は動き出した。見たことのない船着き場に向かって、暫く馬車に揺られることになるだろう。

(二人なら、大丈夫だ!)

 オズは繋いでいるヒューバートの手を握る手に力を強めた。ヒューはそれに応えるように強く握り返して来る。
 深夜の暗い道を馬車で走りながら、オズはこれから暮らす土地が気候の穏やかな地域だと良いな、と未来に想いを膨らませた。


 中等部三年生、十五歳の晩秋だった。

 



















 それから三年後。

 エミスフェール国の小さな町、クライゼル町の小道を、野菜の入ったボートバスケットを腕に掛けたオズは歩いていた。快晴の中、買い物終わりで気分は上々。今は買い物の帰り道で、家に向かって歩いている。
 クライゼル町の午後は日差しに包まれて明るく、のどかな空気の中、時々鳥が鳴く声が聞こえた。オズは伸びてきた黒髪をハーフアップにして結んでおり、うなじに垂れる汗をシャツの端で適当に拭う。

(今日の夕飯はチキンカレーかな~。)

 カゴの中の野菜を見て考えてみる。この町に来たばかりの頃は忙しさもあり生活するのが大変だったが、今ではすっかり慣れてきた。
 オズが今住んでている家は古くて小さめだが、オシャレで暖かみのある家だ。そんな家の前に来ると、ちょうど郵便配達員の制服を着た男がポストに封筒を差し込もうとしているところだった。

「あ、お疲れ様です。」
「ん?おお、チャールトンさんですか!丁度良い。こちら、お届け物でございます。」

 ポスト前を通る時に配達員に挨拶をすると、そのまま封筒を手渡しで渡された。こんなことは初めてだ。

「いや~びっくりしましたよ!この封筒、指定された住所は間違いなくここなんですけど、宛先がどうも‥‥。でも貴方に会えてよかったです!勝手に中身を見るわけにもいかないし。」
「え?どういう‥‥?」
「まあとにかく、中身を見てみて何かおかしいなって思ったら、役所にお越しください。では、お受け取りありがとうございました~!」
「え、あ、ありがとうございました。」

 とりあえず反射で礼を言うと、男は「いえいえ~。」と言って去っていった。オズは首を傾げ、改めて封筒を見下ろす。

「誰からだ‥‥?」

 よく見てみると封筒には発送された場所が書かれる欄があり、そこに派手な印が押されてあった。その欄には封筒がステラグロウ帝国から発送されたことが書かれている。手紙の宛先は、ヴィリー・ハイネンとヘンリック・ゾイゼだ。

(ってことはまさか‥‥!?)

 慌てて封筒を表にひっくり返す。そこには差出人の名前があり、〝ジャスパー・カーティス〟とはっきり書かれていた。

「ヒュー!」

 オズは彼の名前を叫びながら、慌てて目の前にある家に飛び込んでいった。









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