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第二十五章 待ちわびる人達
閑話 懸賞金
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「ふむ。例の呪い子……ノアサリーナは、帝国の内地にいるそうですな」
「ほほぅ」
「ということは、つまり?」
「新年の祝賀には間に合わないということ……ですなぁ」
カルサード大公派の大貴族、ストロノン伯爵家での夜会は、盛り上がっていた。
楽師達は請われるまま曲を奏で、大量の料理がテーブルを覆い数多くの給仕が行き交った。
贅を尽くした夜会。それは、カルサード大公派の勢いそのものだった。
「王が、ノアサリーナに褒美を出すと言い出したときは、驚きましたが……」
そんな場所で、一人の貴族がノアサリーナについて口にした。
「えぇ。そこにカルサード様がおっしゃったそうですぞ。それでは、聖女として名高いノアサリーナを、新年の祝賀に招いてみては……と」
「ほほぅ」
「なんでも、なんでもですな。クレオーラ戯曲に重ねての提案だったとか」
「あの……この苛烈なる国難、わたくしの命を捧げ、民に希望の光を! あのセリフで有名な」
「なるほど。物語狂い……いや、物語好きな王の興味を、うまく引いたわけですか。さすが大公殿下」
ちらりと一団の視線が、ストロノン伯爵と談笑するカルサード大公に注がれる。
この館に入ったときは、少し機嫌が悪く見えた大公が笑顔だった事に、貴族達は安堵した。
「ホホホホ。それは、それは。これは、もう、後の事を考えなくてはね」
上機嫌で笑う1人の貴族に、続々と人が集まっていく。
それは、これから始まる楽しい話題に参加する為だった。
近年、成長著しいギリアの所有権を巡る噂話を楽しむ為だった。
「ラングゲレイグは、こう言うでしょうなぁ……ノアサリーナは帝国にいたと」
「んー、帝国にいるなど、我々はもとより王も知らぬこと……となりますな」
「そこで、誰かがこう言うわけですな。もしや、ラングゲレイグ殿は、王ができぬ命令を其方にしたと言いたいのですか……と?」
「しかるに、哀れラングゲレイグはギリアを失うというわけでございますな」
「ホホホ。さすがに、フィオロイン、ラングゲレイグと連続して失態を犯せばティストーラ家も、何も言えぬでしょう」
「ギリアの地に執着があったとは言え、失敗続きではなぁ」
「まっ、次は無いでしょうな」
「しかるに、クロンルソッソ殿が次のギリア領主ですかな」
「ブズッスキーキ様は、どうでしょうか?」
「その線もありますか」
話はギリアの領主ラングゲレイグが失脚した事が決まっているかのように続いていった。
「ところで、もし皆様が……次の領主となれたとして、如何いたしますか?」
流れるような会話に、年若い貴族が挟んだ小さな質問。
その質問に、待っていましたとばかりに、辺りの貴族は楽しそうに笑った。
ひとしきり笑い声が続いた後、一人の貴族が口を開く。
「それは、もちろん、誰でも同じ事をするのでは?」
「同じ事……でございますか?」
「王都へノアサリーナを連れて行くでしょう」
「王都へ?」
「ホホホ、坊やは知らないようで」
「ノアサリーナに褒美が与えられると決まった後、とある大金持ちが、懸賞金をかけたという噂」
「噂?」
「この王都にて、ノアサリーナと、その僕、一人殺せば金貨3万枚。下賤な者にしてみれば目もくらむ破格の懸賞金」
「そんな懸賞金が……」
「驚きの額でございましょう?」
「まっ、噂ですが……ね」
「ねぇ」
一人の貴族が面白おかしく語り出す。
王都という世界で最も栄えた都でかけられた、破格の懸賞金。
その噂は、すでに王都の犯罪者ギルドだけではなく国中に広がっていること。
悪名高い犯罪者が、ノアサリーナ目当てに王都に集まりつつあるという話。
ちょうど新しい領主がギリアに生まれた頃合いには、ノアサリーナを狙う者は王都に集うという見込みであること。
そのようにして集まる悪人達。甘い蜜に集まる蟻のように数限りない悪人に、昼も夜もなく襲われれば、いかに屈強な者であれひとたまりも無い。
「さすれば、王の命に背いた呪い子を上手い具合に駆除できるというもの」
そして熱心に語った貴族は満足したとばかりに、こう締めくくった。
「呪い子を駆除とは、良い響き」
「そうですなぁ。呪い子が、聖女として祭り上げられる様子には虫唾が走っておりました。ようやく秩序が戻るというもの」
示し合わせたように述べられる幾人の貴族が語る言葉。
その言葉を聞いて、最初に質問を投げた年若い貴族は青ざめ酒をあおった。
「ホホホ、刺激が強かったかしら」
青ざめた年若い貴族を見て、皆が楽しそうに笑う。
「呪い子を駆除したあかつきには、他の奴隷は助けてやった方がいいかもしれませんな。生きていれば……ですが」
「お優しいことで」
「だが、その時は分配が大変そうですぞ」
「少し高めになりそうかな」
だが、そんな笑いに満ちた貴族の場は、1つの報告で一変する。
「え? 到着した?」
一人の従者が駆け込み、主に耳打ちした貴族の言葉によって。
「何かあったので?」
「ノアサリーナ……が、王都へ到着したそうです」
誰もが予想していなかった言葉によって。
そこから先、貴族達はどうやって帝国から王都までの距離を進んだのかを、夢中で語らった。
だから、報告を受けたカルサード大公がどう反応したのかを見落としていた。
側に座っていたストロノン伯爵さえも、意外な報告に狼狽し、見落としていた。
「ギリアの地にて、雪を消し去った術が見れるかと思ったが……残念だ」
だから、静かに笑い、小さく呟いたカルサード大公の言葉を聞いた者は誰も居なかった。
「ほほぅ」
「ということは、つまり?」
「新年の祝賀には間に合わないということ……ですなぁ」
カルサード大公派の大貴族、ストロノン伯爵家での夜会は、盛り上がっていた。
楽師達は請われるまま曲を奏で、大量の料理がテーブルを覆い数多くの給仕が行き交った。
贅を尽くした夜会。それは、カルサード大公派の勢いそのものだった。
「王が、ノアサリーナに褒美を出すと言い出したときは、驚きましたが……」
そんな場所で、一人の貴族がノアサリーナについて口にした。
「えぇ。そこにカルサード様がおっしゃったそうですぞ。それでは、聖女として名高いノアサリーナを、新年の祝賀に招いてみては……と」
「ほほぅ」
「なんでも、なんでもですな。クレオーラ戯曲に重ねての提案だったとか」
「あの……この苛烈なる国難、わたくしの命を捧げ、民に希望の光を! あのセリフで有名な」
「なるほど。物語狂い……いや、物語好きな王の興味を、うまく引いたわけですか。さすが大公殿下」
ちらりと一団の視線が、ストロノン伯爵と談笑するカルサード大公に注がれる。
この館に入ったときは、少し機嫌が悪く見えた大公が笑顔だった事に、貴族達は安堵した。
「ホホホホ。それは、それは。これは、もう、後の事を考えなくてはね」
上機嫌で笑う1人の貴族に、続々と人が集まっていく。
それは、これから始まる楽しい話題に参加する為だった。
近年、成長著しいギリアの所有権を巡る噂話を楽しむ為だった。
「ラングゲレイグは、こう言うでしょうなぁ……ノアサリーナは帝国にいたと」
「んー、帝国にいるなど、我々はもとより王も知らぬこと……となりますな」
「そこで、誰かがこう言うわけですな。もしや、ラングゲレイグ殿は、王ができぬ命令を其方にしたと言いたいのですか……と?」
「しかるに、哀れラングゲレイグはギリアを失うというわけでございますな」
「ホホホ。さすがに、フィオロイン、ラングゲレイグと連続して失態を犯せばティストーラ家も、何も言えぬでしょう」
「ギリアの地に執着があったとは言え、失敗続きではなぁ」
「まっ、次は無いでしょうな」
「しかるに、クロンルソッソ殿が次のギリア領主ですかな」
「ブズッスキーキ様は、どうでしょうか?」
「その線もありますか」
話はギリアの領主ラングゲレイグが失脚した事が決まっているかのように続いていった。
「ところで、もし皆様が……次の領主となれたとして、如何いたしますか?」
流れるような会話に、年若い貴族が挟んだ小さな質問。
その質問に、待っていましたとばかりに、辺りの貴族は楽しそうに笑った。
ひとしきり笑い声が続いた後、一人の貴族が口を開く。
「それは、もちろん、誰でも同じ事をするのでは?」
「同じ事……でございますか?」
「王都へノアサリーナを連れて行くでしょう」
「王都へ?」
「ホホホ、坊やは知らないようで」
「ノアサリーナに褒美が与えられると決まった後、とある大金持ちが、懸賞金をかけたという噂」
「噂?」
「この王都にて、ノアサリーナと、その僕、一人殺せば金貨3万枚。下賤な者にしてみれば目もくらむ破格の懸賞金」
「そんな懸賞金が……」
「驚きの額でございましょう?」
「まっ、噂ですが……ね」
「ねぇ」
一人の貴族が面白おかしく語り出す。
王都という世界で最も栄えた都でかけられた、破格の懸賞金。
その噂は、すでに王都の犯罪者ギルドだけではなく国中に広がっていること。
悪名高い犯罪者が、ノアサリーナ目当てに王都に集まりつつあるという話。
ちょうど新しい領主がギリアに生まれた頃合いには、ノアサリーナを狙う者は王都に集うという見込みであること。
そのようにして集まる悪人達。甘い蜜に集まる蟻のように数限りない悪人に、昼も夜もなく襲われれば、いかに屈強な者であれひとたまりも無い。
「さすれば、王の命に背いた呪い子を上手い具合に駆除できるというもの」
そして熱心に語った貴族は満足したとばかりに、こう締めくくった。
「呪い子を駆除とは、良い響き」
「そうですなぁ。呪い子が、聖女として祭り上げられる様子には虫唾が走っておりました。ようやく秩序が戻るというもの」
示し合わせたように述べられる幾人の貴族が語る言葉。
その言葉を聞いて、最初に質問を投げた年若い貴族は青ざめ酒をあおった。
「ホホホ、刺激が強かったかしら」
青ざめた年若い貴族を見て、皆が楽しそうに笑う。
「呪い子を駆除したあかつきには、他の奴隷は助けてやった方がいいかもしれませんな。生きていれば……ですが」
「お優しいことで」
「だが、その時は分配が大変そうですぞ」
「少し高めになりそうかな」
だが、そんな笑いに満ちた貴族の場は、1つの報告で一変する。
「え? 到着した?」
一人の従者が駆け込み、主に耳打ちした貴族の言葉によって。
「何かあったので?」
「ノアサリーナ……が、王都へ到着したそうです」
誰もが予想していなかった言葉によって。
そこから先、貴族達はどうやって帝国から王都までの距離を進んだのかを、夢中で語らった。
だから、報告を受けたカルサード大公がどう反応したのかを見落としていた。
側に座っていたストロノン伯爵さえも、意外な報告に狼狽し、見落としていた。
「ギリアの地にて、雪を消し去った術が見れるかと思ったが……残念だ」
だから、静かに笑い、小さく呟いたカルサード大公の言葉を聞いた者は誰も居なかった。
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