召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十七章 立ちはだかる現実

みちがえるギリア

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「つめたい!」

 すぐそばで、ノアの声が聞こえた。
 目が覚めたようだ。

「おはよう、ノア」

 ノアに声をかける。

「リーダ!」

 大きな声を上げて、ノアはオレに抱きついてきた。
 オレの服に顔をうずめて、ぐりぐりと額を押し付けている。

「心配させちゃったね。ノア」

 ノアの頭を軽く撫でながら、そう答える。
 オレの服に顔をうずめたまま、ノアはコクコクと大きく何度も頷いた。

「でも、おかげで、黒の滴を本体もまとめてやっつけちゃったよ」

 成果を報告する。

「倒しちゃったの?」

 ノアは、ぱっと顔を上げ言った。

「そーだ。倒しちゃった」
「すごい!」

 満面の笑顔でノアはねぎらってくれた。

「どうします」

 そんなオレ達をみて、嬉しそうな笑顔のカガミが声をかけてくる。

「とりあえず陸に上がろう。こんな寒いのはまっぴらだ」
「茶釜は?」
「ほら、あそこ」

 ノアの問いかけに、カガミが器用に泳ぐ茶釜を指さす。
 茶釜を先頭に、子ウサギが器用にパチャパチャと音をたてて泳いでいた。

「じゃあ、茶釜に続け!」
「海亀さん、お願いします」

 獣人3人が床を叩き、海亀に指示を出す。

「帽子、帽子。この子、寒そう」

 ミズキに言われて、海亀用につくった、シルクハット型の帽子を取り出す。
 かぶると海亀が飛翔魔法を使えるようになる魔導具だ。
 ミズキが慣れた様子で、帽子を被せると、海亀は即座に魔法を使い、水面へと浮き上がった。
 湖の冷たさがよっぽど堪えていたのか、必死な感じだ。
 水面の上を跳ねるように走っていく。
 スピードはぐんぐんと増し、先行していた茶釜に一気に追いついた。
 そして追い抜く。
 追い抜かれた茶釜は、すぐに海亀の尻尾にかじりつき、引きずられるように泳ぐ。
 その背中には子ウサギが、器用に捕まっている。

「可愛い!」

 ミズキが嬉しそうな声をあげる。
 オレは、周りを見る余裕なんてない。
 跳ねる水が体にかかって、冷たくてしょうがない。早く陸に上がりたい。
 軍艦は、しばらくに追いかけてきていたが、やがて諦めたのか、スピードをどんどん落としていった。
 いきなり空から物体が落ちてきたら、それは警戒するよな。
 春は近いが、いまだ空気が冷たい。
 そして水も冷たい。
 下手すると、ショック死するんじゃないかって言うぐらいの冷たさだ。
 だが周りを見ると、もうすでに雪は溶け、湖から見える山々も青々としていた。
 ギリアの山の緑と、湖の青は、やはり絵になる風景だと思う。
 港に着き、飛び上がるように上陸した。
 今度は兵士がこちらに向かってくる。
 特に、武装しているようではなく、何だアレって感じで互いに話をしながらの小走りだ。
 捕まって冷たいまま尋問されるのは嫌だ。

「とりあえず外にでよう。それから影の中から家を取り出して、海亀の背に取り付ける。体を乾かしてゆっくりギリアの屋敷に戻ろう」

 領主への報告は、後日でいいだろう。

「オッケーイ!」

 地釜達エルフ馬は、上陸して、しばらく走った後、ぷるぷると身体を震わせた。
 茶釜がやるのを見ようまでで、子ウサギ達も一緒になってぶるぶると体を震わせる。

「かわいい!」

 カガミとミズキが嬉しそうに見ている。
 茶釜と旅を始めて、数ヶ月。
 そろそろ見慣れてもいいころだと思う。
 まあ、そんなことはどうでもいい。まず外に出るのだ。
 道なりに、町を進んでいくと、ギリアがずいぶんと様変わりしていることに気がつく。
 スカスカだったギリアの町に多くの建物が並んでいる。
 それだけではない。巨大な足場が見えたり、トントンカンカンと金槌をたたく音が、あちらこちらから響いてくる。
 ギリアの町どんどん発展していっている。

「あっ。親方だ! おやかたー!」

 ピッキーが嬉しそうな声をあげる。

「おう! 坊主共!」
「ただいま親方!」
「すいません。後でまたお伺いします!」
「おお、頑張れよ!」

 レーハフさんは引退したはずなのに、足場の方に立って作業中だった。
 ピッキーの声に、嬉しそうな声をあげ、手を振ってくれた。
 ギリアは変わっても、住んで人は変わらない。

「落ち着いたら挨拶に行こうな」
「はい!」

 そう言いながら、町の外へと出ていく。
 とりあえず、外に出て落ち着いたら、とっとと体を乾かそう、お風呂に入るのもいいかもしれない。

「あれ。宿が立派になってる」
「マジだ。3階建てになってるぞ」

 見違えるように変わっていく町並みを眺めつつ、しばらく進んでいき、ギリアの町を出ていく。
 門に近づいたとき、最初は槍を構えていた兵士たちだったが、オレ達の姿を見ると、サッと槍をよけて溶けて道を譲ってくれた。

「やっぱり信用っていいもんだよな」

 不審人物だと思ったが、知っている人だったので道を空けてくれたっていう感じだ。

「さぁ。町の外っス」

 町からで出て、しばらく道なりに進む。

「あっ。バルカンじゃん!」

 前から、バルカンが馬車にのって向かってきていた。
 二頭立ての、ものすごく巨大な馬車に乗っていた。

「あー。ミズキじゃないか! 戻ってきてたのか!」
「今さっき戻ったとこ」
「あぁ、そういや……」
「ごめん、バルカン。ちょっと急ぎだからさ、お話はまた今度!」
「あっ、おい」

 バルカンとの再会も祝いたいが、とりあえず暖を取りたい。
 もう少し進んだら、休憩にしよう。
 それにしてもバルカンが乗っていた場所は、巨大だった。
 馬車と言っても、引っ張っているのは巨大な猿だ。
 そういや昔見たな。
 エレク少年を冬に迎えにきた巨大猿だったな。
 名前忘れてしまったけれど。
 巨大猿の2頭立て。迫力があった。
 その後も頻繁に馬車とすれ違う。
 護衛の兵士なども一緒にいて、物流が盛んといった感じだ。

「街道を外れたあたりで、休憩をとることにしたほうが良くないっスか?」

 プレインの言葉に大きく頷き、屋敷へ向かって進んでいく。
 街道をはずれて、しばらく進むと人通りもいなくなった。

「家を備え付けて、ここで一旦休憩にしよう」
「寒いしね。ちょっと着替えたいと思います」

 すぐに家を取り出す。
 トッキーとピッキーが手慣れた様子で海亀の背に取り付けてくれる。

「なんだか、工事現場ばっかりだったっスね」
「新しい家も増えてた」
「結局、オレ達って1年近く旅をしてたから、その間にあれだけ家が建ったんだよな」
「そうそう」
「たった1年の間にあんなに変わっていたのには、驚いたぞ」
「何があったんでしょうね」

 当面は、情報収集をした方がいいかもしれない。
 だが、まずは暖を取ろう。
 いろいろあったし、少し休憩だ。
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