召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十六章 王都の演者

さんにん

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 呪い子か……。
 幸か不幸かオレ達は、今まで名の知れた呪い子だったからこそ快適に過ごせていた。
 今回は、変装したことで、無名な呪い子とその一行になってしまった。その結果、わけもわからず嫌がらせを受けるという状況に陥った。
 嫌な思いをしただけで、王都の様子を楽しむ気にもなれずオレ達は物静かに帰路につく。

「お芋、食べながら帰ろうよ」

 そんな雰囲気を何とかしようとばかりに、ミズキが皆に熱々の芋を配る。
 見れば見るほど焼き芋だな。サツマイモの焼き芋。
 熱々の焼き芋に何度も息を吹きかけた後、パクリと食べる。

「甘っ」

 予想外の甘さに驚く。元の世界にあった焼き芋の味そのままだが、こちらの方が甘いと思う。
 甘いもの好きのピッキーはパクパクとすごい勢いで食べていく。
 熱いのに、凄いな。それに、見ていて楽しい。
 美味しいものを食べると皆が上機嫌になる。

「いい買い物をしたよね」
「ピッキー君。俺のも半分やろう」
「いいのですか?」
「兄ちゃん……」
「俺は、甘い物はそんなに得意じゃないからな」

 会話も弾む。
 ピッキーは本当に気に入ったみたいだな。焼き芋だったら、オレでも作れそうだし、材料を見つけたら買い込むのもいいな。

「でも、これからどうします?」
「そうスね。練習を淡々として、褒美を貰った後は、さっさと帰った方がいいかもしれないっスね」

 プレインが用事を済ませたら、すぐに戻ることを主張し、ノアも小さく頷いた。
 だがオレは、それとは別の考えが頭に浮かんでいた。
 美味しい物を食べると前向きになるのだ。

「せっかくだから観光しよう」
「でも田舎者に冷たいって……」
「皆、忘れたのか?」
「忘れたって?」
「オレ達はただの田舎者じゃない。吟遊詩人に歌われるような田舎者なんだ」
「えっと……まぁ、そう言われれば……」
「変装なんてコソコソする必要ないんだ。ネームバリューを生かそう」
「そうだね」

 オレの主張にミズキが大きく頷く。
 悪意の問題は、改めて考えればいいのだ。
 ずっとオレ達は問題には対策をしてきた。今回もなんとかできる自信がある。

「あれ? お客様でちか?」

 前向きな気分のままに館に戻ると、入り口近くで2人の子供が口論していた。
 今にも取っ組み合いの喧嘩になりそうな勢いで、何やら言い合っている。白を基調としたゆったりとした服……神官のようだ。

「何かこちらの館に用ですか?」

 少し警戒して二人に近づき声をかけてみる。

「はい。大神殿より参りました」

 2人はやはり神官だった。
 片方はエルフの女の子、そうしてもう1人は人間の男の子。

「アルコル姉様の汚名をそそぐ為に来たんだ」
「違います。そうではありません」

 神官2人の言っている事は、要領を得ない。
 オレ達を尋ねてきたのか、それとも違うのか、それすら分からない。
 館の前での小さなもめ事。相手が神官で子供だからか、門番のパッターナも、対処に困っていた。

「二人ともおやめなさい」
「げっ。ピンシャルだ」

 そんなよく分からない言い争いは、さらに後からやってきた、もう1人の神官によって終わった。その神官、真っ黒いドーベルマンに似た強面の獣人であるピンシャルが、二人を諭してくれたのだ。

「つまり、お嬢様に会いに来たと?」
「えぇ。聖女ノアサリーナ様と、賢者リーダ様が、王都に来られたと情報を聞き及びましてな。これは、もう、是非にも、大神殿にお招きせねばということになりましてですな」

 さらにピンシャルの説明で、2人の目的もわかった。
 どうやら、オレ達を尋ねてきたようだ。
 ちなみに、エルフの女の子がヤクツーノ神官のラタッタ。
 もう1人の男の子がルタメェン神官でグンターロという名前だそうだ。

「それで私が来てやったんだ」
「いえ、違います。勝手にラタッタが押しかけようとしたのです」
「2人とも黙りなさい」
「へいへい。いつもピンシャルは静かに、黙れだ」
「ダメですよ。ラタッタ。そんな言い方」

 ワイワイ騒がしい。
 でも、先ほどまで嫌な事ばかりだったので、この騒がしさは悪くない。

「というわけで、是非ともノアサリーナ様におかれましては、大神殿にお越し頂ければ……と」

 そう言って、ピンシャルが、ノアへ向かって頭を下げる。

「え?」

 驚きの声をあげて、ノアが変装を解いた。

「あ!」
「ノアサリーナ様?」

 それをみて、二人の子供が驚いた様子で声をあげた。

「だから修行が足りないと……私達は、こう見ても神に仕える者。聖女様が多少姿を変えていても見破ることはわけありません」

 ノアと二人の驚きに、ピンシャルはそう厳かに答えた。
 本当は、どうなのだろう。呪い子だからわかったのだろうか、少し不安になる。
 それにしても、大神殿か。あの、お城の次に巨大な建物だよな。
 縦長の尖った屋根が印象的な建物だ。

「大神殿というのは、あの……大きな建物でしょうか?」

 ノアは小さく頷き、巨大な建物をチラリと見て質問する。

「そうでございます。この世で最も巨大な神殿」
「実際のところ、イフェメト帝国にある方が、横幅広いんだけどな」

 ノアの質問に、ピンシャルは大きく頷き、エルフの女の子ラタッタが付け足すような小声が聞こえた。加えて、もう1人の男の子が、その口を塞いだ姿も視界の端に見えた。
 大神殿は、帝国にもあるのか。
 そういえば、ギリアにも大神殿作る計画があるって言っていたな。
 確か、この世界の大神殿というのは、複数の神様を祭る巨大な神殿といったものだ。

「お招きは嬉しいのですが……」

 言いよどみ、チラリとノアはオレを見る。

「何か問題でも?」

 それに対しピンシャルが不安げな声をあげ、ノアと同じようにオレを見た。
 ノアが言いたい事はわかる。

「えぇ、少し問題がありまして、解決策が見つかれば伺いたいと思います」

 身の危険があるので、すぐに行くとは約束しきれないのだ。
 というわけで、具体的な約束はせず、とりあえずは前向きですよといった調子で回答する。

「すぐにというは……難しいのですね」

 断ったわけではないので、問題ないだろうと思っていたのだが、ピンシャルはひどくガッカリしていた。
 なんでだろうか?
 焦っている?

「何かお急ぎの事情があるのでしょうか?」

 ふとした疑問。

「せっかく王都にいらして頂けたので、是非とも皆が早くお目にかかりたいと……」

 そんな疑問に、苦笑しつつピンシャルは答える。
 だが、それは本音ではないようだ。
 ここには彼一人ではない。
 口の軽い人がいるのだ。
 ラタッタ。エルフの女の子だ。

「えっ。新年の祝賀前に来て貰わないと信徒の……モガガ」

 小さい声だったが、確かに聞こえた。もう1人の男の子が思いっきり口を押さえているが、聞こえてしまった。どうやら彼女は思ったことを発言しないではいられない性分のようだ。
 今までの神官どもの態度と、先ほどのラタッタの発言。
 すぐに理解できてしまった。
 こいつら。信徒の勧誘に、ノアを利用するつもりだ。
 新年の祝賀が、かき入れ時なのだろう。つまり、大事な時期を前にノアを呼んで、宣伝材料にする。
 大した裏など無い、いつもの神殿だった。
 そっちがその気なら、オレにも考えがある。

「そうでしたか。せっかくのお招きですが……実は、ノアサリーナ様を狙う者がいるようなのです。それで、皆の安全が確保されない限り、今後しばらくは出歩くのも難しいのです」

 ことさらに、深刻そうに、もの悲しさを演出しつつ答える。
 こう言うのは臨場感が大切なのだ。

「なんという……。そう言うことであれば、我らが対処可能です」

 思った通りの反応をピンシャルが返してくれる。神殿がノアを利用するつもりなら、こちらも神殿を利用する。
 この館の警備も、町を歩き回るオレ達の護衛も、神殿に任せるのだ。快適な観光ができるなら、歩く広告塔くらいにはなってやってもいい。

「それは! 願ってもいないことです。是非とも、お願いしたい」

 オレは、計画通り話が進むことに、内心ほくそ笑みながら、驚いた態度をとる。

「承りました。お任せあれ。では、すぐにでも皆に話をしますので、今日はこれにて失礼」

 そう言って、3人は去って言った。

「なんだかさ、上手くいったよね」
「さすが先輩っス」
「あぁ、なんだかんだと言って神官達は頼りになるからな。大丈夫だろう。さて、神官の皆さんに護衛されて、楽しく観光だ」
「ついでに、案内もお願い出来るかもしれないと思います」
「そうだな。どれくらいの期間、護衛してもらえるのか……そのあたりも要交渉だ」

 3人が去ったあと、笑顔の皆と館へと戻る。
 その時、オレは思いがけない良い展開に上機嫌だった。
 だからと言って、全てが順調というわけではない。
 一応、その日の夜にノアの呪いについて、同僚達には伝えておく。

「そっか。だから……」
「でも、今回は何とかなるんスよね」
「そうだな。だが、何か対策は考えるべきだと思うぞ」

 サムソンの言う通りだ。対策は必要だな。
 でも、とりあえず明日はなんとかなりそうだ。
 楽しく観光できるだろう。
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