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第三章 魔法仕掛けの豪邸と、その住人
ますたーきー
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「修繕といえば開かない部屋にも修繕が必要になるかもしれないっスね」
「開かない部屋か……ミズキの怪しい鍵開けでもダメな部屋だっけかな」
「怪しいって何よ」
開けて貰って悪いが一般的な人はヘアピンで鍵開けはできない。鍵のかかった扉を開けるために、普通使うのはヘアピンでなくて鍵だ……鍵。
鍵?
ノアがいなくなった時に、地下室への道を変えたことを思い出す。
ロンロは、ノアがマスターキーを持っていて、その力を使ったと言っていた。
「そういえばノアはマスターキー持ってるんだよな?」
「うん……」
「え、ノアちゃんマスターキーなんて持ってたの? もっと速く言ってもらえれば鍵開けなんてしなくてもよかったのにぃ」
「……これが鍵って知らなかったの」
ミズキの冗談っぽい抗議を真に受けてしまったのか、ノアは申し訳なさそうに首に掛けていたペンダントを取り出す。いつも身に付けていたのは知っていたが、形見的な物かと思っていた。
ペンダントは、銀色をしていて金属のチェーンに付けられた金属の輪っかだった。その輪っかには『求めればす……そばに。……を失い。思えば叶い。かざせば願える』と文字が彫り込まれている。文字はすり減っていて読めないところも多く、随分と年季の入ったものに見えた。
「たしかに、これを鍵と言われても分からないな」
「ロンロに教えて貰って……」
ノアは責められていると思ってしまったのか、声がだんだんと小さくなってくる。
それにしてもロンロはマスターキーの存在を知っていたのか。どちらかといえば追求しなきゃいけないのはロンロだと思った。もっとも彼女のことだから”聞かれなかった”で押し通しそうなので、聞く気も起きない。
「まぁまぁ、ミズキねーさんに鍵開けて貰って、一つ一つの部屋探索するのも楽しかったし、もう一回開かない部屋回ればいいだけっスよ」
「そうですね。みんなでもう一回回りましょう。その上でブラウニーさんに修繕について改めて調べて貰ったほうが効率的だと思うんです。思いません?」
「確かにカガミ氏のいう通りだ。でも、鍵というけど、コレってどうやって使うんだ?」
「手に握って、魔力を通すのよ。そのまま願えば地下室への道が呼び出せるし、ドアを開けようと思えばまるで鍵が掛かっていないように開くわぁ」
ロンロは悪びれた様子もなくいつも通りだ。淡々と説明してくれる。いつものようにふわりふわりと飛んでいる姿だが、今はまるでオレたちを弄んで楽しんでいるように感じた。
「あとね、あとね。あの塔で使うと魔物がどこにいるかわかるの」
この屋敷の4階部分、あそこにある操舵輪のようなテーブルでマスターキーを使うと魔物の場所がわかるらしい。ノアは一生懸命に説明してくれるが要領を得ないというか理解できない。
「試してみよう」
わからないなら試してみるのが一番だ。そう考え、ノアからマスターキーをあずかって4階へと向かう。
「百聞は一見に如かずって言葉もありますし、良いと思います」
「ひゃくぶんでしたか」
「そうっスよ。ノアちゃんは百聞は一見に如かずって意味わかるっスか?」
「わかんないっす」
そんな雑談をしながら、みんなでぞろぞろと歩いていく。
ノアは、途中でみんなの諺についての説明を聞きながら「カガミお姉ちゃんでもわからないことがあるの?」とか「そんなに沢山」とかいろいろ驚いていた。
そうこうしているうちに4階の操舵輪のようなテーブルの前までやってきた。
マスターキーを手に握って魔力を通しながら、テーブル中央に手をもっていけばいいらしい。言われた通りにすると、テーブル中央の文字が青白くほんのりと光りだした。ボゥっという音とともに、まるで立体映像のように半透明で巨大な燭台が浮かび上がる。
燭台は大体高さ2メートル……オレの身長より高く沢山のろうそくが備え付けられた大量に枝分かれしたものだ。ろうそくには、火の点いたものと消えているものがあった。
根本は手に取れるように少し長めに、なおかつ取っ手のような装飾がされている。
「これは?」
「この屋敷、そのものが魔法の道具みたいなものなのねぇ。ここはその権能を取り決める祭壇。地下室にも似たようなものがあるわぁ」
「あのね、これをグルグルって回すの」
ノアの言う通り、テーブルにつけられた取っ手をつかってテーブル自体を回す。中華料理店のテーブルのように、グルリとテーブル自体が豪快に回る。
しばらく回すと目の前にあった燭台がきえて、波打った布のようなものが浮かびあがった。
「この辺の地図っぽいな」
後ろから見ていたサムソンがボソリとつぶやく。
「その通りよぅ。このあたりの地図。そうねぇ……あなたが知っている人を呼んでみて」
「ノア」
「はい!」
ノアが元気よく両手を上げる。それと同時に白い炎のようなものが地図上に現れた。これがノアの位置を指し示しているのだろうか。
「次はぁ、て……ううん、ノアの味方を思いうかべてみてぇ」
ノアの味方か……オレたちと西門の人達、それにヘイネルさんや、もしかしたら領主様も味方かもしれない。少なくてもオレたちは味方だな。そんなことを考えていると、地図に青い火がたくさん灯った。
「これが、ノアの味方ということか?」
「多分そうよぉ。リーダ達がゴーレムを作りに出かけた日も、この力でオーガの接近を知ってノアは町へ行ったのよぉ。お陰で、わたしも、ロバもへっとへと」
どうしてあの時に町にいたのか不思議におもったことを思い出した。後で聞いてみるつもりだったが、うやむやになっていた。
「索敵ができる地図ということか……ロンロ氏は他にどんなことができるか知っているの?」
「他にはぁ、そうねぇ、んー……ところで、もしゴーレムが作れなければどうするつもりだったの?」
そう言いながらロンロはふわりと体を翻し、入り口の扉へと飛び、扉を背にオレたちに向かいあった。
今日のロンロはオレと同じ格好をしている。執事のような服だ。整った顔立ちもあって男装の令嬢といった風体だ。
服装の効果もあるのか、その問いはいつものだらけた感じではなく真剣な問いのように感じる。
「言い訳して居座ろうかなとか……ダメだったら他所に行っただろうな」
「ノアを置いて?」
ロンロの問いを聞いて、不安そうにノアはこちらをみる。アホかと思った。
「そんなわけないだろう、オレは連れていく」
「リーダが一人できめるわけかしらぁ、相談しないの?」
「他のやつらはともかく。オレは連れていく」
「わたしも一緒にいくと思います」
カガミが真っ先に同意する。
「ふぅん。ゴーレムの献上がうまくいったから言えるんじゃないかしらぁ」
「何がいいたいんだ? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」
ほんの少し、ロンロの物言いにムカついて反射的に言い返してしまった。ロンロがどういう思いで聞いているのかわかっているだけに冷静になれなかった自分が情けなくなる。
ロンロはノアが心配なのだと思う。いままで、隠していたことや、教えてくれたことは大体ノアの意に沿っていた。今度の問いも同じようなことなのだと思った。
「あの……」
ノアがボソリと何かを言って、オレとロンロを交互に見ている。
「冗談よぉ、リーダ達のことは信用してるわぁ、本当よ」
フワリとロンロは飛び上がり、またテーブルの近くへと進む、それから言葉をつづけた。
「サムソンの問いに答えるわぁ。この屋敷の精霊を起こすこと。結界の強度を上げること。結界の種類を変えること。守り手のガーゴイルにも呼び掛けられるはずよぉ」
「ふぅん」
適当にゴロゴロとテーブルを回転させてみる。
燭台、地図、館のミニチュア、液体の入った壺と、目の前に現れる物体が変わっていく。
「ゲームのステータス画面の切り替えって感じだな。液体の入った壺は、この屋敷の魔力残量だと思う。半透明じゃなかったけど前に地下室で似たものを見たことがある」
「リーダ、燭台に表示を変えてみてくれ」
「了解」
ゴロゴロと表示を変える。
「奥のほうに火のついた小皿が置いてあるな。リーダ、燭台に触ったりできるん? できるなら、奥のほうにある小皿で火をつけられるんじゃないか?」
なるほど、スイッチのオンオフみたいなものか。早速言われた通りに試してみる。燭台はその大きさからは想像できないほど軽かった。すこしだけ大きな燭台の取り回しに苦労したが、燭台にのっているろうそくの一つに火をつけることができた。
それと同時に『ゴォォン』と、鐘が鳴るような音がして外の景色が変わった。
「開かない部屋か……ミズキの怪しい鍵開けでもダメな部屋だっけかな」
「怪しいって何よ」
開けて貰って悪いが一般的な人はヘアピンで鍵開けはできない。鍵のかかった扉を開けるために、普通使うのはヘアピンでなくて鍵だ……鍵。
鍵?
ノアがいなくなった時に、地下室への道を変えたことを思い出す。
ロンロは、ノアがマスターキーを持っていて、その力を使ったと言っていた。
「そういえばノアはマスターキー持ってるんだよな?」
「うん……」
「え、ノアちゃんマスターキーなんて持ってたの? もっと速く言ってもらえれば鍵開けなんてしなくてもよかったのにぃ」
「……これが鍵って知らなかったの」
ミズキの冗談っぽい抗議を真に受けてしまったのか、ノアは申し訳なさそうに首に掛けていたペンダントを取り出す。いつも身に付けていたのは知っていたが、形見的な物かと思っていた。
ペンダントは、銀色をしていて金属のチェーンに付けられた金属の輪っかだった。その輪っかには『求めればす……そばに。……を失い。思えば叶い。かざせば願える』と文字が彫り込まれている。文字はすり減っていて読めないところも多く、随分と年季の入ったものに見えた。
「たしかに、これを鍵と言われても分からないな」
「ロンロに教えて貰って……」
ノアは責められていると思ってしまったのか、声がだんだんと小さくなってくる。
それにしてもロンロはマスターキーの存在を知っていたのか。どちらかといえば追求しなきゃいけないのはロンロだと思った。もっとも彼女のことだから”聞かれなかった”で押し通しそうなので、聞く気も起きない。
「まぁまぁ、ミズキねーさんに鍵開けて貰って、一つ一つの部屋探索するのも楽しかったし、もう一回開かない部屋回ればいいだけっスよ」
「そうですね。みんなでもう一回回りましょう。その上でブラウニーさんに修繕について改めて調べて貰ったほうが効率的だと思うんです。思いません?」
「確かにカガミ氏のいう通りだ。でも、鍵というけど、コレってどうやって使うんだ?」
「手に握って、魔力を通すのよ。そのまま願えば地下室への道が呼び出せるし、ドアを開けようと思えばまるで鍵が掛かっていないように開くわぁ」
ロンロは悪びれた様子もなくいつも通りだ。淡々と説明してくれる。いつものようにふわりふわりと飛んでいる姿だが、今はまるでオレたちを弄んで楽しんでいるように感じた。
「あとね、あとね。あの塔で使うと魔物がどこにいるかわかるの」
この屋敷の4階部分、あそこにある操舵輪のようなテーブルでマスターキーを使うと魔物の場所がわかるらしい。ノアは一生懸命に説明してくれるが要領を得ないというか理解できない。
「試してみよう」
わからないなら試してみるのが一番だ。そう考え、ノアからマスターキーをあずかって4階へと向かう。
「百聞は一見に如かずって言葉もありますし、良いと思います」
「ひゃくぶんでしたか」
「そうっスよ。ノアちゃんは百聞は一見に如かずって意味わかるっスか?」
「わかんないっす」
そんな雑談をしながら、みんなでぞろぞろと歩いていく。
ノアは、途中でみんなの諺についての説明を聞きながら「カガミお姉ちゃんでもわからないことがあるの?」とか「そんなに沢山」とかいろいろ驚いていた。
そうこうしているうちに4階の操舵輪のようなテーブルの前までやってきた。
マスターキーを手に握って魔力を通しながら、テーブル中央に手をもっていけばいいらしい。言われた通りにすると、テーブル中央の文字が青白くほんのりと光りだした。ボゥっという音とともに、まるで立体映像のように半透明で巨大な燭台が浮かび上がる。
燭台は大体高さ2メートル……オレの身長より高く沢山のろうそくが備え付けられた大量に枝分かれしたものだ。ろうそくには、火の点いたものと消えているものがあった。
根本は手に取れるように少し長めに、なおかつ取っ手のような装飾がされている。
「これは?」
「この屋敷、そのものが魔法の道具みたいなものなのねぇ。ここはその権能を取り決める祭壇。地下室にも似たようなものがあるわぁ」
「あのね、これをグルグルって回すの」
ノアの言う通り、テーブルにつけられた取っ手をつかってテーブル自体を回す。中華料理店のテーブルのように、グルリとテーブル自体が豪快に回る。
しばらく回すと目の前にあった燭台がきえて、波打った布のようなものが浮かびあがった。
「この辺の地図っぽいな」
後ろから見ていたサムソンがボソリとつぶやく。
「その通りよぅ。このあたりの地図。そうねぇ……あなたが知っている人を呼んでみて」
「ノア」
「はい!」
ノアが元気よく両手を上げる。それと同時に白い炎のようなものが地図上に現れた。これがノアの位置を指し示しているのだろうか。
「次はぁ、て……ううん、ノアの味方を思いうかべてみてぇ」
ノアの味方か……オレたちと西門の人達、それにヘイネルさんや、もしかしたら領主様も味方かもしれない。少なくてもオレたちは味方だな。そんなことを考えていると、地図に青い火がたくさん灯った。
「これが、ノアの味方ということか?」
「多分そうよぉ。リーダ達がゴーレムを作りに出かけた日も、この力でオーガの接近を知ってノアは町へ行ったのよぉ。お陰で、わたしも、ロバもへっとへと」
どうしてあの時に町にいたのか不思議におもったことを思い出した。後で聞いてみるつもりだったが、うやむやになっていた。
「索敵ができる地図ということか……ロンロ氏は他にどんなことができるか知っているの?」
「他にはぁ、そうねぇ、んー……ところで、もしゴーレムが作れなければどうするつもりだったの?」
そう言いながらロンロはふわりと体を翻し、入り口の扉へと飛び、扉を背にオレたちに向かいあった。
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「言い訳して居座ろうかなとか……ダメだったら他所に行っただろうな」
「ノアを置いて?」
ロンロの問いを聞いて、不安そうにノアはこちらをみる。アホかと思った。
「そんなわけないだろう、オレは連れていく」
「リーダが一人できめるわけかしらぁ、相談しないの?」
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「わたしも一緒にいくと思います」
カガミが真っ先に同意する。
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「何がいいたいんだ? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」
ほんの少し、ロンロの物言いにムカついて反射的に言い返してしまった。ロンロがどういう思いで聞いているのかわかっているだけに冷静になれなかった自分が情けなくなる。
ロンロはノアが心配なのだと思う。いままで、隠していたことや、教えてくれたことは大体ノアの意に沿っていた。今度の問いも同じようなことなのだと思った。
「あの……」
ノアがボソリと何かを言って、オレとロンロを交互に見ている。
「冗談よぉ、リーダ達のことは信用してるわぁ、本当よ」
フワリとロンロは飛び上がり、またテーブルの近くへと進む、それから言葉をつづけた。
「サムソンの問いに答えるわぁ。この屋敷の精霊を起こすこと。結界の強度を上げること。結界の種類を変えること。守り手のガーゴイルにも呼び掛けられるはずよぉ」
「ふぅん」
適当にゴロゴロとテーブルを回転させてみる。
燭台、地図、館のミニチュア、液体の入った壺と、目の前に現れる物体が変わっていく。
「ゲームのステータス画面の切り替えって感じだな。液体の入った壺は、この屋敷の魔力残量だと思う。半透明じゃなかったけど前に地下室で似たものを見たことがある」
「リーダ、燭台に表示を変えてみてくれ」
「了解」
ゴロゴロと表示を変える。
「奥のほうに火のついた小皿が置いてあるな。リーダ、燭台に触ったりできるん? できるなら、奥のほうにある小皿で火をつけられるんじゃないか?」
なるほど、スイッチのオンオフみたいなものか。早速言われた通りに試してみる。燭台はその大きさからは想像できないほど軽かった。すこしだけ大きな燭台の取り回しに苦労したが、燭台にのっているろうそくの一つに火をつけることができた。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
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