召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第七章 雪にまみれて刃を研いで

かえりみち

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 信じられないほどの大声に一気に静まり返る。
 ふとノアをみると、先ほどの恐怖はどこへやら、キョトンとした顔をしていた。
 少し安心する。

「助けてもらったんだ礼を言え」
「だが……呪い子がいたら工事が……」

 職人の一人が、ボソリと呟く。静まり返った状況では、ひどく響いて聞こえた。

「工事と、助けてもらったのは別の話だろぉが! そこのお嬢様は、自分の僕を労いに来ただけだ。工事が再開すればすぐに返るつもりだった。その証拠にみろ! そこの一行は、昼食時に火を焚いていない。すぐに立ち去れるよう準備していた!」

 ドスドスと足音をたてて、職人達を見回しながら怒鳴り続けている。すごい迫力だ。
 その様子に誰もが何も言えない状況が続く。

「プハハ、そうだな。お前の言うとおりだ、クストン。なんだ、お前、親父さんに似てきたな」

 年配の男性が、おどけたように前に出てクストンさんに近づいた。

「やめてくれ」

 クストンさんは迷惑そうに手を振る。
 それから二人は2・3言葉を交わしたかと思うと、職人の方を振り向いた。

「ま、今回は、まだまだ雪の季節だ。他が雪にうもってる所に、肉を焼いたりしたんだ。上手そうな匂いにゴブリンどもが集まるのも無理はねぇ。呪い子はともかく状況の問題だな」
 穏やかな、それでいて大きな声で職人達に年配の男性は語りかける。

「そういや……、そうかも」
「そうか、匂いか」

 その言葉に、職人達の納得の声があがる。

「魔物の襲撃は、そういうわけだ。珍しいことじゃねぇ。で……でだ。あの数の襲撃で、俺達がやられるわけがねぇ。だがよ。これほど、怪我人無しって状況にもならなかったと思うわけだ」

 年配の男性が続けて語る内容に、ざわめきが起きる。
 いつの間にか、職人達の空気が変わったのがわかる。そこには、ノアを……呪い子を非難するような感じは無かった。

「分かったら礼を言え!」

 再びクストンさんの大声が響く。

「そうさな。俺達は、恩知らずじゃない。腕にも、魂にも自信があるれっきとした職人だ」

 そんなクストンさんに、年配の男性も同意し声を上げる。

「すまねぇな、嬢ちゃん」

 若い職人が、最初に声を上げた。それを皮切りに、次々にお礼の言葉が続く。

「あの、嬢ちゃんじゃなくて、ノアサリーナ様です」
「お、トッキーに怒られちまった」

 しばらく、お礼の言葉が続いていたが、トッキーの声と、そんなトッキーをからかうような職人達の笑い声で、それも終わった。
 皆が落ち着き、工事は再開した。ノアは工事を少し離れた馬車からこっそりと見ていた。とても興味深そうに見ていた。職人達は、そんなノアを非難したりはしなかった。むしろ、たまに手を振ったりしている。
 そんな穏やかな空気のもとで、テキパキと工事は進み、すぐにオレの……ゴーレムの役目は終わりを告げた。つまり、明日からは出勤無しだ。嬉しい。

「すまないな。あんた達を怒らせるわけにいかなかった」

 職人の人達と一緒に帰る、そんな帰り道でのことだ。
 クストンさんから声をかけられた。

「いえ、とんでもありません。一喝していただいて胸のすく思いでした」
「そうかい。ピッキーにトッキーの今後を考えるとな、嬢ちゃんが、職人と険悪になるのは嫌だったのさ」
「お気遣いありがとうございます」

 その言葉に、ノアの味方が増えたことを実感し、嬉しくなる。

「じゃ、そういうわけだ」

 クストンさんは、職人達の方へと戻っていった。
 入れ違いに泥だらけになったトッキーが戻ってきた。

「泥だらけじゃん」
「あの……ボーチル親方が、肩車してくれたんですが、倒れちゃったんです。その、腰を痛めたとかで」

 みると、先ほど職人達を説得してくれた年配の男性が、若い職人に背負われて前を進んでいた。
 その隣にはピッキーが、別の職人に肩車されているのが見える。どうやら、トッキーとピッキーは人気者らしい。

「はい、ノアノア」

 そんな様子を眺めながら一緒になって歩いて返っていると、ミズキがノアを抱えあげた。

「何やってるんだ?」
「ん? 何って、リーダがノアノアを肩車するんじゃん」

 そのままノアをオレの肩に乗せようとする。
 別に断る理由もないし、ノアを肩車する。

「なんで急に?」
「ノアノアが羨ましそうに見てたからね」

 そういうことか。目の前をいく職人ほどに体格がいいわけでもないが、ノアを肩車するくらい問題ない。

「背が高くなったみたい」

 すぐ真上からノアの楽しそうな声がする。
 ノアを肩車したまま、トコトコと町への道を歩いてもどる。こちらの世界も、冬は日が落ちるのが早いらしい。短い昼の時間の終わり、夕日がみえる。

「それでは、おいらは親方達と一緒に町に戻ります」
「トッキー君、またね」

 トッキーや、職人達とはお別れだ。職人達は、町へと歩いて戻り、オレ達は馬車にのって屋敷へと帰る。

「ノアもぉ、リーダも嬉しそうねぇ」

 ノアを肩車から下ろしていると、オレ達の側をフヨフヨと浮いているロンロが、見下ろして言う。

「あのね、肩車してもらうとリーダみたいに背が高くなったみたいなの」
「そうなのぉ」

 ノアは肩車が気に入ったようだ。こんなに喜んでくれるなら、またいつでも肩車してあげたくなる。
 オレは、ともかく職人がノアを受け入れてくれたのが嬉しい。
 そう考えると、早起きして工事の手伝いの通勤生活も悪く無かったかもしれない。
 馬車へと駆けて戻るノアの後ろ姿をみて、そんなことを考えた。
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