召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十五章 待ちわびる人達

つるのおんがえし

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「希望はともかく、金貨1万枚か」

 サムソンがしみじみと言う。

「それだけあれば借金完済は楽勝だよね」
「すごいっスね。さすが王様。金貨1万枚」
「あぁ、これだけあればラングゲレイグの奴に、金を叩きつけて、釣りはいらねぇぜってできるよ」
「いや、そこは釣りをもらうっとこうよ」
「そうだな」

 経過はどうであれ、金貨一万枚にオレ達は大いに盛り上がった。
 加えて、それぞれが希望する品物。
 褒美の話に夢は広がる。

「もう1度聞くが、何を希望してもいいのか?」

 お金の次は品物。
 何でも頼めると言っても、なかなかポンポン出てくるものではない。
 しばらく、皆が考え込んでいる時にサムソンがふと顔を上げて言った。

「いや、あくまで副賞だから、あんまり調子に乗るものじゃないらしい。金貨1万枚を超える価値のある褒美は望まないでって」
「高望みしすぎたら、怒られちゃうとか?」
「一応、希望は領主様に伝えるわけだけど、フェッカトールさんがその時に、判断してくれるって言ってたから、王様に怒られることはないと思うよ」

 褒美というのは、王の権威を示す意味合いもあるという。
 王様が直々に褒美を出すという行為に、いろいろな意味が付随するということで、ラングゲレイグ達は妙に真剣だった。
 だから、希望というのも、それなりに悩みどころだという。
 そんなに面倒だったら、そちらで決めてくれよと思ったりするが、それがバレると首が飛ぶとかで拒否された。
 案外、ラングゲレイグの首は軽いらしい。おっかない話だ。

「それは、何かの権利でもいいんスかね?」
「権利か……考えてもなかったけど、どうなんだろ」
「候補を複数挙げておいて、フェッカトール様に取捨選択してもらうのが良いと思います。思いません?」

 確かにカガミの言うとおりだ。
 どうせ判断してもらえるなら、沢山候補を挙げて、向こうに選んで貰うか。
 あくまでアドバイス。そういう路線であれば大丈夫だろう。
 フェッカトールも、こちらの希望にダメ出しするという話をしているわけだしな。

「そうしよう。もう、皆、ジャンジャン希望を出してくれ」
「めんどくさい。金貨1万枚だけでいいじゃん」

 早速ギブアップをミズキが言い出す。
 王の権威を示す意味合いがあると言ったばかりなのに。
 でも、金貨1万枚だけでも権威示せそうだよな。
 最悪の場合は、その路線で話をするのもアリか。

「私も……なんでもいい」

 ノアも遠慮がちにそういう。

「あのオイラ達も……」

 皆、欲が無いな。

「せっかくの話だ。とりあえず一晩くらい考えようか」
「ところで、リーダ。どんな脚本を書いたんですか?」
「脚本?」
「褒美をもらった脚本が、どんなものか知りたいと思うんです」
「そういや、お前、何を書いたんだ? リーダ」
「鶴の恩返し」
「は?」
「つーるのおん・が・え・し」
「いや、悲劇……ですよね?」
「だって、最後は悲しい別れでおわるだろ?」

 鶴の恩返し。
 罠にかかった鶴を助けた男の元に、美しい娘がやってくる。
 道に迷ったという娘を家に泊めたところ。そのお礼にと、美しい布を貰う。
 それは娘が織った布だった。
 仕事風景を見ないことを条件に、これからも布を織るという娘の言葉に、男は決して見ないと約束する。
 布は高く売れ、男と仲良く暮らせる娘も幸せだった。
 だが、幸せな日々は続かない。娘は日に日にやつれていった。
 1人、こっそりと夜中に進めている仕事。布を織るという仕事が原因だろう。
 そう思った男は、ある夜に約束をやぶり、こっそり仕事風景をのぞき見たのだが……。
 それがバレて、娘が居なくなるというお話だ。
 悲しい別れがラストに待っている。

「いや、まぁ、確かに……そう、だな」
「あれ、悲劇って……ちょっと、違うと思う……いいのかな」
「え? 私、鶴の恩返しに負けたの?」

 皆のリアクションが辛い。言いたいことはわかる。

「ラストが悲しい話で、思いつくものが他になかったんだよ。急に悲劇とか言われて、ポンポン思いつく、そんなお前らのすさんだ心の方が心配だよ。オレは」
「うん」

 なんだよ。どいつもこいつも。

「いいんだよ。王様が感動した時点でオレの勝ちだ。勝てば官軍、負ければ賊軍。賊軍の寝言にオレはまどわされない」
「まぁ、そうですけど……。悲劇の脚本といわれて、鶴の恩返しは出ませんでした」
「さすが先輩っスね」
「うん。リーダはやっぱり凄いの」
「さすがご主人様です」

 ノアと獣人達3人くらいだ。真剣に褒めてくれるのは。
 ハロルドは、興味無しだ。部屋の隅で横になっている。

「ところで褒美の件に話を戻していいか?」

 サムソンがふと手を上げる。

「何か希望でも?」
「それなんだが、今……超巨大魔方陣の解析に行き詰まっている」
「確かに、その件については、話をしたことがあったな」

 資料が不足しているという理由で、超巨大魔方陣の解析に手間取っている。
 魔術師ギルドの本についても当たってはみたが、結局のところ屋敷の資料の方が、超巨大魔法陣の解析には有用だった。
 そしてフェズルードで手に入れた本もその意味では役に立っている。
 どうやら、古い資料の方が、あの魔法陣解析には向いているらしい。

「さらに……高度な資料があればいい思う」
「えぇ。サムソンが以前に言っていたことですよね。少しだけあてがありますので、上手くいけば……足しにできると思います」

 赤い手帳の事だろうな。
 確かに、あの手帳には、魔法についての研究内容が沢山書き込まれていた。

「俺は書籍にある情報……魔法陣を自動的に取り込めるようにパソコンの魔法を強化してるところなんだが、肝心の資料にできる本が無い」
「それで褒美に、古い資料を望もうと?」
「そうだ。何か高度な魔法に関する知識が載っている書籍、もしくは図書館のような所のアクセス権を希望したい」
「なるほどな。王宮の図書館とか、そんなヤツ」
「そういうことだ」

 確かに、サムソンの案はいいかもしれない。つまり褒美は、高度な知識が得られる場所のアクセス権。

「でも王宮に図書館なんかあるんスか?」
「王宮の図書館は適当に言ってみただけ……あるのかな。その辺はフェッカトールさんにでも聞いてみるかなぁ」

 サムソンの案について、思案していた時のことだ。

「キャンキャン!」

 うわっ。ハロルドか。
 先ほどまで部屋の隅で横になっていたハロルドが、いきなり吠えたのでビックリした。
 何か言いたいのか。

「フィグトリカ殿に聞いてみては、いかがであろうか?」

 ノアに呪いを解除してもらったハロルドが提案した。
 お隣さんの、あのグリフォンか。そういえば賢者といわれているのだっけ。
 賢者なんて呼ばれるくらいだから、物知りなのだろうな。
 そこで、古い資料について、聞いてみると……。
 何かいい資料の事を知っていたら、王様の褒美にそれを加えてもらう。
 有りだな。
 それに、褒美は1人1つずつだ。サムソンのお願いは王宮の図書館、他の奴らが他の資料といった形でお願いすれば、一度にたくさんの資料が手に入るチャンス。
 そうと決まれば善は急げだ。
 ダメ元で聞いてみて問題はない。

「いきなり行って大丈夫っスかね」
「温泉までの道を勝手に引いたり、襲いかかってきたり、お隣さんはやりたい放題なんだ。いきなり押しかけて質問なんて、かわいいもんさ」
「そういや、そうっスね」

 とはいえ、お隣さんだ。
 これからの事を考えて友好的に行って損は無い。

「余り物ですけど……」
「大丈夫だろ」

 せっかくなので、手土産にドーナツを準備した。

「門番いる」
「ちょこまか動いてかわいいと思います」

 よく見ると、隣の屋敷には、門番がいた。
 長い槍を構えた猫……じゃなくて猫の獣人だ。
 オレ達が近づくのをみて、1人がタタッと敷地の中へと駆け込んでいく。
 その様子を見て、ミズキとカガミが楽しげな声をあげる。
 本当に猫好きだよな。

「すみません」

 入り口にいる門番に声をかけたときだ。

「ガルルルルッ」

 隣の屋敷から一匹の虎が飛び出してきた。
 虎?
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