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第二十四章 怒れる奴隷、東の大帝国を揺るがす
閑話 舞踏会の夜に その3
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混乱の極みにあった舞踏会も終わり、夜も更け、翌日が近くなった頃のこと。
皇帝アヴトーンは、遅い食事をとっていた。
薄暗い宮中の部屋、テーブルにはたくさんの料理が並ぶ。
そして食事はしばらく続き、空となった皿が、目立った頃。
『ヒュォォ……』
バルコニーに繋がる扉が、カタリと音を立て開き、カーテンが大きく揺れた。
冷たい風が入り込み、その先には二つの人影があった。
聖獣レイライブの炎に照らされ、人影の正体が明らかになる。
一人は八葉ハマンドフ、もう1人は、タイワァス神官サイルマーヤだった。
「陛下、サイルマーヤを連れてきました」
「入れ」
ハマンドフの言葉に、皇帝は言葉少なめに答えた。
二人の男は部屋の中に入り跪いた。
「依頼のあった物をお持ちしました」
サイルマーヤが口を開く、そして手に持っていた箱を掲げるように差し出した。
「そこへ」
皇帝の言葉に、ハマンドフがサイルマーヤから箱を受け取り、中身を取り出す。
中には小さい器に入った料理、そして何点かのお菓子が入っていた。
ハマンドフはそれを丁寧に取り出し、皇帝の前に置く。
「器に入ったスープが、すでに報告したラーメンでございます。後はコルヌートセルにて、ノアサリーナ様一行が、作られたお菓子の数々。それからカロメーと呼ばれる菓子でございます」
「そうか」
「でも、本当にそのような物でよかったので?」
「かまわぬ」
「そうですか。私としても、帝国にある数々の都市での便宜、ヘーテビアーナにかかる紹介状と、多くの手配をしていただき嬉しい限りですが、対価がその程度で良かったというのは……いささか意外です」
皇帝はそれに返事をしなかった。
チラリとサイルマーヤを一瞥し、まずラーメンを手にとりスープを飲んだ。
「この入ったスープ……確か帝国の材料。後は南方のものか……。それにこの菓子は……まあ良い」
それだけ言うと皇帝は食事を再開した。
ハマンドフが給仕し食事を続ける間、その間ずっとサイルマーヤは跪いたままだった。
食事は続き、夜は終わり、朝日が昇る。
たまにそばを通る聖獣レイライブの赤い光と、朝日が差し込む宮殿の一室は静かなものだった。
食事はゆっくりと進み、ずっと無言だった皇帝が口を開く。
「人の歴史は積み重ねだ。武術、医術、魔術……建築に、法、あらゆる事が積み重ねにより進歩する。崩れることもあるが、人の営みが続く限り、積み重ねる歩みは続く」
「はい」
「料理もそうだ。急には異質な物は現れない。最初の一歩は必ずある」
「はい」
「故に、食は面白い。数限りない工夫が車輪のように回り進む。そうは思わぬか?」
そこで初めて皇帝はサイルマーヤをちらりと見た。
「えぇ……はい。美味しい物は私も好きです」
皇帝はサイルマーヤの言葉に、少しだけ方眉をあげ「では、下がれ」と言った。
「それでは、失礼します」
「剣は、あらためて預ける。引き続き使え」
「よろしいので?」
「どうせ、終わりの時にはお前も戦うだろう?」
「もちろん、そうありたいと考えています」
そう言って、サイルマーヤは静かに下がる。
その後も食事が続き、全てを食べ終えたのは、宮中が朝を迎え人が働き始める頃だった。
「下がれ」
食後の飲み物として用意された茶を前に、皇帝は一言呟く。
命じられたハマンドフが音も立てず去った後、皇帝は窓から外をみた。
聖獣がまき散らす火の粉と、朝日が昇り、明るさが増す空を眺め続けた。
「……異世界の人間か」
そして、皇帝は呟いた。小さく、小さく、とても小さな声で。
噛みしめるように。
皇帝アヴトーンは、遅い食事をとっていた。
薄暗い宮中の部屋、テーブルにはたくさんの料理が並ぶ。
そして食事はしばらく続き、空となった皿が、目立った頃。
『ヒュォォ……』
バルコニーに繋がる扉が、カタリと音を立て開き、カーテンが大きく揺れた。
冷たい風が入り込み、その先には二つの人影があった。
聖獣レイライブの炎に照らされ、人影の正体が明らかになる。
一人は八葉ハマンドフ、もう1人は、タイワァス神官サイルマーヤだった。
「陛下、サイルマーヤを連れてきました」
「入れ」
ハマンドフの言葉に、皇帝は言葉少なめに答えた。
二人の男は部屋の中に入り跪いた。
「依頼のあった物をお持ちしました」
サイルマーヤが口を開く、そして手に持っていた箱を掲げるように差し出した。
「そこへ」
皇帝の言葉に、ハマンドフがサイルマーヤから箱を受け取り、中身を取り出す。
中には小さい器に入った料理、そして何点かのお菓子が入っていた。
ハマンドフはそれを丁寧に取り出し、皇帝の前に置く。
「器に入ったスープが、すでに報告したラーメンでございます。後はコルヌートセルにて、ノアサリーナ様一行が、作られたお菓子の数々。それからカロメーと呼ばれる菓子でございます」
「そうか」
「でも、本当にそのような物でよかったので?」
「かまわぬ」
「そうですか。私としても、帝国にある数々の都市での便宜、ヘーテビアーナにかかる紹介状と、多くの手配をしていただき嬉しい限りですが、対価がその程度で良かったというのは……いささか意外です」
皇帝はそれに返事をしなかった。
チラリとサイルマーヤを一瞥し、まずラーメンを手にとりスープを飲んだ。
「この入ったスープ……確か帝国の材料。後は南方のものか……。それにこの菓子は……まあ良い」
それだけ言うと皇帝は食事を再開した。
ハマンドフが給仕し食事を続ける間、その間ずっとサイルマーヤは跪いたままだった。
食事は続き、夜は終わり、朝日が昇る。
たまにそばを通る聖獣レイライブの赤い光と、朝日が差し込む宮殿の一室は静かなものだった。
食事はゆっくりと進み、ずっと無言だった皇帝が口を開く。
「人の歴史は積み重ねだ。武術、医術、魔術……建築に、法、あらゆる事が積み重ねにより進歩する。崩れることもあるが、人の営みが続く限り、積み重ねる歩みは続く」
「はい」
「料理もそうだ。急には異質な物は現れない。最初の一歩は必ずある」
「はい」
「故に、食は面白い。数限りない工夫が車輪のように回り進む。そうは思わぬか?」
そこで初めて皇帝はサイルマーヤをちらりと見た。
「えぇ……はい。美味しい物は私も好きです」
皇帝はサイルマーヤの言葉に、少しだけ方眉をあげ「では、下がれ」と言った。
「それでは、失礼します」
「剣は、あらためて預ける。引き続き使え」
「よろしいので?」
「どうせ、終わりの時にはお前も戦うだろう?」
「もちろん、そうありたいと考えています」
そう言って、サイルマーヤは静かに下がる。
その後も食事が続き、全てを食べ終えたのは、宮中が朝を迎え人が働き始める頃だった。
「下がれ」
食後の飲み物として用意された茶を前に、皇帝は一言呟く。
命じられたハマンドフが音も立てず去った後、皇帝は窓から外をみた。
聖獣がまき散らす火の粉と、朝日が昇り、明るさが増す空を眺め続けた。
「……異世界の人間か」
そして、皇帝は呟いた。小さく、小さく、とても小さな声で。
噛みしめるように。
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