召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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後日談 その2 出世の果てに

戦闘訓練

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 紅葉した葉っぱをほんの少し残した木が乱立する森のなか、空からさす日の光をあびて部隊は戦っていた。
 部隊は何十人もの集団で、大きく分けて2タイプの人たちで構成されている。
 身なりと装備が整った人と、農村で見かけそうな質素な服装の人たちだ。
 彼らは魔物の集団と戦っていた。

「助けに行った方がいいと思います」

 カガミが提案する。
 象の背中から見ていることもあって状況把握は簡単にできた。部隊は劣勢だった。特に集団の左端に位置する男がまずい。それはいかにも村人といった風貌だった。そして彼は、ゴブリン二匹におされ、見ている前で尻餅をついて悲鳴をあげた。

「茶釜!」

 ミズキがサッと立ち上がった。
 その声に応じるように後方から茶釜がダッと近づいてくる。ミズキは、パッと飛び降りて、象のわきを駆け抜ける茶釜に着地し、男を襲う二匹のゴブリンへと突っ込んでいく。

「皆様はここでお待ちを」

 直後、象の御者がオレ達を手で制止しつつ飛び降りた。
 御者の彼女も、魔物の群れに向かっていき、ゴブリンに襲われていた男を抱えて距離をとった。
 そして戦いはあっさりと終わった。ミズキが参戦するやいなや、一気に戦況は有利となり、魔物の群れは散り散りに逃げていった。

「ミズキお姉ちゃん凄い!」

 ノアが立ち上がって賞賛する。

「あれは……」
「やはり訓練用の魔物でしょうか?」

 ところがイオタイトとレイネアンナの反応はノアと違う。
 レイネアンナの言葉……。

「訓練?」
「そうです。王子。訓練ですよ」

 訓練……そういうことか。確かにそう考えれば、来る途中の会話とも辻褄が合う。
 実戦を伴う訓練ということか。
 訓練という言葉で、模擬戦闘をイメージしていたが、実際は違うらしい。
 魔物を魔法か何かで用意して、それと戦うというスタイルか。

「じゃあ、ミズキは……訓練の、邪魔をしてしまったと?」
「残念ながら……」

 オレの問いに、イオタイトが苦笑しつつ答える。
 でも、あれってどう見ても命懸けだよな。実際に、ゴブリンに殺されそうになっていた人がいたわけだし。
 それを訓練と呼んでいいのか?
 まぁ、あんまり深く考えるのはやめておこう。

「でも、場合によっては命を落としそうですが……。訓練と呼ぶには危ないと思います。思いません?」

 と思っていたら、カガミも気になったらしい。
 オレ達に同意を求めるように彼女が質問を投げかける。

「心配には及びません」

 カガミの質問に答えたのは、象の御者だった。
 彼女は戻ってきたかと思うと、ヒラリと身軽に象の首もとへと戻り、言葉を続ける。

「訓練に際して戦う魔物は、事前に、我ら第4騎士団とオーレガラン様の配下が確認します。訓練にふさわしくない強力な魔物は、その場で我らが始末します」

 言いながら、彼女は何人かの人を手で指し示す。
 そこにいたのは、部隊のなかでも強そうな面々。よくよく考えると、彼らは戦闘には参加していなかった。

「あの方々が教官で、問題が起これば対処するということでしょうか?」
「カガミ様の推察通りです。先程は少し危なかったですが、危険な場合は介入し対処します。さらには少し離れた場所にいる者達が、魔物を探し、部隊の近くへと追い込みます。それにより訓練がスムーズに進むよう考えております」
「服装に違いがあるのはどうしてですか?」
「騎士見習いに加えて、自衛のために戦い方を学びたい村人がいるのです。騎士見習いにとっても、傭兵などと共闘する場合を想定しての訓練が行えるので都合が良いのです」

 カガミと御者の話を聞いてようやく全体像が理解できた。
 実際に魔物と戦うということで、騎士見習いは実戦経験が積めるし、村人は戦い方を学べる。そのうえ、魔物が減って、この辺りの治安が良くなる。
 なんというか生活の知恵って感じだ。

「訓練なんだねー」

 そうこうしているうちにミズキが戻ってくる。
 どうやら彼女も詳細を聞いたらしい。

「まったく邪魔するなよ」
「えー」
「ミズキお姉ちゃん、格好よかったよ……です」

 軽い感じのミズキに、賞賛をおくるノア。
 レイネアンナの視線を感じ、あわてて言葉使いを取り繕うノアに思わず笑ってしまう。

「いえ。こちらも事前に説明しておくべきでした。それにしても、エルフ馬を駆っての戦い、人馬一体の妙に感じ入りました」

 身軽に象の背へと戻ってきたミズキに、御者が賛辞をおくる。
 そこから先は、プレインやロンロ達が乗ったもう一匹の戦象に、第4騎士団長ディングフレ達とも合流して、あらためて象の背から訓練を見学。
 先ほどの説明通り、部隊はちょうど良いタイミングで魔物の集団と遭遇する。
 今見ているのは三度目の戦闘。
 相手は、大型の狼ダイアウルフが八匹。灰色の毛並みに、巨大な体躯。大きく持ち上げた頭は、ほんの少し動かすだけで人の頭を飲み込みそうだ。
 そのうえ真っ赤な目とダラダラと垂れるよだれが、その恐ろしさを強調する。
 三度目にして最強の敵といった感じだ。

「盾を持つ者は、腰を落とし、盾を打ち鳴らせ!」
「右、距離を!」

 教師役の第4騎士団が、細かく指示を出す。
 いままで見てきた経験からわかる。彼らが細かく指示を出すときは、シビアな状況の時だ。
 今回は開始早々に、厳しい状況だと騎士団は判断したらしい。

「ノア、手出しをしてはいけませんよ」

 ノアが中腰になったのを見て、レイネアンナが忠告した。
 ピリピリした状況に、ノアは不安になったようだ。
 そして、それはオレも同じだった。
 見ているだけというのがもどかしい。訓練だと分かってはいるが、それでも実戦。不安にはなる。
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