召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十七章 立ちはだかる現実

りそくとたいさく

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 いきなりつまずいたが、始まったばかり。
 現状の確認と情報収集はまだまだ続く。
 温泉の売り上げはなかった。
 では、次はプレインのマヨネーズ事業だ。

「金貨、8枚っスよ」

 商業ギルドに入って確認したところ、金貨8枚という売り上げだった。
 プレインはマヨネーズが売れたことに大喜びだが、金貨8枚では全然足りない。

「思ったより少ない」
「貴族に売れないと、大もうけは難しいみたいっスね」

 庶民相手の商売と、貴族相手では、大きく違うらしい。

「次だ、次」

 ということで、商業ギルドの掲示板を見回す。
 ギルドの職員にお金を渡し、何か一攫千金になる夢のなる話がないかどうかも聞いてみる。

「そうですねー。あっ、これなんかどうですか?」

 ピョンと飛び上がり、ギルド職員の彼女が、やや大きめの木札を手に取った。

「シナリオ求む。シナリオコンテスト?」

 木札にはそう書いてあった。

「今回は、大々的に募集してるんですよ。王様は、演劇好きで有名ですから」
「王様が?」
「はい。最も素晴らしい物語を紡ぐ者には、王より直々にお言葉と褒美が頂ける……とのことで話題ですよ」
「へー」
「ただし、締め切りが近いので急がなきゃいけないですし、それにここから王都までシナリオを送るに対して、やっぱりお金かかるのが困りものですけどね」

 それでも一攫千金で借金問題は一気に解決できそうだ。
 なんたって王様の褒美だからな。

「とりあえずこれ試してみよう。うん。これは、幸先がいい」
「うまくいくかどうかわからないのに……」
「大丈夫だ、オレ達には切り札がある」
「切り札っスか?」
「そうだ。オレ達はなんだかんだでいって色んな物語を見てきただろう? ゲームとかで。それを拝借する」
「えっと、それって、とうさ……」
「大丈夫だ。ここでは、それを指摘するやつはいない」
「そりゃ、そうだろうが……マジかよ」

 ということで、まずはシナリオコンテストに応募することにした。
 あれやこれやクオリティーの高い、元の世界で人気のお話を丸写しで一攫千金。
 もっとも、高額な報酬の仕事はそれほどなかった。
 賞金首も、ここ最近のギリアは治安がいいらしく、いいものがない。

「今の領主様になって、とっても平和になったので、逆に手配書は少ないんですよ」

 ラングゲレイグって、結構優秀なんだな。
 それとも、ヘイネルさんが優秀なのか。
 どこにいるのかわからないような、手配書は一杯あるけど、ギリアの町で、悪党倒して一攫千金とはいかないようだ。

「いい仕事や難しい仕事は、やはり信用第一で直接頼みますもんね」

 ギルドの職員が言った言葉に、納得する。

「コカトリス討伐……金貨400枚」

 ただし、一件だけ、なかなか報酬が高い仕事があった。

「ギリアの北部」
「えっと、これは、ここから10日ほど、北へ進んだ森ですね」

 ギルドの職員によると、コカトリスは大きな鶏に蛇の尻尾を持つ魔物だという。
 ゲームで名前を見たことあるな。
 問題は、石化。
 蛇の形をした尻尾に噛まれると、石化してしまうそうだ。

「遠くから魔法の矢でなんとかなりそうっスね」

 とりあえず、コカトリスをやっつけて、今月はしのげそうだ。
 あとは地道な仕事ばかり。
 どんなに頑張っても金貨1枚を稼ぐのも、大変だ。

「まずは文章を書いて投稿。それからミランダの居場所をなんとか調べて、家賃請求」
「あと、魔物、コカトリス退治っスね」

 とりあえず、当面の金策はこれだけ。
 庶民の金銭感覚では、金貨300枚というのはハードルが高い。
 ところがギルドでは、庶民相手ということで、安い仕事が多い。
 高額な報酬は、もっと都会に行くか、貴族とのやり取りが必要不可欠。
 ギルドの依頼をみて、職員に話を聞いたところ、そういう結論に達した。
 引き続き、お金稼ぎのネタを探すことにする。
 ちまちま稼いでも利息分にもならないのだ。
 加えて、ロープウェイに使う、張り替え用のロープを購入する。
 ロープ代が、必要だと思っていたら、なんとタダだった。
 加えて金貨20枚という大金までもらえた。
 なんでもオレ達が、公爵からもらった船を貸し出す形で運用していたそうなのだ。
 これはギリアの港での取り決めだそうだ。
 長期に所有者が不在になった船は、特に希望しない限りは自動的に貸し出される仕組み。
 そして何年間か、不在になった期間が続けば、その船は自動的に売りに出されるらしい。
 今回はその仕組みに助けられた。
 予想外の臨時収入が続く。
 カガミとミズキが広告塔になった、ギリアの貴族であるイザベラの依頼だ。
 何でも売り上げが、予想を超えて伸びたそうだ。
 旅先で、遊び歩いていたのがプラスに働いたらしい。
 そんなわけで、臨時収入の金貨100枚。
 やはり貴族相手の商売になると、金銭的な桁が上がるようだ。

「なんだか、来月分の利息までクリアできそうっスね」
「そうだな」

 しかも、オレ達には一攫千金っていう切り札もある。
 将来に向けた展望が見えてくると、緊張感は消えて、気が楽になってきた。
 ただ、楽観的だったのはオレ達、つまりはオレと同僚だけだった。

「リーダ。どうしよう」
「どうしたの?」

 数日して後、ノアが何かを書き込んだ紙を持ってきた。
 テーブルの上に広げる。
 ノアの可愛らしい字で、数式が書いてあった。

「あのね。お金をいっぱい返さないと、いつまでたっても借金が減らないの」

 オレ達を見回して、ノアが言う。

「おいらも一緒に計算したんですけど……」

 トッキーもしょぼくれた調子だ。
 カガミが、ノアの書いた数式を見て、涙目になってうつむいた。
 ノアがそんなカガミの様子をみて、さらに悲しそうな顔になる。
 書いてあるものを見ると、ノアなりに利息を計算していたらしい。
 くわえて返済計画も。
 目で、ノアの書いた数式を追っていくうちに、一つの誤りに気が付いた。
 計算式は立派なのだが、契約条件の理解が間違っている。

「大丈夫だよ、ノア」

 心配している皆のために、オレは解説してあげることにした。
 ノアの計算では毎月利息が発生する。
 それは正しい。
 だが、返済したお金をどう使うかが、ちょっとだけ間違えていた。
 領主との会話で、契約面については確認したのだが、ノアには難しかったようだ。
 ノアは、返済するお金を、優先的に利息へと使っていた。
 つまり、月あたり金貨300枚発生する利息を、優先的に返すという考え方だ。
 こうなると、元本は減らないので、金貨300枚の利息は発生し続ける。
 さらに、ノアは金貨300枚返せなかった時のことを考えて、どんどん返すお金が増えていくと心配したわけだ。
 だが、今回は条件が違う。
 まず元本を優先的に返済する。
 元本が減れば発生する利息も減る。
 つまり、金貨100枚を返済すれば、元本の金貨3000枚の借金は2900枚となる。
 そうなれば、次に発生する利息は金貨290枚だ。
 だから、相手が許してくれれば、ちまちまと返すことで借金はいずれなくなる。
 これが、元の世界だったら、とんでもないことになっていたはずだ。
 絶対に元本からの返済なんて、許してくれない。
 ありがとう、異世界。
 ということを、かいつまんで説明する。

「だから、こっちの塊からお金を減らしていくんだ」

 2つの円を紙に書いて、図を使ってノアに説明する。

「こっちの塊はお金が増えないの?」

 ノアが利息と書いた円を指さす。

「そう。増えない。だから頑張ればいつか全部返せる」
「そっか、頑張らないとね」

 ノアとトッキーは説明が理解できたようだが、ピッキーとチッキーが首をかしげていた。
 まぁ、難しいもんなこれ。
 勉強好きなトッキーならともかく、子供には難しい。
 でも、カガミがこのことについて、思い至らなかったのは意外だった。
 ……と、思っていた。
 だが。

「こんな小さい子供が、利息の計算をして、返済計画で悩むだなんて……」

 違う意味で嘆いていた。
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