召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十九章 帝国への旅

閑話 幸運と困惑(ノーズフルト視点)後編

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「何があった?」
「狼のおびただしい死体が月への道にございました」
「どういうことだ? 狼が死を恐れずに月への道に挑んだとでも?」
「いえ、それは……ただ、見たままの報告でして」

 信じられない情報だった。
 狼の襲撃により、月への道が破損。
 月への道の輝きが消えたというのだ。
 大学の講義で聴いたことがある。
 最新の研究によると、月への道が破損すると天候が狂い、付近の農地に悪影響が生じる可能性があるという。
 我が領地はその殆ど全てと言っていいほどは農村による税収で賄われている。
 農業主体の領地なのだ。
 月への道の破損は、かなりの痛手になる。
 対処は1つしか無い。
 魔術師ギルドに依頼することになる。我らが派閥はあちら寄りなので要望は通るだろうが、それでも数年はかかる大事業だ。
 4年の税収の低下。
 だが思いもよらぬところから助け船があった。

「月への道でちか?」

 最初はうっかりしていたと、そして困ったことになったと思った。
 私の声が大きかったのか、物見の報告の声が大きかったのか。
 ノアサリーナ一行にいる獣人に会話が聞かれてしまったのだ。
 どこまで聞かれたのかと考え不安になった。
 口止めをお願いすれば、おそらく喋らないだろうという考えはあった。
 だが、念のためにどこまで聞かれたのかを確認していた時のことだ。

「ご主人様は月への道を、あっという間に修復して皆をびっくりさせたことがあるでち」

 そんなことを言い出したのだ。
 もしそうであれば、これはかなりの朗報だ。
 彼女達の持つ英知はそのようなことまで可能にしているのか。
 私の独断で、すぐに話を持ちかけることにした。
 ダメであれば、口止めすれば良い。

「見ないことには……お約束はできませんが」

 確かに、ノアサリーナ達は、月への道を修復したことがあるような口ぶりだった。
 そして、それは本当だった。
 彼女達は実際に、またたく間に月への道を修復してみせた。

「かようなカラクリがあったとは……」

 皆が驚いた、月への道の下には、小部屋があり、そこには代わりとなる部品が収められていた。つまり、月への道は、破損した時のことを考えた設計だったわけだ。
 なんにせよ。これで助かる。

「次からは、私共だけでも直せるでしょう」
「あぁ」

 結局、彼女達に受けた恩恵に見合うものは何もできなかった。
 せいぜい彼女達の希望する、魔導具に使う素材の提供くらいだった。
 それから程なくして、ノアサリーナ一行と別れ、領主である父へと報告に向かう。
 念のため、今後のため。
 私のため。
 つながりを残すため。
 道すがら、彼女達一行にいた獣人達の村について、再度通達を出しておく。
 可能な限り、友好的に接すること。
 そして、私の名前で便宜を図っていると、必ず伝えることを通達しておく。
 きっと、彼女達一行は、再びあの村を訪れるに違いない。
 そのための布石だ。

「若様!」

 領主の館に到着したとき、館の雰囲気が異様な事に気がついた。
 すぐに、せき立てられるように、父の元へと向かう。
 そこには、父と兄……そして、黒い鎧に身を包んだ4人の騎士がいた。
 黒騎士。
 王の言葉を伝え、その振るう力は王の剣……すなわち王の意向を汲んだものになる。

「彼が、ノーズフルトで間違いないか?」
「左様でございます」

 黒騎士の一人が、低い声で父へと確認した。
 その声音は、まるで王がその場にいるかのように私に錯覚させる。
 なぜ、黒騎士が……式典でしか見たことがない、その存在。
 このような田舎に、何を伝えにきたのだろうか。

「では、王の言葉を伝える」

 黒騎士の一人が、手に持った巻物を広げる。
 父が、即座に跪き、私と兄がそれを見て慌てて跪く。

「キトリア領、領主リオカナウド。その子、オーレガラン、ノーズフルトに命ず。月への道に関する一切の知識を秘匿するように」

 なんだって?
 私は、その言葉に驚き顔を上げた。
 だが、すぐに父の刺すような視線を感じ、頭を下げる。

「領主リオカナウドに命ず、月への道に対する修復及び調査を行わぬように」

 さらに黒騎士の言葉が続く。
 王の言葉は、月への道に関することばかりだ。

「最後に、この場にいる全ての者に命ず。今後、王の命令なく今回の言葉を他言しないように……王の言葉は以上」
「……王の臣下として、言葉に従うことを誓います」
「では、失礼する」

 黒騎士の言葉は短かった。
 その短い王の言葉を伝え、黒騎士は去って行く。
 静かだが、とても素早く去って行った。

「ノーズフルト……第一報はすでに聞いたが、お前の手に入れた知識は役に立てることはできそうにないな」

 父が私に向かい力なく笑う。

「タイミングが良すぎる……もしや、ノーズフルト、其方は監視……」
「オーレガラン。王の言葉を詮索するな」
「申し訳ありません。父上」
「まぁ、月への道に兵士を置き、魔物からの守りとするしかあるまい」

 父は驚くほどに柔軟に考えていた。
 だが、私は兄と同じように、黒騎士の言葉……いや、王の言葉について考えていた。
 監視されていたのだろうか。
 そうでなくては、これほどタイミング良く、黒騎士が月への道にかかる言葉を持ってくるとは思えない。
 監視……ノアサリーナ達につけられているのだろう。
 だが、私は決めた。
 彼女達一行に会った時から、敵対するより味方であろうと決めたのだ。
 多少のリスクはあっても、便宜を図り続けようと決めたのだ。

「まずは、ノアサリーナ一行のスケッチを見栄え良くしないとな……」
「何か言ったか? ノーズフルト」
「いいえ。兄さん」

 私の独り言に反応した兄へ微笑みながら、これからのことを考えた。
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