105 / 830
第六章 進化する豪邸
てびょうしとまどうぐ
しおりを挟む
「頼もしいじゃん」
お茶請け代わりにカロメーを囓りながら、ミズキが軽い調子で賞賛する。
「うん。このお家から、温泉までロープを張るんでしょ」
「ところでクローヴィスは、空中で止まったりできるっスか?」
「止まることも、宙返りだってできるよ」
とても自信のある様子だ。
ミズキがパチパチと手を叩き、それをみたノアも習って手を叩いている。
「マジか……。それなら、早速ロープを張る準備をしよう」
「あれ? ロープってまだ買ってないよな」
オレの一言に、椅子から立ち上がりかけたサムソンがしまったという顔をする。
「ピッキーが買い付けして、次に戻ってくるとき持ち帰る予定っスよね」
次にピッキーが帰ってくるのは、4日後か。
今日のことにはならないな。
次にクローヴィスを呼んでもいい日を確認する……10日以上先だ。ずいぶん先になる。
「今日すぐにロープ張るってわけにはいかないようだ。次の機会ってことになるな」
テストゥネル様からの手紙をプレインに渡し、延期となる見込みを皆に伝える。
クローヴィスが、がっかりした様子で肩を落としていた。
「それじゃ、残りを進めよっか。今日は、クローヴィスのおかげでサムソンの作ってるやつが完成するんでしょ」
サムソンの作っているやつ……環境転移を利用する魔導具か。
「まかせろ。転移先の座標を確認できたぞ。これで一気に進めることができる」
頼もしい言葉だ。
「クローヴィス君のおかげっスね」
それから夕方までは、環境転移の魔導具作りを皆ですすめることにした。
オレの膝くらいまでの高さがある壺に、環境転移の魔導具を仕込む。
魔導具を起動させると、壺の中は灼熱の空間になる。
その灼熱の空間に、温泉のお湯を流し込むことでお湯の温度を上げる。ついでに流し込むお湯に含まれる魔力を使うことで、環境転移の魔法を起動させ続ける魔力をまかなう予定だ。
お湯で環境転移の魔法を起動させ続けることができるのは実験済みらしい。
ちなみに今回使う壺は、ガラクタ市で買った代物で、やたら重くて不格好な代物だ。
設置してみて駄目なら、ふさわしい物を改めて準備すればいいだろう。
「よし。これで材料は全て揃った。魔法陣も用意した。あと少しだ」
空き部屋に、魔法陣が描かれた布を敷く。それから次々と材料を置いていく。
「いっぱいあるっスね」
「岩塩に、石灰、鉄粉に水、貝殻に、琥珀……大量の鳥の羽、それから……」
延々と説明される材料は、本当に多種多様だ。
次にサムソンは皆に紙を配った。
書いてあるのは呪文だった。環境転移の魔導具生成の呪文だが、これが結構長い。さすがにゴーレムを創造した時ほどでは無いが、なかなかのボリュームだ。
「なんだか、途中で噛みそうな気がするよ」
「失敗しても、触媒は消えない。実験済みだ」
早速、皆でそろって詠唱する。ところが詠唱に苦戦する。
ゴーレムの時も思ったが、ある程度皆の詠唱を揃えないと言い間違えをしてしまう。どこまで詠唱したのか分からなくなるのだ。
加えて初見の魔法だ。ゴーレムの時は、ゴーレムを研究する中で何度も唱えたり、他人の詠唱を聴いたりしていたので、練習なしでも揃えられたが、今回は違う。
「意外な落とし穴があったな」
「リズムをとって詠唱するのがいいと思います。思いません?」
「……リズムっスか……じゃ、ノアちゃんにクローヴィス君、それにチッキーに手を叩いてもらうのはどうっスか」
「いいじゃん。なんか盛り上がりそうだし」
カラオケで手拍子入れている風景が目に浮かぶ。なるほど、手拍子でリズムか。
プレインの提案を聞いて、ノア達3人は話し合いを始めた。
しばらくして、ノアがパチンパチンとリズミカルに手を叩きながら話始める。
「あのね、草笛の歌はこうやって手を叩いて歌うの。こんな風に手を叩けば良いの?」
草笛の歌? 有名な歌なのだろうか。クローヴィスにチッキーも知っている歌なら問題ないだろう。
「そうそう。そんな風にリズムを取って欲しいと思うんです。お願いね」
「じゃ、スタート!」
ミズキが手を叩き、それを合図に詠唱を始める。
一定のリズムで手を叩く音が聞こえ、その音に合わせて詠唱する。
ちょっとした合唱だ。
詠唱しているうちに、楽しくなってきて不思議な一体感があった。そして誰も間違えず詠唱できたこともあって魔法は成功した。
空中に小さな青い球体が出現し、床に置いた材料が吸い込まれていく。吸い込む間に幾度となく点滅するように色を変えた球体は、やがて白い半透明な球体になり、ゴトンと音を立てて地面に落ちた。
「キュペンモーア水晶玉……ですか」
カガミが地面におちた球体をのぞき込むように見て声をあげる。看破の魔法で、読み取ったのだろう。
「成功したようだ。これを真っ暗な空間において一晩おくと、置かれた空間が入れ替わる」
「魔力は使わないんスか?」
「少しだけ使う。だから水晶に蓄積された魔力が尽きると……、環境転移は終わってしまうな」
「駄目じゃん」
「この球体に、魔力吸収の魔法陣を直接書き込む。あとは次々注がれる温泉から魔力をとれば半永久的に動く……はずだ。試しに作ったやつだと上手くいった」
あとは実際に温泉で動かして確認することにした。
魔導具が完成し、後片付けが終わってみれば夕方だった。
そろそろクローヴィスが帰宅する時間だ。
「クローヴィス、また遊ぼうね」
「そうだ。クローヴィス君……テストゥネル様に、念のため、ロープを張る手伝いしていいか聞いておいて欲しいと思うんです」
「よくわかんないけど……いいよ。それじゃ、またね」
そんなやり取りをして、クローヴィスは帰っていった。
カガミとしては、クローヴィスに手伝ってもらって大丈夫なのかが心配なのだろう。
オレは心配していない。
テストゥネル様の手紙にも好きにさせていいとあったわけだしな。
そして4日後にロープを受け取る、ピッキーが買い付けた丈夫なロープで、金貨20枚もした。馬車に積むのが大変だと連絡があって、オレが受け取りに行った。このようなロープは通常は帆船に使うそうだ。
そんなオレ達が好き勝手に魔導具を作ったり、ロープウエイの準備をしている間も、温泉にかかる工事は急ピッチで進む。
気がつけば、温泉の工事も終わり、隣接する宿も完成という日になった。
その日は、クローヴィスがやってくる日、オレ達のロープウエイが完成する日だった。
お茶請け代わりにカロメーを囓りながら、ミズキが軽い調子で賞賛する。
「うん。このお家から、温泉までロープを張るんでしょ」
「ところでクローヴィスは、空中で止まったりできるっスか?」
「止まることも、宙返りだってできるよ」
とても自信のある様子だ。
ミズキがパチパチと手を叩き、それをみたノアも習って手を叩いている。
「マジか……。それなら、早速ロープを張る準備をしよう」
「あれ? ロープってまだ買ってないよな」
オレの一言に、椅子から立ち上がりかけたサムソンがしまったという顔をする。
「ピッキーが買い付けして、次に戻ってくるとき持ち帰る予定っスよね」
次にピッキーが帰ってくるのは、4日後か。
今日のことにはならないな。
次にクローヴィスを呼んでもいい日を確認する……10日以上先だ。ずいぶん先になる。
「今日すぐにロープ張るってわけにはいかないようだ。次の機会ってことになるな」
テストゥネル様からの手紙をプレインに渡し、延期となる見込みを皆に伝える。
クローヴィスが、がっかりした様子で肩を落としていた。
「それじゃ、残りを進めよっか。今日は、クローヴィスのおかげでサムソンの作ってるやつが完成するんでしょ」
サムソンの作っているやつ……環境転移を利用する魔導具か。
「まかせろ。転移先の座標を確認できたぞ。これで一気に進めることができる」
頼もしい言葉だ。
「クローヴィス君のおかげっスね」
それから夕方までは、環境転移の魔導具作りを皆ですすめることにした。
オレの膝くらいまでの高さがある壺に、環境転移の魔導具を仕込む。
魔導具を起動させると、壺の中は灼熱の空間になる。
その灼熱の空間に、温泉のお湯を流し込むことでお湯の温度を上げる。ついでに流し込むお湯に含まれる魔力を使うことで、環境転移の魔法を起動させ続ける魔力をまかなう予定だ。
お湯で環境転移の魔法を起動させ続けることができるのは実験済みらしい。
ちなみに今回使う壺は、ガラクタ市で買った代物で、やたら重くて不格好な代物だ。
設置してみて駄目なら、ふさわしい物を改めて準備すればいいだろう。
「よし。これで材料は全て揃った。魔法陣も用意した。あと少しだ」
空き部屋に、魔法陣が描かれた布を敷く。それから次々と材料を置いていく。
「いっぱいあるっスね」
「岩塩に、石灰、鉄粉に水、貝殻に、琥珀……大量の鳥の羽、それから……」
延々と説明される材料は、本当に多種多様だ。
次にサムソンは皆に紙を配った。
書いてあるのは呪文だった。環境転移の魔導具生成の呪文だが、これが結構長い。さすがにゴーレムを創造した時ほどでは無いが、なかなかのボリュームだ。
「なんだか、途中で噛みそうな気がするよ」
「失敗しても、触媒は消えない。実験済みだ」
早速、皆でそろって詠唱する。ところが詠唱に苦戦する。
ゴーレムの時も思ったが、ある程度皆の詠唱を揃えないと言い間違えをしてしまう。どこまで詠唱したのか分からなくなるのだ。
加えて初見の魔法だ。ゴーレムの時は、ゴーレムを研究する中で何度も唱えたり、他人の詠唱を聴いたりしていたので、練習なしでも揃えられたが、今回は違う。
「意外な落とし穴があったな」
「リズムをとって詠唱するのがいいと思います。思いません?」
「……リズムっスか……じゃ、ノアちゃんにクローヴィス君、それにチッキーに手を叩いてもらうのはどうっスか」
「いいじゃん。なんか盛り上がりそうだし」
カラオケで手拍子入れている風景が目に浮かぶ。なるほど、手拍子でリズムか。
プレインの提案を聞いて、ノア達3人は話し合いを始めた。
しばらくして、ノアがパチンパチンとリズミカルに手を叩きながら話始める。
「あのね、草笛の歌はこうやって手を叩いて歌うの。こんな風に手を叩けば良いの?」
草笛の歌? 有名な歌なのだろうか。クローヴィスにチッキーも知っている歌なら問題ないだろう。
「そうそう。そんな風にリズムを取って欲しいと思うんです。お願いね」
「じゃ、スタート!」
ミズキが手を叩き、それを合図に詠唱を始める。
一定のリズムで手を叩く音が聞こえ、その音に合わせて詠唱する。
ちょっとした合唱だ。
詠唱しているうちに、楽しくなってきて不思議な一体感があった。そして誰も間違えず詠唱できたこともあって魔法は成功した。
空中に小さな青い球体が出現し、床に置いた材料が吸い込まれていく。吸い込む間に幾度となく点滅するように色を変えた球体は、やがて白い半透明な球体になり、ゴトンと音を立てて地面に落ちた。
「キュペンモーア水晶玉……ですか」
カガミが地面におちた球体をのぞき込むように見て声をあげる。看破の魔法で、読み取ったのだろう。
「成功したようだ。これを真っ暗な空間において一晩おくと、置かれた空間が入れ替わる」
「魔力は使わないんスか?」
「少しだけ使う。だから水晶に蓄積された魔力が尽きると……、環境転移は終わってしまうな」
「駄目じゃん」
「この球体に、魔力吸収の魔法陣を直接書き込む。あとは次々注がれる温泉から魔力をとれば半永久的に動く……はずだ。試しに作ったやつだと上手くいった」
あとは実際に温泉で動かして確認することにした。
魔導具が完成し、後片付けが終わってみれば夕方だった。
そろそろクローヴィスが帰宅する時間だ。
「クローヴィス、また遊ぼうね」
「そうだ。クローヴィス君……テストゥネル様に、念のため、ロープを張る手伝いしていいか聞いておいて欲しいと思うんです」
「よくわかんないけど……いいよ。それじゃ、またね」
そんなやり取りをして、クローヴィスは帰っていった。
カガミとしては、クローヴィスに手伝ってもらって大丈夫なのかが心配なのだろう。
オレは心配していない。
テストゥネル様の手紙にも好きにさせていいとあったわけだしな。
そして4日後にロープを受け取る、ピッキーが買い付けた丈夫なロープで、金貨20枚もした。馬車に積むのが大変だと連絡があって、オレが受け取りに行った。このようなロープは通常は帆船に使うそうだ。
そんなオレ達が好き勝手に魔導具を作ったり、ロープウエイの準備をしている間も、温泉にかかる工事は急ピッチで進む。
気がつけば、温泉の工事も終わり、隣接する宿も完成という日になった。
その日は、クローヴィスがやってくる日、オレ達のロープウエイが完成する日だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?
石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます!
主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。
黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。
そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。
全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。
その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。
この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。
貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる