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後日談 プリンス☆リーダ
精霊という名の悪霊達
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演説が終わり、王城の一室に向かう。
ノアを先頭に、オレ、同僚達、獣人3人にレイネアンナとロンロ。
さらにはヨラン王と黒騎士達。遠い一室まで、馬車に乗らずのんびり皆で歩いて進む。
通路の左側は庭だ。等間隔に立つ白い柱の向こう側には、青々とした木々が茂る庭が広がっている。
小鳥のさえずり、人工的な小川の音が心地良い。
「とっても上手くいったね」
スキップしながら先頭を進むノアが言った。
「凄かったです」
「格好よかったでち」
「マントがパタパタしていました」
獣人3人がそれに続く。
「えぇ。ノアもよく頑張りました」
「うん!」
レイネアンナに褒められたノアがクルッと一回転して杖を掲げる。庭から差し込む光を浴びて、杖の先端がキラリと輝いた。
すっごく楽しそうだ。
「でもさ、リーダがあれほどノリノリになるとは思わなかったよ」
「ギャッハッハ。確かに、台本にない言葉まで口にするとはな。常に俺の想像を超えて楽しませてくれる」
そう。オレは台本にない言葉をいう羽目になった。
あの演説には、罠があったのだ。死角から襲いかかる敵……悪霊どもの策略が。
「まったく世話が焼けるのです」
悪霊の事を考えたら、張本人達がオレ達と足並みをそろえるように庭をゾロゾロと歩き、ぼやきはじめた。
「そうだよな。せっかく盛り上がってるのに、さっさと帰ろうとしちゃってさ」
ヌネフに続き、両手を後頭部にかけて歩くモペアが言った。
コイツは、巨大な草にツルを搦めてオレの足を固定しやがった悪霊だ。
「ふむ。若者はえてしてせっかちではあるが……時と場合を考えるべきでアル」
「ギャウギャウ」
「ゲコゲコ」
「でも、大盛り上がりだったのです」
「そうそう。あたしたちに感謝して欲しいよな」
奴らの話を聞きながら、先ほどの演説を思い出す。
悪霊達による過剰演出という名の攻撃。
一瞬だけ降った雨は空中で固まって、水玉として空に浮遊した。そのうえ、降り注ぐ光は絶妙な照り具合で、水玉を輝かせ、辺りをキラキラとした光の瞬きで演出した。
加えていくつかの木々は突如として花を咲かせ、花びらがフワリと風に舞った。
そして、しばらく空を舞った花びらはフッと炎に包まれ消えた。
こんな事がオレの演説中、ずっと続いたあの状況を思い出す。
「凄い」
「綺麗」
あの時、歓声がいたるところで上がっていた。後からも。
オレはその盛り上がりの中、上手い具合に吹き荒れる風でひるがえるマントを邪魔に感じながら、演説した。
ノアとの出会い。ゴーレムの騒ぎ。世界を救うというオレの覚悟を問うテストゥネル様の試練。南方へ赤龍と出会うための旅。誇張しすぎな冒険譚は、しゃべっていて恥ずかしくなるレベルだった。
誇張というか嘘。例えばテストゥネル様は、試練を与えにやってきたという設定だったが、本当は勘違いして殴り込みにやってきたモンペだったわけだし。
言い出すと、スプリキト魔法大学をオレが卒業したくだりも、ひどいデタラメなのでどうでもいいけど。
「ですが、神々への感謝を忘れないリーダ様は、本当に素晴らしいと思いました」
オレが演説の事を思い出しながら歩いていると、レイネアンナがうっとりした様子で言った。
そうだ。あの演説、とうとう最後には台本に無い言葉を強要されたのだ。
きっかけは演説が終わり、さっさとお部屋に戻ろうとした時だ。
足が動かなかった。そして巨大な草の茎についた手も。
モペアがオレの足にツルを巻き付けたのだ。それだけに留まらず手には粘着質な草の汁がべっとりと。
何事かと焦ったオレに、遠くで小躍りするヌネフを筆頭とする悪霊どもが見えた。
森の精霊ドライアドとかいう悪霊が、オレの足を固定したのだとその時に気がついた。
数々起こった妙な出来事もやつらだろうと確信した。
オレは対策を迫られることになった。冷静な今であれば、自己発火でツルを焼き切ればいいと気がつくわけだが、当時のオレは焦っていた。
拍手と歓声。
そして、空を飛ぶ飛行船が鳴らす音楽。
演説が終わってもなお、会場は熱気を帯びていた。
さらに。
「リーダ王子を称えよ!」
眼下に広がる庭の最も手前にいる一人の男が、民衆に呼びかけた事から始まる「リーダ」コール。
オレにとっては酷い状況だった。そういった盛り上がる状況に立たされて、焦っていた。
だから、安直な手段に頼った。
『ガラン、ガラン』
神々の力を使うべく、ハンドベルを鳴らした。
鳴らしてしまった。
「自由にして」
そして神々に助けを願った。
「まだ、神々への感謝が表明されていませんが……」
ところが、神々はそんな言葉を返してきたのだ。
弱みにつけこむ非道な手口。
それはまるで電話のように、ハンドベルから流れるタイウァスの声から始まった。
「そうでおじゃる。イレクーメの名前もしっかりと出すでおじゃる」
「皆の名前を出さなくてもいいので、祈り手を増やす方向でハッキリ言うでアール」
次々と聞こえる神々の声。
「いや。後で言いますから」
「感謝の言葉が先です」
「後で言われても意味がないニャ」
適当に言い逃れようとしたのに、すぐにダメだし。
「皆さん、お静かに!」
観念したオレがハンドベルを鳴らしながら言うと、あたりはサッと静かになった。
口をパクパクさせている民衆もいることから、何かの力……多分神々の力で静かになったのだろう。こんな時だけ手際が良いと思った。
「今回の勝利。神々のお導きもありました。皆さんの、祈り、寄付、それら協力が勝利をもたらしたのです。ありがとう。これからも、よろしくお願いします」
ハンドベルを鳴らしながら最後にこう付け加えた。
言った直後、足のツルはほどけ、手のべたつきも無くなったので、そそくさとその場を後にした。
今思い出しても、いろいろと釈然としない。
「本当にお見事でした」
「うん。マントがバサバサーって格好よかった」
そんなオレを見上げてレイネアンナとノアが言った言葉に「そっか」とだけ答える。いろいろあったが、なんにせよ、終わったのだ。
これで後は自由だ。
のんびりと……。
ところがそうは問屋が卸さない。
「ふむ。リーダ……王子。久しぶりよの」
庭にニンマリ笑って立っている人がいた。
龍神テストゥネル。その人型。
ヤバいオーラが背後に見えた。なんか怒っている。まずい。
オレはとっさに逃げ道を探した。
ノアを先頭に、オレ、同僚達、獣人3人にレイネアンナとロンロ。
さらにはヨラン王と黒騎士達。遠い一室まで、馬車に乗らずのんびり皆で歩いて進む。
通路の左側は庭だ。等間隔に立つ白い柱の向こう側には、青々とした木々が茂る庭が広がっている。
小鳥のさえずり、人工的な小川の音が心地良い。
「とっても上手くいったね」
スキップしながら先頭を進むノアが言った。
「凄かったです」
「格好よかったでち」
「マントがパタパタしていました」
獣人3人がそれに続く。
「えぇ。ノアもよく頑張りました」
「うん!」
レイネアンナに褒められたノアがクルッと一回転して杖を掲げる。庭から差し込む光を浴びて、杖の先端がキラリと輝いた。
すっごく楽しそうだ。
「でもさ、リーダがあれほどノリノリになるとは思わなかったよ」
「ギャッハッハ。確かに、台本にない言葉まで口にするとはな。常に俺の想像を超えて楽しませてくれる」
そう。オレは台本にない言葉をいう羽目になった。
あの演説には、罠があったのだ。死角から襲いかかる敵……悪霊どもの策略が。
「まったく世話が焼けるのです」
悪霊の事を考えたら、張本人達がオレ達と足並みをそろえるように庭をゾロゾロと歩き、ぼやきはじめた。
「そうだよな。せっかく盛り上がってるのに、さっさと帰ろうとしちゃってさ」
ヌネフに続き、両手を後頭部にかけて歩くモペアが言った。
コイツは、巨大な草にツルを搦めてオレの足を固定しやがった悪霊だ。
「ふむ。若者はえてしてせっかちではあるが……時と場合を考えるべきでアル」
「ギャウギャウ」
「ゲコゲコ」
「でも、大盛り上がりだったのです」
「そうそう。あたしたちに感謝して欲しいよな」
奴らの話を聞きながら、先ほどの演説を思い出す。
悪霊達による過剰演出という名の攻撃。
一瞬だけ降った雨は空中で固まって、水玉として空に浮遊した。そのうえ、降り注ぐ光は絶妙な照り具合で、水玉を輝かせ、辺りをキラキラとした光の瞬きで演出した。
加えていくつかの木々は突如として花を咲かせ、花びらがフワリと風に舞った。
そして、しばらく空を舞った花びらはフッと炎に包まれ消えた。
こんな事がオレの演説中、ずっと続いたあの状況を思い出す。
「凄い」
「綺麗」
あの時、歓声がいたるところで上がっていた。後からも。
オレはその盛り上がりの中、上手い具合に吹き荒れる風でひるがえるマントを邪魔に感じながら、演説した。
ノアとの出会い。ゴーレムの騒ぎ。世界を救うというオレの覚悟を問うテストゥネル様の試練。南方へ赤龍と出会うための旅。誇張しすぎな冒険譚は、しゃべっていて恥ずかしくなるレベルだった。
誇張というか嘘。例えばテストゥネル様は、試練を与えにやってきたという設定だったが、本当は勘違いして殴り込みにやってきたモンペだったわけだし。
言い出すと、スプリキト魔法大学をオレが卒業したくだりも、ひどいデタラメなのでどうでもいいけど。
「ですが、神々への感謝を忘れないリーダ様は、本当に素晴らしいと思いました」
オレが演説の事を思い出しながら歩いていると、レイネアンナがうっとりした様子で言った。
そうだ。あの演説、とうとう最後には台本に無い言葉を強要されたのだ。
きっかけは演説が終わり、さっさとお部屋に戻ろうとした時だ。
足が動かなかった。そして巨大な草の茎についた手も。
モペアがオレの足にツルを巻き付けたのだ。それだけに留まらず手には粘着質な草の汁がべっとりと。
何事かと焦ったオレに、遠くで小躍りするヌネフを筆頭とする悪霊どもが見えた。
森の精霊ドライアドとかいう悪霊が、オレの足を固定したのだとその時に気がついた。
数々起こった妙な出来事もやつらだろうと確信した。
オレは対策を迫られることになった。冷静な今であれば、自己発火でツルを焼き切ればいいと気がつくわけだが、当時のオレは焦っていた。
拍手と歓声。
そして、空を飛ぶ飛行船が鳴らす音楽。
演説が終わってもなお、会場は熱気を帯びていた。
さらに。
「リーダ王子を称えよ!」
眼下に広がる庭の最も手前にいる一人の男が、民衆に呼びかけた事から始まる「リーダ」コール。
オレにとっては酷い状況だった。そういった盛り上がる状況に立たされて、焦っていた。
だから、安直な手段に頼った。
『ガラン、ガラン』
神々の力を使うべく、ハンドベルを鳴らした。
鳴らしてしまった。
「自由にして」
そして神々に助けを願った。
「まだ、神々への感謝が表明されていませんが……」
ところが、神々はそんな言葉を返してきたのだ。
弱みにつけこむ非道な手口。
それはまるで電話のように、ハンドベルから流れるタイウァスの声から始まった。
「そうでおじゃる。イレクーメの名前もしっかりと出すでおじゃる」
「皆の名前を出さなくてもいいので、祈り手を増やす方向でハッキリ言うでアール」
次々と聞こえる神々の声。
「いや。後で言いますから」
「感謝の言葉が先です」
「後で言われても意味がないニャ」
適当に言い逃れようとしたのに、すぐにダメだし。
「皆さん、お静かに!」
観念したオレがハンドベルを鳴らしながら言うと、あたりはサッと静かになった。
口をパクパクさせている民衆もいることから、何かの力……多分神々の力で静かになったのだろう。こんな時だけ手際が良いと思った。
「今回の勝利。神々のお導きもありました。皆さんの、祈り、寄付、それら協力が勝利をもたらしたのです。ありがとう。これからも、よろしくお願いします」
ハンドベルを鳴らしながら最後にこう付け加えた。
言った直後、足のツルはほどけ、手のべたつきも無くなったので、そそくさとその場を後にした。
今思い出しても、いろいろと釈然としない。
「本当にお見事でした」
「うん。マントがバサバサーって格好よかった」
そんなオレを見上げてレイネアンナとノアが言った言葉に「そっか」とだけ答える。いろいろあったが、なんにせよ、終わったのだ。
これで後は自由だ。
のんびりと……。
ところがそうは問屋が卸さない。
「ふむ。リーダ……王子。久しぶりよの」
庭にニンマリ笑って立っている人がいた。
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