召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
660 / 830
第三十一章 究極の先へ、賑やかに

ぺっぱーずごーすと

しおりを挟む
 先頭の男がフードを取って、微笑む。
 特徴的なのは髪型。黒に近い灰色の髪をリーゼントにしている。こんな髪型をした人をこちらの世界に来て初めて見た。

「やぁやぁ。初めまして、急にすまないね。ヘイネル様が倒れたと知って、ギルドは大丈夫なのかと思い寄らせてもらった。バーランだ」

 バーランと名乗った男は、オレの肩をポンポンと叩き笑みを深めた。
 慣れ慣れしい態度に狼狽えてしまう。
 後に控えるローブ姿の男女も柔やかな笑顔を浮かべていて、ちょっと距離感が掴めない。
 そしてギルド本部からの命令という名目で、彼はしばらく滞在することになった。
 柔やかな笑顔が作り物っぽくて、どうにも怪しい。
 とはいえ、ギルド本部から来た人間であるのは、直前のトーク鳥の話からも間違いないだろう。

「では、まずギリアの魔術士ギルドを案内させていただきます」

 とりあえず、まずは様子見だ。営業スマイルで彼にそう言ってギルドを案内する。
 邪険に扱うわけにもいかないからな。
 油断はしないが、友好的に接する。
 質問には的確に答える、本部のお偉いさん相手に接待モードだ。
 もっともバーランとその配下の皆さんは、特に横暴な事もなかった。
 予想以上に、ギルドの接客姿勢や、魔法の使い方を熱心に確認していた。
 立ち上げたばかりのギルド支部ということで、監査みたいなものかもしれない。

「今日は、いろいろ詳しく説明してもらえて助かったよ」
「いえいえ、私こそ本部の方に満足いく説明ができて嬉しく思います」

 バーランからも好評価。
 彼らは、とても仕事に情熱を持っている人のようだ。
 夜も資料をまとめるから、ギルドを使わせてほしいと依頼があったくらいだ。
 別に反対する理由も無いので、快く了承する。
 残れとか言われたらどうしようかと不安だったが、そんなことも無かった。
 そうして過ごしやすいとはいえ、ギルド本部からの急な来客応対にくたびれた一日がおわる。
 帰りはミズキが迎えに来てくれるので、楽なものだ。

「なんか一杯いたよね」
「あぁ、ギルド本部の人が視察に来たんだよ」

 迎えに来たミズキは、ギルドの入り口近くにやたらと立派な馬車が止まっていたので、警戒していたらしい。
 オレが今日の事を説明すると、彼女は「そっかぁ」と軽く応じて言葉を続ける。

「でもさ、今日で良かったよね。明後日だったらもっと大変だったよね」
「そうだな。明後日は、ペッパーズ・ゴーストの部屋がオープンするからな」
「それに、ノアノアに皆も遊びに行く日だしね」

 ペッパーズ・ゴーストの部屋。それが、複製の魔法をさらに効率的にする新しい仕組みだ。
 特殊な作りをした室内に、明かりを灯すと、何も無い空間に物体が出現する。
 とはいっても、魔法ではない。ガラスの反射を利用した視覚トリックだ。

「ほらほら、いきなり人が浮き上がるやつあるじゃん。お化け屋敷でさ」

 きっかけは、魔術士ギルドの改善案を話し合った時にミズキがした何気ない一言。

「あー。あるっスね。黒っぽい場所に、パッと出るやつ」
「なぁに? 魔法の幻術ぅ?」
「いやー。魔法じゃないんだけどさ、ほら、薄い感じで……」
「ペッパーズ・ゴーストの事だと思います」

 そしてミズキとプレインの言葉に答えを出したのは、カガミだった。
 何のことか、わからないが、ガラスを使った視覚トリックで作り方をカガミが知っていた。
 夏休みの自由研究で作ったことがあるらしい。
 丸1ヶ月ほど試行錯誤したのだとか。
 話を聞いて最初の印象は、すごいよな、1ヶ月を上手くいかない案件に費やすなんて……だった。仕事ならともかく自由研究で上手くいかなかったら、即座に挫折する自信がオレにはある。というより、夏休みの宿題にどうやれば1ヶ月使えるのだか。あれは3日程度の納期でやるものだったはずだ。
 ともかく、その提案が元になって、あれよあれよという間に、魔術士ギルドの一室が改装された。
 話題に出たその日の晩に、カガミが模型を作った。
 それをプレインが、ギリアの町で知り合ったドワーフに見せて、そこから職人が集まって一気に改装が進んだ。
 その特別な部屋が明後日お目見えだ。
 今はプレインが微調整をドワーフ達とやっている。マヨネーズ作りの中で知り合ったらしいが、プレインも結構活動的だ。

「なにか新しい事をやろうとしているとか、私も興味がわきましてね」

 そして、それはバーランの耳に入った。
 そのせいかどうかは分からないが、翌日には帰るのかと思っていたバーランは、しばらく魔術士ギルドに滞在するということだ。
 仕方が無いので接待モードを継続。悪い人ではないけれど、仕事熱心な人の相手は疲れる。仕事熱心な人は好きだけれど、仕事は嫌いなのだ。
 彼は仕事の風景が好きなようだ。よく窓から外で働く人を見下ろしてニヤニヤしている。
 もっとも、特に害は無いし、微笑ましくもある。
 そんなわけで、何事も無く、ペッパーズ・ゴーストの部屋がオープンする日を迎えた。

「今日もお仕事、頑張ってね。皆で見に行くね」

 いつものように見送ってくれるノアは、待ち遠しいといった様子でそう言った。
 状況が落ち着いた事もあって、ペッパーズ・ゴーストの部屋をノアが見学に来るのだ。
 バーランの事は予想外であったが、そこまで手を取られる事も無い。

「了解。待ってるよ」

 そう柔やかにノアへ答える。
 ところが、その日は、思った以上に賑わった。
 噂が噂を呼び、いろいろなお客が訪れる。その対応にせわしない状況が続いた。

「すまないな。忙しいというのに」
「いえいえ。来て頂けて嬉しいです」

 ということで、ノア達が来た時はほとんど相手ができなかった。
 ノアやカガミ達と一緒にいたカロンロダニアに、ギルドの案内をチラッとしただけだ。
 本当は一緒にお昼を食べるつもりだったのに、ノアの差し入れてくれたサンドイッチも、一人で食べる羽目になった。
 午後過ぎにやってきたファラハ達の相手もほとんどできずに、嵐のように一日がすぎた。

「いいですよね、皆が一生懸命で」

 だけど、オレはバーランの相手を忘れなかった。
 偉い人は、忙しいからと放置するわけにはいかないのだ。神は細部に宿るという格言もある。オレは、細かいところまで気を遣う男なのだ。
 だからいつものように笑顔でギルド長の部屋から外の賑わいを見ていたバーランに声をかける。
 そしてバーランの横にたって、下を見下ろし言葉を続ける。

「私も、そうですね、好きなんですよね。燃えている人を見るのが……」

 ちょっとだけお世辞交じりだが、頑張る人が好きだという言葉も忘れない。

「そ、そうなのかね?」

 ところがバーランのリアクションは予想とは違っていた。
 何を言っているのだといった様子で、オレをギョッとした表情で見返した。
 あれ、これって、ヌネフのヤツが翻訳を間違えたのか?
 オレの言葉が上手く伝わっていないのかと不安になる。
 しっかりしてくれよ……いや、違う。
 だが、すぐにオレは自分の失敗に気がついた。
 直感的に、自分のしくじりを把握する。
 最近は仕事三昧だったからな。こういう勘が戻ってきたようだ。
 そうだよな。何を上から目線になっているのかと反省する。

「い、いや。私も一生懸命頑張っています。えぇ、私の目を見て下さい」
「目……目かね?」
「はい。私の瞳が燃えています。やる気があるのです」

 ヤバいと思い、慌ててやる気をアピールした。
 特にそれ以上のやり取りはなかった。
 オレの言葉に感銘を受けてくれたようだ。やはり、やる気アピールで正解だったようだ。
 そしてバーランは、その日の夜に急用を思い出したという事で帰っていった。
 終わった。
 お偉いさんは帰り、ペッパーズ・ゴーストの部屋も含めトラブルは無かった。
 一日が終わり、迎えにきたミズキが引く馬車に寝転んでホッと一息をつく。

 いや、何事も起きなくて良かった。本当に。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...