召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第九章 ソノ名前はギリアを越えて

くろきし

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 黒騎士?

「魔術師ギルドの者は、ご苦労だった。慣れぬ魔法陣の転記をよくやり遂げた。下がれ」

 公爵の一言で魔術師ギルドの人達が去って行く。
 入れ替わりに、4人の騎士が馬に乗ってやってきた。
 全身、黒だ。
 黒い鎧に黒いマント、馬も黒一色。馬の鞍まで黒だ。
 公爵の前だというのに、馬から下りず見下ろしている。
 異様な存在感だ。
 先頭の1人が、紙を広げる。

「黒騎士の言葉は、王の言葉。黒騎士の剣は王の剣と心得よ」
「……して、用向きは?」

 公爵は、側のテーブルに肘をついて問い返す。

「ギリアの領民ノアサリーナに命ず。今後、ゴーレムを作らぬように」
「それだけかね」
「サルバホーフ公爵に命ず、ノアサリーナより献上された魔法陣を即刻破壊するように。所持している全てのゴーレムを破壊するように。ストリギの領主ブースハウルが所持していたデルコゼ、及びそれに関わる一切を廃棄するように。ストリギより明日までに立ち去るように」
「ふむ」
「最後に、この場にいる全ての者に命ず。今後、王の命令なく今回の言葉を他言しないように……王の言葉は以上です」
「了承したむねを伝えたまえ」
「ありがとうございます。それでは失礼します」

 黒騎士が走り去っていく。ほんの少しの時間で状況が大きく変わった。

「聞いてのとおりだ。せっかく作り出したゴーレムだが、破壊せねばならなくなった」
「残念ですな。まさか、黒騎士が……王の言葉とは」

 いろいろ言っていたが、気になったのは2つ。
 ゴーレムを作らないこと。そして献上したゴーレムと魔法陣を破壊するということ。つまり、オレ達の仕事が無駄になるということだ。

「さて……、其方達の働きが無駄になってしまったな。残念だが……」

 公爵は、先ほど署名をした書面を一瞥し、苦笑する。
 来た。報酬無しなと言い出す流れだ。
 ハッとした顔で、サムソンがオレを見る。
 ノアもやや遅れて、気がついたようで、不安げな顔に変わる。

「はい。ですが、王の言葉であれば仕方ありません。ただ、ゴーレムは献上し、約束を果たしたあとでございましたので、助かりました」
「リーダ、其方?」

 流れるように言葉が出る。納品した後にごねられた経験なら何度かある。いつもなら、釘だけさして、あとは会社に任せていたが、今回はオレ達でなんとかしなくてはいけない。

「なるほど。約束をいつ果たしたのか。それを主張するか」
「はい」

 オレ達は約束を果たし、作りあげたゴーレムは公爵に受け入れてもらえた。
 あの時点で、オレ達は自身の仕事をやり遂げたということだ。つまり、受け渡しをしたゴーレムと魔法陣が、受け渡し後にどうなろうが、それはこちらの責任ではない。
 そういう話だ。

「認めないと言えばどうするのかね?」
「少なくても、お嬢様が魔術師ギルドの倒壊を防いだ功績だけでも認めて欲しいと存じます」
「それは確かにそうだな」
「ですので、マリーベルとラノーラの所有権だけでも認めて頂きたいのです」

『ヒュッ』

 風切り音がした。
 いつの間にか公爵は剣を抜いてオレの首筋に突き立てていた。先ほどまで椅子に座っていたはずなのに、まるで瞬間移動のように、すぐ側に立っていた。
 今更引き返せない。首が飛んでしまえばエリクサー効かないだろうな……、さて、どうしよう。
 どうするもこうするもないか。
 同僚が力を尽くした仕事に、なにも得られず帰るのは無しだ。

「多くは望んでいません。すでに成果はご覧に入れました……そのはずです」

 しばらく公爵は剣を突き立てたままだった。
 ずいぶんと時間がたった。

「ふははは。奴隷の身でありながら引かぬか。権力にも、武力にも屈せぬ者の目だな。リーダよ。先ほどの、主張は見事だった」

 公爵は、楽しそうに笑った後、剣をゆっくりと鞘に収め椅子に座った。

「そんなお前に最後に問おう」

 そして再び言葉を発した。

「其方は、自らの主であるノアサリーナにどのような未来を望む?」

 意外な質問だ。
 そういえば、前にも同じような質問をうけたな。

「それは、お嬢様自身が決めるべきことです。私は選択肢を増やすだけです。もちろん。幸せになって頂きたいと考えています」
「そうか……。では、褒美を追加しよう」

 追加?
 二人の所有権に加えてでしょうか?

「そうだな。奴隷2人、ギリアとストリギにある資料の閲覧。そして船。あとは、ヨラン王国全ての町へ立ち寄る許可だ。主の選択肢を増やしたいのであろう? 多くの町をみるのは、多くの学びにつながる」
「それはよいお考えですな」
「ラングゲレイグ、其方の希望もできるだけ叶えてやろう」
「ありがとうございます」
「今日は得がたい経験ができた。その褒美だ」

 こうして、公爵への納品は終わり、帰路へつく。帰りは宿までラングゲレイグが送ってくれることになった。

「リーダよ。その短剣を譲ってはくれぬか?」
 
 帰り際、公爵からオレ個人に褒美として短剣をもらった。ラングゲレイグがいうには、公爵が部下の働きを認めたときに渡す短剣らしい。
 公爵ファンのラングゲレイグとしては、是非とも手に入れたい一品のようだ。
 本当に大丈夫なのだろうか……こんなのが領主で。

「もらったものを人にあげるのは、良いことだとは思えないのですが……」
「褒美を合意のうえで譲るのは、よくあることだ。もちろん権力で奪えば、公爵の顔を潰すことになるが、買い取ることには問題ない」

 そういうものなのか。
 断って、せっかくの友好関係が壊れるのも嫌だし、売ることにする。

「では、金貨100枚で」
「良かろう。それにしても、黒騎士の言葉を聞いたときにはヒヤリとしたぞ」

 確かにヒヤリどころではなかった。危うく報酬がパーになるところだったからな。
 それにしても、王様はいつゴーレムの事を知ったのでしょうね。まるで、すぐ近くで見聞きしていたかのような的確な内容に驚きました。

「さすがは我らが王だ。政治に関心がないという噂は、噂でしかなかったいうことだな」

 その後、宿までの道のりで黒騎士について聞く。
 王様直属の騎士団。王の命令のみを聞き、王の為にしか働かない精鋭部隊。それが黒騎士らしい。その強さは、ラングゲレイグでさえ2人を同時に相手できるかどうか……だという。もっとも、ラングゲレイグの強さが分からないので何とも言えない。
 今回受けた命令自体には触れたくないようで、何も言わなかった。
 まぁ、どうでもいいか。
 全部終わった。明日からしばらく観光して帰宅するだけだ。
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