召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第一章 異世界バカンスのはじまり

閑話 リーダの奇跡(ノア視点)

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 暗い地下室で、膝を抱えてぼんやりと魔法陣をみている。
 薄く輝く魔法陣から、最後に現れたのは男の人だった。
 最初にあらわれた人のように背が高いわけでもなく、服を掴んでヨタヨタあるくお兄さんでも、いきなり大声をあげたお姉さんとも違う、静かな男の人だった。
 周りを見回していたが私には気が付かなかった。
 薄く輝いていた魔法陣は、いつの間にか光を失ってしまった。
 もう誰も現れないのだろうと思うと、悲しくなって何もしたくなくなってしまった。
 そのまま目をつぶって下を向いてうずくまる。

「先輩!」

 のっぽのお兄さんの声が聞こえた。
 もう関係ない。関係ないのだ。
 どうしよう。これから……どうしよう。答えのない問いばかりが頭に浮かぶ。

 急に笑い声が起こった。

 気が付くとさっきまでの言い争う声は笑い声に変わっていた。
 楽しそうに皆が「リーダ」「リーダ」と最後に現れた人を呼んでいた。
 あぁ、あの人が何かを言ったんだと思った。それで奇跡が起こって、みんなを元気にしたんだと思った。
 リーダというのは名前のようだ。
 何を言ったのだろう……私もリーダさんの話を聞けば楽しくなれるのだろうか。
 リーダと呼べば、皆と同じように元気になれるのだろうか。
 何を言ったのか知りたくて、聞き耳を立ててみたがわからないままだった。
 そんなリーダさんに悪魔……ロンロが何かを言っている。
 リーダさんが、私をみた。慌てて下を向く。
 いろいろ考えた。私から話かけようか、話しかけてくれるのを待っていようか。
 
「こんにちは」

 すぐ近くまでリーダさんは来ていた。
 笑って話しかけてくれていた。
 ママ以外の人が笑って声をかけてきたのが初めてだったので、とてもびっくりした。
 ちょっとだけおしゃべりして、それから魔法で食べ物を作るところを見てみたいというので、糧食創造の魔法を使って見せる。黄色い泥を固めたようなソレだ。
「おいしくないよ」と言わなくちゃと思ったけれど、言い出せなかった。
 リーダさん……リーダは、ニコニコとそれを受取り、不思議そうに眺めたあとでソレを口にいれた。

「おいしい!」

 リーダは笑ってそういった。
 そんなはずはない。そんなはずはないのだ、私もたべてみる。
 いつもの味だ。でも、不思議とおいしく感じる。

 ――ノア、もっといいものを食べさせてあげたいけど、ごめんね。ごめんね

 ママの言葉がよみがえった。
 がっかりさせたくなくて、おいしくなかったけど我慢して食べていた。でも、リーダと食べると美味しかった。
 きっとリーダが何かしたんだと思う。
 ソレはカロメーというらしい。
 皆がそう呼んでいたから間違いない。
 私は、カロメーを作るのが得意なので、たくさん作った。リーダはたくさん食べてくれた。

「みんなで食べるご飯はおいしいっスよね。しかも仕事がないのが最高っス」
「久しぶりに食べるね、コレ」

 私とリーダ以外のみんなもおいしいって言ってくれた。
 お部屋に移動して、ご飯を食べて、魔法を使った。
 リーダ達は、一回で全部の魔法を唱えることに成功した。やっぱり皆すごい。
 それからまた、おしゃべりして、お掃除して、それからまたおしゃべりして……あっという間に夜になった。すごく楽しかった。
 お水を汲んだり、カロメーを持ってくる度に、みんなが笑ってほめてくれた。
 うれしいし、楽しい。夢のような時間だ。

 でも、帰るってお話になって怖くなった。
 またロンロと二人になるかもしれない。
 眠ったら楽しい時間が終わるかもしれないので寝ないことに決めた。
 痛いのだって寒いのだって怖いのだって、そして寂しいのだって我慢できた、眠いのも我慢すれば起きていられるはずだ。
 そう思ってがんばって、がんばって……なんだか天井がふわふわして……。
 気が付けばベッドで寝ていた。
 眠ってしまったのだ。
 我慢出来なかったのだ。
 いつのまにか朝になっていた。ロンロが私の上に浮いてて喚いていた。

「リーダが、みんなが何処かに行っちゃうわぁ。急いで急いで」

 言われるまま廊下から外をみると、みんながロバを囲んで話をしていた。
 さようならをしたロバが戻ってきていた。多分、リーダに会いにきたのだ。

 どうしよう。

 私をおいて、みんなが何処かへ行ってしまう。ロバに乗って、何処かに行ってしまう。
 きっと私がいない方が良いことに気が付いてしまったのだ。
 どうしよう。
 リーダ達とずっと一緒にいたい。でも、私がいない方が楽しいに違いないのだ。

 そうだ!いい事を思い付いた!

 私はカロメーがたくさん作れる。作るのが得意だ。
 カロメーが作れるよって言えば、カロメーが大好きなリーダは連れて行ってくれるに違いない。
 すぐに地下室へ走っていき、魔法陣に魔力を流す。
 上手く流れない。
 どうして?どうして?
 焦ってくる。パンパンと何度も地面に手をたたきつけたので手が痛くなってきた。
 焦りから、涙もでてきた。
 みんながロバに乗って町へいく姿が頭の中にうかんでくる。
 
 早くしないと、行ってしまう。
 
 何度も何度も、魔法陣に魔力を流して、やっと2本だけカロメーを作ることができた。
 両手にギュっと握りしめて急いで外にでる。
 階段を駆け上がりながら、なんて言ってお願いしようかと考える。
 ――私、カロメー作れるよ。カロメーおいしいよ。一緒につれていって。お手伝いも沢山するよ。
 ……他には、他には……。
 考えていたら外に出ていた。そして外にでたらすぐにリーダと会った。
「おはよう」と昨日のように挨拶された。
 なんて言うつもりだったのかすっかり忘れてしまって、何もいえないままカロメーを突き出してしまった。

「ありがと」

 リーダは笑って受け取ってくれた。
 何処にも行かないらしい。それだけ聞いたらうれしくなって思い切り笑った。リーダも笑った。
 ロバをしばらくみて、雨が降ってきたので部屋にもどった。
 空は暗かったが、私にはとっても綺麗にみえた。

 きっと今日も楽しい日になると思う。だって、リーダがいるのだから。
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