召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第五章 空は近く、望は遠く

しんでんめぐり

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「他ならぬリーダ殿の頼み。引き受けましょう」

 良い雰囲気の中、頼んだハロルド捜索の話は快諾された。
 できるだけ細かくハロルドの特長を伝える。

「なるほど、するとハロルドという子犬は、このような姿形なのですね」

 若い神官が手配用にと、オレからの聞き取り内容を絵に起こしてくれた。
 うろ覚えで伝えたハロルドの風貌だったが、出来上がった絵をみると見事に特徴を捉えてくれていた。
 凜々しい顔なんて、イメージ通りだ。

「そうです。このような姿です」
「先ほどの話では、ギルドにも懸賞金を出しているとか。私どもから、ギルドに絵を提供しましょう」

 予想外の出来事だ。ハロルド捜索が一気に進んでいる手応えを感じる。

「ここまで手助けしていただけるとは嬉しい誤算です」

 正直な賞賛だ。
 エレク少年の提案を聞いたときは、半信半疑だったが、とてもいい提案をしてもらえたと思う。

「そういっていただけると、私どもも嬉しいものです。ところで、せっかくの縁です。リーダ様も、タイウァス様の信徒となってはいかがですか? 2年契約で、月々銅貨18枚。もし1年分前払いであれば銀貨4枚ですぞ」
「2年契約?」
「そうです。途中解約されますと、違約金として銀貨1枚をいただくことになります。しかし、特典としてタイウァス神殿の由緒あるお酒タイウァスの滴、それに各所神殿にて、寝泊まりを格安で提供できますぞ」

 どこかで聞いたような話をまくし立てられる。なんだろ、コレ。少なくとも神様や信仰の話で、オレがイメージしている話とはかけ離れている。
 とりあえず、ここから離れよう。相手の気分を害さないように気をつけて、離れよう。

「なるほど、とても興味深いお話です。しかしながら、少し約束がありまして……今日はあまり時間がないのです。また日をあらためてお伺いします」
「そうですか、それは仕方がありませんな。では、こちらをどうぞ」

 紙を渡される。
 信徒契約に関して書かれている紙だ。
 一般、銀、金と3つの契約グレードと、それぞれの月々契約料金が書かれている。
 他にも長期信徒特典に、タイウァス信徒が、他の神に仕える信徒よりも優れている点が網羅されていた。
 やはり、ピンとこない。
 とりあえず紙を眺めつつ逃げるように馬車へと戻る。

「タイウァス信徒になられるのですか?」
「いえいえ、そのような気はありません。ただ、あれだけお世話になったのに申し訳ないという気持ちはあります」
「タイウァス信徒は、他の信徒に比べて月々契約料が安いので、悪くはないと思いますよ。欠点といえるのは、加護を得る言葉が長いのが使いづらいくらいです」

 いやに軽い扱いだな。この世界の信仰ってのはこんな物なのかな。
 あんまり宗教の話は得意ではないので、突っ込んで聞けない。あとでロンロにでも教えて貰おう。

「せっかくなので、他の神殿……ギリアにあるのはケルワッル神殿とルタメェン神殿に行ってみませんか? タイウァス神殿より、立派な神殿で見応えありますし、子犬を探す手伝いをしていただけるかもしれません」
「魅力的な提案ですが、ご迷惑では?」
「大丈夫ですよ。元々、今日は契約料金の前払いのために、全部の神殿を回る予定でしたので。それで、ヘイネル様より馬車もお貸しいただけたわけです」

 ん? エレク少年は、3つの神様の信徒ということなのか? いや、同時に3つの神様に使えるってのは許されるのか?

「え? 同時にいくつもの神の信徒になられているのですか?」
「えぇ。ヘイネル様とこのギリアに来たときに、神殿とのお付き合いもありますので……。町にある全ての神殿と信徒契約を結びました。加護の面から考えると、必要はないのですが……得るものもありますよ」

 エレク少年が目をやった先には、2本の瓶が置いてあった。
 タイウァス神殿で受け取っていたものだ。

「そういえば、何か受け取っていましたね」
「信徒契約料金を前払いしたので、特典を頂けたのです。タイウァスの滴というお酒です。味もさることながら安眠をもたらす効用もあります」

 もらった紙にも、信徒特典などと書いてあった。一般的な話なのだろう。

「安眠できるというのはいい話ですね」
「ヘイネル様は最近仕事におわれてお疲れなので差し上げようかと思い至ったのです」

 上司思いのいい少年だ。
 ヘイネルさんは忙しいのか。偉い人は何処の世界でも、それなりに忙しいのは変わらないようだ。
 それから、エレク少年の提案にのって、残り2つの神殿へと向かうことにした。
 途中ギルドへより、神殿をまわってくることを伝言してもらう。
 馬車は次の神殿へと向かう。

「神殿は3つなのですね」
「ギリア大火で、大神殿が焼けてしまったので、町の規模にくらべて神殿が少ないのです」
「ギリア大火ですか?」
「もう100年以上前の話ですよ。ギリアの町が半壊するほどの火災があったのです。一月を超えて、なお町は燃え続けたという話もあるほどの大火災だったようです」

 そんなことがあったのか。古い町には、それなりの歴史があるものだ。
 不謹慎かもしれないが、そんな災害の話でも、歴史を感じる話は面白いものだ。

「それを乗り越えて今があるのですね」
「えぇ。それに今、大神殿を再建する予定もあります。ギリアの町はかっての姿を取り戻すと私は信じています。……着いたようです。火と変化の神ケルワッル神の神殿です」

 タイウァス神殿に似た白い建物だ。
 違いといえば、タイウァス神殿は青いラインで控えめな装飾がされていた。それに比べ、ケルワッル神殿は、赤いラインで装飾されている程度だ。
 エレク少年に続いて中に入る。彼は契約更新の手続きを手早くすませて、ハロルド探しをしていることを神官に伝えてくれた。

「申し訳ありませんが、ご希望には添えられません」

 残念ながら断られた。だめ元での相談だったので、引き下がることにする。
 気を取り直して神殿を見回すと、神殿内がちょっとした店のような形になっていることに気がついた。
 お酒にパン、本、あとは祝福の依頼なんてものもある。

「物販なんてしているんですね」
「ケルワッル様の、素晴らしさを知っていただくために、信徒でない人でも購入できますよ」

 神官の一人が、オレの感想を聞いて嬉しそうに商品の説明を始めた。
 本は神話についての本らしい。お酒はワインで併せて売っているパンは、とてもワインに合うそうだ。
 皆のお土産に全部買うことにした。ついでに、タイウァス神殿でくんだ聖水に祝福をお願いする。前回は、2つの樽のうち一つだけしか祝福して貰わなかった。

「リーダ様?」

 本などを買って影の中に投げ込み、樽を出したときに、エレク少年が驚きの声を上げる。
 神官も驚いていた。
 そういえば影収納の魔法を見せるのは初めてだ。

「ただの収納魔法ですよ。それで、この樽に聖水が入っているので祝福をお願いしたいのです」

 神官はオレの言葉を聞いて、一瞬固まっていたが、すぐに祝福してくれた。
 樽の2本目を出そうとしたときに、祝福は1日に1度だけだと断られた。信徒になれば、サービスでもう一回祝福してくれるというが、丁重にお断りして立ち去った。
 最後に向かうのは豊穣と泥の神であるルタメェン神の神殿だ。
 どんなところなのだろうか、興味は尽きない。
 ハロルド探しに協力してくれれば嬉しいものだが、どうかなぁ。
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