召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第六章 進化する豪邸

はぐれひりゅう

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 町の端、タイウァス神殿へと向かう。
 青空市場は、今日は休み。
 人もまばらなガランとした広場を、一人トボトボと歩くバルカンを見つけた。

「あっ、いたいた。おーい! バルカン!」

 ミズキが手を振りながら大きな声でバルカンを呼んだ。
 向こうもこちらに気がついた。
 いつもと違い、大きな声で返事するわけでなく、軽く手を上げて近づいてきた。

「あー。ミズキはいつも元気だな」
「バルカンは元気ないね。タイウァス神殿で何かあったの?」
「いや、大したことじゃない。ところでミズキとリーダはどうしてここにいたんだ?」

 バルカンは、酷く憔悴して見えた。
 声にいつものような張りが無い。

「バルカンを探していたんだ。知り合いからタイウァス神殿にいるかもしれないって聞いて来たんだ」
「あー。そうか……知り合いってのは城の奴だろ?」
「そうだな」
「それなら知ってるだろ? 今日の日没までに銀貨8枚が必要なんだ……」

 オレはエレク少年に、バルカンはタイウァス神殿にいると聞いただけだ。
 銀貨8枚が必要なんて話は知らない。
 しかし、バルカンの憔悴している理由は分かった。詳細までは分からないが、お金が必要だったわけだ。それも、大至急に銀貨8枚。
 バルカンには世話になっている。見捨てるつもりはない。
 不幸中の幸いに、オレ達にはバルカンへお金を渡す理由もある。相談料として、銀貨8枚くらい渡すのは問題ない。

「あぁ。元々バルカンには相談したいことがあって探していたんだ。込み入った話になるから、謝礼もはずむつもりだ」

 バルカンは怪訝そうにオレとミズキを見ていた。
 しばらくして、何かを諦めたように、小さく溜め息をつき言葉を続けた。

「どんな案件だ? さわりだけ聞いて、判断したい」
「さわりだけでも、他言無用だ」
「いいぜ。問題ない」
「温泉をみつけた。呪い子に領主は運営は任せてるつもりはないそうだ。だから、代わりに運営してくれる人を探している」
「温泉?」

 バルカンの表情が固まる。

「あれだよ。バルカン、あの、熱いお湯が地面から出る」
「おいおい。ミズキ、馬鹿にするな温泉くらい知ってるぜ」

 ミズキの冗談のような解説に、バルカンは苦笑しつつ突っ込みを入れた。

「オレ達は、この町に頼れる商人がいないんだ。適当な人を紹介するなり、アドバイスが欲しい」
「よくわからんが、確かに面倒くさい案件のようだ。悪いが先払いだ。銀貨8枚……いや、10枚だ。それで相談に乗ってやる」
「わかった。それじゃ、馬車にのってくれ。城まで送る」
「あー。まぁ、そうだよな」

 オレの言葉に、バルカンは諦めたように馬車にのる。
 ロバが引く小型の馬車だ。エリクサーを飲んで元気になったミズキに御者をまかせ、バルカンと向かいあって座る。

「とりあえず前払いだ」

 オレは、約束していた銀貨を渡す。

「確かに」

 丁寧に数えてから、バルカンは懐にいれる。

「何があったんだ? オレは、城の人間から、バルカンはタイウァス神殿にいるとしか聞いてないんだ」
「なんだよ……俺の早とちりか。まいったな」

 バルカンは頭をガリガリとかいて独り言のように声をだした。
 なんとなくごまかそうとしている雰囲気がみてとれる。

「でさ、何があったのさ、バルカン?」

 そんな思惑は知らないとばかりに、御者をしているミズキが追い打ちのように質問を重ねた。

「わかったわかった。どうせ城の奴に聞けばわかる話だ」
「そうか」
「俺は……独立して最初の商売にしくじったんだ」

 独立? バルカンは奴隷階級だったはずだ。たしか、奴隷階級にある者は、自ら商売ができない。それに、最初の商売にしくじった? わからないことだらけだ。

「商売にしくじったから、お金を?」
「そうだ。失敗しちまった。運もなかった」
「そっかぁ。で、バルカンは何をやらかしたの?」

 暗く呟くように声を出すバルカンに、ミズキがいつもの調子で質問する。
 空気の違いがすごい。相手を思いやって聞いてほしいものだ。

「俺は何もやらかしてない。はぐれ飛竜の被害にあったんだ。ちょっと前、大きな竜が、ギリアの町を横切ったろ?」

 テストゥネル様だ。あの人……というか龍神、何をやらかしたんだ。被害って……場合によってはテストゥネル様が、損害の穴埋めする話ではないか。
 オレも無関係とはいえないだけに、少し目が泳ぎ、意図せず背筋が伸びる。

「……そうだね。確かに大事だった」
「あの騒ぎで、領主様の守りがおろそかになった。皆、あの大きな竜に注意がいってしまったのさ」
「確かに、あれほどの大きな竜だからね」
「その隙に、飛竜がギリアの町を襲ったんだ。すぐに、商業ギルドが、手配した冒険者が討伐したが……結構な被害がでた。俺も巻き込まれて、このざまだぜ」

 バルカンはお手上げとばかりに両手をあげる。
 その内容だと、別にバルカンは悪くないじゃないか。

「お金って、治療費か? タイウァス神殿で治療してもらって、その代金を払わないといけないと?」
「ちがう。俺は、客から預かったトーク鳥を食われちまったんだ。その弁償だ。お城に連れて行かれて、役人から日没までに銀貨8枚を払うように命じられた」
「それで?」
「タイウァス神殿に、信徒契約料を前払いしたから、返してもらいに行ったんだ。結局のところ、断られたんだがな」

 なるほど。なかなか不運で、世知辛い話だ。

「でも、それで全部じゃないだろ?」
「あー。それでも、時間はできた。あとは……なんとか金策するさ」

 バルカンの様子から、弁償するお金は銀貨8枚以上ある気がしてカマをかけてみたが、当たりだったようだ。
 自分から言わないところをみると、オレ達に迷惑をかけたくないと思っているのかもしれない。

「バルカン、もうすぐ城だよ」

 オレがどう対応しようかと考えているうちに、城へとついてしまった。

「ここで降りる。すぐに、お金を相手に渡して戻ってくる」

 そんな言葉が先か、行動が先か、さっと馬車から飛び降りバルカンは城へと走って行った。

「バルカン、戻ってきたら酒場にでも行って、相談しつつ慰めたげよ」

 コイツ、今日も飲む気か。
 どちらにしろと、落ち着いたところで話をしたほうが良さそうだ。
 オレ達になんとかできるレベルの問題だったらいいな。
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