554 / 830
第二十七章 伝説の、真相
閑話 底知れぬ聖女の従者達
しおりを挟む
スプリキト魔法大学の入り口そばには、一軒の宿屋がある。
レンガ造りで3階建ての宿は、大学に用はあっても立ち入ることを許されない者が滞在する場所だ。
その宿の一階は丸ごと酒場になっていて、いつも人が賑わう場所だった。
そして、それはリーダ達が大学に入学してから、数ヶ月が経った頃の事だ。
酒場の端、暖炉の火も当たらない片隅に、ぽつんとあったテーブルには、ボロ布のマントを羽織った女性が座っていた。
ボロ布の下に見える深い青色の服が、この酒場に似合わない立場であることを表していた。
彼女の名前はヘレンニア。
れっきとしたスプリキト魔法大学の生徒であり、このような場所にいるはずのない女性だった。
静かに酒を飲む彼女の前に、一人の男が座った。
「どちら様?」
ヘレンニアが、辺りを見回したあと、前に座る男に視線を移し問う。
賑わっていても、テーブルの空きはあった。相席する必要はない。
「私は旅の者でして。つかぬことをお伺いいたしますが、貴方は、スプリキト魔法大学の学生では?」
「それを知って……どうしようと?」
「実は私、旅の楽師なのです」
男は足下に置いた麻袋に手をかけた。
そして、そっと上に被せていた布をずらすと、袋の中からリュートの柄がチラリと見えた。
「吟遊詩人ってこと?」
リュートをのぞき込むように体を動かしたヘレンニアが聞き返す。
楽しそうに。
「ええ。それで、学生ということであれば、教えていただきたいことがあるのです。スプリキト魔法大学には聖女ノアサリーナ様の従者が在籍してると、ご存知でしょうか?」
「もちろん」
「私達は、あの方々が活躍していると信じております。故に、その活躍の話を、歌にして届けたいのです」
そこまで言うと、男はリュートに手を伸ばし、慣れた動きで構え腕を振るった。
『ポロロ……ン』
リュートから綺麗な音が鳴る。
そして男は言葉を続ける。
「魔法使いである貴方には、想像つかないかもしれません。ですが、皆がノアサリーナ様の、ひいては従者達の歌を待ち望んでいるのです」
「そう。確かに私は学生で、かの者達の話も知っている。でも、それをタダで教えてあげようなんてお人好しではないの。そうね……この酒場で一番美味しいお酒と、それからたくさんの料理をいただけるかしら」
「それは、もう、私の財布の紐が許す限り」
ヘレンニアの言葉を聞いて、男は酒場のカウンターへと歩いて行った。
「申し遅れてましたが、私、シュトレーレと申します。北へ南へと渡り歩く吟遊詩人でございます」
戻ってきた男は、ヘレンニアに対して名乗りつつ、ジョッキを2つ、テーブルに置いた。
「ありがとう。では早速だけど、スプリキト魔法大学に入った聖女の従者は3人。静かな男、サムソン様。優雅な物腰でノアサリーナ様の信頼厚いカガミ様。そして英知は底知れぬ筆頭リーダ……様」
ヘレンニアは一息を喋ると、ジョッキを手に取りゴクリと飲んだ。
「なるほど。なるほど」
慌てた様子で乱雑にメモを取るシュトレーレを待つことなく、ヘレンニアは言葉を続ける。
「そしてリーダ様は、すでに、学校にいない」
「え? いない?」
「そう。筆頭リーダ様にとって、スプリキト魔法大学には価値を見いだせなかったようね。大学で何かを成し、かの大学の頂点に君臨する3人の大教授すら唸らせる弁舌を尽くし、自らの功績を認めさせ、あっという間に卒業してしまったの」
「なんと! 私には想像つかないことですが、スプリキト魔法大学は、それほど、すぐに卒業できるものなのでしょうか?」
「いや……そんなわけがない。長い長い大学の歴史の中で、異国からの魔法上手だってスプリキト魔法大学の卒業を認められるには、半年はかかっていた」
「それでは……」
シュトレーレは、メモを取る事も忘れ、次の言葉を待った。
前のめりになっている彼の姿に、ヘレンニアは微笑み、言葉を発する。
「リーダ様は、スプリキト魔法大学に、異常な早さでの卒業という伝説を残した事になるわ」
「それはすごい。ですが何を成されたのですか?」
「ここから先は噂」
「はい是非とも。噂でも、構いません」
「スプリキト魔法大学に隠された秘密。それは、歴史に埋もれた地下迷宮だった……その迷宮を踏破し、何かを発見したという噂」
「あの歴史ある大学に、埋もれた迷宮、隠された秘密。リーダ様はそれを暴いた……」
「まぁ、噂なのだけれど」
まるで内緒話をするように、2人が会話するところに、女中が、器用にも両手に4枚の皿を抱えて席へとやってきた。
「何?悪巧み?」
そして、楽しげに言うと、リズム良く皿をテーブルにのせていく。
「そうね。少し楽しい悪巧み」
メモする人シュトレーレを覗き見て、ヘレンニアが返す。
「まぁ、怖い。もう一皿持ってくるから、テーブルを開けといてね。悪者さん」
そう言い残し席から離れた女中を、ヘレンニアは楽しそうに眺める。
彼女は姿勢を変えず、皿から肉を一切れ掴むとポイと口に放り込んだ。
「素晴らしいお話ありがとうございます。これで曲を作れそうです」
そんなヘレンニアに、ペンをインク壺に投げ込んだシュトレーレが礼を言う。
「それは良かったわ。でもね。リーダ様が卒業しても、聖女の従者はあと2人いる」
「確かに。確かに。ひょっとして他の2人も何かを?」
「そうね。サムソン様は、スプリキト魔法大学の生徒会選挙に暗躍し、計略を持って新しい秩序を作り出し、生徒会を歴代最強の布陣にしたと聞くわ」
「なんと! リーダ様だけではなく、サムソン様もそれほどの功績を」
「ええ。ただしサムソン様はやり過ぎた。実際に、彼が動いた直後、大学は様変わりしたわ。そのせいで、大学から警戒の眼差しを向けられている……そんな噂があるわ」
「スプリキト魔法大学の生徒会といえば、前の魔神復活の折、学生の身でありながらヨラン王国の守りとして名を残した一団……そこに影響力を持つ理解不能な生徒は、大学にとって恐るべき身内」
「そう……確かに、そう言える」
近づいてきた女中から皿を受け取ったヘレンニアは、テーブルの隙間に皿を置く。
シュトレーレが熱心にメモする姿を、彼女は眺めながら微笑んだ。
「いや失礼。せっかくのお話。私……できるだけ詳しく記しておきたいと……」
しばらくして、ヘレンニアの笑みに気付いたシュトレーレが弁解の言葉を口にする。
「気にしていない。心置きなく、後悔しないように記してくださいな」
「ひょっとして……カガミ様も何かを?」
言葉を受けて、シュトレーレがメモを取る途中、ピタリと動きを止め、ヘレンニアに質問した。
「きっとね。何かを企んでいると、私は思っているわ。そうそう……カガミ様にはひとつ不思議なことがあるの」
「不思議なことですか?」
「ノアサリーナ様は、カガミ様のためだけに従者を一人つけた」
「プレイン様か、ミズキ様でしょうか?」
「それがね、そのどちらでもない様子。でも、その実力は大したもので、カガミ様の意を汲み難題をこなしたそうよ」
「謎の従者。それだけでも歌えそうです」
「そして、その従者が神殺しの魔法を手に入れていた」
「か……神殺しですか?」
「こんな魔法陣」
興奮するシュトレーレからペンを奪い取ると、彼がメモを続ける紙の片隅に、小さな魔法陣を描く。
「これは……あれでは? あのおとぎ話の?」
「そう。知っている者も多い、誰にも使えない魔法陣。でも、わざわざ、スプリキト魔法大学に行ってまで、手に入れるなんて、何かあると思わないかしら?」
「確かに。確かに」
「だから私は、きっとカガミ様も何か役目があるのでないかと思っているの」
「ふむ。その従者とは何者なのでしょうか」
「さあ見当もつかないわ。本当に謎の人物」
「物語ならば、謎の人物の正体は……案外身近な人間という事が多いのですが」
「では、プレイン様の変装かしら」
「プレイン様……あぁ、いやいや、思い出しました。それは無いです。プレイン様は、王都で活躍なされています」
「ミズキ様?」
「そうであれば、男装の令嬢ということになります。そうなりますが……いや、これは、これは」
大きく頷いたシュトレーレが、素早く何かを書き記す。
「何か思いついた?」
「はい。謎呼ぶ歌を。男装の令嬢と、カガミ様が謎に挑む……」
「とまぁ。私が知っているのはこのくらい」
一心不乱に何かを記すシュトレーレに対し、ヘレンニアが言った。
「ありがとうございます。素晴らしいお話でした。それに、貴方の語り口調も実に見事で惹きこまれました」
「それは、ありがとう。私も話をしていて面白かったわ。このまま、吟遊詩人になってしまおうかしら」
「いやいや。貴方のような美しい方に、さきほどの話を歌われてしまっては、私が干上がってしまいます」
「フフフ。そう……。では、私は、歌を聴くことにしましょう。曲ができたら、是非とも聞かせてちょうだいな」
「はい。ご期待ください」
頷き、メモをとるシュトレーレ。それを眺めるヘレンニア。
先ほどから繰り返される光景。
「お、おい、ヘレンニア」
だが、それは突如、中断した。
一人の男の声によって。
「あぁ。失礼、先約がございましたか」
男をチラリとみたシュトレーレが慌てた様子で、リュートと荷物を抱えて去って行く。
「彼は、吟遊詩人よ。あぁやって、人に質問を繰り返し、歌を作るのね。初めての経験で面白かったわ」
去りゆくシュトレーレを見て、ヘレンニアが言った。
「ふん。で、話ってのはなんだ?」
シュトレーレの座っていた席に男は座り、料理を口に運びながら問う。
「そうねぇ。予定より長く、スプリキト魔法大学に残ることにしたわ。それで、引き続き、貴族を演じてほしいの。お前達に……ね」
「追加の金は?」
「これで……売れば、金貨2000枚にはなるわ」
ヘレンニアが、耳飾りを1つ取り外し、テーブルに置いた。
それから、静かに席を立った。
「何処へ行く?」
「帰るの。どうせ、お前が決めるわけじゃないでしょ? 決まったら、グッピオの答えを教えて……このままでは、楽しい気分が冷めてしまう。では、ごきげんよう」
料理を食べつつ声をかけた男に振り返ることなく、ヘレンニアはそう言い残す。
そして、次の瞬間……ヘレンニアはフッと姿を消した。音も無く。
レンガ造りで3階建ての宿は、大学に用はあっても立ち入ることを許されない者が滞在する場所だ。
その宿の一階は丸ごと酒場になっていて、いつも人が賑わう場所だった。
そして、それはリーダ達が大学に入学してから、数ヶ月が経った頃の事だ。
酒場の端、暖炉の火も当たらない片隅に、ぽつんとあったテーブルには、ボロ布のマントを羽織った女性が座っていた。
ボロ布の下に見える深い青色の服が、この酒場に似合わない立場であることを表していた。
彼女の名前はヘレンニア。
れっきとしたスプリキト魔法大学の生徒であり、このような場所にいるはずのない女性だった。
静かに酒を飲む彼女の前に、一人の男が座った。
「どちら様?」
ヘレンニアが、辺りを見回したあと、前に座る男に視線を移し問う。
賑わっていても、テーブルの空きはあった。相席する必要はない。
「私は旅の者でして。つかぬことをお伺いいたしますが、貴方は、スプリキト魔法大学の学生では?」
「それを知って……どうしようと?」
「実は私、旅の楽師なのです」
男は足下に置いた麻袋に手をかけた。
そして、そっと上に被せていた布をずらすと、袋の中からリュートの柄がチラリと見えた。
「吟遊詩人ってこと?」
リュートをのぞき込むように体を動かしたヘレンニアが聞き返す。
楽しそうに。
「ええ。それで、学生ということであれば、教えていただきたいことがあるのです。スプリキト魔法大学には聖女ノアサリーナ様の従者が在籍してると、ご存知でしょうか?」
「もちろん」
「私達は、あの方々が活躍していると信じております。故に、その活躍の話を、歌にして届けたいのです」
そこまで言うと、男はリュートに手を伸ばし、慣れた動きで構え腕を振るった。
『ポロロ……ン』
リュートから綺麗な音が鳴る。
そして男は言葉を続ける。
「魔法使いである貴方には、想像つかないかもしれません。ですが、皆がノアサリーナ様の、ひいては従者達の歌を待ち望んでいるのです」
「そう。確かに私は学生で、かの者達の話も知っている。でも、それをタダで教えてあげようなんてお人好しではないの。そうね……この酒場で一番美味しいお酒と、それからたくさんの料理をいただけるかしら」
「それは、もう、私の財布の紐が許す限り」
ヘレンニアの言葉を聞いて、男は酒場のカウンターへと歩いて行った。
「申し遅れてましたが、私、シュトレーレと申します。北へ南へと渡り歩く吟遊詩人でございます」
戻ってきた男は、ヘレンニアに対して名乗りつつ、ジョッキを2つ、テーブルに置いた。
「ありがとう。では早速だけど、スプリキト魔法大学に入った聖女の従者は3人。静かな男、サムソン様。優雅な物腰でノアサリーナ様の信頼厚いカガミ様。そして英知は底知れぬ筆頭リーダ……様」
ヘレンニアは一息を喋ると、ジョッキを手に取りゴクリと飲んだ。
「なるほど。なるほど」
慌てた様子で乱雑にメモを取るシュトレーレを待つことなく、ヘレンニアは言葉を続ける。
「そしてリーダ様は、すでに、学校にいない」
「え? いない?」
「そう。筆頭リーダ様にとって、スプリキト魔法大学には価値を見いだせなかったようね。大学で何かを成し、かの大学の頂点に君臨する3人の大教授すら唸らせる弁舌を尽くし、自らの功績を認めさせ、あっという間に卒業してしまったの」
「なんと! 私には想像つかないことですが、スプリキト魔法大学は、それほど、すぐに卒業できるものなのでしょうか?」
「いや……そんなわけがない。長い長い大学の歴史の中で、異国からの魔法上手だってスプリキト魔法大学の卒業を認められるには、半年はかかっていた」
「それでは……」
シュトレーレは、メモを取る事も忘れ、次の言葉を待った。
前のめりになっている彼の姿に、ヘレンニアは微笑み、言葉を発する。
「リーダ様は、スプリキト魔法大学に、異常な早さでの卒業という伝説を残した事になるわ」
「それはすごい。ですが何を成されたのですか?」
「ここから先は噂」
「はい是非とも。噂でも、構いません」
「スプリキト魔法大学に隠された秘密。それは、歴史に埋もれた地下迷宮だった……その迷宮を踏破し、何かを発見したという噂」
「あの歴史ある大学に、埋もれた迷宮、隠された秘密。リーダ様はそれを暴いた……」
「まぁ、噂なのだけれど」
まるで内緒話をするように、2人が会話するところに、女中が、器用にも両手に4枚の皿を抱えて席へとやってきた。
「何?悪巧み?」
そして、楽しげに言うと、リズム良く皿をテーブルにのせていく。
「そうね。少し楽しい悪巧み」
メモする人シュトレーレを覗き見て、ヘレンニアが返す。
「まぁ、怖い。もう一皿持ってくるから、テーブルを開けといてね。悪者さん」
そう言い残し席から離れた女中を、ヘレンニアは楽しそうに眺める。
彼女は姿勢を変えず、皿から肉を一切れ掴むとポイと口に放り込んだ。
「素晴らしいお話ありがとうございます。これで曲を作れそうです」
そんなヘレンニアに、ペンをインク壺に投げ込んだシュトレーレが礼を言う。
「それは良かったわ。でもね。リーダ様が卒業しても、聖女の従者はあと2人いる」
「確かに。確かに。ひょっとして他の2人も何かを?」
「そうね。サムソン様は、スプリキト魔法大学の生徒会選挙に暗躍し、計略を持って新しい秩序を作り出し、生徒会を歴代最強の布陣にしたと聞くわ」
「なんと! リーダ様だけではなく、サムソン様もそれほどの功績を」
「ええ。ただしサムソン様はやり過ぎた。実際に、彼が動いた直後、大学は様変わりしたわ。そのせいで、大学から警戒の眼差しを向けられている……そんな噂があるわ」
「スプリキト魔法大学の生徒会といえば、前の魔神復活の折、学生の身でありながらヨラン王国の守りとして名を残した一団……そこに影響力を持つ理解不能な生徒は、大学にとって恐るべき身内」
「そう……確かに、そう言える」
近づいてきた女中から皿を受け取ったヘレンニアは、テーブルの隙間に皿を置く。
シュトレーレが熱心にメモする姿を、彼女は眺めながら微笑んだ。
「いや失礼。せっかくのお話。私……できるだけ詳しく記しておきたいと……」
しばらくして、ヘレンニアの笑みに気付いたシュトレーレが弁解の言葉を口にする。
「気にしていない。心置きなく、後悔しないように記してくださいな」
「ひょっとして……カガミ様も何かを?」
言葉を受けて、シュトレーレがメモを取る途中、ピタリと動きを止め、ヘレンニアに質問した。
「きっとね。何かを企んでいると、私は思っているわ。そうそう……カガミ様にはひとつ不思議なことがあるの」
「不思議なことですか?」
「ノアサリーナ様は、カガミ様のためだけに従者を一人つけた」
「プレイン様か、ミズキ様でしょうか?」
「それがね、そのどちらでもない様子。でも、その実力は大したもので、カガミ様の意を汲み難題をこなしたそうよ」
「謎の従者。それだけでも歌えそうです」
「そして、その従者が神殺しの魔法を手に入れていた」
「か……神殺しですか?」
「こんな魔法陣」
興奮するシュトレーレからペンを奪い取ると、彼がメモを続ける紙の片隅に、小さな魔法陣を描く。
「これは……あれでは? あのおとぎ話の?」
「そう。知っている者も多い、誰にも使えない魔法陣。でも、わざわざ、スプリキト魔法大学に行ってまで、手に入れるなんて、何かあると思わないかしら?」
「確かに。確かに」
「だから私は、きっとカガミ様も何か役目があるのでないかと思っているの」
「ふむ。その従者とは何者なのでしょうか」
「さあ見当もつかないわ。本当に謎の人物」
「物語ならば、謎の人物の正体は……案外身近な人間という事が多いのですが」
「では、プレイン様の変装かしら」
「プレイン様……あぁ、いやいや、思い出しました。それは無いです。プレイン様は、王都で活躍なされています」
「ミズキ様?」
「そうであれば、男装の令嬢ということになります。そうなりますが……いや、これは、これは」
大きく頷いたシュトレーレが、素早く何かを書き記す。
「何か思いついた?」
「はい。謎呼ぶ歌を。男装の令嬢と、カガミ様が謎に挑む……」
「とまぁ。私が知っているのはこのくらい」
一心不乱に何かを記すシュトレーレに対し、ヘレンニアが言った。
「ありがとうございます。素晴らしいお話でした。それに、貴方の語り口調も実に見事で惹きこまれました」
「それは、ありがとう。私も話をしていて面白かったわ。このまま、吟遊詩人になってしまおうかしら」
「いやいや。貴方のような美しい方に、さきほどの話を歌われてしまっては、私が干上がってしまいます」
「フフフ。そう……。では、私は、歌を聴くことにしましょう。曲ができたら、是非とも聞かせてちょうだいな」
「はい。ご期待ください」
頷き、メモをとるシュトレーレ。それを眺めるヘレンニア。
先ほどから繰り返される光景。
「お、おい、ヘレンニア」
だが、それは突如、中断した。
一人の男の声によって。
「あぁ。失礼、先約がございましたか」
男をチラリとみたシュトレーレが慌てた様子で、リュートと荷物を抱えて去って行く。
「彼は、吟遊詩人よ。あぁやって、人に質問を繰り返し、歌を作るのね。初めての経験で面白かったわ」
去りゆくシュトレーレを見て、ヘレンニアが言った。
「ふん。で、話ってのはなんだ?」
シュトレーレの座っていた席に男は座り、料理を口に運びながら問う。
「そうねぇ。予定より長く、スプリキト魔法大学に残ることにしたわ。それで、引き続き、貴族を演じてほしいの。お前達に……ね」
「追加の金は?」
「これで……売れば、金貨2000枚にはなるわ」
ヘレンニアが、耳飾りを1つ取り外し、テーブルに置いた。
それから、静かに席を立った。
「何処へ行く?」
「帰るの。どうせ、お前が決めるわけじゃないでしょ? 決まったら、グッピオの答えを教えて……このままでは、楽しい気分が冷めてしまう。では、ごきげんよう」
料理を食べつつ声をかけた男に振り返ることなく、ヘレンニアはそう言い残す。
そして、次の瞬間……ヘレンニアはフッと姿を消した。音も無く。
0
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる