召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十六章 王都の演者

ものがたりあふれるみやこ

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 書籍工房に写本の依頼をして、図書ギルドへ黒本の手配をした後は、王都見物の再開だ。

「お金が必要っスね」
「古い本があれほどお金がかかるものとは思っていなかったからな」

 雑談しつつ、あちこちで繰り広げられる、吟遊詩人の歌を聞き比べして楽しむ。
 お金の問題があるからといって、行動は変わらない。
 練習と、王都観光。
 決まり切った生活スタイルで王都の暮らしを楽しむ。
 変装したときに、親切だった人の店をメインに利用し過ごす。
 あの時、忠告してくれた人には、特にいろいろとお願いするようになった。
 そして、彼は期待に応えてくれるかのように、いろいろな名物の手配をしてくれる。

「イタタタ……」
「あの、リーダ……大丈夫?」
「ほら、あれ、絶対怪しいって言ったじゃん。ちょっと光っていたし、匂い……変だったじゃん」

 だが、名物だからと良い事ばかりではない。
 盛大にあたってしまった。
 お腹がめちゃくちゃ痛くなったのだ。
 南方を旅行していたときに、食べ物にあたることはたまにあった。
 エリクサーがあるからと、気楽に買い食いしていたというのもある。
 なので、わりと耐性はついていたはずなのに、だめだった。
 案外、都会は……いや都会だからこそ、衛生面にダメなところがあるのかもしれない。

「リーダはともかく、ノアちゃんとかが苦しい思いをするのは避けたいと思います。思いません?」

 ギリギリとお腹に響く痛みに耐えつつ、慌ててエリクサーを飲み、カガミに頷く。
 ちょっと口から血が出ていた。腐っていたのではなく、寄生虫か……。
 変な寄生虫。たまに刺身の中へ潜んでいるアニサキスの異世界版だったらと……不安だったが、エリクサーが効いて一安心だ。
 さすが異世界、何処に危険が潜んでいるのか侮れない。

「確かに、カガミ氏の言う通りだ。魔導具でよさそうなのがあるから、それを使おう」

 オレが腹痛に苦しんだ翌日、サムソンが対策として作ったのが、アウキサの首飾り。水滴の形をした水色の石があしらわれたネックレスだ。水色の石は、薬を吸い取り、体の毒になる成分を飲み込んだ瞬間に中和するという。効果は、吸い取った薬に比例するというので、エリクサーを飲み込ませた。

「こんなのがあるなら早く作っておけば良かったっスね」
「前から作りたいと思っていたが、触媒が手に入らなかった」
「王都に売っていたんスか?」
「いや、進化した異物……つまり1円玉で代用できた」

 なるほど。早速、サムソンは進化した遺物……元の世界から持ち込んだ品物をフル活用しているってことか。頼りになる。

「効果は大丈夫なの?」
「今朝、一応、蛇の毒を舐めてみました。問題なかったので、安心してもいいと思います」
「マジ? カガミ、大丈夫なの?」
「えぇ。身体強化で、毒にも耐性があるから、失敗しても死ぬことはないんです。ただ、水色だった石が濁ってしまいました」
「黒くなったら、またエリクサーを吸い取らせればいいから問題ないぞ」

 サムソンは冷静に返していたが、毒を舐めて確かめるとかよくやるな。
 だが、毒だって平気というのは心強い。

「だったら、毒キノコも食えるってことか。なんか美味しいらしいから気になっていたんだよな」

 ふとした思いつき。
 毒キノコは、あまりにも美味しいため、自己防衛として毒を持つようになったと、どこかで聞いたことあるのだ。
 毒が平気なら、毒キノコで作ったキノコ鍋もいける。
 素晴らしい。

「さっき、辛い目にあったばかりなのに……。まぁ、リーダが1人でやるならいいけど、巻き込まないでね」

 ところが、賛同者ゼロ。あげく、1人でやれと言われる始末。
 ナイスアイデアだと思ったのに。
 ともかく王都はいろいろな物が多い。
 呼び子の軽快な売り文句に誘われて、適当に買い食いし、あちこちで行われている吟遊詩人の歌や、小芝居を見物して日々を過ごす。

「うわっ。はしごに登って芝居してる」
「見ていく?」

 王都の吟遊詩人や、小芝居をする人は数多くいるため、工夫を凝らした人も多い。
 しかも魔法を駆使した芸をする人もいるので、驚くような催しも沢山ある。
 昨日は、逆立ちして靴の先につけた人形を動かしつつ歌う吟遊詩人がいた。
 今、目の前にいるのも、そんな変わり種。
 高いはしごに登って、グルングルンと大きく体を動かし歌う吟遊詩人。

「うーん。やめておいた方がいいぞ。あれ、シンシニフォルの双子だ」

 どうしようかと考えていると、サムソンが困ったように言った。
 シンシニフォルの双子。王都でよく見かけるメジャーな物語だ。
 病気の母親のため、薬草狩りにいった双子。ところが魔物に襲われ重傷を負ってしまう。
 2人は互いに、自らの死期を悟る。そして、お互いが、自分は死んでもいいので、兄を、弟を、助けてくれと神に願う。
 ケルワッル神は、そんな二人の願いに心動かされ、1つの提案をする。
 その1つの提案というのが、半分死にかけた体を捨て、二人が一人に融合して助かろうという提案だった。それは、最終的には失敗してしまい、物語は終わりを迎える。
 オレとしては、そんな怪我、神様だったら治せばいいじゃんと思った。ところが、純粋なノアやピッキー達は、悲しみのあまり一日中落ち込んでいた。
 ということで、悲劇は避けようという暗黙の了解が出来ている。

「あっちは?」

 そんな時、ミズキが宿の屋根を指さした。
 屋根の上で芝居しているのか。あれも、見覚えあるな。
 あれは、確か……。

「なんとかの騎士ってやつだ。前に見た……勧進帳だよ」
「え?」
「ほら、似てるだろ、勧進帳に……弁慶と義経のやつ」
「そういや、そうっスね。でも、最初から見たことないし、面白そうっスよ」

 屋根の上で大がかりなセットを組んで芝居をするようで、面白そうなので見ることになった。

「トントハルトの姫と騎士……はじまりはじまり」

 タンバリンのような楽器を手に、司会役の女性が物語を語り始めた。
 敵軍に取り残された姫と騎士の話だ。
 宿の宣伝も込みなのだろう。

「なんと上手い飯!」
「えぇ。これは、良いお酒。素敵なお部屋に、お酒を置いてくれているなんて、夢のよう」

 敵に見つからないようにと小僧に変装した姫と、同行する騎士は、苦労しつつも帰国の旅をするのだが、やたらと快適な宿に泊まっていた。スポンサーにサービスしすぎだよ。

「あぁ、父上。ハクボーンを罰するというのなら、それは私の役目。そして配下の責は、力足りぬ主である私の罪。故にハクボーンを許せぬというなら、まずは私を罰してくださいませ」

 クライマックスのセリフに、ノアは見入っていた。
 途中のセリフも憶えていたし……ノアが好きな話のようだ。

「最後まで見ると面白かったっスね」
「お姫様が、お嬢様みたいだったでち」

 小僧に変装した姫が疑われるシーンは、まんま勧進帳だ。疑う門番の前で、騎士が姫を蹴り飛ばすという対応をする。その苛烈さに、怖じ気づいた門番が、二人を通すのだ。
 ところが、この物語はラストが大きく違っていた。
 確かに姫を蹴り飛ばす場面はあるのだが、このお話はさらに続きがあるのだ。
 それは、帰国後に王様から姫を蹴った罪を問われるというシーン。
 そこでは、配下の責任は主人の責任、だから自分を罰して欲しいと姫が王様に訴えるのだ。その勇気に王様が心打たれ、お話はハッピーエンドで終わる。
 先入観での決めつけはよくないな。
 それからも、フラフラ町を歩き、気になった芝居を見ているうちに1日が終わる。そんな日々を過ごす。

「我は豪腕無双の大戦士ハロルド!」

 沢山見たお話の中には、なんとハロルドのお話まであった。
 ハロルドが、どこかの王様と何日も殴り合う話だ。ついに両者立てなくなって、寝転がったまま夕日に向かって再戦を誓って終わる。熱血物だ。
 得意気にハロルドがキャンキャンうるさかった。
 数え切れないほど沢山の芝居に歌。
 王都は、飽きることがない不思議な町だ。
 そして、物語の波に巻き込まれるように日々はすぎ、ついに新年の祝賀という日を迎えた。
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