召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第七章 雪にまみれて刃を研いで

ふぶきのなかで

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 わずかの間に、外は真っ白になった。
 ゴウゴウと風が吹いている。玄関から外を見たときに、すぐ先にある屋敷の門が見えない。
 こんなに激しい吹雪を初めて見る。

「吹雪いてきました……、そろそろ私は帰るとします」

 オレの横で外を見ていたエレク少年が、なんでも無いことのように言う。
 いやいや、そんな近所のコンビニに行くように軽い感じで言われても対応に困る。
 片道、急いでも2時間以上の道だ。こんなに視界の悪い山道を一人帰らせるわけにもいかない。
 これ以上吹雪が激しくなる前に帰るというエレク少年を宥めていると、ヘイネルさんからトーク鳥が届いた。淡く赤い光に包まれたトーク鳥だ。抱えていた手紙を一瞥し、読み上げる。

「この吹雪の中戻るのは危険だ。吹雪が収まるまで休みを与える。しっかり勉強するように……ということです。エレク様」

 加えて、オレ達にエレク少年を頼むと金貨3枚が入っていた。
 ヘイネルさんは部下思いの人だなと感激する。
 手紙に納得したエレク少年はしばらく宿泊することになった。
 その日の夜。いつものように皆で食卓を囲む。

「奴隷が主人と一緒の食卓を囲むのは変な気分です。私は後ほどでもかまいませんが」
「そんなことを言ったらオレも奴隷だ」

 オレの返答に、エレク少年は苦笑する。

「確かにそうですが、私はリーダ様のように立派な魔法使いではありません。一介のお城勤めの領民なのです」

 十分にいろいろ助けて貰っている。そんなことはないと思う。
 向上心もあるしな。

「そんなこと無いって。私だって大した魔法使えるわけじゃないしさ」

 ミズキがジョッキを片手に軽い調子で続ける。

「エレク君は魔法苦手なの?」
「私は魔法が使えないのです」
「それならサムソン様に習うといいでち。あたちのお兄ちゃんもサムソン様に習ったらすぐに使えるようになったでち」
「サムソンお兄ちゃんはすごいの……です」

 チッキーの元気な言葉に、ノアも同調する。
 トッキーは魔法が全く使えなかったが、サムソンがいろいろ教えたら使えるようになっていた。同じようにエレク少年もと考えたのだろう。
 しばらくやり取りしたあと、明日、サムソンがエレク少年に魔法を教えることになった。
 次の日、吹雪が続くなか外へと出る。
 強化結界を起動し続けているので、屋敷の外へでても結界内であれば行動できる。
 半透明の空間に覆われて中と外の状況がまったく違うことに驚く。
 結界の外は、すでにオレの腰あたりまで雪が積もっていた。対して結界の内側は、足首くらいだ。これから先、どれだけ積もるのか検討もつかない。

「私は……」

 詠唱を終えたエレク少年は、力なく立ち上がる。魔法は起動していない。
 エレク少年は魔法が使えなかった。
 謙遜でなく、本当に使えなかったのだ。

「お見苦しい所を見せてしまい、申し訳ありません」

 うなだれて謝るエレク少年を見ると、何て言葉を掛けて良いのか分からなくなる。
 オレ達が簡単に使えるから皆が魔法を使えると思ったが違うようだ。

「一回じゃわからないな。もう一回」
「はい」
「……もう一回だ」

 そんな魔法が発動しない状況にもかかわらず、サムソンは何度も何度も魔法を詠唱させる。
 スパルタだ。
 エレク少年が発動しない魔法をひたすら唱えるなか、サムソンはいろんな方向からその姿をみていた。
 ほどなくして、トッキーと同じかと呟き屋敷から、ロッドを持ってきた。
 何かに使うのかと思ったが、持ってきたロッドで自分の肩をたたくだけだ。
 しばらくの間、そんな状況で考えていたかと思うと、エレク少年にもう一度声を掛ける。

「もう一度、ゆっくりと詠唱してみて」

 真剣な表情をしたエレク少年に言葉をかけた後、サムソンはオレの側に寄ってきた。

「エレク君の背中をみてみ」

 小声でサムソンは言う。彼の言うとおりに詠唱を続けるエレク少年の背中を注意深く見る。
 詠唱を続けるにつれ背中の中央あたりがほんのり光り、肩から腕へと光が広がる。
 ところが、右肩を過ぎたあたりで光は止まる。そして左肘辺りでもう一方の光はひどく小さくなってしいまったのが見える。

「光の流れが……止まったな」
「うまく魔力がコントロールできないんだ」

 オレの言葉にサムソンは頷き肯定する。
 それからエレク少年に歩み寄りロッドを渡した。

「まず胸のあたりに魔力の種があることを意識して」
「種ですか?」
「そう、そこから魔力を引き出して両手に流すイメージだ。あと、魔力はほんのりと熱があるとイメージしてみて」
「はい」

 エレク少年は、ロッドを見つめてかみしめる様に返事をした。

「とりあえず、そんなイメージをしつつロッドに魔力をながして」
「はい」

 真剣な表情のエレク少年は両手でロッドを握る。

「両手でなく、左手だけで」

 サムソンが、すぐに注文をつけた。
 エレク少年は左手だけでロッドをもって先端にある石をずっと見つめる。
 オレ達がロッドを使ったとき、すぐに先端にある石が輝いた。だが、エレク少年の場合はそんなこともなく、静かな時間が過ぎる。

「うーん、あと少し勢いをつければいいんだけどな」

 サムソンが唸る。

「勢い?」
「左の手首あたりで魔力の流れが詰まっているんだ……トッキーはこのやり方で上手くいったんだがなぁ」

 確かに、光は左腕を流れるが、手首辺りで止まってしまう。
 イメージか。腕を振ればいいのではないかと閃く。
 エレク少年は、オレとサムソンが話をしている姿を恐る恐るといった調子で眺めていた。
 そんな彼に、手首に魔力が詰まっている感じするから腕を振ってみてと伝える。
 思い切りロッドを振るが、変化はない。
 魔力の流れにも全く変化がない……イメージが出来ていないのか。
 そこで、胸元からメモ用の紙を丸めて筒を作り、足下の雪を筒に詰める。

「それは?」

 オレの行動がよく分からないといった感じでエレク少年から質問される。

「この雪が魔力だと思って、筒が手首の辺り……の代わりだ」
「はい」

 ブンと思い切り紙の筒を持った手を振り抜く。筒に詰まった雪がポンっと飛び出た。
 その様子をみて、エレク少年はハッとした表情になった。
 そして何かに気がついたように、先ほどとは違い軽く腕を振った。
 フワリとロッドの先が白く灯る。
 パチパチと手を叩く。いつの間にか近くにきていたノアも一緒だ。

「もう一回振ってみ」

 笑顔のサムソンに、真剣なエレク少年は頷きロッドを振った。
 ロッドの先端から石が放たれる。魔石の投擲と同じ効果だ。

「しばらく、ロッドに魔力を貯める訓練を左手だけでやって、簡単にできるようになったら右手でも同じように練習してね」

 笑みがこぼれるのを我慢するかのようなエレク少年に、嬉しそうな声音でサムソンが追加の課題を与え、その日の勉強というか練習は終わった。
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