召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第九章 ソノ名前はギリアを越えて

めいしょのたんじょう

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 でかい。

 今までとは落ちてくるがれきの大きさが違う。
 見上げると、魔術ギルドの壁を蹴って、頭上を再び飛び越えるマンティコアが見えた。
 めきめきと音をたてて、魔術師ギルドの上層部がゆっくりとへし折れるように、崩れはじめているのがわかる。

「いやぁ」

 女性の悲鳴が聞こえる。ラノーラだ。
 先ほどの衝撃で、足を踏み外したようだ。首つりの状態で大きく揺れている。ストリギの領主ブースハウルは、そんな様子をお構いなしに、ラノーラの首に繋がったロープを持ったまま、飛竜にまたがっていた。今にも飛び立ちそうな状況だ。

「サムソン、駄目よ。飛翔の魔法は使えないの!」

 ロンロの声が聞こえた。サムソンは、飛翔の魔法をつかって、ラノーラの元まで飛ぼうとしているようだ。
 そして、それはロンロの言うとおり失敗する未来しかない。
 なぜなら、魔法が制限されているから。しかし、ロンロの声は耳に入っていない。必死なのだ。

『ガーン』

 頭上で、大きな音が再度響く。
 見上げると、大きな石がオレの頭上、手の届く場所で止まっていた。

「長くもたない……早く!」

 背後からカガミの声が聞こえる。そうか、壁を作る魔法か。
 これで安心だと、一瞬思った。だが、それは間違いであると気がつく。さらに大きな塊がゆっくりとこちらに倒れてきている。
 魔術師ギルドの上層部がまるごと倒壊し落ちてこようとしているのだ。
 ゆっくり飛び立つ飛竜と、ぶら下がるように引きずられるラノーラ。
 暴れ回るマンティコア。
 飛翔魔法を使おうと試みるサムソン。
 そのうえ、落ちてくる魔術師ギルドの残骸……。
 どうする。
 自問自答する。飛び立つ飛竜には届かない。ラノーラにも。
 がれきは受け止められない。避けるだけだ。
 ……サムソンだけを助けよう。
 無力を痛感し、サムソンの方へと走る。
 何て言おうか……ラノーラは諦めろか。なんとも、嫌な台詞だ。
 だが、誰も彼も助けられない。できることだけだ。

「お母さん!」

 唐突に声が聞こえた。女の子の声だ。
 反射的に、声のする方を見る。多くの人が喚いているなか、先ほどの声の主がどこにいるのかわからない。大混乱だ。
 しくじった。
 思い違いをしていた。そんな悩める時間があるほど、がれきの落下は遅くない。
 すぐ頭上に、真上にがれきがあった。
 次の瞬間、押しつぶされる。そんな場所まで魔術師ギルドの建物の一部……巨大ながれきは落ちてきていた。
 押しつぶされることを覚悟し、あきらめの気持ちで目をつぶる。

 だが……。

 何も起きない。
 恐る恐る目をあけると、不思議な光景が広がっていた。
 すべてのがれきは空中で止まっていた。
 それらはゆっくりと小さく紫色へと輝き始めた。
 もしやと思い、ノアの方を見る。魔法陣に両手をついて、こちらをみて微笑んでいた。
 そばには大きな石の塊をうけとめ、驚きの表情をうかべたハロルドがいた。
 ノアの魔法……一体何の魔法だ?
 がれきはゴキゴキと音をたてて、ゆっくり魔術師ギルドの倒れていない入り口付近へと集まっていく。
 そして、石が砕ける大きな音を響かせ、手の形をとった。

 ゴーレムの手か!

 落ちてきた魔術ギルドの残骸、地面のがれき、その全てを触媒に、ノアはゴーレムの手を作り出した。
 作り出された巨大な手は、魔術師ギルドの壁を滑るように動き、領主もろとも飛竜をつかみ取った。それから、勢いは落ちることなく、そのままマンティコアを殴りつける。
 ぐしゃりと大きな音をたてて、マンティコアは魔術師ギルドの向かいにある建物にめり込んだ。
 一瞬の出来事だった。
 オレが駄目だと思っていた状況が、次の瞬間にはひっくり返っていた。
 がれきの落下も、マンティコアも、そして飛び立つ飛竜も。

「サムソン様!」

 マンティコアを殴りつけた衝撃で、サムソンが足を踏み外し、建物の屋根につかまっていた。そんな彼も、領主の手から自由になったラノーラによって助けられた。
 舞うように飛び跳ね、瞬く間にサムソンの側まで駆けつけたラノーラは、それだけで絵になっていた。
 オレはいいとこなしだな。
 なんとも投げやりな気分で笑う。でも、すごく嬉しかった。

「ほわいとりすと、なの」
「そっか」

 頭をかきながらノアの元へと戻ると、満面の笑みでノアが迎えてくれた。
 ホワイトリスト……なんだか、間違えて理解しているようだけれど、上手くいったわけだからとりあえず良しとしよう。
 姫様姫様とうるさいハロルドを放置して、全員の無事を確認する。

「ごめん、私が一番……足引っ張って……」
「気にするな。今回は未知の攻撃だったんだ」

 いつもになく意気消沈していたミズキが涙声で何度も謝っていた。魔法陣の入った箱が無事だったのはミズキの功績だ。謝る必要なんてないと思う。

「ノアサリーナ様」
「サムソン?」
「ご心配なく……気を失っているだけのようです」

 サムソンをお姫様抱っこしたラノーラが近づきノアに声をかけ、ゆっくりと彼を足下に下ろした。一瞬、ぎょっとしたがサムソンは気を失っているだけらしい。
 コイツもいいとこなしだな。

「領主とその配下が話をしているのを聞きました。私達のために、尽力していただいたと……ありがとうございます」
「サムソンおに……サムソンが、望んだことですから」

 しゃがみこみ、中腰で深々と頭を下げたラノーラに、ノアがかしこまった様子で返答する。

「まぁ、こんな往来で立ち話もなんですから、一旦宿に戻りましょう」

 サムソンを地面に寝かせたまま放置するわけにもいかないし、路地で立ち話するような内容でもない。それに皆、なんだかんだと言って疲れている。
 場所を移そうと提案する。
 特に反論もなく、宿へと向かおうとしていたときのことだ。

「ずいぶんと派手にやったではないか。其方らは、どうあっても大人しくできないようだな」

 馬に乗ったギリアの領主ラングゲレイグが、オレ達の側にきてそういった。
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