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第三十一章 究極の先へ、賑やかに
ひろうもの、すてるもの
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バーランが去った翌日。
オレはギルド長の部屋で小さく唸っていた。
きっかけは、紙束をサラマンダーが暖炉から持ってきた事だ。
「ギャウギャウ」
バーランが去った後、帰宅前に片付けをしているときの事だった。
ギルド長の部屋に備え付けてある暖炉。
レンガ造りのやや大きめの暖炉から、紙束をサラマンダーが咥えて近寄ってきた。
「なんだ、これ?」
「ギャウギャウ」
「どうやら、あの魔術士ギルドの人が、落とした物らしいですねぇ」
得意満面といった感じで、尻尾を振っているサラマンダーの吠え声をヌネフが代弁する。こうしてみると、サラマンダーは犬っぽくもあるな。
「落とし物?」
「ころがって、暖炉に落ちたところを、サラマンダーが保護したそうです。機転を利かせたのです。我々は、頑張り屋さんなのです」
「ふーん」
バーランの落とし物か。封蝋がしてあって大切な物のようだ。
破るのも不味いな。報告書か何かかな。
まっ、いっか。
別にオレには関係無いものだ、サクッと返してあげよう。
そう思ってトーク鳥を、魔法で白孔雀……つまりデカいペリカンに姿を変えたのだが、そこで行き詰まった。
トーク鳥を、バーランにどう送ればいいのか分からない。
いつもチッキーまかせだったので、いまだにトーク鳥の飛ばし方がわからないのだ。
というか、白孔雀をキャンセルする方法もわからない。
どうしたものかな。
困った事は後で考えようと思って、思いつきで透明化の魔法も試してみたが、見えなくなって終わりだ。見えなくしても、問題は解決しない。
ちなみに、透明化の魔法は、魔術士ギルドにも資料があって結構簡単な魔法だった。
今回はトーク鳥透明化というのを使ってみた。
人や、物……それぞれに違うタイプの透明にする魔法があって、制約も多く、使い勝手は良くない。人間を透明にする魔法は、大抵の町では領主権限で制限されているため使用不可だという。
『コンコン』
ということで、どうしようかと考えていたら、ノック音がした。
振り返って扉を見ると、ギルド職員のリッサリアが立っていた。
「お忙しいところ申し訳ありません。お城より、領主様からの使者が来られています」
彼女の言葉に頷いた後、ふと疑問に思う……領主の使い?
なんだろう。
「わかりました、出迎えに行きます」
「ところで何かあったのですか? 先ほどから、随分考えこんでいましたが」
「いや。バーラン様にトーク鳥を飛ばしたいんだけど、方法がわからなくてね」
「トーク鳥……ですか?」
首を傾げる彼女に、事の次第を説明する。
よくよく考えたら透明化の魔法で白孔雀は見えないんだった。何も無いところで唸っているようにしか見えないよな。
「わかりました。えっと……このあたりに、トーク鳥が居るのですね」
オレの説明を聞いて、彼女はそう言うと腰のポシェットから小箱を取り出した。
箱には色とりどりの小さな縦笛が沢山詰まっていて、ソレを木枠に並べていく。
そうだった。
トーク鳥は、笛の並びで送り先などを指定するのだった。
それから笛を並べ終えると、手元のメモを見ながらチェックして、笛を吹いた。
最後に彼女が笛を指で弾くと、バサリと鳥が羽ばたく音がして風が巻き起こった。どうやら白孔雀は無事にギルド長の窓から飛び立っていったようだ。
「大きなトーク鳥だったのですね」
ビリビリと小さく音を立てて振動する窓枠を見て、彼女は驚いていた。
たしかに白孔雀は大きいよな。
でも、これで大丈夫だろう。白孔雀はすぐにバーランの元へ行って忘れ物を届けてくれるはずだ。
満足したオレは領主の使者を迎えに行くことにした。
使者の要件は、報酬を持ってきた事、それからヘイネルさんの復帰が3日後になるという連絡だった。
そうして終わりの見えた仕事。
最後の3日は、平和なもので、オレが複製の魔法を使うことはほとんどなかった。
ギルドで過ごす平和な3日を、オレは引き継ぎの書類を作り、のんびりと過ごした。
「今回は、とても迷惑をかけた」
3日後、久しぶりにみたヘイネルさんは、思ったよりもやつれていた。
大丈夫かと思ったが、本人によると随分とマシになったという。
「私の事は心配しないでくれ。助手としてエレクに来てもらう」
心配するオレに、ヘイネルさんはそう言った。
スプリキト魔法大学に行っているエレクは、休学してしばらく魔術士ギルドのギリア支部を手伝うのだとか。
「私がスターリオ様の手伝いに学校を休んでいる間に、入学して卒業なされていたのには驚きました」
少し遅れてギルドにやってきたエレクから、そんな事を言われた。
彼はいろいろあって大学を休む事が多いらしい。
そして、引き継ぎの間、ヘイネルさんは驚きっぱなしだった。
「ここまで組織の改革を進めているとは……」
とくにギルド員からの話を聞いていたときの、ヘイネルさんが絶句した様子にニンマリとする。口数少なくギルドを見て回った後、ヘイネルさんは大絶賛だった。
ダメだしされたのは、こっそりマヨネーズをギルドで売っていた事くらいだ。
「ふむ。これは、使えない……廃棄だな。改めて送ってもらおう」
オレにとって重要な事は、そんな引き継ぎの最中にあったささいな事だった。
ヘイネルさんが不在の間、彼宛に届いた荷物を確認していたときだ。
王都より届いた荷物が一つ破損していた。
彼の何気ない呟き。
それを聞いたとき、閃いたのだ。
――これは、使えない……廃棄だな。改めて送ってもらおう。
なぜ、こんな簡単な事に気がつかなかったのか。
魔法の究極。
究極を超えた究極。
オレ達が目指す魔法に立ち塞がる問題。
それを解決する答えがそこにはあった。
余計な事を考えなくて良かったのだ。
インターネットの……通信の考えそのままで良かったのだ。
カガミのアプローチである小さなデータを断続的に送るというのは、パケット通信そのものだ。
パケット……小包という名前が示すとおり、小さいデータを……。
「申し訳ありません。急用を思い出したので、これにて。もし、何かあれば連絡を下さい」
解決策を閃いた後、いてもたってもいられずオレはギルドを後に走り出した。
オレはギルド長の部屋で小さく唸っていた。
きっかけは、紙束をサラマンダーが暖炉から持ってきた事だ。
「ギャウギャウ」
バーランが去った後、帰宅前に片付けをしているときの事だった。
ギルド長の部屋に備え付けてある暖炉。
レンガ造りのやや大きめの暖炉から、紙束をサラマンダーが咥えて近寄ってきた。
「なんだ、これ?」
「ギャウギャウ」
「どうやら、あの魔術士ギルドの人が、落とした物らしいですねぇ」
得意満面といった感じで、尻尾を振っているサラマンダーの吠え声をヌネフが代弁する。こうしてみると、サラマンダーは犬っぽくもあるな。
「落とし物?」
「ころがって、暖炉に落ちたところを、サラマンダーが保護したそうです。機転を利かせたのです。我々は、頑張り屋さんなのです」
「ふーん」
バーランの落とし物か。封蝋がしてあって大切な物のようだ。
破るのも不味いな。報告書か何かかな。
まっ、いっか。
別にオレには関係無いものだ、サクッと返してあげよう。
そう思ってトーク鳥を、魔法で白孔雀……つまりデカいペリカンに姿を変えたのだが、そこで行き詰まった。
トーク鳥を、バーランにどう送ればいいのか分からない。
いつもチッキーまかせだったので、いまだにトーク鳥の飛ばし方がわからないのだ。
というか、白孔雀をキャンセルする方法もわからない。
どうしたものかな。
困った事は後で考えようと思って、思いつきで透明化の魔法も試してみたが、見えなくなって終わりだ。見えなくしても、問題は解決しない。
ちなみに、透明化の魔法は、魔術士ギルドにも資料があって結構簡単な魔法だった。
今回はトーク鳥透明化というのを使ってみた。
人や、物……それぞれに違うタイプの透明にする魔法があって、制約も多く、使い勝手は良くない。人間を透明にする魔法は、大抵の町では領主権限で制限されているため使用不可だという。
『コンコン』
ということで、どうしようかと考えていたら、ノック音がした。
振り返って扉を見ると、ギルド職員のリッサリアが立っていた。
「お忙しいところ申し訳ありません。お城より、領主様からの使者が来られています」
彼女の言葉に頷いた後、ふと疑問に思う……領主の使い?
なんだろう。
「わかりました、出迎えに行きます」
「ところで何かあったのですか? 先ほどから、随分考えこんでいましたが」
「いや。バーラン様にトーク鳥を飛ばしたいんだけど、方法がわからなくてね」
「トーク鳥……ですか?」
首を傾げる彼女に、事の次第を説明する。
よくよく考えたら透明化の魔法で白孔雀は見えないんだった。何も無いところで唸っているようにしか見えないよな。
「わかりました。えっと……このあたりに、トーク鳥が居るのですね」
オレの説明を聞いて、彼女はそう言うと腰のポシェットから小箱を取り出した。
箱には色とりどりの小さな縦笛が沢山詰まっていて、ソレを木枠に並べていく。
そうだった。
トーク鳥は、笛の並びで送り先などを指定するのだった。
それから笛を並べ終えると、手元のメモを見ながらチェックして、笛を吹いた。
最後に彼女が笛を指で弾くと、バサリと鳥が羽ばたく音がして風が巻き起こった。どうやら白孔雀は無事にギルド長の窓から飛び立っていったようだ。
「大きなトーク鳥だったのですね」
ビリビリと小さく音を立てて振動する窓枠を見て、彼女は驚いていた。
たしかに白孔雀は大きいよな。
でも、これで大丈夫だろう。白孔雀はすぐにバーランの元へ行って忘れ物を届けてくれるはずだ。
満足したオレは領主の使者を迎えに行くことにした。
使者の要件は、報酬を持ってきた事、それからヘイネルさんの復帰が3日後になるという連絡だった。
そうして終わりの見えた仕事。
最後の3日は、平和なもので、オレが複製の魔法を使うことはほとんどなかった。
ギルドで過ごす平和な3日を、オレは引き継ぎの書類を作り、のんびりと過ごした。
「今回は、とても迷惑をかけた」
3日後、久しぶりにみたヘイネルさんは、思ったよりもやつれていた。
大丈夫かと思ったが、本人によると随分とマシになったという。
「私の事は心配しないでくれ。助手としてエレクに来てもらう」
心配するオレに、ヘイネルさんはそう言った。
スプリキト魔法大学に行っているエレクは、休学してしばらく魔術士ギルドのギリア支部を手伝うのだとか。
「私がスターリオ様の手伝いに学校を休んでいる間に、入学して卒業なされていたのには驚きました」
少し遅れてギルドにやってきたエレクから、そんな事を言われた。
彼はいろいろあって大学を休む事が多いらしい。
そして、引き継ぎの間、ヘイネルさんは驚きっぱなしだった。
「ここまで組織の改革を進めているとは……」
とくにギルド員からの話を聞いていたときの、ヘイネルさんが絶句した様子にニンマリとする。口数少なくギルドを見て回った後、ヘイネルさんは大絶賛だった。
ダメだしされたのは、こっそりマヨネーズをギルドで売っていた事くらいだ。
「ふむ。これは、使えない……廃棄だな。改めて送ってもらおう」
オレにとって重要な事は、そんな引き継ぎの最中にあったささいな事だった。
ヘイネルさんが不在の間、彼宛に届いた荷物を確認していたときだ。
王都より届いた荷物が一つ破損していた。
彼の何気ない呟き。
それを聞いたとき、閃いたのだ。
――これは、使えない……廃棄だな。改めて送ってもらおう。
なぜ、こんな簡単な事に気がつかなかったのか。
魔法の究極。
究極を超えた究極。
オレ達が目指す魔法に立ち塞がる問題。
それを解決する答えがそこにはあった。
余計な事を考えなくて良かったのだ。
インターネットの……通信の考えそのままで良かったのだ。
カガミのアプローチである小さなデータを断続的に送るというのは、パケット通信そのものだ。
パケット……小包という名前が示すとおり、小さいデータを……。
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