サイケデリック！ブルース！オルタナティブ！パンク！！

無名の評論家

おれの親父は
おれが高校生の頃
政治評論家か
教育評論家を目指して
原稿を
自宅で書いていた

ちょうどその頃は
親父は自宅の
机に向かい
何かアイデアが
次々と
湧いて出てきたらしく
せっせ、せっせと
ペンを握り
原稿を書いていた

その結果
本を出版する
ところまで
たどり着いた
しかし
親父が書いたモノは
世間には
受け入れられなかった

親父はおれたちにも
「お父さんの
書いたモノを
読んでくれ」と
切実に
訴えたこともあった

親父の書いたモノは
決して
つまらないとか
下らないとか
そんなにヒドい
モノでは
なかった
むしろ
言っていることは
どれも的を得ていて
面白かった
しかし
それでもダメだった

親父がいくら書いても
一円のカネにも
ならなかった

今にしてみれば
親父の苦労も
偲ばれる

しかしそれでも
親父は今年で
90歳になるまで
長生きをして
その上
ボケたり
病気で
寝たきりに
なることもなく
頭脳は明晰で
口も達者で
元気でいる

親父は
世間から見れば
負け組
なのだろうが
その代わり
哀れなジジイには
ならなかった

むしろ
親父みたいに
元気で過ごせるのなら
おれも90歳を
超えるぐらいまで
長生きを
したいぐらいだ

親父は
歳を取っても
哀れなジジイには
ならなかった