召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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後日談 その3 終章のあと、ミランダがノアと再開するまでのお話

その7

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 朝からシェラは元気だった。
 誰よりも早く起きた彼女は、眠いとぼやくジムニをたたき起こし、ミランダを朝食へとせかした。

「朝はね、いつでもいいんだよ」

 シェラは昨日聞いた話を自慢げに語った。
 夕食以外は、いつでも食べられるという話だ。

「あとでいいじゃないか」

 眼をこするジムニの手をひっぱりシェラは広場へと進む。
 元気なシェラを先頭に、ミランダ達がポッカリ開けた広場へとたどりつくと、確かに食事の準備は出来ていた。
 というより休むことなく食事を提供する仕組みだった。
 ミランダ達を出迎えた赤ら顔の男は「いやぁ、あとで寝るさぁ」と気楽な様子で食事をよそった。
 酒の匂いを漂わせる男をみたミランダは、小さく溜め息をついて眼をそらした。

「んじゃま食べ終わったら教えてくれや。おかわりでもいいぞ」

 テーブルにテキパキと料理をよそった男は陽気に言って、たき火そばでゴロンと横になった。
 ミランダ達が受け取った朝食は、白いスープに肉の塊一切れ入った料理だった。

「齧り付くのねぇ」

 ミランダは器を手に取り、肉に突き刺してある木の串を持ち上げた。
 サラサラとした白いスープがポタポタと垂れた。

「白いスープって……これヤギの乳だ」

 器に口をつけたジムニが困った顔で言う。

「ミルクにお肉を入れるなんて変なの」
「だよな」
「そうかしら」
「だって師匠、ミルクは真っ白いのがいいのに」
「泥が入ったみたいだ」
「色はそうかもしれないけれど、味はいいわ。肉も柔らかい」
「お肉……私のだけ小さい」
「シェラも小さいからな」
「食べ足りなければ、おかわりすればいいのよ」
「いいの?」
「怒られないのか?」
「良いって言ってたでしょ。これで怒ったら怒り返すわ」

 そして食事が続くにつれて、皆が静かになった。
 気がつけば全員がおかわりしていた。
 シェラは二杯、ジムニが三杯、ミランダが四杯。

「お腹いっぱい!」

 食事を終えての帰り、シェラはますます元気になった。
 おいしい料理でお腹いっぱいになり、さらには食事中に遊牧民の服を貰ったことが理由だ。

「俺のだけ色が違う。師匠とシェラは赤色なのに、俺だけ青だ」

 ご機嫌なシェラとは違い、ジムニは服を抱きかかえつつも不満げだった。

「髪の色と一緒でいいじゃない。ふふっ、それに、遠くからでも二人を見分けられて便利だわ」
「俺のほうが大きいから簡単にわかるだろ」
「世界樹と比べたらどっちも小さいわ」

 遙か遠くにうっすらと見える世界樹へ顔を向けてミランダがこたえる。
 それを受けて、ジムニは「なんだよ」と憮然となった。
 そして彼は先へ進むシェラの方へと駆けていった。

「あはは、服が大っきい」

 テントに戻って、着替えるとシェラはさらに元気になった。
 赤い遊牧民の服を気に入って、袖口を指でつまみTの字になってクルクル回り続けた。
 ぼろ切れの服から遊牧民の服に着替えたシェラは、暖かそうだった。

「お前、目が回らない?」
「回ったー!」

 バタンと倒れつつシェラが答える。
 それから「お兄ちゃんも、師匠も似合ってる!」と言って笑い声をあげた。

「なんだよ。男も女も同じ服なんだな」
「確かにそうなのね」

 手首まである袖と、膝下まである裾の長い円筒形をした上着、足首まで覆うズボン。
 身体全体を覆うデザインに、少し真夏は暑そうだとミランダは思った。

「あっ、模様が違う。俺のは魚なのに、師匠とシェラは花だ」

 ジムニが自分の服を引っ張り声をあげた。
 服には万遍なく刺繍が施されていて、草をモチーフとした中に、魚や花が描かれている。

「布もちょっと分厚いし、変な服だ」
「住む場所が変われば服だって変わるものよ。食べ物だってそうだったでしょ?」

 ミランダはジムニに説明を始める。
 遊牧民の服は、羊や狐の毛皮から作る特別な布だということ。
 それは不思議な布で、専用の魔導具を使って作ること。
 魔導具とは蒸気を噴き出す棍棒で、巨獣の骨製。
 その棍棒で毛皮を叩くと、フサフサの毛皮からゴワゴワした布に変わる。
 布は、巨獣避けの効果を持つことなどだ。
 ジムニは熱心に聞いていて、その真剣な様子がミランダを饒舌にさせた。

「おいででしょうかー?」

 そんな時、3人の住むテントに来客があった。

「フーフゥさんだ!」

 バッと起き上がったシェラがバタバタと走り出す。
 それに釣られるようにミランダとジムニがあとを追う。
 確かに外にいたのはアルパカの獣人で吟遊詩人であるフーフゥだった。

「本番を前に、少し実践的な練習を……と思いまして。そこで少々お手伝いをと思いまして」

 小型のハーブを小脇にかかえフーフゥは笑顔を向けた。

「お手伝いねぇ。それで私達はどのような手伝いをすればいいのかしら?」
「歌を聞いて頂きたいのです。やはり聴衆がいると居ないでは、ずいぶんと違いますから」
「えっ? 吟遊詩人の歌をタダで?」

 ジムニがパッと笑顔になる。

「えぇ。その代わり、多少の失敗はお見逃しを」
「別に私達はかまわないわ。それでどんな演目をするつもりなのかしら?」
「やはり聖女ノアサリーナ様の歌を……と思いまして。ですが、そこから先が難しい」
「難しい?」
「数えきれぬほど、人気のある歌が沢山ありますから。しかし時間は有限。全てを歌えば、冬が雪と並んで去りゆき、草原が春を呼んでしまいます」
「それは困ったものね。お前達は何か聞きたい歌はあるかい?」

 ミランダがジムニ達に顔を向けるとシェラが手をあげた。

「私、歌ならヤシの実ころりんが好き!」

 ミランダが小さく笑い「それとは違う歌なのよね」とシェラの頭を撫でた。

「歌はあんまり聴いたことがないから、俺はわかんね」
「そうねぇ。では、スプリキト魔法大学での歌はどうかしら? 確か歌があったと思うのだけれど」
「ふむ。あれも人気ありますな。謎と冒険、遠い異国の学校で巻き起こる、不思議な英雄の活躍。ノアサリーナ様は出てきませんが、リーダ様とミズキ様の活躍がスリリングで迫力があって受けが良い」
「あっ、師匠。俺はそれがいい!」
「では一曲目は、それで」

 アルパカの獣人であるフーフゥは長い首をゆらりと振って、手に持ったハープを小さく鳴らした。
 そして、厳かに言葉を続ける。

「実はこの話……根拠がはっきりしております」
「へぇ」
「ヨラン王国の吟遊詩人が、直接スプリキト魔法大学で、学生に取材した話が元となっているらしいのです」
「学生から直接」
「ゆえに、その細部に至るまでの信憑性は確かなものなのです」
「それは凄いわね。そんな話があるのであれば真に迫った話でしょう。楽しみだわ」

 そしてフーフゥはミランダ達のテント前で静かに歌う。
 謎多きスプリキト魔法大学の冒険を、そしてそれからも二曲、三曲と歌い続けた。
 ジムニは眼を輝かせ、シェラは怖いシーンでミランダに抱きついたりと聞き入った。
 歌はつづき、夕暮れ時におわった。
 あとは食事で今日はおしまいとなった。

「面白いし、おいしい一日だったね」

 お腹いっぱい食べたシェラは一日をそう表して、その場で寝てしまった。

「そういえば修行を忘れていたわ。まだ師匠らしい事が出来ていないのだけれど……なかなか難しいわねぇ」

 そんなシェラを抱きかかえ、テントへと戻る途中、ミランダは空を見上げてぼやいた。
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