召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
148 / 830
第九章 ソノ名前はギリアを越えて

ですまあけ

しおりを挟む
 再び訪れたストリギの町には、より多くの船が見えた。
 ゆっくり誘導されて、船着き場へと到着する。
 徹夜明けの朝日がすごくまぶしい。
 結局、徹夜したのはオレとサムソンの2人。他のやつらは無理だの限界だのと言って仮眠をとりやがった。
 そんなことでは、もっとタイトなスケジュールに対応できない。
 もっともこんな仕事は今回でおしまいだ。そう、仕事をしないのが一番だ。
 船から下りたとき、鎧姿とローブ姿の数人の男女が待っていた。

「魔法陣を検分したうえで、公爵に渡します」

 代表とおぼしき女性が、簡単な挨拶のあとそう言った。
 フラフラになりながら、丁寧に挨拶を返して、箱を取り出す。
 全部で4個の小箱。納品用に、屋敷にあった小箱を磨いて用意した。箱一つに魔法陣が一つ入っている。
 まとめるより、もっと厳かに価値があるように見せる演出だ。
 そういえば検分ってどうやるのだろうか。
 魔法陣に描かれた内容を調べる魔法でもあるのだろうか。オレ達以外が、魔法陣を作り出すことが難しい以上、内容を読み取るというのは考えにくい。
 もしかしたら魔法陣の中身を調べる魔法があるのかもしれない。そんな魔法があれば、魔法陣の記述ミスなど、問題点を発見し取り除く作業……デバッグが楽になる。

「検分というのはどのような方法を用いるのですか?」
「内容を確認するのです」
「どうやってでしょうか? もしかして魔法陣に描かれている内容から、どのような魔法か判断できるのでしょうか?」
「……私は沢山の魔法陣を見てきました。見ればわかりますよ」
「知らない魔法でも?」
「……」
「あの……?」
「奴隷の分際でグチグチと。いいから寄越しなさい」

 投げやりの口調になったかと思うと、ローブ姿の男が横から魔法陣の入った小箱をもぎ取ろうとした。
 オレは取られまいと箱を持つ手に力を入れる。
 おかしい。本当にこいつ検分役か。
 箱が手から滑り下に落ちる。

「だめー!」

 大声をあげ、抱きつくように箱に覆いかぶさるノア。
 少し遅れてムチがノアに当たる。やや離れていたローブ姿の女が振るったムチだ。
 バチンと音を立てて、生き物のようにノアごと箱にまとわりついたムチは、ノアを箱と一緒に空中に持ち上げる。そしてノアは、大きく弧を描くように宙を舞い、遠く離れた持ち手に引き寄せられる。
 まずい。
 ムチを操るローブ姿の女にタックルする。オレが直接向かってくると思っていなかったのか、ローブ姿の女はムチから手を離した。
 そのまま、ムチから解き放たれ落下するノアを、受け止めるようと動く。
 ところが勢いがついたノアは、オレとローブ姿の女を飛び越えて、湖と落ちてしまった。
 女を無視して、ノアのあとを追いかけ湖に飛び込む。オレの後ろから誰かが追いかけてきたが御構い無しだ。
 湖で溺れかけたノアを引き寄せ、そばにあった船の鎖に手をつく。

「箱が」

 ノアが必死に指差す先には、船着き場の影になってわからなかったが、大きなトンネルがあった。下水道?
 だが、考える暇は与えてもらえない。別の船から矢が打ち込まれてきた。
 このままではまずい。

「箱が奪われた! 取ったやつを追う! あとは任せた!」

 オレは大声で訴えると、ノアを抱きかかえたまま、矢に追い立てられるようにトンネルへと入った。
 トンネルはした3分の1が水に浸かっている。更に進むとひらけた場所にたどり着き。小さな船が止めてあった。船着き場のようだ。水から上がり周りを見回す。
 更に先に道が見える。

「洞窟?」
「さぁ、何だろうね……ところで濡れちゃったね」
「平気なの」

 スカートを絞りながらノアが答えた。もっとも着替える暇はない。

「ワン!」

 ハロルドもついてきてのか。
 とりあえず盗んだやつを追いかける。危なくなったら引き返そう。

「カバンの中身は大丈夫?」
「魔法のバックだから大丈夫なの。叩いても、燃やしても中身は綺麗なままなの」

 へー。何気なくたすき掛けしているバックは魔法の品なんだ。
 オレ自身、そしてノアの不安を紛らわせたくて、雑談を小声でしながら、進む。
 さらに大きな部屋が見えてきた。

「あれ?」

 大きな部屋に入る直前の通路が、妙に抉れていることに気が付いた。
 床に等間隔のくぼみが見える。
 何かが落ちた後のように。
 念のため、ガラクタ市で買った石臼を置く。上から何かが落ちてき、出入り口が塞がれないように、念のための布石。
 ついでに鎧を作る魔法と、自己強化の魔法を使い備える。
 ゆっくりと進む。

『ガンッ』

 オレ達が通路を抜け大きな部屋に入ったところで、向こう側の通路、そしてオレが今抜けた通路に金属製の柵が落ちてきた。
 予想通りだ。
 金属製の柵は、石臼に阻まれて途中で止まった。向こう側の柵がどうにもできなければ、一旦戻ることもできる。

「待っておったぞ」

 安心して大きな部屋を横切ろうとしたとき、頭上から声がした。
 声のした方を見ると、右手側に背丈の倍程の段差があり、男が見下ろしていた。

「誰だ?」
「んふふふふふ。誰でもいいだろう」

 呪い子よ。お前と関わったばかりに、その男は死ぬ。

『バタン』

 扉が開く音がして……床が消えた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...