390 / 830
第二十章 聖女の行進
こくりゅう
しおりを挟む
「パルパランがくっついてる?」
細かいことはわからないが、パルパランが竜と一緒。
つまり今からやってくる竜は敵だということだ。
「見た感じどうですか? アンデッドですか?」
「うーん……多分アンデッド!」
カガミの質問に、ミズキが大声で答えた。
「じゃあ、迎撃するっスよ」
「そうだな俺も手伝う」
頭上からプレインとサムソンの声が聞こえた。
「迎撃って、何をするんだ?」
「光と音の一転照射っスよ」
そう言って、屋根に上っていたプレインが小屋へと戻っていった。
その頃には肉眼でも、しっかりとした姿を見ることが出来た。
巨大な黒い竜。
そして辺りに声が響き渡る。
「よくぞ、生きてくださいました。やはり、貴方方はお強い。こうなるとは思っていました。ですが、幾日も終わることのない戦いに、もう限界でしょう。体力も! 貴方方の備蓄も! さて、苦しい時間を、わたくしめが終わりにして差し上げましょう!」
とてもとても楽しそうなパルパランの声が辺りに響き渡る。
遮音の壁すら突破して頭に響く大声にクラクラする。
その声は更に続く。
「かつて、100年を超える間、1匹の頭のおかしな黒竜が世界の空を我が物顔に暴れ回りました。それは凶竜ギジゲド。無敵かと思われたその存在は、ある1人の男が魔導具を意図的に暴走させたことによって死を迎えました。ですが、ギジゲドはその体が粉々になっても、諦めず生きつづけることを渇望し、恨みや怒りや妬みを抱え、それを餌にして死の国より帰還を望み続けました」
『ドン……ドォン……ドン』
大きな爆発音が響き、接近する黒竜の前方に3つの大きな火柱が立った。
未だ遠くに発生した火柱にもかかわらず、その生み出す爆風はオレ達を容赦なく襲う。
生み出される衝撃波は、足に力をいれないと、吹き飛びそうなほど激しかった。
カガミは、グッと茶釜にしがみつき、ユテレシアの乗った馬は少しだけよろめいた。
難民のうち数人が踏ん張りが効かず倒れて込んでいる様子が見えた。
爆風でこれか。
あの火柱を生み出した攻撃。
その直撃をうければひとたまりもないな。
とっさに出来ることを考え、魔壁フエンバレアテを取り出す。
難しいが、この巨大な鉄板を盾にして対抗しようと考える。
「エテーリウ様!」
ユテレシアがエテーリウに声をかける。
「大丈夫! なんとかしてみせるトヨ!」
大きな声がエテーリウは返答したが、その声音はどこか投げやりだ。
そうこうするうちに黒竜はすぐ側まで接近していた。
一瞬、静かになる。
「あぁ……アンデッドが!」
難民の悲観した声が上がる。
よく見ると、いままで接近する度に塵となっていたアンデッドが、塵となる境界を乗り越え向かってきているのがわかった。
それに対抗するように、泥縄の巨人がユラユラと揺れながら前進する。
「カガミ! 壁の魔……」
「ダメ元でやってる!」
全てを任せるわけにはいかない。
オレ達は、オレ達でできることをするしかない。
黒竜がついにはっきりと細かい部分まで見えるところまで接近した。
竜の額の部分にはパルパランが埋まっていた。
体の半分を黒竜に埋め込んだパルパランがはっきり見えた。
虚ろな目をしたパルパランと目が合う。
「あれが凶竜ギジゲドでござるな」
緊張した面持ちでハロルドは呟いたかと思うと、剣を構え黒竜の方へと駆けだしていく。
「ハロルド!」
「やつが! もし拙者の剣が届く範囲まで降りてきたんであれば、なんとしても一撃! 喉に一撃を食らわせるでござるよ!」
オレの呼びかけに、こちらを振り向くことなくハロルドが叫ぶように答える。
「ギジゲドは! 今やただの腐りきった躯ではございません。わたくしが天上の技により手を加え、仕上げましたのです。痛みもなく、快楽もなく、ただひたすらに結果だけを求め、存在するギジゲド。さぁ、おわガァ……!」
黒竜の口が赤く輝き、再び響き渡りはじめたパルパランの言葉が急に途切れる。
プリズムの光が1つにまとまり、黒竜にぶち当たった直後のことだ。
『ガガガガガガ』
岩石が削られるような音があたりに響き渡り、黒竜と虹色の光がぶつかりあう。
音の響きは轟音になり思わず耳を押さえそうになる。
魔壁フエンバレアテのコントロールを失うわけにはいかない。
そう思って、手を動かさないように努めたオレ以外の皆は耳を押さえていた。
それほどの轟音。
『キィ……ン』
甲高い音が轟音に割って入った直後、虹色の光とせめぎ合っていた黒竜が爆発する。
星落とし!
ノアが、星落としの魔法で援護したようだ。
ほぼ拮抗していた黒竜と虹色の光のぶつかり合いは、一気に虹色の光が優勢になり、黒竜は逃げるように距離をとった。
だが、虹色の光はそんな黒竜を追い続け、上へ上へと逃げていた黒竜は、とうとう力つきたのか墜落した。
『ドォォン!』
大きな音を響かせ、大量のアンデッドを巻き込み黒竜は墜落した。
『キィィ……ン』
そこへ、再び甲高い音と共に、大量の爆発が巻き起こる。
ノアの星降りが炸裂したのだ。
続いて、あたりに軍艦マーチに似た音楽が鳴り響き、すぐ側まで接近していたアンデッドが塵となった。
そうか。
黒竜にぶつけるために、音が鳴る範囲を狭めていたのか。
「リーダ! 聖水を!」
茶釜に乗ったカガミがオレの側にやってきて叫ぶ。
「了解」
影から聖水を取り出す。
「私がもっていく」
それをミズキが横からかっさらうように樽を軽々と抱え上げて、カガミの後へ飛び乗った。
2人が乗った茶釜が猛スピードで、黒竜の落ちた方へと向かう。
しばらくして2人は戻ってきた。
「適当に、聖水ぶっかけたら白骨になってから崩れて、塵になったよ」
「そっか」
「うまくいったっスね」
「あぁ」
パルパラン。お前は強敵だったよ。本当に。
勝利を確信し、オレは心の中で呟いた。
細かいことはわからないが、パルパランが竜と一緒。
つまり今からやってくる竜は敵だということだ。
「見た感じどうですか? アンデッドですか?」
「うーん……多分アンデッド!」
カガミの質問に、ミズキが大声で答えた。
「じゃあ、迎撃するっスよ」
「そうだな俺も手伝う」
頭上からプレインとサムソンの声が聞こえた。
「迎撃って、何をするんだ?」
「光と音の一転照射っスよ」
そう言って、屋根に上っていたプレインが小屋へと戻っていった。
その頃には肉眼でも、しっかりとした姿を見ることが出来た。
巨大な黒い竜。
そして辺りに声が響き渡る。
「よくぞ、生きてくださいました。やはり、貴方方はお強い。こうなるとは思っていました。ですが、幾日も終わることのない戦いに、もう限界でしょう。体力も! 貴方方の備蓄も! さて、苦しい時間を、わたくしめが終わりにして差し上げましょう!」
とてもとても楽しそうなパルパランの声が辺りに響き渡る。
遮音の壁すら突破して頭に響く大声にクラクラする。
その声は更に続く。
「かつて、100年を超える間、1匹の頭のおかしな黒竜が世界の空を我が物顔に暴れ回りました。それは凶竜ギジゲド。無敵かと思われたその存在は、ある1人の男が魔導具を意図的に暴走させたことによって死を迎えました。ですが、ギジゲドはその体が粉々になっても、諦めず生きつづけることを渇望し、恨みや怒りや妬みを抱え、それを餌にして死の国より帰還を望み続けました」
『ドン……ドォン……ドン』
大きな爆発音が響き、接近する黒竜の前方に3つの大きな火柱が立った。
未だ遠くに発生した火柱にもかかわらず、その生み出す爆風はオレ達を容赦なく襲う。
生み出される衝撃波は、足に力をいれないと、吹き飛びそうなほど激しかった。
カガミは、グッと茶釜にしがみつき、ユテレシアの乗った馬は少しだけよろめいた。
難民のうち数人が踏ん張りが効かず倒れて込んでいる様子が見えた。
爆風でこれか。
あの火柱を生み出した攻撃。
その直撃をうければひとたまりもないな。
とっさに出来ることを考え、魔壁フエンバレアテを取り出す。
難しいが、この巨大な鉄板を盾にして対抗しようと考える。
「エテーリウ様!」
ユテレシアがエテーリウに声をかける。
「大丈夫! なんとかしてみせるトヨ!」
大きな声がエテーリウは返答したが、その声音はどこか投げやりだ。
そうこうするうちに黒竜はすぐ側まで接近していた。
一瞬、静かになる。
「あぁ……アンデッドが!」
難民の悲観した声が上がる。
よく見ると、いままで接近する度に塵となっていたアンデッドが、塵となる境界を乗り越え向かってきているのがわかった。
それに対抗するように、泥縄の巨人がユラユラと揺れながら前進する。
「カガミ! 壁の魔……」
「ダメ元でやってる!」
全てを任せるわけにはいかない。
オレ達は、オレ達でできることをするしかない。
黒竜がついにはっきりと細かい部分まで見えるところまで接近した。
竜の額の部分にはパルパランが埋まっていた。
体の半分を黒竜に埋め込んだパルパランがはっきり見えた。
虚ろな目をしたパルパランと目が合う。
「あれが凶竜ギジゲドでござるな」
緊張した面持ちでハロルドは呟いたかと思うと、剣を構え黒竜の方へと駆けだしていく。
「ハロルド!」
「やつが! もし拙者の剣が届く範囲まで降りてきたんであれば、なんとしても一撃! 喉に一撃を食らわせるでござるよ!」
オレの呼びかけに、こちらを振り向くことなくハロルドが叫ぶように答える。
「ギジゲドは! 今やただの腐りきった躯ではございません。わたくしが天上の技により手を加え、仕上げましたのです。痛みもなく、快楽もなく、ただひたすらに結果だけを求め、存在するギジゲド。さぁ、おわガァ……!」
黒竜の口が赤く輝き、再び響き渡りはじめたパルパランの言葉が急に途切れる。
プリズムの光が1つにまとまり、黒竜にぶち当たった直後のことだ。
『ガガガガガガ』
岩石が削られるような音があたりに響き渡り、黒竜と虹色の光がぶつかりあう。
音の響きは轟音になり思わず耳を押さえそうになる。
魔壁フエンバレアテのコントロールを失うわけにはいかない。
そう思って、手を動かさないように努めたオレ以外の皆は耳を押さえていた。
それほどの轟音。
『キィ……ン』
甲高い音が轟音に割って入った直後、虹色の光とせめぎ合っていた黒竜が爆発する。
星落とし!
ノアが、星落としの魔法で援護したようだ。
ほぼ拮抗していた黒竜と虹色の光のぶつかり合いは、一気に虹色の光が優勢になり、黒竜は逃げるように距離をとった。
だが、虹色の光はそんな黒竜を追い続け、上へ上へと逃げていた黒竜は、とうとう力つきたのか墜落した。
『ドォォン!』
大きな音を響かせ、大量のアンデッドを巻き込み黒竜は墜落した。
『キィィ……ン』
そこへ、再び甲高い音と共に、大量の爆発が巻き起こる。
ノアの星降りが炸裂したのだ。
続いて、あたりに軍艦マーチに似た音楽が鳴り響き、すぐ側まで接近していたアンデッドが塵となった。
そうか。
黒竜にぶつけるために、音が鳴る範囲を狭めていたのか。
「リーダ! 聖水を!」
茶釜に乗ったカガミがオレの側にやってきて叫ぶ。
「了解」
影から聖水を取り出す。
「私がもっていく」
それをミズキが横からかっさらうように樽を軽々と抱え上げて、カガミの後へ飛び乗った。
2人が乗った茶釜が猛スピードで、黒竜の落ちた方へと向かう。
しばらくして2人は戻ってきた。
「適当に、聖水ぶっかけたら白骨になってから崩れて、塵になったよ」
「そっか」
「うまくいったっスね」
「あぁ」
パルパラン。お前は強敵だったよ。本当に。
勝利を確信し、オレは心の中で呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
ドラゴネット興隆記
椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。
ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる