召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
482 / 830
第二十三章 人の名、人の価値

とまらないなみだ

しおりを挟む
 大人になったノアに会ったかどうかの質問。
 軽い気持ちで聞いてみたが、当たったとは。
 でも、長い間、目が覚めなかったのは、あのもう一つの異世界に行っていたということか。

「それで色々と話さないといけないことがあります」

 広間で一息ついた後、カガミが説明してくれる。
 気がつくと赤い髪の女性がそばに座っていたらしい。
 真っ黒い世界の中で、オレが前に行った場所と同じ所だと気がついたそうだ。
 そこでナセルディオの話を聞いたという。
 帝国には皇族のみが施される秘術があるそうだ。
 それにより自身を魔導具と化し、天に張り付いている極光魔法陣を起動させることができるという。その結果、詠唱も魔法陣もなく、強力な魔法を行使できるらしい。
 そういえば第1皇子であるクシュハヤートも秘術を使っていたな。
 幻を実態に、実態を幻にという秘術だ。
 ナセルディオの場合は、魅了。
 彼は女性限定だが、目のあった女性を、願うだけで魅了出来るという。
 しかもそれは、天に張り付いている極光魔法陣によるもので、ナセルディオと距離が近ければより強力に、そして一度魅了にかかれば何処まで離れていても、じわじわと魅了の力は増すそうだ。
 なるほど。カガミの様子が変わっていたのは、ずっとナセルディオの側にいて魅了を受け続けていたからか。
 彼はその力をもって、あらゆる女性を魅了し、そして自分の手駒として操るそうだ。

「最悪」

 ミズキが吐き捨てるように言う。
 オレも同感だ。

「あのね、私はカガミお姉ちゃんが、元気になって嬉しいよ」

 沈んだ空気の中、ノアが明るい調子で言った。

「そうだよな。カガミが元気になったんだ。復帰祝いといこうか」
「賛成賛成」

 沈んだ空気をなんとかしようというオレの提案は受け入れられたようだ。
 それから早速、カガミの復帰祝いとしてささやかなパーティーを始める。
 メニューはカレーだ。
 正直、コルヌートセルで甘いものばかり食っていて、オレの心は辛い物を欲しているのだ。

「ノアちゃんも大好きですしね。良いと思います」

 ゴロゴロ大きめサイズにカットした野菜沢山のカレーだ。

「カレー。大好き、楽しみ!」

 ノアもはしゃぎすぎというくらい喜んで、手伝ってくれた。

「あれ、トゥンヘルさんは?」
「あいつは、アロンフェルが離してくれないらしいの」
「なんかさっき怒られてましたよ。弱いのに表に出て戦っちゃダメだと」
「そうなんスね」

 あとでトゥンヘルとアロンフェルには、お裾分けでカレー持ってけばいいだろう。
 ともかく、お腹が空いた。さっさと食べたい。

「それにしても、また珍しいものを出してきおったな」

 リスティネルがなめ回すようにカレーを眺めて言う。
 善は急げと、早速カレーパーティーを始める。

「おかわり」
「なんでリーダが一番美味しそうに食ってんだ?」

 サムソンが怪訝な顔をしてオレに言う。
 いいじゃないか、美味しそうにカレーを食ってもさ。
 まったく。

「美味しいからしょうがないだろ」
「おいらも好きです」
「ほら、ピッキーも美味しいって。カレーは美味しい。な、ノア」

 そう、オレが笑いかけた時だった。
 ノアが突如涙をポロポロと流し出した。

「ノアノア?」

 ミズキが小さく声をかける。
 何度も、何度も、流れる涙をノアは手で拭い「違う違う」と言い出した。

「大丈夫? ノアちゃん」
「違うの。カレーが辛いの」

 言いながらノアは、大粒の涙を流す。

「そうか、ごめん。オレがカレーをちょっと……辛く作りすぎたようだ」
「まったくもう、リーダは。じゃあ、ちょっと向こうで、お口ゆすごう」
「カレーも……作り直さなきゃね」

 そう言いながら、ミズキが、ノアを奥へと連れていき、カガミがカレーの入った鍋を手に取った。

「辛いことがあれば我慢せずとも良いものを」

 リスティネルは自分の分のカレーを平らげて、そそくさ去っていく。
 結局、そこでカレーパーティはお開きになった。

「何があったんだ」

 ノアが寝た後、広間に残るオレにサムソンが問いかける。
 オレは今日あった出来事を説明した。
 ナセルディオは、ノアを生贄にするために呼び寄せたこと。
 血塗られた聖女というものを、転生魔法により作り出すのが奴の目的だったこと。
 その話の中でナセルディオ達は、本来であれば、ギリアで血塗られた聖女という存在が生まれるはずだったが、ノアが母親を見捨てたことにより失敗したと断言していたこと。
 そして、ナセルディオは、ノアの母親の名前すら憶えていなかったこと。
 それらを説明する。

「そうですか……」

 カガミが、じっと下を俯いてぽつりと言った。
 テーブルの上に置かれた握り拳が、ふるふると震えていた。

「じゃあ、ノアちゃんは手紙に母親の名前がなかったから、本当に父親が母親のことが好きだったのかを、確認したかったってことっスかね」
「多分」
「それで、この結果か」
「これからどうします?」
「いろいろあった。ノアが落ち着いてから、あらためて話し合おう」

 重苦しい空気の中、オレのできる提案は、ただの先送りしかなかった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...