召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
87 / 830
第六章 進化する豪邸

おんせんはだれのもの

しおりを挟む
「うへぇ……帰りの旅が始まる」

 ついつい愚痴ってしまう。行きの辛い道のりが思い出されたからだ。

「それじゃさ、帰りは町の方へいってみない?」
「なかなか良い考えかもしれないぞ。町は遠いが、屋敷に比べれば道のりはマシに見える」

 ミズキの提案に、サムソンが同調する。
 たしかに見た感じ、少しだけ急斜面が続くが、あとの道はなだらかに見える。

「じゃ、そうしよう」

 この温泉に来るときとは違う道、町の方へと向かうことにした。
 最初こそは急斜面だったが、それもすぐに終わり、1時間程度で木々もまばらな穏やかな山の斜面となった。

「そっかぁ。ここに出るんだ」

 ミズキが楽しそうな声をあげる。
 森を抜けると遠くにギリアの町がうっすらと見えた。正確には城壁だ。
 木々はとてもまばらで、あと少し進むと確か街道があったはずだ。

「ちょっとだけ待ってくれないか」

 オレは皆を止めた。

「リーダ、何かあったのか?」
「いや、馬車を出す」
「馬車って、影収納の魔法でもってきてたんスか?」

 プレインの問いに笑って肯定し、影の中から馬車を出した。

「さすがです。リーダ様。すぐに支度するでち」

 チッキーがすぐに馬に馬車を引かせる支度をする。
 ミズキも手伝い、すぐに作業は終わった。

「マジか……」
「私も影収納の魔法を練習しようと思います」

 そこから先は気楽なものだ。ロバにはノアとミズキが乗り、残りは馬車に乗り込む。

「このまま迂回して屋敷にもどると夜遅くなりそうっスから、町で一泊しないっスか?」
「賛成! 町で一杯しよう」
「もう……それだったら、西門に行った方がいいと思います。宿が近いです」

 そんなわけで町へと向かう。
 夕方近くになって西門に到着した。
 いつもお世話になる宿で部屋をとり、ゆっくりする予定だ。
 ところがそんなに予定通りには行かなかった。
 西門をちょうどくぐった時のことだった。
 オレ達の横を馬が駆け抜け、グルリとUターンするように立ち塞がった。
 御者台にひょっこり顔を出したオレと、馬上にいる兵士の目があった。

「リーダ殿……ですな」
「えぇ。そうですが……何か?」
「ヘイネル様!」

 オレが肯定すると、頷いた兵士は大きな声でヘイネルさんを呼んだ。
 兵士の視線の先を見やると、馬に乗ったヘイネルさんが向かってきていた。後ろには幾人かの兵士が見える。

「無事なようだな。朝早くに至急の要件でトーク鳥を飛ばしたのだが、返答がないので様子を見に行くところだったのだ。いや、偶然にしろ助かった」

 心配してくれていたのか。申し訳ないことをした。

「いえ、ご心配をおかけしました」
「ふむ。それにしても感心なことだ。先日、あれだけの出来事を引き起こしたのだ。領主への報告をするというのは当然としても、主と配下全員が自主的に出頭しようとはな」

 やばかった。無駄口叩いて「一杯やりに来ました」なんて言わなくてよかった。
 そうか……領主への報告か。
 丸投げだったが、一応は任されたわけだから、報告は必要だったか。
 危ない危ない。

「えぇ。もちろんですとも、トーク鳥とは行き違いになっていたようです。まずは、一報を入れてから伺うべきでした」

 焦りつつも適当に話を合わせることにする。

「ふむ。その考えは殊勝なことだが、君一人でかまわん。今すぐに城へと来てもらいたい」

 一人は心細いなと振り返る。そこには満面の笑みをしたサムソンがいた。

「リーダ。我々の事は気にするな。ノアサリーナお嬢様は俺達にまかせておけ」
「えぇ。私達の代表としてしっかりと務めを果たしてきてください」

 誰もついてきてくれないらしい。
 畏まった態度のサムソンとミズキの言葉に後を押されるように、一人で出頭することになった。
 ロバに乗って、ヘイネルさんの後ろを兵士達に囲まれついていく。
 城へと到着すると、以前に城へと来たときと同じように待たされた。
 ただし今回はヘイネルさんが迎えにきて、案内された先には領主が一人だけ待っていた。

「ラングゲレイグ様、連れて参りました」
「ご苦労」

 ヘイネルさんの言葉に、領主は一言で返しオレをみた。
 やばい。挨拶の言葉を忘れていた。
 ロンロについてきてもらえばよかった。

「挨拶はよい。さてリーダよ、早速本題に入る。テストゥネル相談役は、なにゆえこの地へと参ったのだ?」

 挨拶は省略していいと言われて助かったが、この質問は困る。
 テストゥネル様の子供を召喚してしまいました……なんて言っていいのだろうか。
 あれ? そういえばテストゥネル様は、オレ達が元の世界に帰りたくなったときのために、領主に言い含めておくと言っていたはずだ。
 まずは探りを入れてみるか……。

「テストゥネル様から、お言葉は何も無かったでしょうか?」
「そうだな。戯れにギリアへと来たことと、其方らがロウス法国に行くことを希望したときは便宜を図るように……それと、騒がせた事について若干の謝罪だな」

 良かった。約束通り連絡してくれていたようだ。
 適当とは言え、騒ぎについてのフォローもしてもらえている。
 これに乗っかろう。

「それが全てです。私もテストゥネル様には逆らえません。ところで何故、テストゥネル様を相談役と呼ばれているのですか?」
「ん? そうだな……ロウス法国は、法律が最も上位にある。あの国においては王ですら法律には逆らえない。だが、法律は世の流れに合わせて変えねばならぬ」
「確かにそうでしょう」

 よかった。話をはぐらかせることに成功したようだ。

「そこで、かの国においては、王と貴族の代表達、地主や商人により、合議のうえ法律の変更がなされる」
「議会制ですね」
「……ギカイセイ? 議会か。なるほど、そうだな。だが法を無力化する法も作ることができる……らしい。そこでロウスの初代王は龍神テストゥネルと、ある約束をした」
「約束ですか?」
「龍神としてではなく、長命の知恵者として国を手助けするという約束だ。そのために相談役という立場が用意された。ロウス法国では、テストゥネル相談役に、相談と承認を得なくては法律も変えられず、他国との契約も結べないそうだ」

 なるほど。
 よその国の法律なんて知ったことでは無いが、話をうまくはぐらかせたことに満足し頷き話を続ける。

「それで龍神ではなく相談役と呼ばれているのですね」
「そうだ。ヨラン王国は、かの国とも親交がある。故に、呼び名も相手に合わせている」
「勉強になりました。さすがは領主様です」
「世辞は良い……ん? ところで其方、何か臭うな?」

 領主が訝しげにオレをみる。この距離で臭いがよく分かるな。
 匂い……温泉の匂いか。

「これは……その温泉の匂いです。まだ、少し服に残っていたようです」
「温泉? いつの話だ?」

 どうしよう。午前中です……って言ったら不味いよなぁ。
 せっかく自ら出頭したという建前が通じているわけだし。
 正直に話を進めておいたほうが良かったかもしれない。

「テストゥネル様が、立ち去った後のことです。いろいろありまして、温泉があるらしいと……それで見に行ったのです」

 結局、ごまかした。嘘は言っていない。

「そうか。して、その温泉は使えそうなのか?」
「危険ではないようです。ただし、温度が低く、つかるには適当でないかと」
「それだけでは分からぬな。ヘイネル、発見された温泉の価値判断を行え。仔細は其方にまかせる」
「……ラングゲレイグ様?」
「呪い子がまつわることだ。他の者に任せるわけにはいかぬだろう」
「それはそうですが……」
「王都への連絡や、権利関係の手配までを行えとは言っておらぬ。価値判断に関しては其方の言葉を聞こう」

 話は終わりといわんばかりに手をパタパタと振り、退出を促される。
 一応、テストゥネル様が来襲した件については、うやむやの内に終わったので良しとしよう。
 それにしても、どこか似たようなことあったなと気に掛かる。
 なんというか丸投げだ。
 ここに来る途中で、ヘイネルさんの顔色悪いなと思っていたが、こんな感じでいろいろ丸投げされているからではないかと感じた。
 どうやらヘイネルさんが出口まで送ってくれるらしい。

「今日は、この町に止まるのかね?」

 前を歩くヘイネルさんはこちらを向くことなく話しかけてきた。

「その予定です。宿も取ってあります」
「ふむ。では、明日迎えにいく。案内するように」
「それは大丈夫ですが……価値判断というのはどのような事をするのでしょうか?」
「そうだな……成分や、効果、広さ、領地に富をもたらすかどうかの判断であるな」
「え、温泉って見つけた者が自由にしていいものではないのですか?」

 オレの言葉を聞いて、ヘイネルさんはこちらを振り向いた。その顔は驚きに満ちている。

「そのようなわけがなかろう。ヨラン国にある全ては王のもの。領民は、王の慈悲によりその一部を頂いているに過ぎぬ。よって温泉も、王のものである」

 なんてことだ。
 このままでは快適温泉ライフが泡と消えてしまう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...