709 / 830
第三十四章 途方も無い企み
閑話 執務室にて
しおりを挟む
それは、リーダとノアが、人を集め魔法陣を作る計画を立てた日。
領主の城を訪れた日の事だった。
窓から、綺麗な山肌と静かな湖が見える執務室で、領主であるラングゲレイグへフェッカトールが静かに頭を下げた。
それは、リーダ達が立ち去ってしばらくしての事だった。
「すまない。強引に話をまとめてしまった」
「いいえ、かまいません。私は兄上が情報を引き出すのかと思っておりましたので、黙っていただけです」
頭を下げたフェッカトールに対し、ラングゲレイグが笑みで返す。
「そうか」
「ですが、理由を聞かなかったのはどうしてなのです?」
ラングゲレイグはそばのテーブルからツボを手に取り、中に入った水をコップに注ぎつつ質問を投げた。
「私はかって、王都に命じられるまま、理由を知ろうともせず、ノアサリーナを追い詰めた。ずっと考えていたのだ。もし彼女が助けを求めてきたのならば、何も聞かず可能な限り助けようと」
「左様でしたか。それにしても魔法陣とは。それも膨大な数の積層魔法陣」
「私の知る限り、現存する最大の積層魔法陣は、カーバンクル生成の際の600枚だ。それを超えるようなものは聞いたことがない。そもそも積層魔法陣は、使い勝手が悪い」
「あの様子では、1000や2000では足りぬでしょう」
「おそらく相当な人数を集めることを想定しているはずだ。今や彼女の近くには、帝国や魔法王国の者もいる。他国の物を招き入れるとなれば、それはギリアだけの問題では済まなくなる」
「そうとなれば、やることが増えますな兄上」
「だろうな。今であれば、まだ其方は聞いていないと、切り捨てることができるぞ」
「はっ。そんな気はありません。もとより私は彼女達にかけているのです。家はおろか、私自身の未来を」
「そうか……何かあったか?」
何かを語ろうとしていたフェッカトールが笑みを消した。
それは、ラングゲレイグが一変したことに気がついたからだった。
「私の……領主権限が回収されております」
「何時からだ?」
「わかりません。先ほどまでは確かにこの身へ宿っていたのに……」
ラングゲレイグの告白に、フェッカトールも先ほどまでとはうってかわって緊張した面持ちになった。
領主権限の回収。それは本来、王都で儀式と共に行われるものだった。例外は、領主が反逆した場合、ただそれだけのはずだった。
――領主権限が回収されているということは、何らかの理由で反逆が疑われたということになる。
フェッカトールは考える。
そして彼の脳裏には、先ほどのリーダとの会話が思い起こされた。
「そんなはずはない」
すぐにフェッカトールは、自分に言い聞かせるように呟いた。
追い討ちをかけるように、門番からの報告が入る。
「黒騎士がこちらに?」
駆け込んできた役人からラングゲレイグは報告を聞く。その報告の途中に、四人の黒騎士が執務室へとなだれ込む。
「ギリア領主ラングゲレイグ、そしてフィオロインの2名を残し他の者は下がれ」
黒騎士の1人が部屋に入るなり部屋の者に命令する。
先ほど執務室に駆け込み黒騎士の訪問を伝えた役人は、慌てた様子で前のめりになって部屋から出て行った。
「私の正体がばれている……」
フェッカトールことフィオロインは確信した。彼の鼓動が早くなる。一部の者を除いて彼は自分の正体を隠していた。だが、今この部屋に入ってきた黒騎士は彼の正体を把握していた。
ラングゲレイグもまた緊張した面持ちをさらに厳しくした。
「テーブルを」
「はっ」
黒騎士の一人が、別の黒騎士に命令する。直後、執務室にあったテーブルと椅子が部屋から消える。
洗練された魔法の行使に、フィオロインは息をのんだ。
「ラングゲレイグそしてフィオロイン。そこに跪き、王の言葉を受けよ」
黒騎士の一人が、先ほどまでテーブルのあった場所を指さし言葉を発した。
ラングゲレイグ達は従うほかなかった。
二人が跪いたのを見て、黒騎士の一人が口を開く。
「ギリア領主ラングゲレイグ。前ギリア領主フィオロインに命ず。ノアサリーナ、及びリーダの計画に協力し、その隠蔽に努めよ。隠蔽ができぬ場合は、矮小化に努めよ。王の言葉は以上」
「はっ。王の臣下として、言葉に従うと誓います」
――王は、ノアサリーナ達の計画を知っている?
ラングゲレイグとフィオロインは同じ感想を持った。
自分たちが先程きいたばかりの事について、王都にいる王は把握している。何か繋がりがあるのかと、二人は考えた。
ところが、状況は二人に考える隙を与えない。
黒騎士のもたらした王の言葉が終わり、顔をあげようとしたラングゲレイグの視界に、剣が見えた。
かって王都にある第3騎士団副団長であった彼が反応できないほど自然に、彼の肩に剣の腹が置かれていた。真っ白い剣は、キラキラと白い煙にも似た光を立ち上らせていた。
「真の王剣……」
横目でその剣をみたラングゲレイグが小さくつぶやく。
彼を見下ろし、真っ白い剣を手にした黒騎士が口を開く。
「かってお前に与えた力は回収した。代わりに別の力を与える。古い昔、ギリアと呼ばれた地における王剣の全てであり、望めば黒騎士でさえ排除できるものだ。その力をもって、使命を果たせ」
「死力を尽くし、王命を果たします」
白い剣を持った黒騎士に、ラングゲレイグが震える声で答える。
一方の黒騎士は、彼の言葉に反応することなく剣を消し去り、部屋から出て行った。
「その力は、王の命があるまで秘匿せよ。決して、悟られぬように全力をつくせ。守れなかった場合は、我らのいずれかが其方達を消しにくるだろう」
最後に黒騎士の一人がそう言い残し去っていく。
執務室に残された2人は無言だったが、しばらくして、フィオロインが尻餅をつくようにへたり込み天井を見上げた。
「ハハッ、ハハハ」
そしてフィオロインは笑った。
「兄上?」
「わけがわからない。強大な何かに絡め取られた気分だ。しかし悪く無い。退路は絶たれたが力は手に入れた。あとは覚悟だけだ」
「覚悟ならすでにできていますよ、兄上。我ら兄弟が力を合わせれば、恐るものはありません。我らは我らの戦いをしましょう」
笑うフィオロインにつられラングゲレイグも笑う。
それは、ある意味やけくそ気味の乾いた笑みだった。
領主の城を訪れた日の事だった。
窓から、綺麗な山肌と静かな湖が見える執務室で、領主であるラングゲレイグへフェッカトールが静かに頭を下げた。
それは、リーダ達が立ち去ってしばらくしての事だった。
「すまない。強引に話をまとめてしまった」
「いいえ、かまいません。私は兄上が情報を引き出すのかと思っておりましたので、黙っていただけです」
頭を下げたフェッカトールに対し、ラングゲレイグが笑みで返す。
「そうか」
「ですが、理由を聞かなかったのはどうしてなのです?」
ラングゲレイグはそばのテーブルからツボを手に取り、中に入った水をコップに注ぎつつ質問を投げた。
「私はかって、王都に命じられるまま、理由を知ろうともせず、ノアサリーナを追い詰めた。ずっと考えていたのだ。もし彼女が助けを求めてきたのならば、何も聞かず可能な限り助けようと」
「左様でしたか。それにしても魔法陣とは。それも膨大な数の積層魔法陣」
「私の知る限り、現存する最大の積層魔法陣は、カーバンクル生成の際の600枚だ。それを超えるようなものは聞いたことがない。そもそも積層魔法陣は、使い勝手が悪い」
「あの様子では、1000や2000では足りぬでしょう」
「おそらく相当な人数を集めることを想定しているはずだ。今や彼女の近くには、帝国や魔法王国の者もいる。他国の物を招き入れるとなれば、それはギリアだけの問題では済まなくなる」
「そうとなれば、やることが増えますな兄上」
「だろうな。今であれば、まだ其方は聞いていないと、切り捨てることができるぞ」
「はっ。そんな気はありません。もとより私は彼女達にかけているのです。家はおろか、私自身の未来を」
「そうか……何かあったか?」
何かを語ろうとしていたフェッカトールが笑みを消した。
それは、ラングゲレイグが一変したことに気がついたからだった。
「私の……領主権限が回収されております」
「何時からだ?」
「わかりません。先ほどまでは確かにこの身へ宿っていたのに……」
ラングゲレイグの告白に、フェッカトールも先ほどまでとはうってかわって緊張した面持ちになった。
領主権限の回収。それは本来、王都で儀式と共に行われるものだった。例外は、領主が反逆した場合、ただそれだけのはずだった。
――領主権限が回収されているということは、何らかの理由で反逆が疑われたということになる。
フェッカトールは考える。
そして彼の脳裏には、先ほどのリーダとの会話が思い起こされた。
「そんなはずはない」
すぐにフェッカトールは、自分に言い聞かせるように呟いた。
追い討ちをかけるように、門番からの報告が入る。
「黒騎士がこちらに?」
駆け込んできた役人からラングゲレイグは報告を聞く。その報告の途中に、四人の黒騎士が執務室へとなだれ込む。
「ギリア領主ラングゲレイグ、そしてフィオロインの2名を残し他の者は下がれ」
黒騎士の1人が部屋に入るなり部屋の者に命令する。
先ほど執務室に駆け込み黒騎士の訪問を伝えた役人は、慌てた様子で前のめりになって部屋から出て行った。
「私の正体がばれている……」
フェッカトールことフィオロインは確信した。彼の鼓動が早くなる。一部の者を除いて彼は自分の正体を隠していた。だが、今この部屋に入ってきた黒騎士は彼の正体を把握していた。
ラングゲレイグもまた緊張した面持ちをさらに厳しくした。
「テーブルを」
「はっ」
黒騎士の一人が、別の黒騎士に命令する。直後、執務室にあったテーブルと椅子が部屋から消える。
洗練された魔法の行使に、フィオロインは息をのんだ。
「ラングゲレイグそしてフィオロイン。そこに跪き、王の言葉を受けよ」
黒騎士の一人が、先ほどまでテーブルのあった場所を指さし言葉を発した。
ラングゲレイグ達は従うほかなかった。
二人が跪いたのを見て、黒騎士の一人が口を開く。
「ギリア領主ラングゲレイグ。前ギリア領主フィオロインに命ず。ノアサリーナ、及びリーダの計画に協力し、その隠蔽に努めよ。隠蔽ができぬ場合は、矮小化に努めよ。王の言葉は以上」
「はっ。王の臣下として、言葉に従うと誓います」
――王は、ノアサリーナ達の計画を知っている?
ラングゲレイグとフィオロインは同じ感想を持った。
自分たちが先程きいたばかりの事について、王都にいる王は把握している。何か繋がりがあるのかと、二人は考えた。
ところが、状況は二人に考える隙を与えない。
黒騎士のもたらした王の言葉が終わり、顔をあげようとしたラングゲレイグの視界に、剣が見えた。
かって王都にある第3騎士団副団長であった彼が反応できないほど自然に、彼の肩に剣の腹が置かれていた。真っ白い剣は、キラキラと白い煙にも似た光を立ち上らせていた。
「真の王剣……」
横目でその剣をみたラングゲレイグが小さくつぶやく。
彼を見下ろし、真っ白い剣を手にした黒騎士が口を開く。
「かってお前に与えた力は回収した。代わりに別の力を与える。古い昔、ギリアと呼ばれた地における王剣の全てであり、望めば黒騎士でさえ排除できるものだ。その力をもって、使命を果たせ」
「死力を尽くし、王命を果たします」
白い剣を持った黒騎士に、ラングゲレイグが震える声で答える。
一方の黒騎士は、彼の言葉に反応することなく剣を消し去り、部屋から出て行った。
「その力は、王の命があるまで秘匿せよ。決して、悟られぬように全力をつくせ。守れなかった場合は、我らのいずれかが其方達を消しにくるだろう」
最後に黒騎士の一人がそう言い残し去っていく。
執務室に残された2人は無言だったが、しばらくして、フィオロインが尻餅をつくようにへたり込み天井を見上げた。
「ハハッ、ハハハ」
そしてフィオロインは笑った。
「兄上?」
「わけがわからない。強大な何かに絡め取られた気分だ。しかし悪く無い。退路は絶たれたが力は手に入れた。あとは覚悟だけだ」
「覚悟ならすでにできていますよ、兄上。我ら兄弟が力を合わせれば、恐るものはありません。我らは我らの戦いをしましょう」
笑うフィオロインにつられラングゲレイグも笑う。
それは、ある意味やけくそ気味の乾いた笑みだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?
石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます!
主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。
黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。
そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。
全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。
その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。
この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。
貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる