召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十四章 異質なるモノ、人心を惑わす

せきそうまほうじん

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「何があった?」
「あ、先輩」

 すぐに小屋へと戻り、中央に置かれた小さなテーブルについたノアとサムソンを見る。
 小屋の中には2人の他に、プレインにトッキーとピッキーがいた。
 テーブルの上には1冊の本。
 木で作られた表紙に色鮮やかな装飾がしてある本だ。
 ハイエルフの里でもらった星落としに関する魔法の本。

「どうしたんだ、サムソン」
「あぁ。ノアちゃんから、本が難しいって聞いたから見ていたんだ」

 サムソンがぱらりとページをめくり、オレの方へと向ける。
 覗き込むと色々と書かれている。
 ぱっと見、ノア向けの本とは思えないぐらい小さな字でびっしりと書き込まれていた。

「あのね。最初のページしか読めなくて……」

 ノアが小さな声でボソボソと呟く。

「そりゃそうだ」

 ノアの小さな独白をサムソンが当然のように受け止め、ページを指で叩き言葉を続ける。

「こっから先はどう見てもノアちゃん向けじゃない」
「うん、オレもそう思う」
「というか、これ俺達でも難しすぎるぞ」
「そうなんスか?」

 文字の大きさや、絵の細かさから、ノアのような子供向けではないとは思ったが、サムソンでも難しいか。
 ノアのプレゼントに、なぜそんなに難しい記述があるのだろうか?
 頑張って勉強して、早く分かるようになって欲しいという期待を込めてなのだろうか。

「で、サムソンは何を見て大きな声を出したんだ?」

 ただ難しいだけで、あんな大きな声を出すとは思えない。

「そうだ。この本に描かれていたこと。この星落としの魔法なんだが、すごいんだよ」
「凄い?」

 サムソンがすごく興奮した様子でオレに訴える。
 なにか凄い発見をして喜んでいる様子だ。

「星落としの魔法は他の魔法陣と違う」
「そりゃ、凄い魔法だから、多少は違うところがあるんだろうな」
「違う。そういう意味じゃない、作りが全く違うんだ」

 改めて、星落としの魔法陣を見る。
 円形をしている。円の中には四角が角度を変えて複数描いてあり、線の縁にそって文字が書いてある。中央には記号。
 どの魔法陣とも同じ作りだ。円形をしていて、円の中に、円がさらに描いてあったり、四角だったり、星形が描かれていて、線にそって文字が書いてある。中央には記号。
 特に形が違うといったところもなく、よく見る魔法陣だ。
 ただ1つ違うのは、オレ達でも魔法陣に書いてある文字が読めないこと。
 だが、いままでも読めない文字で書かれた魔法陣は多々あった。
 いまさら騒ぐほどではない。

「よくある魔法陣だと思うけど?」
「この魔法陣は、俺達には読めない」

 オレの言葉に、サムソンは読めないことを指摘する。

「そんな魔法陣はいままでもあったろ?」

 オレの指摘に、サムソンがニヤリと笑う。

「このページだけだったら分からないんだが……この前のページ」

 サムソンが話をしながら、本のページをめくる。
 そこに描いてある図面を見て一瞬で気がつく。

「もしかして、オレ達が読めなかった魔法陣って……」
「やっぱり驚くだろう?」

 驚いたのはオレだけではない。プレインも驚いた表情を浮かべた。

「カガミ様とミズキ様を呼んできます」

 オレ達の様子を見て、トッキーとピッキーが外へと駆け出していった。
 すぐにスピードが落ちて、カガミとミズキが部屋へと入ってきた。

「何かあったの? ピッキー達が大発見がありましたって言ってたけど」
「あぁ、これ」

 本を指さす。
 開いているページには、星落としの魔法陣を解説した図面が乗っている。

「ふーん」

 ミズキは特に何も思わなかったようだが、カガミが大きく目を見開いていた。
 サムソンはそれを見て、次のページをめくって魔法陣を指さす。

「カガミ氏が思っているとおりだ。ここに描いてある魔法陣の正体が……」

 そう言いながらサムソンをペラリとページを前に戻し、さらに言葉を続ける。

「ここに描いてある星落としの魔法陣だ」
「一つの読めない魔法陣だと思っていたら、複数の魔法陣を重ね合わせていた?」

 サムソンが頷いた後、解説してくれる。

「特殊な魔法陣を間に挟むことで、複数の魔法陣を一つの魔法陣にまとめることができる……ということだ」

 描いてあったのは、魔法陣を斜め上から見たような解説図だ。
 3つの魔法陣が縦に並んであり、その横には、1つの魔法陣が描いてある。
 つまり一番下に土台となる魔方陣を描いて、次に魔法陣と魔法陣を接続する魔法陣を描く。更にその上にもう一つの魔法陣を描く。

「なるほど。オレ達が文字を読めなかった訳ではない……ってことだったのか」

 複数の魔法陣が重なっていたから文字として認識できなかったのだ。

「2つの魔法陣を単純に上へと重ねただけだったら……」
「読めたと思います。でも、この真ん中に描いてある魔法陣。この記号だらけの魔法陣が邪魔になって、上に描かれている魔方陣と下に描かれた魔法陣、両方の文字が分からなくなっていたんですね」
「なーる。レイヤーABCってあって、レイヤーBに描いてある変な記号のせいで、レイヤーAとCの文字が読めないってわけね。完璧に理解したよ」

 少し遅れて、ミズキが自分なりの解釈を発言し、うんうんと頷く。

「もし、くっついた魔法陣を、分解する方法があれば、今まで読めなかった魔法陣が読めるようになると思います。思いません?」
「そうだ。実際だな」

 そう言ってサムソンは本を閉じて、ノアの方に返す。
 本の下には魔法陣が描かれた紙が置いてあった。

「これは?」
「星降りの魔法陣だ、それでこれにだな……」

 サムソンは再びノアから本を受け取ると、別のページを開け、小声で魔法を詠唱する。
 そして、ゆっくりと星落としの魔法陣に手をやり、それを上に持ち上げるように手を動かした。

「分裂した?」

 紙に描かれた星降りの魔法陣が立体映像のように、空中へ浮き上がった。そして、分裂するように三枚に別れて表示され、さらにサムソンが手を動かすと、五枚に分かれて浮き上がった。
 最終的に、2つの記号だらけの魔法陣と、そして3つの魔法陣に分かれて見えた。

「こうやると読めるようになるんだ。つまり、分解して表示する魔法も、この本には載っていた」
「今まで読めなかった魔法陣が、どういう作りになってるのかを調べることができるな」
「あぁ。すごいだろ?」

 ニヤリとサムソンが笑う。
 笑みが我慢できないのは分かる。これは大発見だ。
 それからサムソンが理解できた部分について説明してくれる。
 サムソン先生のプチ講義の始まりといったところだ。

「お茶でち」

 チッキーが用意してくれたお茶を飲む。
 先程の分離した図面が描いてあるページによると、星落としの魔法は3つの魔法陣から成り立っているらしい。
 一つ目が、極光魔法陣を指定する魔法陣。二つ目が、極光魔法陣を天から剥ぎ取る魔法陣。
 そして三つ目が、目標へ極光魔法陣を落とす魔法陣らしい。

「とまぁ、つまり3つの魔法陣を同時に使用するために、魔法陣を重ね合わせる必要があるということだ。せきそう……積層魔法陣と呼ぶらしい」
「へー」

 お茶請けにと、ノアが鞄から出して皿に盛ったカロメーを食べながらサムソンの説明を聞く。
 積層魔法陣か……。
 屋敷の地下にあった魔法陣。
 この世界にやってきたオレ達が、最初に立っていた魔法陣も、読めなかったな。あの魔法陣も積層魔法陣というわけか。
 うまくすれば、この世界に残り続ける方法が分かるかもしれない。
 何にせよ、魔法の理解が深まるのは間違いない。
 説明が終わり、サムソンは星落とし魔法陣を構成するそれぞれの魔法陣を調べだした。
 カガミは本を熱心に見つめている。
 オレはというと、ぼんやりと2人の様子を眺めながらカロメーを食べていた。
 魔法の理解は進んでも、ノアの呪いに対するアイデアは浮かばない。
 そんな時、ふと部屋が揺れた。
 おそらくミズキあたりが海亀を急発進させたのだ。
 揺れによって、皿に盛り付けられたカロメーが落ちてしまう。

「まったく」

 小さく悪態をつき、床に落ちたカロメーに手を伸ばしたときのことだ。
 まさか?
 閃きがあった。
 そして、次の瞬間、先程のサムソンと同じぐらいの大きな声でオレは叫んでいた。
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