召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十章 聖女の行進

ぽてち

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 昨日、雪が降った。
 パラパラと控えめな雪が。
 今年も年末が近い。雪が降るのは当然だろう。
 この世界の呼び方で眠りの月。
 つまりは、ノアの誕生月だ。
 ということで、先日から誕生日会の準備をせっせと進めている。
 もちろん、ノアには内緒だ。

「いつも思うのですが、月日が経つのはあっという間だと思います。思いません?」

 夜中、皆で打ち合わせをしていると、カガミがしみじみと言った。 オレも同意見だ。
 つい先日、誕生日会をしたような気がするが、もうあれから1年経っている。
 ちなみにノアの誕生日が近いということは、アサントホーエイの町中には広まっている。
 プレゼントも含め、誕生日会のために買い出しに向かった時に、チッキーがポロリと言ってしまったのだ。
 言ってしまったこと自体については、何の問題もない。

「なんだか、町の人達もいろいろ考えてるみたいっスよ」
「すでにお祭りの準備って感じだよね」

 だが、盛り上がりがすごい。
 ノアにバレてしまわないかと、ヒヤヒヤもんだ。
 どうにもノアは月日について無頓着で、あまり自分の誕生日が近いという実感がないようだ。
 というより、毎日は一生懸命でそこまで気が回らないという方が正しいか。
 そういえば随分前にミズキが言っていたな。
 ノアが時間はもっとゆっくり進んで欲しいと言っていたことを。
 ずっと今日が続けばいいのにと言っていたことを。
 ノアなりに思うことがあるのだろう。
 オレが小さい頃は、早く大人になりたいと思っていたもんだ。
 ところが大人になったら、子供の頃に戻りたいと思ってしまう。
 我ながら勝手なものだ。
 それはさておき、ノアには誕生日会の事はバレていない。
 そうであれば、粛々と進めるのみだ。

「今年はアサントホーエイの果物で作ったケーキをメインとする」

 とりあえず宣言する。
 特に異論はない。

「材料にも慣れましたし、素敵なケーキができると思います」

 ケーキ作りはカガミ主導。
 ちらりとカガミが見た方には、木箱にはいった果物が顔をのぞかせていた。
 アサントホーエイの町にあった果物は、見た目も綺麗な果物だ。
 パッと見は、パイナップル。だた、パイナップルでいう実の部分ではなく、葉っぱの部分を食べる。
 肉厚の葉っぱ。堅い葉っぱの表面を剥くとゼリー状の甘い部分がでてくる。
 それを堅く焼いたパンでそぎ取って食べるのだ。
 今回は、直接食べるのではなくケーキの材料として使う。

「でも、やっぱり現地の料理人は凄いっスね。ボク達の発想にない事沢山知っているっス」
「そうそう、ケーキを宙に浮かせようなんて、考えてなかったよね」

 アサントホーエイの町にいる料理が手伝いを申し出てくれた。
 しかも、すごい提案付きで。
 料理人の提案で、まんまるいケーキを作ることになったのだ。
 魔法のある世界、ケーキの形も千差万別。

「こちらのケーキを、もっと豪華に祝いの席に映えるようにしてみてはいかが?」

 料理人のおばあさんが提案し、見せてくれたのは、ボールのようにまん丸いケーキ。
 それが空中に浮いていた。
 宙に浮く、丸いケーキが作れるなんて夢にも思わなかった。

「借りてきた皿にあった魔方陣を解析したが、面白かったぞ。あれ、材料指定で浮かせるから、魔力消費が抑えられるみたいだ」

 サムソンが、練習用にと借りてきたお皿を解析した結果を嬉しそうに報告する。
 ケーキを空に浮かせる秘密。
 それはやはり魔法だった。
 魔法のお皿の上に丸いケーキを浮かせて、そこに盛り付けをするのだ。
 まん丸く空に浮かぶケーキの盛り付けは、いろいろとノウハウが必要で、オレ達だけでは難しいが、そこは料理人達が手伝ってくれる。

「こんな感じで、お皿には食べられる花ビラをあしらわない?」

 ミズキがさらさらとテーブルに置かれた紙に、イラストを描きながら説明する。
 皿の上に、食べられる花をあしらうか。
 参考にと見せてもらった料理では、皿の上にはジャムで描いた絵があっただけだ。
 ミズキのアイデアの方が見た目も華やかで、料理のボリュームも増す。
 皆も前向き。

「ケーキの他はどうします?」
「カレーは外せないだろ」
「そうですね。ノアちゃん好きだし、いいと思います」
「プレゼントはどうするんだ?」
「チッキー達は人形作るって言ってたよね」

 ミズキがニコニコと笑いながら、揚げた花びらをパクリ口に入れる。
 揚げた花びらには塩を振る。
 ポテトチップスのような触感に味。
 食べる度に鳴り響くパリパリという音は、ポテトチップスそのものだ。
 しかも花ビラなので、ジャガイモのように皮を剥いて薄くスライスする必要もない。
 ポテトチップス代わりになると思いついたカガミは天才だと思う。
 ということで、最近は揚げたてのポテトチップスが気軽に食べ放題だ。
 ポテトじゃないけど、もうこれはポテトチップスと呼んでいいだろう。
 揚げたてというのは、魔道具で揚げ物を簡単に作れるようにしたからだ。
 テーブルの上に小さい壷があり、中には煮えたぎる油が入っている。

「本当は、もう少し沢山の油で、コロッケ辺りも揚げられるようにしたいんだがな」

 サムソンが、小さい壺を指ではじきぼやいた。
 常に新鮮な油を煮えたぎった状態に保つため、できるだけコンパクトにせざる得なかった。
 それを悔やんでのコメントだ。

「でも、今のままでも、便利っスよ。大きな物が揚げられない代わりに、取り回し楽っス」

 だが、サムソンのぼやきにも似たコメントを受けての、プレインの言葉にオレも同意だ。
 小さく底の浅い壺は取り回しが楽なのだ。
 これが大きくなるとテーブルの上にのせようという発想は難しくなるだろう。
 とりあえず、魔導具の壺に花びらを入れて、箸で取り出し、塩をかけて食べる。
 あんまり食べ過ぎると喉が渇いて仕方がないのだが、なかなか揚げたてポテトチップスの魔力には逆らえない。

「食べてばっかりじゃなくて、どうするか考えてほしいと思います。思いません?」
「そっスね」
「誕生日プレゼントどうするかだよね?」
「そうそう」
「去年はドレスを作ったよね。魔法のドレス」
「ノアちゃん気に入って、しょっちゅう着てくれてますよね」
「だな。今年はまた別のもので……やはり魔法を使って何かしたいぞ」
「そうだねぇ」

 皆でのんびりとポテトチップスを食べ、軽くお酒を飲みながら考える。

「魔法で作ったドレスとは違う方面……物というより、思い出になりそうな物がいいと思います。思いません?」

 そうだな。カガミの言うとおりだ。
 魔法で物を生み出すと、ドレスとかぶりそうだ。
 それなら、まったく別の物がいいだろう。

「花火はどう?」
「えっと、花火……ですか?」
「お祝いの花火。ほら、ギリアで見たような」
「いいっスね。それ」」
「賛成だ。ノアちゃん、おめでとうって感じで、いいと思うぞ」

 ミズキのアイデアに皆が賛成する。
 こうしてノアの誕生日にオレ達は花火を作って祝うことにした。
 そうと決まればまずは領主の許可を取らなくてはならない。
 いきなり巨大な魔法の火花を散らすのはまずいだろう。

「ノアサリーナ様の誕生日を祝おうというのか。了解した。もし触媒が必要であればこちらで手配しよう。なんなりと言ってくれたまえ」

 領主アーブーンスはあっさりと了解してくれた。しかも触媒まで手配してくれるという。
 ということで、すぐに作業に取り掛かる。

「最近は超巨大魔法陣の解析にかかってばっかりだったからな。たまに違うことやるのは、気晴らしになるぞ」

 サムソンは相変わらず技術面に関して乗り気だ。
 ミズキが花火のデザインを考える。
 カガミがそれを実装する。
 そうやって作られた魔方陣を、空一面に広がる程の巨大な物にして、なおかつ魔導具化にするのがサムソン。
 そんな役割分担だ。
 オレは前回と同じく、ノアの注意を引きつける係。
 プレインは音響面でサポートすると言って何か魔道具を作っていた。
 ピッキー達は例のごとく3人で何かをするという。

「料理の材料を買ってきます」

 ついでにカガミはケーキ作りもするので、最近はよく出かけている。

「うぬぬ、拙者もこのような呪いに苦しむ身でなければ」

 ハロルドは贈り物が満足に用意できない自分の身を嘆いていた。
 というわけで、オレと一緒にノアの注意を引く係。

「アサントホーエイの封鎖も、もうすぐ復旧するそうです」

 復旧したら、流通が回復すると、商人達たちが喜んでいるのをカガミが町で聞いたそうだ。
 もしかしたら、ノア誕生日前に道は復旧するのかもしれない。
 でも、出発は誕生日会の後だ。
 オレ達はそう決めている。
 さぁ、あと10日足らずラストスパートだ。
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