219 / 830
第十三章 肉が離れて実が来る
ゆめはひろがる
しおりを挟む
ウキウキ気分で長老の家へと帰宅する。
すでに夕食の準備は整っていて、チーズの焼ける良い匂いがする。
エルフのチーズは材料が地上のそれとは違うらしい。
そんな夕食の時、エルフの工芸品のについての話になった。
「不思議な道具が沢山あって、昨日は驚きました」
「ふむ。例えばどのようなものに驚かれたのかね?」
「身体を包むと膨らむお布団とか……」
「夢見カイコで紡がれた、眠りの布か。確かに、地上にはないのぉ」
「このビスケットも、この場所で初めて食べたよね」
「気に入っていただけで何よりだ」
オレ達の感想に、長老は嬉しそうに笑った。
「眠りの布……もし宜しければ、差し上げましょうか?」
今日から、しばらく長老の家に滞在することになったシューヌピアが、そんな申し出をする。
「宜しいのですか?」
「えぇ、無理なお仕事をお願いするのですから。それくらいは。それに兄も、報酬を渡すと言っていませんでしたか?」
「確かに、エルフの工芸品を頂けるとか」
「えぇ。世界樹の枝で作った杖や、世界樹を舞う鳥の羽で編んだ服。腕に絡みつき姿を消す大弓……他には、200年かけて編み上げた絨毯……いろいろですね」
エルフは寿命が長いからか、軽い調子で200年かけて編み上げたなんて言葉がでてきた。200年は人の一生よりも長い。
「200年ってのは凄いっスね」
「人にとってはそうじゃな。我らにとってはそこまで長い話ではない。世界樹の枝で杖を作るにしても30年かけるからの」
オレと同様の事を考えていたプレインに、長老は大したことが無いと謙遜したように笑う。あの調子だと、1つ完成させるのに10年20年はざらにありそうだ。
報酬も凄そうだし、やる気がでてくる。
「何か希望の品があれば教えて下さい」
「ありがとうございます。でも、報酬より仕事が先ですしね。時間もありますし、じっくり考えてみます」
最初の出会いが最悪だった反動からか、ハイエルフの皆さんが輝いて見えてきたところで、1日を終える。
「やったね。楽しい仕事の始まりだ」
翌日、少し早起きしてからの食事が終わり、現場へと向かう。
とりあえず優先して片付ける91個の飛行島に取りかかる。
どれもこれも、状況は同じ。
魔法陣がそれぞれ所々風化していて、消えかかっていた。そのため、魔法陣が完全に残っている飛行島と見比べて欠けているところを埋めるように、上書きする。
「魔法陣が欠けているのに、どうして浮いていられるのか不思議に思うんです。思いません?」
「確かにカガミ氏のいう通り妙だな。いままで検証できた魔法陣のルールとは違う。どういうことだ」
手を動かしながら、考える。
だが基本は単純作業。
保存状態のよかった飛行島にある魔法陣を、ハイエルフが描き写したものがあるので、それを参考に他の不完全な魔法陣を修正していく。ただ、それだけの話だ。
時間はかかるが面倒くさい。
なんとか対策して、楽に、素早く進めたいものだ。
「これはひょっとして……」
単純作業を半ば放棄し、魔法陣そのものの解析を進めていたサムソンが、唐突に声をあげる。
「ん? 何か分かったのかサムソン」
「この魔法陣」
ハイエルフ達が写し取った魔法陣が描かれた紙をパシパシと手で叩き、サムソンは続ける。
「読めるところは、オレ達が住んでいた空飛ぶ家、あれとほぼ同じだ。だが、詳細が1部違う」
「でも、読めないところもあるんだよな」
「読めないところは、読める部分の挙動から推測できる」
「さすがサムソン。そんなことが出来るんですね」
「読めないところは、浮かせる部分と、具体的な移動についての挙動を司っているようだ」
「じゃあさ、読めるところは?」
「どういう風に移動させるか……上昇するのか、下降するのか、前に進むのかどうか、そんなことを外部から読み取り、読めない部分にデータを受け渡す。データの取得と受け渡し部分だな。つまりは制御部分。魔法陣の読めない部分以外は、全部制御関係で埋め尽くされている」
サムソンが、魔法陣を指さしながら挙動を説明する。
「あぁ、この引数が、こちらの魔法陣に渡されて……なるほど、これって型変換が自動でされている感じですね」
「サムソン先輩のメモによると……この氷菓子って単語……唐突にでてきてるコレって、変数名だったんスね」
魔法の話をしている気がしない。
もっとファンタジックな話がしたい。
「この魔法陣の構成、なんとなくは分かりますが……ウッドバードに似ていますね。特に、ウッドバードの制御部分を彷彿とさせると思います」
ウッドバード……ゴーレムを作るときに参考した魔導生物だったな。魔法で作り出す無機生物。確かに浮いて動かす所は似ている。それに、あれも浮かせる部分と、どういう風に動かすかの部分が、別れていたな。確か、1つの魔法陣の中に円が複数あるタイプだったはずだ。
「なんにせよ、解析が進んでいるならサムソンは引き続き調べてくれ。どうせ、今やっているのは単純作業だ。オレ達だけでなんとかなる」
「悪いな。だが、あと少しな気がするんだ。きっと空飛ぶ家を再現してみせるぞ」
サムソンがやる気に燃えている。
せっかく、勢いにのってるんだ。まかせるほかない。
というか、サムソンは1つの事が気になると、仕事が進まなくなる。
いつものことだ。
そして、いつものように、先に気になる部分に集中してもらって、解決したらメインの仕事に復帰してもらう。
なんだかんだ言って、このパターンが一番物事がスムーズに進む。
それに、もしかしたら何かすごい発見があるかもしれない。
「あのさ」
「どうしたんスか? ミズキ姉さん」
「これがもし、制御用の魔法陣で、それ以外の機能がないのだとしたら、浮かせる魔法陣が別にあるってことじゃない? ホラ、バイクで言うとハンドルがこの魔法陣だったら、エンジンは別ってことでさ」
「なるほど、そう考えれば……」
目の前の魔法陣が大きく欠けていても、飛行島が落ちない疑問も解消する。
とりあえず、ちびちびと作業を進めるサムソンに魔法陣の解析をお願いし、オレ達は仕事を進める。加えてロンロは、飛行島を徹底的に調べてもらうことにした。
エンジンの代わりとなる魔法陣を探すためだ。もし、その魔法陣もしくは仕組みを見つけることができれば、オレ達で空飛ぶ家を作り出すことができる。
そうしたら、旅はもっと快適になるし、これからの夢も広がる。
空飛ぶ家に乗って、寝ている間に大平原。いつでも美味しいお肉。
「天空の城とか作っちゃったりしてね。あれよりもっと大きなの」
「そうっスね」
「面白そうねぇ。頑張るわぁ」
ロンロも前向きだ。
道のりはまだまだ長いが、仕事には報酬があり、しかもプラスアルファで空飛ぶ家が手に入るかもしれない。
そして仕事が終われば、世界に名を轟かせる肉料理。
世界樹に来てから、いいことばかりだ。
そう……オレ達は、大きな落とし穴に気がつくことなく、のんびり好き勝手に仕事を進めていた。
すでに夕食の準備は整っていて、チーズの焼ける良い匂いがする。
エルフのチーズは材料が地上のそれとは違うらしい。
そんな夕食の時、エルフの工芸品のについての話になった。
「不思議な道具が沢山あって、昨日は驚きました」
「ふむ。例えばどのようなものに驚かれたのかね?」
「身体を包むと膨らむお布団とか……」
「夢見カイコで紡がれた、眠りの布か。確かに、地上にはないのぉ」
「このビスケットも、この場所で初めて食べたよね」
「気に入っていただけで何よりだ」
オレ達の感想に、長老は嬉しそうに笑った。
「眠りの布……もし宜しければ、差し上げましょうか?」
今日から、しばらく長老の家に滞在することになったシューヌピアが、そんな申し出をする。
「宜しいのですか?」
「えぇ、無理なお仕事をお願いするのですから。それくらいは。それに兄も、報酬を渡すと言っていませんでしたか?」
「確かに、エルフの工芸品を頂けるとか」
「えぇ。世界樹の枝で作った杖や、世界樹を舞う鳥の羽で編んだ服。腕に絡みつき姿を消す大弓……他には、200年かけて編み上げた絨毯……いろいろですね」
エルフは寿命が長いからか、軽い調子で200年かけて編み上げたなんて言葉がでてきた。200年は人の一生よりも長い。
「200年ってのは凄いっスね」
「人にとってはそうじゃな。我らにとってはそこまで長い話ではない。世界樹の枝で杖を作るにしても30年かけるからの」
オレと同様の事を考えていたプレインに、長老は大したことが無いと謙遜したように笑う。あの調子だと、1つ完成させるのに10年20年はざらにありそうだ。
報酬も凄そうだし、やる気がでてくる。
「何か希望の品があれば教えて下さい」
「ありがとうございます。でも、報酬より仕事が先ですしね。時間もありますし、じっくり考えてみます」
最初の出会いが最悪だった反動からか、ハイエルフの皆さんが輝いて見えてきたところで、1日を終える。
「やったね。楽しい仕事の始まりだ」
翌日、少し早起きしてからの食事が終わり、現場へと向かう。
とりあえず優先して片付ける91個の飛行島に取りかかる。
どれもこれも、状況は同じ。
魔法陣がそれぞれ所々風化していて、消えかかっていた。そのため、魔法陣が完全に残っている飛行島と見比べて欠けているところを埋めるように、上書きする。
「魔法陣が欠けているのに、どうして浮いていられるのか不思議に思うんです。思いません?」
「確かにカガミ氏のいう通り妙だな。いままで検証できた魔法陣のルールとは違う。どういうことだ」
手を動かしながら、考える。
だが基本は単純作業。
保存状態のよかった飛行島にある魔法陣を、ハイエルフが描き写したものがあるので、それを参考に他の不完全な魔法陣を修正していく。ただ、それだけの話だ。
時間はかかるが面倒くさい。
なんとか対策して、楽に、素早く進めたいものだ。
「これはひょっとして……」
単純作業を半ば放棄し、魔法陣そのものの解析を進めていたサムソンが、唐突に声をあげる。
「ん? 何か分かったのかサムソン」
「この魔法陣」
ハイエルフ達が写し取った魔法陣が描かれた紙をパシパシと手で叩き、サムソンは続ける。
「読めるところは、オレ達が住んでいた空飛ぶ家、あれとほぼ同じだ。だが、詳細が1部違う」
「でも、読めないところもあるんだよな」
「読めないところは、読める部分の挙動から推測できる」
「さすがサムソン。そんなことが出来るんですね」
「読めないところは、浮かせる部分と、具体的な移動についての挙動を司っているようだ」
「じゃあさ、読めるところは?」
「どういう風に移動させるか……上昇するのか、下降するのか、前に進むのかどうか、そんなことを外部から読み取り、読めない部分にデータを受け渡す。データの取得と受け渡し部分だな。つまりは制御部分。魔法陣の読めない部分以外は、全部制御関係で埋め尽くされている」
サムソンが、魔法陣を指さしながら挙動を説明する。
「あぁ、この引数が、こちらの魔法陣に渡されて……なるほど、これって型変換が自動でされている感じですね」
「サムソン先輩のメモによると……この氷菓子って単語……唐突にでてきてるコレって、変数名だったんスね」
魔法の話をしている気がしない。
もっとファンタジックな話がしたい。
「この魔法陣の構成、なんとなくは分かりますが……ウッドバードに似ていますね。特に、ウッドバードの制御部分を彷彿とさせると思います」
ウッドバード……ゴーレムを作るときに参考した魔導生物だったな。魔法で作り出す無機生物。確かに浮いて動かす所は似ている。それに、あれも浮かせる部分と、どういう風に動かすかの部分が、別れていたな。確か、1つの魔法陣の中に円が複数あるタイプだったはずだ。
「なんにせよ、解析が進んでいるならサムソンは引き続き調べてくれ。どうせ、今やっているのは単純作業だ。オレ達だけでなんとかなる」
「悪いな。だが、あと少しな気がするんだ。きっと空飛ぶ家を再現してみせるぞ」
サムソンがやる気に燃えている。
せっかく、勢いにのってるんだ。まかせるほかない。
というか、サムソンは1つの事が気になると、仕事が進まなくなる。
いつものことだ。
そして、いつものように、先に気になる部分に集中してもらって、解決したらメインの仕事に復帰してもらう。
なんだかんだ言って、このパターンが一番物事がスムーズに進む。
それに、もしかしたら何かすごい発見があるかもしれない。
「あのさ」
「どうしたんスか? ミズキ姉さん」
「これがもし、制御用の魔法陣で、それ以外の機能がないのだとしたら、浮かせる魔法陣が別にあるってことじゃない? ホラ、バイクで言うとハンドルがこの魔法陣だったら、エンジンは別ってことでさ」
「なるほど、そう考えれば……」
目の前の魔法陣が大きく欠けていても、飛行島が落ちない疑問も解消する。
とりあえず、ちびちびと作業を進めるサムソンに魔法陣の解析をお願いし、オレ達は仕事を進める。加えてロンロは、飛行島を徹底的に調べてもらうことにした。
エンジンの代わりとなる魔法陣を探すためだ。もし、その魔法陣もしくは仕組みを見つけることができれば、オレ達で空飛ぶ家を作り出すことができる。
そうしたら、旅はもっと快適になるし、これからの夢も広がる。
空飛ぶ家に乗って、寝ている間に大平原。いつでも美味しいお肉。
「天空の城とか作っちゃったりしてね。あれよりもっと大きなの」
「そうっスね」
「面白そうねぇ。頑張るわぁ」
ロンロも前向きだ。
道のりはまだまだ長いが、仕事には報酬があり、しかもプラスアルファで空飛ぶ家が手に入るかもしれない。
そして仕事が終われば、世界に名を轟かせる肉料理。
世界樹に来てから、いいことばかりだ。
そう……オレ達は、大きな落とし穴に気がつくことなく、のんびり好き勝手に仕事を進めていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?
石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます!
主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。
黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。
そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。
全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。
その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。
この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。
貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる