召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十九章 帝国への旅

ちくおんのまどうぐ

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 大部隊となったオレ達一行の旅は続く。
 今進んでいる道は、王の道と呼ばれる古くからある街道らしい。
 魔法の力で劣化しない道。
 だけど古くからその道は、現在の町の分布とはあっていないそうだ。
 結果、道だけが延々と続き、町がない。
 代わりに道のはずれに宿だけがあったり、共用の休憩場があるだけだ。

「今日も賑やかだな」

 ここ最近、毎夜毎夜どこかで祭りのような騒ぎが始まる。
 最初は息を潜めるように、皆が夜を過ごしていた。
 だが、オレ達が夜の襲撃も簡単に撃退している様子をみて、どんどん大胆に……活気がある夜を過ごす様になっていった。
 総勢100名を超える一行には、行商人をはじめ、いろいろな立場の人が集まっていた。
 それだけの人数が活気を取り戻すと、日々の情報交換も活発になり、旅の間にも商売を始める人も出てきた。
 さながら移動する小さな町だ。

「みてみて、できたての熱々スープ」
「料理人のおっちゃんから?」
「そうそう。あとでパンも持ってきてくれるって」

 ミズキが巨大な鍋を片手に抱え軽やかに小屋へと入ってくる。
 ここ最近は、守って貰っているからという理由で、いろいろな人から食べ物や飲み物を貰っている。
 今日のスープもそのうち1つ。
 旅の料理人の作ったものだ。

「やっぱりプロが作るとちょっと違うっスよね」
「うんうん、こんなに大きいお肉なのに、ほろほろと口のなかでほどけてさ。おいしい」

 大きな肉がゴロンと入ったスープ。
 それに平べったいピザにそっくりなパン。
 今日の夕食だ。

「この肉って……もしかして」
「うん。昨日お裾分けしたティラノサウルスの肉」

 旅の間にプレインが、料理人と話をしていた時に、ティラノサウルスの肉を使ってぜひ料理をしてみたいという話になった。
 その話の流れで肉をあげたのが昨日。
 初めて見たはずの食材にもかかわらず、翌日にはびっくりするぐらい美味しいスープになって帰ってきた。

「どうやって作ったんだろうね」
「こんなに大っきい塊なのに、お口にいれて大丈夫なの」

 ノアが大きな塊を口にいれて、笑顔でほおばっていった。
 確かに、スープの中に浮かんでいる大きな肉の塊は、スプーンでサクッと切れるし、口の中で、簡単にほどけて食べやすい。

「なんか魔法の調理鍋で煮込むらしいよ。昨日からずっと煮込んでいたんだって」

 ミズキがスープに浮かぶ肉をスプーンで軽くつつき言った。
 魔導具か。

「早速だ。明日ちょっとだけ見せてもらうおう」

 サムソンが、ミズキの言葉を聞いて興味がでたのか、嬉しそうに言う。

「それにさ、これこれ」

 ミズキがピザにそっくりなパンを見て笑い、言葉を続ける。

「なんか、すっごく高く上げてたよね」
「凄かったでち」
「高くって、パンを?」

 そばで見ていたミズキが言うには、ピザ職人が空中に生地を放り投げてクルクル円形に引き伸ばす動作を、その料理人もやっていたという。
 とんでもない高さにまで投げ上げて、綺麗に受け止めてみせるというパフォーマンス込みで結構盛り上がったそうだ。

「見逃したっスよ。それ」

 プレインが悔しがる言葉に、オレも頷く。
 オレ達の海亀は、そんな一行から少しだけ離れた所に野営している。
 本当はもっと近くで野営し、盛り上がる様子に参加したいのだが、ノアが近寄ると彼らがビクッと警戒してしまうのだ。
 悪気があるように思えないので、本能的なものの様だ。
 そういえば前に、バルカンが言っていたな。
 呪い子は、気配が違う。そして、魔法が上手く使えないと。
 そして、スライフも言っていた。
 以前に比べ、ノアが持つ呪い子しての力は強まっていると。
 きっとそのせいなのだろう。
 ということで、オレはノアと一緒に、小屋の中で過ごす事が多い。
 外出も、たまにロバに乗って散歩するくらいだ。
 海亀の旅が始まってから、このロバは海亀の背でゴロゴロしていることが多いのだ。
 たまには運動した方が良いと思うので、一緒に散歩に行く。
 ノアは窓の隙間から外の様子を覗き見たり、屋根の上に登り、望遠鏡で騒いでいる人達を眺めたりして、とても楽しそうにしていた。
 そうして旅は続く。
 特に特筆すべき問題はなかった。
 せいぜい魔物に襲われるぐらいだ。
 それも簡単に撃退する。
 そんな平和な旅が、10日を過ぎ、もうすぐ20日が過ぎようという頃のことだ。

「ノアにだって」

 最初に出会った老夫婦がノアのために作ってくれた。
 ロバで散歩していたときに、呼び止められて貰ったのだ。
 木彫りの人形に布の服が着せてある。
 ノアの人形も増えてきた。

「おいらが椅子を作ります」

 ピッキーが元気よく宣言する。
 そして、それから数日後、その日もいつものように外は宴会のような騒ぎだった。
 一行のうち一人が鹿を捕らえたそうで、それを皆に振る舞うことになったそうだ。
 焼いた肉を貰い、小屋に戻るとすごく静かだった。
 物音一つ立てていない。

「ノア?」

 小屋の縁で座り込んでいるノアを見つけて声をかける。
 オレの声に反応したノアが、唇に指を当てて、静かにするようにとジェスチャーで表現する。
 みると部屋の隅に、チッキーも座り込んで、ずっと静かにしていた。
 しばらくして笑顔でノアが立ち上がり近づいてきた。

「どうしたの?」
「ちょっとだけ聞こえたの」
「何を聞いていたの?」
「吟遊詩人さんの歌」
「そっか」

 ノアは吟遊詩人の近くで歌を聴くことができなかった。
 フードを深く被り、こっそりと近づいても、吟遊詩人が警戒してしまったのだ。
 それは、旅の一行の中に吟遊詩人がいて、毎夜、歌を歌っているということを知って、聞きに行ったときのことだ。

「リーダが聞いて、あとで教えて」

 そういって、ノアは一人駆けて帰って行ったのが、とても辛かった。
 それから残って聞いた歌には、オレ達の歌も入っていた。
 歌の中でのノアは、現実と同じように凄く心が優しい女の子だった。
 そして、カガミがその補佐。
 まぁ、そこまではいいが、残りの人間の扱いがデタラメだった。
 小間使い的な立場のミズキはまあいい。
 プレインが魔法も使うし、剣士としても一級の人間だというのが、少し引っかかった。
 だが、それも許そう。
 所詮、吟遊詩人の歌だしな。
 サムソンはとても聡明で美男子というのは、今後に響くのではないかと思うが、まぁこれもいいだろう。
 だが、オレの扱いが問題だった。
 オレはなぜかオチに使われることが多かったのだ。
 活躍している場面があることもあった。
 だがしかし、雪を吹き飛ばして、カガミに怒られるシーンというのはどうもいただけない。

「まあ、吟遊詩人さんの歌ですしね」
「そうそう、なんかいろんなバリエーションがあるらしいっスよ」

 カガミとプレインの半笑いでの慰めがムカつく。

「お前らはかなり活躍してるからな」
「拗ねてる、うける」
「まったく」

 そんな吟遊詩人の歌を聴こうと静かにしていたようだ。
 そして、その日はなんともやるせない気持ちで一夜をすごした。
 だが、同僚には対策してくれた者もいた。

「見て欲しいものがあるんだ」

 翌日サムソンが、夕食が終わった後にゴロンと大きな石をテーブルに置いた。

「これは?」
「言葉封じの石。蓄音の魔道具だ」
「ちくおん……蓄音というと録音することができる魔道具ですか?」
「そうだ」
「今日、ちょっと作ってみたんだ」
「へぇ」
「それでな。さっき夕食前に録音してきたぞ。食後にこれを聞いてみようかなと思ってな」
「何が入ってるんだ?」

 オレの問いに、サムソンがニコリと笑う。

「吟遊詩人の歌だよ」

 そうしてサムソンが録音してきた吟遊詩人の歌を聴くことになった。
 小屋の中に、小さめだが吟遊詩人の澄んだ歌声が響き渡る。
 歌の中身はオレ達の事もあったし、他の冒険譚もあった。

「あっ、これ昨日聞いた」
「私もこれを聞いたことある」
「まだまだ音がクリアじゃない部分はあるが、なかなかいいもんだろう? 我ながらよくできたと思う」
「さすがっスね」

 ノアは食い入るようにオレ達の歌を聴いていた。
 それを見て、サムソンはすごく満足した様子だった。
 昨日オレが言った、ノアが聞き耳を立てていたという話を聞いて、それで思いついたのだろう。
 そうだよな。1人だけ聞けないのは寂しい。
 魔道具で何とかなるんだったらやらない手はない。

「リーダが一番かっこよかったのに、かっこ悪いことになってる」

 吟遊詩人の歌に憤慨していたノアを見て、嬉しくなる。
 今度、どうにかして生歌を聴かせてあげたい。
 そんなことを考えた。
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