召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
663 / 830
第三十一章 究極の先へ、賑やかに

ひろうもの、すてるもの

しおりを挟む
 バーランが去った翌日。
 オレはギルド長の部屋で小さく唸っていた。
 きっかけは、紙束をサラマンダーが暖炉から持ってきた事だ。

「ギャウギャウ」

 バーランが去った後、帰宅前に片付けをしているときの事だった。
 ギルド長の部屋に備え付けてある暖炉。
 レンガ造りのやや大きめの暖炉から、紙束をサラマンダーが咥えて近寄ってきた。

「なんだ、これ?」
「ギャウギャウ」
「どうやら、あの魔術士ギルドの人が、落とした物らしいですねぇ」

 得意満面といった感じで、尻尾を振っているサラマンダーの吠え声をヌネフが代弁する。こうしてみると、サラマンダーは犬っぽくもあるな。

「落とし物?」
「ころがって、暖炉に落ちたところを、サラマンダーが保護したそうです。機転を利かせたのです。我々は、頑張り屋さんなのです」
「ふーん」

 バーランの落とし物か。封蝋がしてあって大切な物のようだ。
 破るのも不味いな。報告書か何かかな。
 まっ、いっか。
 別にオレには関係無いものだ、サクッと返してあげよう。
 そう思ってトーク鳥を、魔法で白孔雀……つまりデカいペリカンに姿を変えたのだが、そこで行き詰まった。
 トーク鳥を、バーランにどう送ればいいのか分からない。
 いつもチッキーまかせだったので、いまだにトーク鳥の飛ばし方がわからないのだ。
 というか、白孔雀をキャンセルする方法もわからない。
 どうしたものかな。
 困った事は後で考えようと思って、思いつきで透明化の魔法も試してみたが、見えなくなって終わりだ。見えなくしても、問題は解決しない。
 ちなみに、透明化の魔法は、魔術士ギルドにも資料があって結構簡単な魔法だった。
 今回はトーク鳥透明化というのを使ってみた。
 人や、物……それぞれに違うタイプの透明にする魔法があって、制約も多く、使い勝手は良くない。人間を透明にする魔法は、大抵の町では領主権限で制限されているため使用不可だという。

『コンコン』

 ということで、どうしようかと考えていたら、ノック音がした。
 振り返って扉を見ると、ギルド職員のリッサリアが立っていた。

「お忙しいところ申し訳ありません。お城より、領主様からの使者が来られています」

 彼女の言葉に頷いた後、ふと疑問に思う……領主の使い?
 なんだろう。

「わかりました、出迎えに行きます」
「ところで何かあったのですか? 先ほどから、随分考えこんでいましたが」
「いや。バーラン様にトーク鳥を飛ばしたいんだけど、方法がわからなくてね」
「トーク鳥……ですか?」

 首を傾げる彼女に、事の次第を説明する。
 よくよく考えたら透明化の魔法で白孔雀は見えないんだった。何も無いところで唸っているようにしか見えないよな。

「わかりました。えっと……このあたりに、トーク鳥が居るのですね」

 オレの説明を聞いて、彼女はそう言うと腰のポシェットから小箱を取り出した。
 箱には色とりどりの小さな縦笛が沢山詰まっていて、ソレを木枠に並べていく。
 そうだった。
 トーク鳥は、笛の並びで送り先などを指定するのだった。
 それから笛を並べ終えると、手元のメモを見ながらチェックして、笛を吹いた。
 最後に彼女が笛を指で弾くと、バサリと鳥が羽ばたく音がして風が巻き起こった。どうやら白孔雀は無事にギルド長の窓から飛び立っていったようだ。

「大きなトーク鳥だったのですね」

 ビリビリと小さく音を立てて振動する窓枠を見て、彼女は驚いていた。
 たしかに白孔雀は大きいよな。
 でも、これで大丈夫だろう。白孔雀はすぐにバーランの元へ行って忘れ物を届けてくれるはずだ。
 満足したオレは領主の使者を迎えに行くことにした。
 使者の要件は、報酬を持ってきた事、それからヘイネルさんの復帰が3日後になるという連絡だった。
 そうして終わりの見えた仕事。
 最後の3日は、平和なもので、オレが複製の魔法を使うことはほとんどなかった。
 ギルドで過ごす平和な3日を、オレは引き継ぎの書類を作り、のんびりと過ごした。

「今回は、とても迷惑をかけた」

 3日後、久しぶりにみたヘイネルさんは、思ったよりもやつれていた。
 大丈夫かと思ったが、本人によると随分とマシになったという。

「私の事は心配しないでくれ。助手としてエレクに来てもらう」

 心配するオレに、ヘイネルさんはそう言った。
 スプリキト魔法大学に行っているエレクは、休学してしばらく魔術士ギルドのギリア支部を手伝うのだとか。

「私がスターリオ様の手伝いに学校を休んでいる間に、入学して卒業なされていたのには驚きました」

 少し遅れてギルドにやってきたエレクから、そんな事を言われた。
 彼はいろいろあって大学を休む事が多いらしい。
 そして、引き継ぎの間、ヘイネルさんは驚きっぱなしだった。

「ここまで組織の改革を進めているとは……」

 とくにギルド員からの話を聞いていたときの、ヘイネルさんが絶句した様子にニンマリとする。口数少なくギルドを見て回った後、ヘイネルさんは大絶賛だった。
 ダメだしされたのは、こっそりマヨネーズをギルドで売っていた事くらいだ。

「ふむ。これは、使えない……廃棄だな。改めて送ってもらおう」

 オレにとって重要な事は、そんな引き継ぎの最中にあったささいな事だった。
 ヘイネルさんが不在の間、彼宛に届いた荷物を確認していたときだ。
 王都より届いた荷物が一つ破損していた。
 彼の何気ない呟き。
 それを聞いたとき、閃いたのだ。

 ――これは、使えない……廃棄だな。改めて送ってもらおう。

 なぜ、こんな簡単な事に気がつかなかったのか。
 魔法の究極。
 究極を超えた究極。
 オレ達が目指す魔法に立ち塞がる問題。
 それを解決する答えがそこにはあった。
 余計な事を考えなくて良かったのだ。
 インターネットの……通信の考えそのままで良かったのだ。
 カガミのアプローチである小さなデータを断続的に送るというのは、パケット通信そのものだ。
 パケット……小包という名前が示すとおり、小さいデータを……。

「申し訳ありません。急用を思い出したので、これにて。もし、何かあれば連絡を下さい」

 解決策を閃いた後、いてもたってもいられずオレはギルドを後に走り出した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...