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第十二章 秘密に迫り、秘密を隠し
つるぎのおかで
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のんびりダラダラとした観光も飽きてきた頃、宿の人の勧めで聖剣の丘に行ってみることにした。
魔神の柱と、この島のちょうど間にある小さな丘。
そこにはかつて勇者が使った聖剣が刺さっている。
誰にも抜けない聖剣。
そんな触れ込みで、聖剣は観光客の一つの目玉となっていた。
「せっかくケルワテまで来たんだ。皆さんも聖剣抜きにチャレンジしてみればどうかな?」
そんなことを言われたので行ってみることにした。
都市ケルワテのある塔から、馬車にのって移動する。監視役エテーリウがそのあたりの手配は全部やってくれた。監視役というよりガイドとしての彼女が頼もしい。
地上で、しばらくぶりに海亀と再会する。獣人達3人がたまに様子を見に来ていたらしい。ピッキーが腹痛だったときに、一緒にいた神官と仲がよくなって便宜を図ってくれていたとか。
当の海亀は、すっかりだらけていた。
久しぶりに再会したオレ達に、近寄ってくるわけでもなく、すぐに寝てしまった。甲羅も磨かれてつやつやしていた。
聖剣抜きは、誰にでも挑戦できるらしい。
お金さえ払えば。
「おや、エテーリウ様、ごきげんよう。いかがなさいましたか?」
監視役エテーリウは、聖剣を管理するおっちゃんと顔見知りらしい。彼女が近づくと、駆け寄ってきてうやうやしく礼をした。
「この方達が聖剣抜きに挑戦したいんだトヨ」
「あー。これはこれは。んー、どうしようかな」
「無理? 結構、期待してるトヨ」
「いえね、ほら、今日は、勇者様が聖剣を抜く日でしょ?」
「そうだった。食べあ……いや、仕事に集中していて失念していたヨ」
うっかりしたという感じでエテーリウは頭を掻いていた。適当に仕事していたんじゃないかという思いが、より増してくる。
今日は特別な日らしい。宿の人や、ここに来るまでのエテーリウの話から、順番待ちの列を探していたのだが、それがない理由もこれで理解できる。
「しょうがないな。エテーリウ様がおっしゃるんだ。だが、ちょっと急いでくれよ。これから本命が来るんだ。さすがに、少しは準備したいんでな」
「勇者ですね。確かに本命がくるなら、早くしないと……二度と挑戦できないと思います」
「そういうこったな。最後のチャンスってやつだ」
おっちゃんが塔をみやり笑顔でいう。その視線の先には、塔の外周をゆっくり降りてくる一団の姿が小さくみえた。今は、上層部分を降りてきている。それにしても……あんなところに、階段なんてあったかな。上層の壁面に階段はなかったはずだと不思議に思う。
「勇者様っスか?」
「そうそう、今ゆっくり降りていらっしゃってる。あの勇者様が二度目となる聖剣抜きに挑戦するのさ」
「勇者様も、今までにないくらい気合い入ってるって聞くヨ」
前回、勇者が訪れた時には聖剣は抜けなかったそうだ。それは修行が足りなかったということで、各地の聖地を巡り、祈りを捧げ、神の加護を得て、そして戻ってきたらしい。
「今度こそ抜いていただけるよ。つうわけだ。時間がないが、チャッチャっとやってくれ」
そんなわけで挑戦する聖剣抜き。
もう抜けないこと前提だ。そりゃそうなのだろうな。聖剣に触れることができるのは良い経験ということで、皆でチャレンジする。
「挑戦の料金だ。1人あたりフー……あぁ、いや、小金貨一枚だ」
あいよと全員分の金貨を渡す。
サムソンから始まって、みんなが一通り聖剣抜きにチャレンジする。
聖剣は宝石で飾られたきらびやかな真っ白い鞘に入った物だった。鞘の3分の1が地面に埋まっている。
小さな丘の中央に、その剣がある。
白一色というわけではなく、金と銀で細かい装飾がなされた剣だ。
西洋の剣、伝説の剣といわれても納得する格好いいシルエット。
柄の部分も真新しい布が巻かれているようで綺麗だ。
だが、おっちゃんの説明では、これは何百年も前からこの状態で残っているらしい。雨に吹かれ、土埃にさらされても、その剣は一切汚れることがないという。
さすが聖剣。
綺麗なだけでない。聖剣からは、青白い光がキラキラと揺らめき立ち上っている。
さて、そんな聖剣に、皆がそれぞれ挑戦を続ける。
全然無理だ。
トッキーとピッキーは2人がかりで試してみたが、やっぱりダメだった。
「はっはっは。力じゃないんだよ」
おっちゃんもその光景が楽しそうに見えたのか、笑いながら色々と合いの手を入れてくれる。
オレも当然のように駄目だった。もともと鞘と剣は溶接されているのではないかと思えるほどに、ピクリともしなかった。だが、青白い光に身体を包まれ、伝説の聖剣に直接さわれたことで満足する。
さて、最後は遠慮していたノアの番だ。
ノアは聖剣に手をかける。
「お嬢様、頑張るでち」
「がんばるでござる」
声援をうけ、すこしだけ、はにかんだ笑顔を見せたノアだったが、聖剣の柄に背伸びし手をかけた直後、固まった。
どうしたのだろうか。
不思議に思って見ていたら、ノアがこちらを見た。
困惑したような顔だ。
「どうしたの」
ノアに近づき小声で聞く。
「あのね、抜けそうなの」
「聖剣が?」
「うん……リーダ、どうしよう?」
チラリと聖剣をみると、ほんの少しだけ刀身が見えていた。オレ達が手をかけたときは、欠片ほども見えなかったのだから、これだけでもすごいことだ。
「はっはっは。やっぱりダメだったろ? さあ、そろそろ潮時だ。ほら、勇者様が来られる。勇者様の為に、少しこの辺を清めたいんでな。そろそろおいとましちゃくれないか」
笑いながらおっちゃんが急かしてきた。
「どうしよう……」
ノアがすがるように、オレに声をかける。
チラリと勇者の軍を見ると、ゆっくりとパレードのようなことをやりながらこちらへ向かってきているのが見えた。
『ズズズ……』
え?
そのうえ、いきなり中層から地上のこの場所近くまで一気に降りることができるように、土色の階段が出来上がった。目の前で、いきなり地面が階段の形に隆起するのは、凄い光景だ。
「なんスか?」
「あれは……きっと勇者の軍にいる精霊使いトヨ。土の精霊ノームの力に間違いないトヨ」
やはり精霊の力はすごいな。
「こりゃ……すごい。思ったより早くつくな、こりゃ。そういうわけだ。すまんな」
まだまだ先の話だなんて思っていたが、これはすぐにつきそうだ。
とにかく、この状況で聖剣が抜けましたというのは、さすがにまずい。
あの一団の顔を潰すだけでは終わらないよな。きっと。
抜いたとして、今後のことを考えるとお腹が痛くなる。
よし。決めた。
「しらばっくれよう」
「シラバックレル……でしたか」
「そうそう、内緒。抜けたことは内緒」
「うん」
ノアとこそこそと話をして、よしじゃあ帰ろうということになった。
「あれ、返るト? せっかくだから勇者様を見ていかないト?」
「皆さん期待しているので、場所を空けたいと思いまして……ほら、馬車、邪魔になるでしょう」
「優しいト。そういう所は好きヨ」
今後のことを考えると、いたたまれなくなったので、足早にその場を後にする。
ふと見ると、気づかない間に周りに人がいっぱい来ていた。
勇者が剣を抜く光景を一目見ようと思って集まったのだろう。
人混みを駆け抜け、聖剣の丘を立ち去る。
背後の方で大歓声が上がった。
「わぁ。勇者様が聖剣を抜かれたヨ。まるで、封印なんかなかったかのようにスルリと抜けたトヨ。さすが勇者様トヨ」
馬車の屋根に上り、聖剣の丘をみていたエテーリウが興奮したように言う。
『オオオォォォ!』
歓声は、ますます大きくなり地鳴りのように辺りを震わす。
これはもう絶対に言ってはダメな話になったな。
まぁ、勇者が聖剣を抜くのは普通の話だろう。
うん、そうだ。そういうことだ。
そう考え、オレ達は宿へと戻る。
「リーダ?」
「ん? 聖剣の事は、内緒。隠し事。オレ達だけの秘密だ」
不安げなノアに名前を呼ばれたので、耳元で念押しする。
「うん!」
とても良い笑顔でノアは頷いた。
魔神の柱と、この島のちょうど間にある小さな丘。
そこにはかつて勇者が使った聖剣が刺さっている。
誰にも抜けない聖剣。
そんな触れ込みで、聖剣は観光客の一つの目玉となっていた。
「せっかくケルワテまで来たんだ。皆さんも聖剣抜きにチャレンジしてみればどうかな?」
そんなことを言われたので行ってみることにした。
都市ケルワテのある塔から、馬車にのって移動する。監視役エテーリウがそのあたりの手配は全部やってくれた。監視役というよりガイドとしての彼女が頼もしい。
地上で、しばらくぶりに海亀と再会する。獣人達3人がたまに様子を見に来ていたらしい。ピッキーが腹痛だったときに、一緒にいた神官と仲がよくなって便宜を図ってくれていたとか。
当の海亀は、すっかりだらけていた。
久しぶりに再会したオレ達に、近寄ってくるわけでもなく、すぐに寝てしまった。甲羅も磨かれてつやつやしていた。
聖剣抜きは、誰にでも挑戦できるらしい。
お金さえ払えば。
「おや、エテーリウ様、ごきげんよう。いかがなさいましたか?」
監視役エテーリウは、聖剣を管理するおっちゃんと顔見知りらしい。彼女が近づくと、駆け寄ってきてうやうやしく礼をした。
「この方達が聖剣抜きに挑戦したいんだトヨ」
「あー。これはこれは。んー、どうしようかな」
「無理? 結構、期待してるトヨ」
「いえね、ほら、今日は、勇者様が聖剣を抜く日でしょ?」
「そうだった。食べあ……いや、仕事に集中していて失念していたヨ」
うっかりしたという感じでエテーリウは頭を掻いていた。適当に仕事していたんじゃないかという思いが、より増してくる。
今日は特別な日らしい。宿の人や、ここに来るまでのエテーリウの話から、順番待ちの列を探していたのだが、それがない理由もこれで理解できる。
「しょうがないな。エテーリウ様がおっしゃるんだ。だが、ちょっと急いでくれよ。これから本命が来るんだ。さすがに、少しは準備したいんでな」
「勇者ですね。確かに本命がくるなら、早くしないと……二度と挑戦できないと思います」
「そういうこったな。最後のチャンスってやつだ」
おっちゃんが塔をみやり笑顔でいう。その視線の先には、塔の外周をゆっくり降りてくる一団の姿が小さくみえた。今は、上層部分を降りてきている。それにしても……あんなところに、階段なんてあったかな。上層の壁面に階段はなかったはずだと不思議に思う。
「勇者様っスか?」
「そうそう、今ゆっくり降りていらっしゃってる。あの勇者様が二度目となる聖剣抜きに挑戦するのさ」
「勇者様も、今までにないくらい気合い入ってるって聞くヨ」
前回、勇者が訪れた時には聖剣は抜けなかったそうだ。それは修行が足りなかったということで、各地の聖地を巡り、祈りを捧げ、神の加護を得て、そして戻ってきたらしい。
「今度こそ抜いていただけるよ。つうわけだ。時間がないが、チャッチャっとやってくれ」
そんなわけで挑戦する聖剣抜き。
もう抜けないこと前提だ。そりゃそうなのだろうな。聖剣に触れることができるのは良い経験ということで、皆でチャレンジする。
「挑戦の料金だ。1人あたりフー……あぁ、いや、小金貨一枚だ」
あいよと全員分の金貨を渡す。
サムソンから始まって、みんなが一通り聖剣抜きにチャレンジする。
聖剣は宝石で飾られたきらびやかな真っ白い鞘に入った物だった。鞘の3分の1が地面に埋まっている。
小さな丘の中央に、その剣がある。
白一色というわけではなく、金と銀で細かい装飾がなされた剣だ。
西洋の剣、伝説の剣といわれても納得する格好いいシルエット。
柄の部分も真新しい布が巻かれているようで綺麗だ。
だが、おっちゃんの説明では、これは何百年も前からこの状態で残っているらしい。雨に吹かれ、土埃にさらされても、その剣は一切汚れることがないという。
さすが聖剣。
綺麗なだけでない。聖剣からは、青白い光がキラキラと揺らめき立ち上っている。
さて、そんな聖剣に、皆がそれぞれ挑戦を続ける。
全然無理だ。
トッキーとピッキーは2人がかりで試してみたが、やっぱりダメだった。
「はっはっは。力じゃないんだよ」
おっちゃんもその光景が楽しそうに見えたのか、笑いながら色々と合いの手を入れてくれる。
オレも当然のように駄目だった。もともと鞘と剣は溶接されているのではないかと思えるほどに、ピクリともしなかった。だが、青白い光に身体を包まれ、伝説の聖剣に直接さわれたことで満足する。
さて、最後は遠慮していたノアの番だ。
ノアは聖剣に手をかける。
「お嬢様、頑張るでち」
「がんばるでござる」
声援をうけ、すこしだけ、はにかんだ笑顔を見せたノアだったが、聖剣の柄に背伸びし手をかけた直後、固まった。
どうしたのだろうか。
不思議に思って見ていたら、ノアがこちらを見た。
困惑したような顔だ。
「どうしたの」
ノアに近づき小声で聞く。
「あのね、抜けそうなの」
「聖剣が?」
「うん……リーダ、どうしよう?」
チラリと聖剣をみると、ほんの少しだけ刀身が見えていた。オレ達が手をかけたときは、欠片ほども見えなかったのだから、これだけでもすごいことだ。
「はっはっは。やっぱりダメだったろ? さあ、そろそろ潮時だ。ほら、勇者様が来られる。勇者様の為に、少しこの辺を清めたいんでな。そろそろおいとましちゃくれないか」
笑いながらおっちゃんが急かしてきた。
「どうしよう……」
ノアがすがるように、オレに声をかける。
チラリと勇者の軍を見ると、ゆっくりとパレードのようなことをやりながらこちらへ向かってきているのが見えた。
『ズズズ……』
え?
そのうえ、いきなり中層から地上のこの場所近くまで一気に降りることができるように、土色の階段が出来上がった。目の前で、いきなり地面が階段の形に隆起するのは、凄い光景だ。
「なんスか?」
「あれは……きっと勇者の軍にいる精霊使いトヨ。土の精霊ノームの力に間違いないトヨ」
やはり精霊の力はすごいな。
「こりゃ……すごい。思ったより早くつくな、こりゃ。そういうわけだ。すまんな」
まだまだ先の話だなんて思っていたが、これはすぐにつきそうだ。
とにかく、この状況で聖剣が抜けましたというのは、さすがにまずい。
あの一団の顔を潰すだけでは終わらないよな。きっと。
抜いたとして、今後のことを考えるとお腹が痛くなる。
よし。決めた。
「しらばっくれよう」
「シラバックレル……でしたか」
「そうそう、内緒。抜けたことは内緒」
「うん」
ノアとこそこそと話をして、よしじゃあ帰ろうということになった。
「あれ、返るト? せっかくだから勇者様を見ていかないト?」
「皆さん期待しているので、場所を空けたいと思いまして……ほら、馬車、邪魔になるでしょう」
「優しいト。そういう所は好きヨ」
今後のことを考えると、いたたまれなくなったので、足早にその場を後にする。
ふと見ると、気づかない間に周りに人がいっぱい来ていた。
勇者が剣を抜く光景を一目見ようと思って集まったのだろう。
人混みを駆け抜け、聖剣の丘を立ち去る。
背後の方で大歓声が上がった。
「わぁ。勇者様が聖剣を抜かれたヨ。まるで、封印なんかなかったかのようにスルリと抜けたトヨ。さすが勇者様トヨ」
馬車の屋根に上り、聖剣の丘をみていたエテーリウが興奮したように言う。
『オオオォォォ!』
歓声は、ますます大きくなり地鳴りのように辺りを震わす。
これはもう絶対に言ってはダメな話になったな。
まぁ、勇者が聖剣を抜くのは普通の話だろう。
うん、そうだ。そういうことだ。
そう考え、オレ達は宿へと戻る。
「リーダ?」
「ん? 聖剣の事は、内緒。隠し事。オレ達だけの秘密だ」
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
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アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
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